忍者ブログ

よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
MENU

ENTRY NAVI

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ハッピーメリークリスマス!

>>『夏休みとかに料理つくりに遊びに行ってあげたらいいよ、タカ丸さん!帰ったときにおかえりーって温かい
ご飯と一緒に迎えてあげたらそれだけで久々知先輩倒れるよ!』

コメで最高の萌ネタをもらったので・・・(ありがとうございます)


なんかの冗談だろ。
久々知はまっしらけになったエクセル画面を見て、泣くことさえ忘れてただ呆然と立ち尽くしていた。傍らでは事務の小川さん(21歳/部長と不倫中☆内緒だゾ!)が、内股でごめんなさあ~いと涙目になって平謝りしている。
「ちょうど久々知さんのデスクの近くを通りかかったときにバランス崩して転びそうになっちゃってえ、慌てて手をついたらデリートキーぽちっとしちゃってたんですう~」
久々知は真っ白な頭のまま、「はあ、」と呟き、「怪我はなかったでしたか」とようやくそれだけを言った。小川は久々知はそういってくれると思っていたとばかりに輝いた笑顔を見せると、「はい、おかげさまで!」と力強く頷き、「それじゃああたし待ち合わせがあるんで」と申し訳そうな振りだけはたっぷりに、オフィスから去っていった。見るに見かねた上司が、久々知の肩をぽんと叩き、「えーっと、手伝おうか」と申し出てくれたが、久々知は口から魂を飛ばしつつゆるゆると首を横に振った。
「いえ、結構です。課長、今日はお子さんとクリスマスディナーに行かれるんでしょう?楽しんできてください。俺、何の予定もありませんから」
表情筋をフルに使い、にっこりと微笑み、やがて誰もいなくなった真っ暗なオフィスで手をついて倒れこんだ。泣くなおれ、泣くんじゃない、俺。お前もう成人して立派な大人だろ、泣くんじゃないよ。ああ、でも、今地球が滅亡しても俺はちっとも悲しまないぜ・・・。
久々知兵助、23歳の涙のクリスマスであった。


今日だけは父親に頼み込んで、店の手伝いをなしにしてもらった。クリスマスは、可愛くなりたい女の子たちで店が繁盛して忙しい日なのだけれど。いつもは仕事で忙しくて全然会えない久々知が、クリスマスだけは死んだって定時で上がるから、一緒に過ごそうといってくれたのだ。嬉しい。へへへ、死ぬほど嬉しい。タカ丸はゆるむ頬をつねって、念入りに髪形を整える。同じゼミ生の綾部が、「あやまあ、顔がゆるゆるだ」と横からからかってくる。
「今日はハッピークリスマスですか」
「うん、ハッピーです。綾部は?」
「私はタカ丸さんが私のディナーご一緒しませんかの誘いに頷いてくれればハッピークリスマスなのですがね。どうも叶わず、アンハッピークリスマスです」
「う、・・・ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず。塾のアルバイトを入れたので、これから受験生相手にオラオラ、クリスマスは絶滅したんだよ、お前らのサンタクロースは微分積分だコラと叫んで恨まれてきますから」
「今週日曜の美術館めぐり、楽しみにしてるから!」
綾部は美しい笑みを浮かべる。頬を染めたタカ丸のポケットで携帯がなった。久々知からのメール着信である。慌てて尻ポケットから携帯を引っこ抜くと、ぱくんとフラップを開く。『ごめん。仕事で残業入った。何時までかかるか分からないから、今日はナシにしてくれ。ほんとごめん。・・・日曜あいてる?』
スッとタカ丸の表情が消えたので、綾部は横からお邪魔しますよ、と携帯の画面を覗き込んだ。そして、おやまあ、と呟いた。
「まあ、相手は社会人だから仕方ないです。元気出して・・・私との約束はまた別の日でいいですよ」
「ううん。先に約束したのは綾部だから」
タカ丸は首を横に振ると、ぽちぽちとメールを打った。『仕事ならしかたないね。こっちは気にしないで、仕事がんばってね。日曜は予定があるからちょっとムリなんだけど・・・ごめん。またそっちのスケジュール教えてね。空いてるときにごはんでも食べに行こうね』
それから携帯を閉じた。いいんですか、と瞳が語る綾部に、わざと明るい笑顔で「残念!」と茶化した。
「僕のバイト終わるまで待っててください、三木ヱ門のなりきり路上サンタクロースでケーキ売りバイトでも冷やかしに行きましょう」

久々知は、終電に滑り込んで帰宅した。それでも全部は終わらずに、持ち帰りだ。明日提出の書類が消えたのだから仕方なかった。恨む気持ちもないではないが、恨んだって仕方のないことだし、トイレ休憩だからと油断して保存しておかなかった自分も悪いのだ。久々知は溜息をついて自室のマンションのドアを開けた。真っ暗な玄関が自分を飲み込む。
が、奥の部屋から明かりが零れていて、久々知はびっくりして革靴を履き捨てると、部屋に上がった。掃除も満足にしていなかった汚い部屋が綺麗に片付けられて、小さいテーブルにいっぱいの食事が並んでいる。タカ丸が緊張したような笑顔を浮かべて、「お、おかえり~」と控えめな挨拶をした。
「タカ丸ッ!?へ、部屋ッ・・・家、鍵ッ・・・!」
うまく言葉にならない。タカ丸は「えと、あの、大家さんにあけてもらって・・・その、不法侵入してすいません」と深く頭を下げた。
「どうしても会いたくて、今日駄目になっちゃって、元気出そうと思ったんだけどやっぱりへこんでたら、友達が会いたいときは会うために会いに行けばいいって言うもんだから・・・その、一応ご飯なんかつくってみたりしたんだけれども。冷蔵庫の中身ちょっとだけ使っちゃいました、ごめんなさい。あと、友達からケーキ貰ってきたからご飯の後に食べよう。あ、あと、お風呂も沸いてる!仕事お疲れ様です。あの・・・怒ってる?」
立ち尽くしたまま、呆然とした表情でわなわなと震えている久々知に、タカ丸は圧倒されて怯えたように彼を見上げた。久々知は、くわ!と目を見開き、「怒ってなんか!」といった。声が大きくなってしまって、驚いたタカ丸がびくりと肩を揺らした。
「嬉しいです、ありがとう。部屋、・・・汚かったろ・・・ごめん。エロ本とか・・・出しっぱなしだった気がするし」
「いやいや、健全な男だから!い、一応ベッドの下においてみたりなんかしましたけれども・・・よかったですかね」
「結構です!飯まで作ってもらって・・・冷蔵庫、十ヶ月放置のマヨネーズとかあったろ・・・」
「ぱんぱんに膨らんでてちょっと怖かったかな。捨てちゃったけどよかった?」
「ありがとう・・・ほんと、嬉しい」
久々知はスーツ姿にコートを羽織ったまま、ぎゅうっとタカ丸を抱きしめた。
「嬉しい。ほんと、今なら死んだっていい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。あーほんと、どう言ったらお前にこの気持ちが伝わるかな。ほんとに嬉しい。嬉しくってたまらない。ありがとな。好きだ、大好きだ」
「えへ、えへへへ。なんか、笑っちゃうね、なんか、嬉しくて。どうしよう、にやけがとまんないよ。あー、兵助としゃべってるだけでこんなに嬉しいんだよ、俺頭おかしくなちゃったのかも・・・。へへ、兵助大好き!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめあって、うへへ、とお互いにやけ笑いをして。真夜中だし、クリスマスなんてとっくにおわちゃってたんだけれども、ふたりはその晩タカ丸の作った料理を食べながらテレビもつけずお互いの話を何より面白いものとして没頭して聞いて、平凡だけど何より幸せな時間をすごした。
ハッピーメリークリスマス。すべての人に幸いあれ!


こういうことですか、わかりません!
PR

僕の中の壊れていない部分

マニアック過ぎて伝わらない妄想。
社会人一年目久々知×大学四年生タカ丸。


風呂に入るのすらめんどくさい。独り暮らしのアパートの玄関を開けた途端、久々知は「あー!」と声を上げて黒のビジネスバッグと着続けてよれ始めたスーツの上着を放り投げた。ひどく疲れた。社会人がこんなに疲れるものだとは思わなかった。久々知は仕事ができるほうだったが、そのために上司や先輩から小言を言われることは少ないものの、逆に過分な期待をかけられたり、この先の野心を確認されたり、媚を売られたり逆に牽制されたり、その陰で同僚から反発を買わないように適度に仕事への愚痴を言ってみたり、小さなことを褒めてみたり、女子社員から色目を使われたり、相談を持ちかけられたり、誘われたり、断ったり、まあ色々だ。とにかく人間関係が疲れる。こちとら早く仕事を覚えたいばかりだというのに、真に出来るサラリーマンというのは仕事ではなく対人関係がうまく作れる人間のことを言うのだよ、と誰もが無言で久々知をテストしてくる。
誰もいない無人島へ行きたい、と久々知は半ば本気で思った。好きなやつとつるんでいればよかった大学時代の気楽さが嘘のようであった。久々知はネクタイを緩めながら薬缶に水を入れて火にかけた。カップラーメンを作ることすらひどく面倒くさいが、腹が減っていてこのままでは眠れない。敷きっぱなしの布団に倒れこんで、手元に転がっていたリモコンでテレビをつける。静か過ぎる部屋がともかくも退屈な騒音で、寂しくない程度には孤独を紛らわしてくれる。芸人たちが必死で笑われているのを見つめながら、大きく欠伸する。ああ、まずい、このままじゃ寝る。今寝ると大変だから、久々知は無理に体を起こす。布団の上に胡坐をかくと、また、「あー」と唸った。それからガシガシと頭を掻いてふらふらと立ち上がる。薬缶の水が沸騰する僅かな時間でシャワーを浴びる。風呂釜に湯なんて貯めない。たまには湯に使ってのんびりしたい、と思うが、湯を入れる作業がすでに面倒くさい。頭から湯を浴びると、少しばかり頭をしゃっきりする。薬缶がピーピー怒り始めると風呂から出て、バスタオルを腰に巻きつけただけの格好のまま、カップラーメンをつくる。昨日はねぎラーメンだったから、今日はシーフードだ。明日はソース焼きそば。そういえば大学時代に、カップラーメンばかりを続けて摂取すると身体に異常が起こるのだというテーマで、実際に泡を吹いて倒れた人の症例を紹介されたことを思い出す。ええと、あれは確か何日で身体に異常反応が起きたのだったか。俺はそのぎりぎりまで粘ってやるぜ。いや、むしろその発症記録を塗り替えてやるぜ。
ずるるーと麺をすすりながら、また大欠伸する。
会いたいな、と思う。せめて、声が聞きたい。
久々知が大学を卒業して社会人になってから、一気にタカ丸との距離が遠くなった。生活リズムが違う上に、むこうが気を使って頻繁に連絡をとることを遠慮しているらしかった。自分から電話しようかとも思うのだが、こんな深夜にかけるのも気が引ける。第一、会話の内容が愚痴になってしまいそうで怖い。寝落ちしてしまう可能性もたぶんにあって、そんなことをしてしまったら向こうは笑って許すだろうが自分が居た堪れない。
自分と同じように卒業して社会人になった同僚たちも、どうしてなかなか、仕事に私生活が食われがちらしい。一足先に社会人になった恋人を追うかたちで同じ会社に就職した竹谷は、「もう互いに忙しくてそれどころじゃねーって。廊下ですれ違って、アイコンタクトして励ましあって終わるくらいだよ。職場恋愛してるOLの先輩がいるんだけどさ、よくそんな元気あるよなーって感じ。この間なんか頑張って退勤時間揃えて早めに取ってさ、アフターファイブのデート計画したのはいいけど、結局飲み屋で愚痴りながらチビチビやって、先輩の部屋でふたりして大いびきかいて寝て終わった」と笑いながら話してくれた。恋人の雷蔵と同棲を始めた鉢屋は、久々知と電話したときにはまだ雷蔵が帰宅をしていなくて、どうも彼は仕事が忙しいらしく帰りが極端に遅いらしい。三郎は朝が早いから、雷蔵とはすれ違ってばっかりで同居の意味がまるで無いとぼやいていた。「この間焦れて互いに疲れてるのに、変なテンションで無理やり押し倒してエッチしたら、途中で電池切れて雷蔵がいびきかいて寝た。俺入れたままなのにだぞ?腹たって揺さぶって起こしたら、”うるさい、死ね”って殴られたんだけど。俺愛されてないのかもしれない。いっそ主夫になって雷蔵のために尽くそうかしら」とかわりとまじめに語ってくれた。
「会いたいよな、やっぱ」
久々知は呟いてテーブルの上の携帯を握り締める。五分だけでいい、元気かって聞いて、また近いうち遊ぼうなって詮無い約束をして。それでいいんだ。深いやり取りなんかなくたって、声が聞ければそれで。しばらく考えて、久々知はタカ丸のアドレスを呼び出すと通話ボタンを押した。コール二回で、タカ丸が出た。
「はい」
「俺だけど」
「うん。仕事の帰り?お疲れ様」
「お前は?寝てた?」
「うん、ベッド入ったとこ」
「悪かったな」
「ううん。ずっと話したかったから」
「うん、俺も」
「仕事、大変?」
「まあ。・・・お前は、卒論どう?」
「うん、まあまあ」
「そっか」
「うん」
そっけないような会話だった。それでも久々知は自分の心が満たされていくのを感じた。ああ、俺、明日もやってけるわ。ホッとした途端、久々知が大きく欠伸をしたので、タカ丸は近況報告を中断した。
「ごめん、疲れてるのに」
「や、いいよ。お前の話聞いてたい。ごめんな、ちょっと疲れててさ」
「電話きろうか」
「それはだめだ」
「うん」
久々知はごろんと布団の上に寝転がった。受話器を耳に押し付けながら、タカ丸の柔らかい、男にしては少し高いような声にじっと耳を済ませていた。ああ、俺やっぱこいつのこと好きだ。なんの気なしにカーテンの合間から見えるベランダに続く窓を見る。部屋の光に映し出された自分がいる。その顔が、自分でもびっくりするくらい幸せそうに微笑んでいるので、久々知はなんだか信じられないものを見たような気分だった。
「俺まだまだ大丈夫みたいだわ。笑えるとわかってよかったよ」
電話越しにひとりごちたら、愛しい声が、「え、」と返した。
久々知はまた大きく欠伸をして、カラスが生ゴミをついばむ、いつもの朝を平穏な気持ちで待った。

四年長屋へようこそ!

忍術学園の四年生は怖いよ、という話。
話、というかシーンが書きたかっただけなので、特にストーリー性はないのですが、それでもよいよという方はどうぞ。


「待て待て待て待て待てゴルア!!!!」
ハードでスリリングな長い一日がようやく終わろうとしている夕刻。忍たま長屋の四年棟からはなにやら騒々しい物音と、叫び声と、怒鳴り声とがひっきりなしに上がっていた。ひとっ風呂あびてほこほこと身体から湯気なぞ立ち上らせながら渡り廊下をぞろぞろと進むは不破雷蔵・竹谷八左ヱ門を筆頭に後ろに続くは鉢屋三郎と久々知兵助といういつもの五年メンバー。彼らの前方から、おもむろに田村三木ヱ門が走りこんできて、五年はなんだなんだと飛び退いた。田村は足音も自嘲せずダカダカダカ!と物凄い音を立てて駆けてゆく。なんなんだ、一体、と呆れたような半目で三郎が呟けば、カサリと背後の植え込みでかすかな物音。兵助が首に巻いていた濡れ手ぬぐいを手にとって、植え込みに向かってビタン、とそれを振るった。触れている布はどうしてなかなか殴られると重い衝撃の武器になる。
「うごっ!」
と小さな悲鳴とともに、植え込みから何者かが飛び出してきた。すぐに屋根の上へ飛び移ってしまい一瞬しか確認できなかったがあれは、
「曲者、だな」
「捕まえるか!」
「それもいいけど、ハチ、庭を見ろ」
兵助の指摘に一同が振り返ると、りいりいと虫の音が微かに合唱する風情ある庭に、低く腰を落とし両腕に千輪を構える少年が独り。滝夜叉丸だ。
「ぬははは、この千輪の名手平滝夜叉丸様から逃れられると思ったのか馬鹿め!変態よ、ここが貴様の墓場となるのだ、ふーははははー!」
「うるさいっ!早くあいつを片付けろッ、馬鹿夜叉丸ッ!!」
横から、先ほど走り去ったはずの三木ヱ門が砲身を担いで走りこんできた。敵は屋根の上からひらりと向こう側、五年長屋の屋根に飛び移ろうとしている。「させるかあッ!!」三木ヱ門が漆喰砲をぶっ放し、滝夜叉丸が千輪を投げつけた。うまく当たって落ちてきた曲者は、そのまま地面に倒れ――ることなく、掘ってあった蛸壷に落ち込んでいった。穴の淵では、シャベルを構えた美少年綾部喜八郎が「だーいせーこう☆」と相変わらずのマイペースな呟きだ。
「曲者確保オー!」
「出合え出合え!!」
わやわやと長屋から飛び出してくる美少年たち。すべて四年生だ。各自に得意の武器を持って、曲者相手に容赦ない止めを刺す。人混みから遅れて苦笑気味に長屋から出てきたのは斉藤タカ丸だ。
「あ、兵助。みんなもこんばんわ~」
「何の騒ぎですか」
「うんと、曲者」
「はい」
「僕らどうもあの曲者さんたちに三日連続ふんどしを盗まれてまして、ひっ捕らえて吊るし上げようという作戦です」
「ぬあっ、変態か!」
くわっ!、と兵助が目をむく。ふんどし紛失騒動なら、兵助もタカ丸から聞いて知っていた。雷蔵が、「タカ丸さんは参加しなくていいの」と首を傾げると、タカ丸はごそごそと懐からはさみと櫛を取り出す。
「僕は刈上げ係なのです」
「なるほど」
五年はいちように頷いた。それから、
「アフロにしてやれ」
「ラーメンマンみたくしてやれ」
「馬鹿それじゃあ逆にかっこいいだろうが、スキンヘッドにしてやれ」
「いやいや、もういっそのことポニーテールに真っ赤なリボンつけてやれ」
などと勝手な応援をする五年生を背後に、曲者の哀れな悲鳴が木霊したという。

なんてどうでもいい話。

夜をどうしよう

あまあまなの書いて今日はもう寝ようと思う。
くくたかで砂を吐きたい人向け。

どうしてなかなか、タカ丸はずいぶんと努力家であるらしい。二人一緒に布団に包まって眠ったはずなのに、ふと兵助が目を覚ますと、いつ起きたのか、隣でタカ丸が油に火を灯して僅かな明かりで忍たまの友を捲っているのだった。
「タカ丸さん、」
名を呼んだそばから大きな欠伸が出た。
「起こしちゃった?ごめんね」
柔らかな声がそっと兵助の耳朶を撫ぜる。「いや、いいですけど」兵助は呟いて、もう一度大きな欠伸をした。昼間は実習やら自主訓練やらでこてんぱんに自分を虐めているから、夜半は眠気に勝てない。手探りでタカ丸の身体を、布団ごと抱き寄せた。
「復習ですか」
「うん、ちょっと・・・おれ物覚え悪いからたくさんがんばらないと」
「んん・・・?」
兵助の瞼はすっかり下りてしまっている。本当はぱっちり目を覚ましてタカ丸にいろいろ声をかけてやりたいのだけれど。くす、と耳元で小さな苦笑が聞こえた。柔らかい声が真綿みたいに兵助を包む。
「兵助、疲れてるでしょう、俺にかまわずちゃんと寝てね」
「あんたも寝なきゃだめですよ」
「うん、もーちょっとで寝る」
くあああ、と兵助は大きく欠伸をした。それから、タカ丸の懐にぐりぐりと頭を寄せた。「ちょっと、兵助、これじゃ本が読めないってば!」くすぐったさに笑い出しながらタカ丸が耳元で囁く。兵助はタカ丸の体温を感じながら、夢うつつのなかで、「あんたはいいにおいがするなあ」と呟く。はて、特に香りは纏っていないはずだけれどなあ、とタカ丸は首を傾げる。忍者は匂いを残してはいけないと習ったから、大好きな香も焚くのを我慢している。
「どんなにおい?」
「んん、・・・にんげんのにおい」
「・・・う?」
もしかして兵助寝ぼけてる?そっと耳元でたずねてみても、兵助はもう半分夢の中に入り込んでしまって満足に返事もしない。結局タカ丸はひっそりと忍び笑いして、兵助を懐に抱き寄せたまま、変な体勢で忍たまの友の続きを読み耽った。規則正しく上下する兵助の身体が嬉しい。大きくつられ欠伸をしたら、兵助が、「あんたが好きです」と真摯な寝言の告白をくれたので、「おれも好き、」と返してタカ丸は忍たまの友を枕元に放り出すと、明かりを消してぎゅっと兵助に抱きついた。
とたん兵助がもそもそ動き出して、耳元で、「勉強は終わったか。だったら、しよう」と掠れた声を上げるものだからタカ丸は「とんだ策士だなあ、この男」と苦笑交じりの溜息をついた。

竹谷八左ヱ門は動かない

こんな忍者いねーよシリーズ③
この孫兵どう見ても悪役です本当にありがとうございました編。

ガサリ。
背後で葉を踏む音がしてサワリはぞくりと身を震わせた。おそるおそる後ろの林を振り向けば、杉の大木の陰から一人の少年が覗いているのである。それは、先ほど自分が谷から突き落としたはずの少年だった。暗闇の中で、白い膚がぼんやりと浮いている。
「ああ、そこにいたのか。探したよ」
「生きてたのか、生きてたのかよお前ええええ!」
サワリはほとんど恐怖で我を忘れて、懐の短剣を抜き出した。その刃先には、植物からとった猛毒が塗布されていた。孫兵はそのことを、大気中に混じったかすかな匂いから嗅ぎ取った。
「毒か。その匂いなら附子かな。附子の毒は、経皮呼吸・経粘膜呼吸によって、経口から摂取後数十分で心室細動ないし心停止によって死に至る。・・・あの晩、ミユキ殿を殺したのはお前だな」
「だったらどうする!」
サワリがナイフを突き出した。餓鬼独りに怖がっていられるかと、覚悟を決めて飛び出す。対峙する伊賀崎孫兵は随分と細く、体力も無さそうな様子である。勝てる、とサワリは踏んだ。事実、突き出されたナイフを避けきれず、孫兵は刃先をぐっと拳で掴んでそれを留めた。ぽたり、と滴り落ちた彼の血の匂いに、サワリはあはははは!と大声で仰け反って笑った。
「ばあか、毒の突いた刃先を握りやがった!俺の勝ちだああ!」
「いいや、お前の負けだよ」
孫兵はにやりと笑うと、短剣から腕を外し、血の滴る傷口を赤い舌をチロリと舐めあげた。サワリがキョトンと、目の前の少年を見つめる。
「残念だが私に附子は効かない」
ゆっくりと孫兵が歩み寄ってくる。サワリは今度こそ気が狂わんばかりに仰天した。猛毒が効かないなんて、そんな人間がいてもいいのだろうか。
「でたらめだろお前っ!」
わめくサワリを、孫兵は何の感情も滲まない冷たい瞳で見つめる。堂々と歩きながらじりじりと間合いをつめていく。サワリは後ずさりしてそれから逃れたが、やがて木に進路を防がれて止まった。孫兵はひどく冷たい視線――それこそ、一般に”虫を見るような”とでも形容される瞳で、サワリを見ている。サワリの怯えたような視線とぶつかると、美しい容貌を皮肉気に微笑ませた。
「普段私はジュンコを使って相手を倒すことは滅多にないんだ。だってそうだろう、美しい私のジュンコの牙が、醜いものの肉を食むだなんて、そんなこと一瞬でも許されるわけはないからね。でも、まあ、お前は特別だよ。特別にジュンコの毒を味合わせてやろう。ジュンコがお前をたいそう気に入ってな、噛みたい噛みたいと僕に言うんだよ。ジュンコの毒はそこらでは味わえない格別なものだ。酩酊のうちにあの世に逝けるぞ、光栄に思え」
なあ、ジュンコ、と、美しく微笑んで、孫兵は首に巻いた大蛇をひと撫ですると、低い声でサワリを見つめ、言った。
「往け、ジュンコ。お前の毒を分けてやれ」
孫兵が伸ばした腕を伝ってジュンコはするするとサワリのほうへ移動し、大きな顎を開けてサワリの首筋に齧り付いた。そこで、彼の記憶はまったく途切れてしまっている。
再び目が覚めたとき、彼の身体は生涯二度と起き上がれぬものに変わり果ててしまっていた。


ひいい、と吉佐はまったく間抜けな悲鳴を上げてそこらの林を走り回っている。
「動くなッ!」
彼を守りながら闘わねばならない立場にある竹谷は、吉佐に大して鋭く一喝する。ヒッ!と短い悲鳴を上げて吉佐はその場に尻餅をついた。竹谷の言うことを聞けといわんばかりに、彼のまわりを毒虫たちが飛び交って進路をふさいでしまったので、それ以上どこへ逃げることも出来なくなってしまったのだった。
竹谷は構えを解かぬまま、敵を見つめている。竹谷の得意は雷蔵と同じく体術だ。ただし彼の場合、そこに虫獣使いという特性も加わる。孫兵は毒虫専門だが、竹谷にはすべての毒が聞かぬなどという特殊な体質はない代わりに、すべての生き物に愛されるという性質を持っていた。野生の生物で、竹谷の前に立ちはだかるものはない。
コウガは構えもせぬままただ竹谷を見つめて立ち尽くしている。彼の傍らにはよく牙の尖れた狼が一匹、唸り声を上げている。ぐうるる、と低く唸る狼の口からはだらだらと唾液が零れていた。ひどく餓えているのだ。
「疾風丸は人の肉しか喰わんものでな、大喰らいなのに、可愛そうにここ三日ばかり何も食っておらんで腹を空かせている。幸い、お前の肉は美味そうだ、疾風丸が甘さず屠ってくれるだろうよ。なあ、疾風丸」
オオーン!と天高く鳴く。竹谷は構えたままじりじりと間合いをつめる。竹谷の目は、あくまでもコウガを見ている。疾風丸のことはまるで相手にせぬといった様子に、コウガは腹を立てた。
竹谷を援護せんとばかりに、大きな角を持った牡鹿が竹谷にすり寄った。
「いいんだ、山主。俺なら大丈夫だから、山主はあの狼に気をつけてくれ」
やまぬし、はこの山の主だ。彼が竹谷に懐いている限りは、この山の生き物すべて、竹谷の味方といっていい。
竹谷は間合いをつめきると、そのままコウガの懐めがけて走りこんだ。竹谷の得意とする体術は、大陸由来のものだ。身体の捌き方が独特で、獣に似せてある。そのうちの鷹爪拳は相手が倒れるまで攻撃をやめない、攻め一辺倒の動きだった。コウガの鳩尾に拳を叩き込んでやる前に、疾風丸が横から竹谷に喰らいついた。首筋から血が噴出す。林の奥から、野生の狼が二三匹走り来て、疾風丸に飛び掛った。竹谷は血を流したまま、コウガに蹴りを喰らわせる。コウガは大きく傾いだが踏みとどまって、そのまま竹谷めがけて拳を叩き込んできた。竹谷は両手でそれを押さえると、そのまま己のほうにぐいと引き寄せる。突然の行動にコウガが戸惑うふうなのを、竹谷はすかさず彼の身体を抱きこむと、至近距離で顔を近づけた。それから、太い眉を寄せて、はっきりと告げる。
「なあ、お前、山を騒がせたら駄目だろう。さっき、獣の臓腑で山主をおびき寄せるだとかどうとか言っていたが、そんな方法で山主がお前に力を貸してくれると思ったか?・・・馬鹿か、」
吐き捨てるように呟く。コウガは悲鳴を上げた。竹谷が話している間に、彼の足元からざわざわと大百足やら蜘蛛やらが這い上がってきていたのだった。手で払い落としている合間に、竹谷は鳩尾に一発拳を叩き込んでやる。それで終わった。
残った疾風丸が吉佐に襲い掛かったが、竹谷が間一髪で合間に入って彼を庇った。
「ひいい!」
疾風丸が竹谷の肩に歯を沈める深く喰いついてはなれない獣を、竹谷は両手で抱きこんだ。
「よしよし、そんなに腹減ってんのか。可愛そうにな。俺の肉でよかったら遠慮なく食え」
そうして疾風丸の美しい獣をわしわしと両腕で掻き混ぜる。人の肉しか食わない獣なぞいるはずがない、それしか餌を与えられず、他を喰うことを知らなかったのだろう。かわいそうな獣だ。疾風丸がひとかけの肉を千切って、あとは竹谷から離れた。
「それでいいのか。もう、満足したか」
オオーン、とひと鳴きして、疾風丸は竹谷の膝で丸くなった。あは、と竹谷が噴出す。吉佐がそろそろと竹谷に元に寄って来た。
「もう、大丈夫なんですか」
「たぶんな。見ろよ、疾風丸。睫毛が長くて可愛いなあ。こいつ、女の子だぞ」
にこにこと吉佐に話しかけるのに、彼はひどく疲れた表情で、「いえ、あんまり可愛くもないです」と呟いた。

× CLOSE

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

フリーエリア

最新コメント

[06/22 すがわら]
[06/22 すがわら]
[06/22 muryan]
[06/22 muryan]

最新記事

(04/04)
(09/07)
(08/30)
(08/24)
(08/23)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © よいこわるいこふつうのこ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]