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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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ぼくらは男の子②

さて、翌日の体育委員会のことであった。裏山を登ったり降りたり登ったり降りたりして、夕刻。ようようの態で学園にたどり着いた委員たちは、倒れこむように校門の傍にへたり込んだ。委員長の小平太だけが、足りないから校庭走ってくる、と言い置いて駆け出していってしまう。その背中を見送りながら、三之助は「化けもんか、あのひと」と心のうちだけで呟く。それを口に出す愚行を犯さないのは、滝夜叉丸が小平太への礼儀に対してとてもうるさいからだった。滝夜叉丸は三之助と己を縛っていた迷子紐を解くと、金吾の手を握りながら、「では、歩くぞ」と歩き始める。プライドが高く自慢の多い鼻持ちならない人だと云われているが、実力は本物で、あれだけたっぷり運動した後でも、滝夜叉丸の息切れはすでに収まり始めている。激しい運動をした後は、すぐに身体を休めると返ってよくない。学園のないをゆっくり散歩してから解散するように、というのは小平太の指示だ。金吾は、一年生のなかでは体力のあるほうだけれども、激しすぎる運動量にぜえぜえと激しく咳き込んだ後の病人のような様子で、滝夜叉丸に手を引かれて歩き始める。三之助は昨日の顛末を滝夜叉丸に相談するかどうかを悩んでいた。ぼんやりしていたら、滝夜叉丸が振り返って、三之助に左手を差し伸べた。
「どうした三之助、ほら」
三之助は駆け寄ると、その手を握った。三之助自身はそうは思わないのだが、他人に言わせるとどうも彼は極度の方向音痴らしい。ひとりで歩かせるとすぐ逸れるからといって、滝夜叉丸は、運動の最中は迷子紐を互いに結びつけ、運動の後の散歩は手を握る。三年生になって間もない頃に、三之助は、急に人に手を引かれて歩く自分が恥ずかしくなって、滝夜叉丸の手を拒んだことがあった。滝夜叉丸自身は、「まあ、そういう年頃かも知れんな」と頷き、しかし、「迷子紐はなるべく使いたくないのだが」と断った。三之助は手を握って仲良しこよしで歩くよりは迷子紐のほうがずっといいと主張した。滝夜叉丸は「そうか」と頷いてくれるものの、「迷子紐は、なにやら動物にしているようで私は好かんのだ」とどうしても譲ってくれない。嫌だ嫌だ、手をつなぐのは恥ずかしいと駄々をこねていたら、小平太が「滝を困らせるな!」と一喝した。小平太は実のところあまり委員に対して怒りを露にすることはない。怒ったり褒めたり、説教したり、細かい面倒はみんな滝夜叉丸に任せている。だから、三之助が小平太に怒鳴りつけられたのはあとにもさきにもこのときだけだ。小平太は一喝すると、後は静かに、「三之助、」と呼びかけた。
「手を繋ぐのがなぜ恥ずかしい」
「子どものようだから、からかわれるかもしれない。それが嫌だ」
「三之助、それこそ子どもというものだ。大人はな、理にかなった行動ならば他人の評価など気にせず行うものだぞ。形だけを見て、理を考えずにあれこれ物をいうのは実に愚かな所作だ。滝者者丸はお前の能力を低く評価して子ども扱いをして手を引いているのではない。お前が道を把握することが苦手なぶん、導いてくれているのではないか。それは恥じることではないだろう」
諭されるように云われれば、三之助もなるほどそうかと頷かざるを得ない。それから三之助は、今日まで毎日滝夜叉丸の手を握って一緒に歩いている。遠く日が沈んで、あたりが橙に染まっている。
滝夜叉丸は、深く息を吸い込んで、「秋だな。金吾、今日は栗ご飯かもしれないぞ。食堂のほうからかすかに匂いがする」と一年生を励ます。金吾はほっぺたを真っ赤に上気させて、嬉しそうに微笑む。三之助は、この時間が、好きだ。滝夜叉丸の手を繋いだまま、「先輩、」と声を発した。
いろいろ迷ったが、やっぱり聞こうと思った。数馬は下世話な話だと嫌な顔をしたけれど、でも、大切なことだろうし、この人たちなら変にごまかすようなことはしないでいてくれるだろうと思った。
「赤ん坊って、どうやってできるんですか」
滝夜叉丸の歩みが止まった。ぎょっとした表情で三之助を見つめる。金吾があどけない瞳できょとんと三之助を見上げる。
「次屋先輩、赤ちゃんをお産みになられるんですか。でも、赤ちゃんておんなのひとしか産めないんじゃないんですか。違うのかな」
こほん、と滝夜叉丸が咳払いする。
「金吾、その通りだ。赤子は女性しか授からない」
「じゃあどうしてせんぱ」
「三之助、なぜ急にそのようなことを」
「えーっと、かくかくしかじかで春画本を見つけまして、ほにゃららのすえ、赤ん坊はどうやって出来てどこから出てくるのかという疑問が出来まして。先輩、どうやったら、赤ん坊が出来るんですか。俺でも作れますか?」
「三之助、その疑問を、あの方には決して問うでないぞ」
あの方、とは七松小平太のことであろう。
「どうしてですか」
「下品な話題だからだ。あの方のお耳を汚すことになる」
「でも俺どうしても知りたいんですけど」
「三之助、夜半になったら私の部屋に来い」
「はい」
金吾が首を傾げる。「ぼくも知りたいです。いっしょにいっていいですか?」
「ならん」
滝夜叉丸はびしりと言うと、そのまま深い溜息をついてまた歩き始める。
「まったく、子育てとはかくも大変なものであるのだな」
母となる女性は偉大といわざるを得ない。滝夜叉丸は疲れた気持ちでしみじみとそう思った。


さて、一方で浦風藤内である。彼が作法室で手慰みに生首の髪を梳いていると、綾部がふたりがけの文机の隣に肘を突いて、大きな欠伸をひとつ零した。それから藤内のほうを向いて、「ねえ君どうしたの」といった。
「え、なんですか」
「元気がなさそうに見えなくもないね」
「別に、なんでもないです」
「そう」
「はい」
障子窓の向こうでは鴉がカアカアと鳴いている。委員長の立花仙蔵は途中で教師に呼ばれ退出してしまって帰ってこない。指示が来ないから、作業が終わってしまって手持ち無沙汰で待ちぼうけの状態なのだった。一年生ふたりは、綾部が勝手に帰してしまった。綾部喜八郎は変わった男で、不思議な調子がある。藤内は少し苦手を感じていた。沈黙が降りる。その沈黙を、藤内は不自然な居心地の悪いものとして捉えたが、黙ってまたフィギュアの髪を梳いた。
おもむろに、綾部が口を開いた。
「私、今すごく先輩ごっこをしたいんだけど、付き合ってくれないかな」
「はあ」
「何があったの」
「・・・」
見詰め合うことしばし。藤内は観念したように溜息をつくと、実は、と昨日の一連の出来事を話した。綾部は黙って聞いていたが、藤内の疑問を聞くと、ふ、と美しい顔に笑みを刷いた。
「実に楽しい悩みだ」
「結構切実なんですけど」
「男女のまぐわいがどんなものかしりたいか・・・そうさね、さしずめ穴掘りだな。男女の性交は穴掘りに似ている」
また穴か、と藤内は思った。この男は穴ばかりだ。もういいです、と怒ったように呟くと、綾部は、詳しいことを教えてあげるから今夜部屋においでと言った。藤内はいいです、と首を横に振る。綾部は眠たげな目つきで、藤内を見つめつつ、
「かわいいねえ、」
と笑った。
「お茶菓子を用意して待ってるよ」
「行きませんってば」
「先輩ごっこはまだ続いてるよ~ん」
「先輩ごっこっていうか貴方は最初から先輩でしょ」
「やあだ、勝手に決めないでよ」
「最初から決まってるんですっ!」
「こないだ町でおっぱいプリン買ってきたから、ふたりでそれ食べよー」
藤内は泣きそうな表情を浮かべる。やっぱりこのひと苦手だ。すごく苦手だ。心のうちで呟いたら、綾部は振り返って、まさか心の声が聞こえたわけではあるまいが、にっこり笑って言った。
「ところがどっこいかわいそうなことに、私は結構君のことを気に入っちゃってるわけだ」

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ぼくらは男の子①

三年生メインで上級生を絡めた性の目覚め話。
春画とか赤ん坊とか性交とかそういう言葉は嫌いよという方はお読みにならないでください。
三年生に関してホモはあんまりありません。


その物語をするには、まず三年生たちの話から始めなければならない。忍術学園の三年生たちは、迷子学年といわれる。脅威の方向音痴に、想像力の迷子、表情筋の迷子に感性の迷子。とにかくなにかしら迷ってばかりの彼らは、その日、学園の隅に捨てられていた春画本をたまたま目にしてしまったことで、全員が性の目覚めという成長期の大きな袋小路に迷い込んでしまったのである。
赤ちゃんはどこからやってくるの?
という疑問符を、彼らは抱いた。正確にいうと、女のどこからやってくるの、ということである。それから、どんな方法で赤ちゃんはお腹のなかに入るの、という疑問も合わせて彼らを苛んだ。
始まりは、屋外講習の帰り道である。夕刻になりすべての課程が終了すると、そのまま長屋へ戻ってもよいことになった。講習が行われた火薬庫からいつもは通らぬ薬草園の並ぶ薮道を行くのが一番近い。わいわいと幾人かで連れ立って楽しく帰っていたところ、先頭を歩いていた浦風藤内がはたと立ち止まった。次々と数珠繋ぎで玉突き事故が起こって、文句を云わんと彼の背後から「とうない~っ急に止まんなあ!」などと覗き込むと、藤内はなにやらまじまじと地面を見下ろしている。なにかあるのかとその場にいた全員が視線を下にやると、そこには、思わずのけぞりたくなるようなグロ画像――もとい、春画本が落ちていたのである。
美しい女房が魅惑的なウインクを決め、裸で大股を開きながらこちらを見ている。股の中心は薄く墨塗りされてぼかされてよく見えない。
「あ、春画本だ。先輩のかな」
藤内のクラスメイトの三反田数馬が声を上げた。先輩のかな、といったのは、春画本の所持が三年生まで認められていないからである。それにしても、わざわざ誰かの目に留まるようにページを開けて捨てていくというのは、なんとも性質の悪い悪戯である。もっと小さな、例えば一年生の目に触れていたらそれこそかわいそうだったと数馬は溜息をつく。そうしてそれを指でつまみあげるようにして拾い上げた。
「捨ててくる」
すたすたと焼却場まで持って行こうとするのを、次屋三之助と神崎左門が背後から呼び止める。
「待った!もっとじっくり見てからにしようぜ!」
「ええ~!?」
数馬は呆れたような視線をふたりに向けた。数馬はあまりこういうのに興味がない。興味がないというより、汚らしいような、嫌悪感まで抱いている。
「こんな泥だらけの読むことないじゃん。街で新しいのでも買ったら」
「買うのは恥ずかしい」
「うん、大体、春画本は規制がかかってるから18歳以下は買えないんだぞ!」
「だって、でも、先輩たち持ってるじゃん。18歳じゃなくても持ってるじゃん」
「先輩たちはいいんだよ」
「そうそう、先輩たちは勇者だもんな。キレて下級生に焙烙火矢のストック全部投げつけたり、夜中ギンギンなんて放送禁止用語ぎりぎりの鳴き声あげて深夜徘徊したり、大声で笑い声を上げながら塹壕掘り進めたり今更朝顔観察に嵌ってみたり、・・・よほどの勇気がないと出来ないことを軽々とやってのけてる」
「でも俺たちは駄目」
「そう、俺たちは可憐で繊細な三年生。そこまでの勇気はとても出せない」
「無理だよな、」
「うん、無理、春画本なんて買えない」
数馬は白んだ瞳で、ふたりに春画本を放った。おーっ、と二人は歓声を上げてそれをキャッチする。誰かが興味を持って眺めれば、つい自分も気になってしまうのが好奇心の強い少年期にはありがちのことで、結局その場にいたみんなして春画本を覗き込む流れになった。
ドキドキしながら興奮冷めやらぬ態でみな頭をぶつけ合っているものの、こちらに向かって女房が微笑んでいる――しかも尻を突き出すというみっともないようなポーズで――意味をよく理解しているものは誰もいないのである。ただ、春画本イコール大人イコールそれを眺めている俺たちという方程式に酔いしれているだけなのだ。主に左門などはそれが顕著で、ページを捲るたび、女房のとるポーズに対して指をさしてげらげら笑っている始末である。
「えーなんでこいつ水着姿で河岸に立ってるの、これじゃ変質者じゃん!」
藤内は顔色を蒼くして、口元を抑えつつ、「なんかよくわかんないけど気持ち悪くなってきた」と顔を背けている。数馬は「僕、こういうの嫌い」と最初ッから離れたところに立っている。三之助が、まじまじと見つめながらふいに、「女ってどっから赤ん坊を産むのかな」と呟いた。富松が顔を赤くしながら、「そういう話、俺らはまだしちゃいけないんだぞ!」と呟く。
「なんで?」
「なんでもだよ!留三郎先輩が言ってたんだ。まだそういう話は俺らには早いんだ」
「ならいつならいいんだよ」
「知らねえけど、そのうち先生が教えてくださるんだろ!知らねえけど!」
「俺、今知りたい」
「じゃあ先生にお訊きしてこいよ」
「だって訊いたらいけないことなんだろ、怒られたらどうするんだよ!」
「じゃあ訊くの我慢しろよ」
「だって知りたくなったんだよ」
ふいに左門が口を開いた。
「俺、今年の夏に家帰ったとき、母ちゃんの腹が膨らんでてさー、デブになったって言ったら殴られて、なかに赤ん坊がいるんだって教えてくれた」
「腹切って出すのか?」
三之助と富松が目をむく。富松は頭の中で、とんでもない想像を膨らませてしまったらしく、「あわわ、てえへんだあ~」と情けない声を上げて顔を真っ青にしている。藤内は、うぷ、とこみ上げてきたものを無理に飲み込んで、「耐え切らない」とか細い声で呟いた。数馬は外の生徒よりは知識があり、呆れた様子で溜息をつくと、
「女性は赤ん坊をほとからだすんだよ」
と一言言った。
「ほと?」
「春画で言うとどこ。描いてある?」
「あるよ、ぼかしのはいってるとこ」
「なんでぼかすの」
「・・・いやらしいところだから」
数馬の顔もだんだん赤く染まってゆく。首を傾げたのは左門だった。
「赤ん坊はさあ、恵みの宝なのに、なんでそれが出て来るところがいやらしいんだ?」
数馬はその疑問に答える術を見つけられなかった。加えて三之助が、「どうやって赤ん坊を腹の中に入れるのかなあ」と呟く。数馬もそこまでの知識はなかったから、終いには怒ったような顔をして、「知らない、先輩に聞けば」といって、春画本を焼却場へ持っていってしまった。
さて、取り残された仲間たちは好奇心を抱えてたまったものではない、左門が、「孫兵なら知ってるかも!あいつ、ほら、生き物のことすっげー詳しいし!」というのでみんなしてじょろじょろと孫兵の部屋へ詰め掛けた。孫兵はちょうど風呂に入りに行くところだったので、全員で風呂の準備をして、風呂で話をすることになった。
「赤ん坊の出来方と生まれ方?・・・つまり、お前たちは人間の生殖方法と出産方法が知りたいわけか?」
左門のつたない説明を、孫兵はそうまとめた。
「よくわかんねーけど、そう。孫兵知ってる?」
「簡単にしか知らないけど。性交をすると腹のなかにある袋に赤ん坊が入るんだよ。で、女性のほとから生まれるわけ」
「せいこう」
「交尾のこと」
「交尾って虫のすることだろ」
「人間もするんだよ」
「違うだろ、だって、虫と人間じゃ体が違うじゃん」
「尾がないかわりに別のところをまぐわせるんだよ、一緒だろ!」
「どこまぐわせるんだよ!」
「それは知らない」
「中途半端だなあ~」
「だから最初ッから詳しくないって言ったろ!」
「もういいよ。じゃあな、虫だけ野郎!」
左門の言いように孫兵はむっと顔をしかめると、浴槽から風呂桶に手を伸ばして、浴場から出て行こうとする左門の頭にそれを投げつけた。パッコーン!と小気味いい音が響いたが、石頭の左門は痛いとも言わず、怒った様子で振り返って、「なにすんだばか!」といったので、そこからはもうお互いがのぼせるまでま殴り合いのけんかになった。

続く。

瞼の光

「遠い道」の呟き参照で、こへいたとたきやしゃまる。
旧知だったらいいなーって思ったんだよ。


私がその人を最初に見たのは、もうずっと昔のことだ。
忍術学園への入学を決める以前のことであったから、どれほど大きく見積もっても九つにはなっていなかったことになる。詳しいことは何にも覚えていない。その頃の私はまだ、人に傅かれるのを何の疑問にも思っていなかった、実に傀儡のような愚かな子どもであったから。覚えているのは、それがとても温かい小春日和の日で、庭に生っていた柿がぼってりと夕日の色を吸い込んで橙に熟していてひどくうまそうだったことだけだ。私はそれを食いたいと思ったが、そんなことを言えば母に鋭く窘められることを知っていたので、気づかない振りをして見ないように努めていた。目に触れれば、欲しくなる。欲しい欲しいと己の欲望のままに泣き叫ぶのは、みっともないことだと、そう教わっていた。
その人は、萌黄に若竹の着物を合わせていたのだったか、若者らしいさっぱりとした、それでいて温かみのある着合わせをして私の前に座していた。ぴんと伸びた背中や、膝の上の握りこぶしが、凛々しい人だと思った。目が大きくて、よく磨かれた宝玉のように輝いていた。膝元に姫君がよちよちと危なげな風情で歩み寄っていらっしゃったときも、にこにこと笑って、「あにさまのお膝にお乗り」とおっしゃって、抱き上げなされた。姫君はまだ大変小さかったので、涎がひどく零れてその人の美しい着物を汚した。これ、と周りの者は咎め、姫君をお放しなさいませと口々に申し入れたけれども、その人は屈託なく笑って、「よい」と言った。
「よい、着物なぞ、洗えばよいのだ」
七松はとても大きい家だった。平の家なども辛うじて七松の家と並べて口にされる程度の位置には認められていたが、実際の財力には天と地ほどの差があった。私の家は、何度か七松の家から金を工面していた。七松の家にいるときは、父も母も必ず恥じて深く頭を下げていた。私も一緒になって頭を下げさせられ、何を言われても「有難う存知まする」「一生の恩と思うておりまする」としか言わせていただけなかった。七松の主人は人がよく、「いやいや、」とそればかりを言って、「困ったときはお互い様だから」というようなことをいった。
「このご時勢だからなあ、武を持たぬものは駄目なのかもわからんなあ」
七松は少し前に、中在家という小さな武士団を身のうちに引き入れていた。七松の長女を中在家の頭領の甥の嫁にやり、婚姻関係を結んだ。若君にも世話役兼守り役をつけるのだといって、長次という同い年の小さな少年を、いつもその人のそばに控えさせていた。無口で目立つところのない人だったから、その人の記憶はあまりない。七松の主人はよく私の家にも武士を雇い入れることを進めたが、両親はどうしても怖がって、それだけは頑として受け付けなかった。結果として、それが幸いした。
七松の家は、七松の主人の死をきっかけに中在家のものに渡った。のっとられたのだ。私の両親は、七松はもう駄目だろう、ということを何度も言い、それから、若君はどうなるのだろうといった。私は、その人の姿を思い出した。明るいあわせの着物、屈託のない笑顔、うまそうだった柿の木。あの若君はどうなってしまうのだろう。嫌な目に、会うのだろうか。可愛そうな目にあうのだろうか。泣いてしまうのだろうか。あんなふうに、すべてが輝いていた人なのに、そんなことになってしまうのは、よいことなのだろうか。
それからしばらくして、若君が毒を飲まされたということを噂で聞いて、私は息を呑んだ。死んだのですか、と慌てて両親に質すと、滅多なことを言うものでないとひどく叱られた。まもなくして、若君は七松の家をでてどこか遠いところへ行ったのだと聞いた。

七松小平太という男は、ときどき、遠くをじっと見つめる癖がある。大きな瞳を、瞬きもせずに、じっと遠くに向ける。そうしてそれはだいたい、太陽の方向である。きらきらしたものを、眩さに目を眇めて、まるで睨むようにして、じっと見つめる。
「先輩、お止しなさい、目が焼けますよ」
と咎めると、屈託なく笑って、「いい」と言う。「太陽に焼かれるなら、まあ、いいさ」
「よくありませんよ、忍者を目指すものが。御自分を大切になさってください」
あのときの若君は、大きくなってここにある。七松の家にいた頃より、精悍さが増した。泥臭くもなった。だが、あのときの屈託ない笑みは変わっていない。何はともあれ、私はこの人が今日まで変わらないでいてくれたことを感謝する。毒が、人の醜さが、この人を殺さないでいてくれたことを。
「なあ、滝、お前に体育委員会は似合わないよ」
と歌うように嘯くので、私もそうですね、と言ってやる。私だって、こんなに頭を使わない委員会は私にはもったいないと思っている。
「馬鹿だね、お前、私を追ってここまできたのか」
忍術学園に入るといったら、両親には卒倒された。私は両親の言いつけには絶対逆らわない子どもだったからだ。なぜそんなところに訊くので、素直にわからないと言った。七松の若君が入学していると風の頼りに聞いて、つい真相を知りたくなっただけだった。あのきらきらと眩しかった人は今もいるのか。
七松先輩が振り返る。風が流れて、先輩の髪を私へと吹き流す。広げた両手の、その向こうにぼってりと沈んだ夕日が見える。私はいつかの柿を思い出す。あれはうまそうだった。手が入らないからこそ、ひどくうまそうだった。私はずっと、あのときの柿に焦がれていた。今もそうだ。ひどく咽喉が渇く。美しいものを見るたび、あの柿の甘い汁を啜ってみたかった、と思う。
「ここにはないもないよ」
と先輩はいい、私にはそれが可笑しかった。先輩の言葉に反して、とても嬉しそうな笑みを浮かべていたからだった。
「何もないのがあなたにはよいのでしょう」
と頷き、乱された髪を押さえる。、柿ならある、と傍になっていた柿の木に手を伸ばして、それをもぎ取った。
「お前も食うか、滝夜叉丸」
ぼってりと夕日の色の実を差し出され、私はツイ、と横を向く。
「要りませんよ、行儀の悪い」
くだらない矜持とこの人は笑うだろう。けれど私には、いつだって矜持しかない。瞼の奥のいつかの光だけが、私を生かしている。

鉢屋三郎好きに88の質問(下)

こっからはスガワラが妄想で答えますね。絶対、この質問の内容SSにする。するったらする!


71:脱線しますが久々知・不破・竹谷の卒業後を軽く妄想してみてください。

久々知
卒業後の進路はもちろん誰にも言わない。それでも途中までは活躍しているような噂も時々あったのだけれど、ある仕事を境にまったく音沙汰がなくなる。誰も姿を見なくなる。久々知兵助の消失。それでもうみんなすっかり死んだのだと思っていたら、あるときひょっこり左腕を失った状態でタカ丸のところに姿を現す。タカ丸卒倒。それまで、優ちゃんへの想いが尾を引いてうだうだ曖昧な関係だったんだけど(肉体関係はあった)、これを機に吹っ切れる。
「なんなんだなんなんだなんなんだよばか!お前俺をどうしたいんだ!?心配で憔悴させて殺そうとでも?!ばか、お前なんかもう知るかばか!どっかいけ!二度と俺の前に現れるなばかやろうーっ!」
マジ切れしたタカ丸に殴る蹴るの暴行を加えられながら、兵助はにこにこ笑う。
「元気そうでよかった。それだけ確かめたくて、来たんだ。じゃ、俺行くわ。季節の変わり目だし、風邪には気をつけろ」
「どこ行くの!?」
「ん?仕事、」
「それって危ない仕事?左腕、どうしたの」
「・・・斉藤、俺の行方は絶対追おうとするなよ、危ないから」
なんだなんだー!?ってなって、斉藤は久々知救出の決心を固めるというところまで想像してある(妄想乙!)

不破
三郎と双忍として仲良くやってる。タカ丸の久々知救出大作戦に協力する。

竹谷
食満とは仕えた城の関係で遠距離でまったく逢えない。時々律儀に手紙などくれるのが嬉しくてやがて哀しき遠距離恋愛かな。一緒によく仕事をするのは孫兵。

72:大分時間が流れて現代になりましたが、鉢屋の見てくれはどうなっていると思いますか?

雷蔵と瓜二つなんだけどすごくよく区別つく。雷蔵は生まれてからの容姿にまったく手をつけていないプレーンな状態の男の子。冬は制服の下にジャージを仕込むことで完璧な温かさを追求している。いわゆる、お洒落、なにそれおいしいの?系男子。
三郎はカラーのヘアクリップで前髪とか留めちゃう。しかもそれがよく似合ってる。授業中は眼鏡かける。それがまたよく似合ってる。

73:現代パラレルの鉢屋の家族構成をどうぞ。

実家は結構金持ちらしい。お父さんは法務関係の仕事やってるらしいよ。お母さんはバリバリのキャリアウーマンだって。かっこいいよね~。

74:高校生の鉢屋はどんな部活に入っていると思いますか?

運動神経抜群なので色んな運動部に引っ張りだこ。ピンチヒッターで入れると必ず勝利まで導いてくれる。だけど、その実態は、「鉄道模型研究会」所属部員。

75:制服は学ラン?ブレザー?それとも・・・・・

ブレザー。夏はポロでいいと思う。

76:成績優秀な方だと思いますか?

優秀。

77:真面目なタイプか、不良なタイプか、どんなタイプに分類されると思いますか?

トリックスタータイプ。

78:モテる方だと思いますか?

なぜかとてもよくモテる。同じ顔をした雷蔵からしてみれば不思議で仕方ない。

79:大学生になったとして、どんな学部や学科に進学すると思いますか?

理工学部情報システム学科。か、経済学部経営システム学科。
興味があったっていうより、将来役に立ちそうかなーと思って選んだ。

80:友達は多い方だと思いますか?

多い。けど、鉢屋自身は真の友達はあんまりいないと思ってる。雷蔵曰く、「三郎って友達に夢見るタイプなんだね」

81:どんな職業に就いたと思いますか?

サラリーマン。営業職。なんだかんだでわりと楽しそう。

82:鉢屋って家事炊事できると思いますか?

完璧に出来る。

83:免許とか資格をとりそうなタイプだと思いますか?

とる。そっちのほうが将来役に立ちそうだから。でも時々、カラーコーディネートとかアロマテラピーとか京都検定とかいらんやつまで面白がってとる。

84:ところで、久々知・不破・竹谷の現代パラレルな妄想もしてみてください。

久々知→優等生。秀才は三郎で、久々知は実は、「授業聞いてればわかるじゃん」タイプの天才型。塾も面倒くさいのでいっていない。社会学部か法学部にいけばいいよ。

不破→成績は中の上。人畜無害の、良くも悪くもどこにでもいる男子。教育学部数学科とかあうと思うよ。理系人間だよ。国語めちゃくちゃ苦手。

竹谷→農学部しかないだろ。孫兵は獣医学科とか行くけど、竹谷は畜産科とか産業科とかにいって牛の直腸検査とかやってるよ。

85:5年生4人は、生まれ変わっても仲良しだと思いますか?
86:今後どんな活躍を鉢屋に期待していますか?
87:今までの熱い語りを振り返ってどう思いますか?
88:鉢屋への思いのたけを最後に熱く語ってください

好き好き大好き超愛してる!

鉢屋三郎好きに88の質問(中)

鉢屋を好きな人は読まないほうがいいのかもしれない・・・。


45:鉢屋がアルバイトをするとしたらどんなバイトだと思いますか?

雷「キャッチセールス」
兵「パチンコ屋の店員」
竹「ダフ屋」
兵「問い。これらの回答に共通する印象を導け」
雷「うさんくさい」
(*これらの職業を営んでおられる方、申し訳ありません。本意ではありません)

46:鉢屋ってくのいちに人気があると思いますか?

雷「ない・・・と思う。デリカシーないし。ないのを装ってるし」
兵「でも、三郎をよく知らない女の子は時々寄ってきたりするよな」
竹「雷蔵に遠慮して嫌われようとしてるんだろ」
雷「なんで?女の子可愛いのに。真に僕を想うなら、いっそ合コン開いてくれたらいいのになー」
兵「三郎って、どの口で雷蔵は天使とか言っちゃってんのかね」
竹「恋は盲目ってやつか」
兵「目がつぶれきってるな」

47:学園長と鉢屋三郎が結託した理由は何だと思いますか?

雷「性格の一致」
兵「汚職に対するやつらの倫理観のなさが生み出した悲劇」
竹「嘆かわしいな」

47:忍術学園の先生の鉢屋に対する印象はどんな感じだと思いますか?

雷「木下先生はよく、良くも悪くも器用なやつと呆れておられる」
兵「わりと印象いいんじゃないか?」
竹「やることはきちっとやるし、印象はかなりいいはず」

48:先生の中で、誰が1番鉢屋と仲がいいと思いますか?

雷「哀しいかな学園長」
兵「賛同ー!」
竹「うん、右に同じ」

49:逆に鉢屋と1番そりが合わない先生は誰だと思いますか?

雷「そりが合わないっていうか、斜堂先生とのコンビはちょっと想像つかない」
兵「土井先生は世話焼きでおられるから、三郎みたいな手のかからないやつと一緒にいても楽しくないんじゃないか?」
竹「安藤先生かな」

50:上級生は鉢屋の事、どんな風に考えていると思いますか?

雷「立花先輩とは気があわなそうで意外にあうんじゃないかと僕は踏んでる」
兵「わりと、実力を認めて、好敵手として扱ってくださっている印象はあるかな」
竹「食感先輩も結構三郎のこと聞いてくるなー。やっぱ、六年でも三郎の実力のほどが気になるらしい」

51:下級生は鉢屋の事、どんな風に考えていると思いますか?

雷「尊敬されてるっぽいです」
兵「優しい先輩とも思われているらしい」
竹「三郎、チビ構うの好きだからなー」

52:鉢屋はお酒に強いと思いますか?

雷「僕よりは弱いけど、そこそこいけるクチ」
兵「雷蔵はザルだからな。俺よりは弱い」
竹「兵助も結構強いだろ。俺より一杯分ぐらい早く赤くなるかな」
雷「ま、竹谷もそこそこ強いんだけどね」

53:過去にタイムスリップしますが、鉢屋の生まれ故郷ってどんなところだと思いますか?

雷「美しいところなんじゃないかな」
兵「あんまり故郷のこと語らないからわからない」
竹「街のほうってイメージがある」

54:幼い頃の鉢屋は両親や兄弟との関係は良好だと思いますか?

雷「厳しく育てられたとは聞いたけど」
兵「交流はあるようなないような、他人に対する感じだったと聞いた」
竹「そっか・・・なんだかさみしいな・・・。俺の家族の一員になってたら俺、兄ちゃんたちと三郎をめいっぱい甘やかしたのになあ」
雷「うん、天真爛漫な三郎が誕生するね」

55:幼い頃、鉢屋には友達って多かったと思いますか?

雷「少なかったんじゃない?三郎って結構人見知りするし・・・」
兵「わっかんないぞ、意外に雷蔵に代わる親友がいたりして・・・」
竹「あ、なんか雷蔵不機嫌そう」
兵「素直じゃないのね」

56:幼少期の鉢屋ってどんな子供だったと思いますか?

雷「一年生のときの記憶で言えばー悪戯好きでトリックスターのような言動を取ってばかりいるんだけど、肝心なところで、クラスメイトに”俺も混ぜて””遊びましょ”がいえない子ども」
兵「雷蔵とハチと仲良くなるまで、ひとりでいる場面がわりとあったようには思う」
竹「なんという不器用(涙)」

57:忍術学園に入学しようと思ったきっかけは何だと思いますか?

雷「忍術の修行。もともとそういう家系だし」
兵「忍術学園ののっとりだったりして・・・」
竹「おいおい」

58:幼少期には変装ってしていたと思いますか?

雷「人前に出るときは、そうなんじゃないかな」
兵「家族ぐらいしか知らないってことか?」
竹「レアだな!」

59:じゃあ小さな頃の鉢屋ってどんな背格好だったと思いますか?

雷「中肉中背」
兵「あいつ成長期雷蔵より遅かったよな~」
竹「ん。毛も薄いから、クラスメイトの脛毛自慢大会が始まると、ふてくされていた」
雷「僕脛毛に関しては結構自信あるよ!」
兵「いーから!おまえはいーから!」

60:何か現在の鉢屋に影響を及ぼすような出来事があったと思いますか?

雷「あったかもしれないけど、そういうことあいつは絶対人に言わない」
兵「ミステリアスな男はかっこいいが口癖だもんな」
竹「まあ、成長なんてすべてのことが影響されて起こるものだろ」

61:脱線しますが久々知・不破・竹谷の出生について軽く語ってみてください。

雷「ん?田舎の農家の次男として生まれました。家族がわりとせっかちで世話焼きなので、いろいろ決めてもらっているうちに優柔不断で大雑把な性格に・・・あっはっは!」
兵「俺は豪族の家系で兄弟は妹が一人。学園に入る前に家族全員失った」
竹「俺は職工の家の八男!男兄弟ばっかで、姉ちゃんと妹はひとりずつ。にぎやかで楽しい実家です」

62:時が過ぎ去り、6年生になった鉢屋を想像してみてください。

雷「フリーダムに磨きがかかる」
兵「将来ももう決めてるらしいしな」
雷「え、三郎何やりたいの?」
竹「まだ三郎から聞いてないのか?」
雷「なに、ふたりとも聞いてるの?ずるい!」
兵「聞いたっていうか・・・見てりゃわかる」

63:学級委員長委員会委員長の肩書きについてどう思っていると思いますか?

雷「曰く、便利ィ☆」
兵「曰く、楽し~い!」
竹「曰く、庄ちゃん&彦四郎萌え(はあと)、だそうな」
兵「よしっ、言質を押さえたな、通報しよう」

64:鉢屋って卒業後、何をしていると思いますか?

雷「忍者」
兵「誰かさんと忍者」
竹「仲良く忍者」
雷「なんのことォ!?さっきから思わせぶりなことばっかり言って!」
兵「いつか本人の口から言ってもらってくれ」

65:結婚とか、すると思います?

雷「三郎が結婚か・・・想像もつかないなあ・・・似合わないと思う」
兵「そう?結構想像つくけど。子煩悩な父親になりそう」
竹「わかる。奥さんも器量よしだったりして」
雷「え~似合わないよそんなの~」
兵「雷蔵、素直に嫌だって言え」
竹「言っちまえ!」
雷「何で僕が!しまいにゃ殴るよ!」

66:卒業した後は誰の変装をしていると思いますか?

雷「一緒に働く人の誰か」
兵「雷蔵」
竹「兵助に同じ」
雷「卒業しても僕の顔だと、僕の危険が増すじゃない!」
兵「そうは言っても結局お前は許すと思うよ、それが三郎の望みなら」

67:卒業した後も時折今の5年生とかと会ったりすると思いますか?

雷「会いたいねえ」
兵「ま、忍者は繋がりを大切にするお仕事だから、関係がふっつり途切れるということはよほどないだろう」
竹「敵同士になるというのも、実際のところは滅多にあることでもないしな」

68:どこかの城勤めをしている鉢屋を想像してみてください。

雷「お・・・思いつかないっ・・・」
兵「殿様の器量によるよな」
竹「でも城勤め始めたら以外に堅実かもな。俺たちもう学生気分じゃいられないだろって」
雷「それも辛いな・・・」

69:忍術学園の先生をやっている鉢屋を想像してみてください。

雷「うう~ん、生徒たちがかわいそう」
兵「いい先生なんじゃないか?俺は受けたくないけど」
竹「結構合うと思うよ。ただ、俺は生徒にはなりたくない」

70:フリーター・・じゃなくてフリーの忍者な鉢屋を想像してみてください。

雷「こっちのが合うような気がする」
兵「でもあいつ寂しがりだから」
竹「雷蔵がいるからいいじゃん」
雷「は?そこで何で僕がでてくるの!?」

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