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僕の中の壊れていない部分

マニアック過ぎて伝わらない妄想。
社会人一年目久々知×大学四年生タカ丸。


風呂に入るのすらめんどくさい。独り暮らしのアパートの玄関を開けた途端、久々知は「あー!」と声を上げて黒のビジネスバッグと着続けてよれ始めたスーツの上着を放り投げた。ひどく疲れた。社会人がこんなに疲れるものだとは思わなかった。久々知は仕事ができるほうだったが、そのために上司や先輩から小言を言われることは少ないものの、逆に過分な期待をかけられたり、この先の野心を確認されたり、媚を売られたり逆に牽制されたり、その陰で同僚から反発を買わないように適度に仕事への愚痴を言ってみたり、小さなことを褒めてみたり、女子社員から色目を使われたり、相談を持ちかけられたり、誘われたり、断ったり、まあ色々だ。とにかく人間関係が疲れる。こちとら早く仕事を覚えたいばかりだというのに、真に出来るサラリーマンというのは仕事ではなく対人関係がうまく作れる人間のことを言うのだよ、と誰もが無言で久々知をテストしてくる。
誰もいない無人島へ行きたい、と久々知は半ば本気で思った。好きなやつとつるんでいればよかった大学時代の気楽さが嘘のようであった。久々知はネクタイを緩めながら薬缶に水を入れて火にかけた。カップラーメンを作ることすらひどく面倒くさいが、腹が減っていてこのままでは眠れない。敷きっぱなしの布団に倒れこんで、手元に転がっていたリモコンでテレビをつける。静か過ぎる部屋がともかくも退屈な騒音で、寂しくない程度には孤独を紛らわしてくれる。芸人たちが必死で笑われているのを見つめながら、大きく欠伸する。ああ、まずい、このままじゃ寝る。今寝ると大変だから、久々知は無理に体を起こす。布団の上に胡坐をかくと、また、「あー」と唸った。それからガシガシと頭を掻いてふらふらと立ち上がる。薬缶の水が沸騰する僅かな時間でシャワーを浴びる。風呂釜に湯なんて貯めない。たまには湯に使ってのんびりしたい、と思うが、湯を入れる作業がすでに面倒くさい。頭から湯を浴びると、少しばかり頭をしゃっきりする。薬缶がピーピー怒り始めると風呂から出て、バスタオルを腰に巻きつけただけの格好のまま、カップラーメンをつくる。昨日はねぎラーメンだったから、今日はシーフードだ。明日はソース焼きそば。そういえば大学時代に、カップラーメンばかりを続けて摂取すると身体に異常が起こるのだというテーマで、実際に泡を吹いて倒れた人の症例を紹介されたことを思い出す。ええと、あれは確か何日で身体に異常反応が起きたのだったか。俺はそのぎりぎりまで粘ってやるぜ。いや、むしろその発症記録を塗り替えてやるぜ。
ずるるーと麺をすすりながら、また大欠伸する。
会いたいな、と思う。せめて、声が聞きたい。
久々知が大学を卒業して社会人になってから、一気にタカ丸との距離が遠くなった。生活リズムが違う上に、むこうが気を使って頻繁に連絡をとることを遠慮しているらしかった。自分から電話しようかとも思うのだが、こんな深夜にかけるのも気が引ける。第一、会話の内容が愚痴になってしまいそうで怖い。寝落ちしてしまう可能性もたぶんにあって、そんなことをしてしまったら向こうは笑って許すだろうが自分が居た堪れない。
自分と同じように卒業して社会人になった同僚たちも、どうしてなかなか、仕事に私生活が食われがちらしい。一足先に社会人になった恋人を追うかたちで同じ会社に就職した竹谷は、「もう互いに忙しくてそれどころじゃねーって。廊下ですれ違って、アイコンタクトして励ましあって終わるくらいだよ。職場恋愛してるOLの先輩がいるんだけどさ、よくそんな元気あるよなーって感じ。この間なんか頑張って退勤時間揃えて早めに取ってさ、アフターファイブのデート計画したのはいいけど、結局飲み屋で愚痴りながらチビチビやって、先輩の部屋でふたりして大いびきかいて寝て終わった」と笑いながら話してくれた。恋人の雷蔵と同棲を始めた鉢屋は、久々知と電話したときにはまだ雷蔵が帰宅をしていなくて、どうも彼は仕事が忙しいらしく帰りが極端に遅いらしい。三郎は朝が早いから、雷蔵とはすれ違ってばっかりで同居の意味がまるで無いとぼやいていた。「この間焦れて互いに疲れてるのに、変なテンションで無理やり押し倒してエッチしたら、途中で電池切れて雷蔵がいびきかいて寝た。俺入れたままなのにだぞ?腹たって揺さぶって起こしたら、”うるさい、死ね”って殴られたんだけど。俺愛されてないのかもしれない。いっそ主夫になって雷蔵のために尽くそうかしら」とかわりとまじめに語ってくれた。
「会いたいよな、やっぱ」
久々知は呟いてテーブルの上の携帯を握り締める。五分だけでいい、元気かって聞いて、また近いうち遊ぼうなって詮無い約束をして。それでいいんだ。深いやり取りなんかなくたって、声が聞ければそれで。しばらく考えて、久々知はタカ丸のアドレスを呼び出すと通話ボタンを押した。コール二回で、タカ丸が出た。
「はい」
「俺だけど」
「うん。仕事の帰り?お疲れ様」
「お前は?寝てた?」
「うん、ベッド入ったとこ」
「悪かったな」
「ううん。ずっと話したかったから」
「うん、俺も」
「仕事、大変?」
「まあ。・・・お前は、卒論どう?」
「うん、まあまあ」
「そっか」
「うん」
そっけないような会話だった。それでも久々知は自分の心が満たされていくのを感じた。ああ、俺、明日もやってけるわ。ホッとした途端、久々知が大きく欠伸をしたので、タカ丸は近況報告を中断した。
「ごめん、疲れてるのに」
「や、いいよ。お前の話聞いてたい。ごめんな、ちょっと疲れててさ」
「電話きろうか」
「それはだめだ」
「うん」
久々知はごろんと布団の上に寝転がった。受話器を耳に押し付けながら、タカ丸の柔らかい、男にしては少し高いような声にじっと耳を済ませていた。ああ、俺やっぱこいつのこと好きだ。なんの気なしにカーテンの合間から見えるベランダに続く窓を見る。部屋の光に映し出された自分がいる。その顔が、自分でもびっくりするくらい幸せそうに微笑んでいるので、久々知はなんだか信じられないものを見たような気分だった。
「俺まだまだ大丈夫みたいだわ。笑えるとわかってよかったよ」
電話越しにひとりごちたら、愛しい声が、「え、」と返した。
久々知はまた大きく欠伸をして、カラスが生ゴミをついばむ、いつもの朝を平穏な気持ちで待った。
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