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よいこわるいこふつうのこ

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朝顔日記

久々知は頭いいし優秀なんだけど、忍務以外だと肝心なところでたいへんお馬鹿そうだという思いこみによる妄想。


愛することに慣れていないし、愛されることにも慣れていない。


「朝顔ですか」
タカ丸が浴衣姿で団扇を仰ぎながら、長屋から続く中庭にしゃがみ込んでいる。久々知が覗き込むと、ちいさな鉢にちょこんと緑色した双葉が見えた。タカ丸はそれを眺めてにこにこしているのだった。
「そう、一年生の授業での課題なんだ~」
植物の成長過程も忍びにとって重要な知識である。久々知は頷いた。タカ丸は笑顔のまま首を傾ける。
「兵助もやった?懐かしい?」
「やりましたよ。懐かしいです。俺はこういうのは苦手だから、苦労させられた」
「え、兵助にも苦手なんてあるの!?」
タカ丸の驚きに、久々知は心外そうに苦々しく眉を顰める。
「ありますよ、俺にだって苦手のひとつやふたつ。当たり前でしょう」
「ごめ~ん。だってさ、わりに器用で何でもできるじゃない?だから、」
「何かを育てたり面倒見たり、そういう慈しむようなのって苦手なんです。やり方がよくわからないから」
「やり方なんていいんじゃない?ただ、大好きだよ~って思って接してれば伝わるものだと思うけど」
無邪気にアドヴァイスをくれるタカ丸に、久々知はさして表情も変えず、さらりと「そうですね」と同調する返事を返した。タカ丸のアドヴァイスが心に響いたわけでもなく、しかし、さして反論する興味もないらしい。これ以上この話を深める気はない、そんな拒絶が伝わってくるような態度だった。タカ丸は、愉快な話題でもないのだろうと気を遣い、すぐに話題を変えた。

その十日後に朝顔が花を咲かせた。タカ丸は手を叩いて喜んだが、葉の色が黄色っぽくなっていることに気がついて、久々知に相談した。久々知は、指で葉を撫でると、「俺よりも竹谷のほうが適当だろうから」と、竹谷を呼んできた。
「ああ、水のやり過ぎですね」
「え、そーなの?花が咲いたから、その分いっぱい水がいるかと思って、俺・・・」
「ちょっと土が乾いてるくらいがちょうどいいんですよ。2、3日ほうっといてください。それから水をやったら、こいつ、ぐんぐん水飲みますよ」
毎日水をやって、可愛がりすぎたのだとタカ丸が反省した調子で言うと、竹谷が「気持ちはわかります」と笑う。「でもこいつも、生きてるから。生きてるやつってみんな、すげえ丈夫で強いから。だから、過保護にされると逆に調子狂って駄目になっちゃうんです。天気って、毎日雨降るわけじゃないでしょう?晴れのほうが多いくらいでしょう。だから、花だって、あんまり水飲まない方が生きてけるようになってるんですよ」
「なるほどねえ」
しみじみと頷くタカ丸の隣で、久々知は黙って冷たい茶を飲んでいる。久々知は一年の頃、課題の朝顔を枯らした。結局、合格はもらえないままだった。久々知は朝顔が好きだった。大好きだから、いっぱい花を咲かせて欲しいと思って、毎日水をやった。いつも鉢からあふれるくらい、水をやっていた。喉が渇いたらかわいそうだと思っていた。大雨の降る日にも、水をやった。ひしゃくですくっては、雨水であふれかえる鉢にさらに水をやった。
「元気出せ、大きくなれよ」って、枯れてしまった花に、優しい言葉をかけ続けた。あのときからすでに久々知は間違えている。でも、何が間違っているのかよくわからない。愛し方がわからない。動物の世話も植物の育成も、久々知はいつだってさんざんの成績だ。きれいに咲けよ、元気に育てよという願いならば、いつだって抱いているのに。

竹谷が帰ってから、タカ丸が久々知に肩を寄せてきた。夏の夕方だが、その日はいつもより涼しかった。
「へへ、ちょっと肌寒いから、暖取りだよ」
「掛布でも持ってきましょうか」
「ううん。兵助がいればいい」
タカ丸は白くほっそりした指で、久々知の、年齢の割にごつごつした指を撫でる。この節くれ立った、美しいとは言い難い隆起の激しい指は、そのまま久々知の人生だ。
「朝顔、回復しそうでよかったですね」
「うん。竹谷くんすごいねー」
「あいつは、いい男です」
友を誉められて嬉しかったのか、久々知の頬がかすかに緩む。タカ丸が微笑んで応える。久々知の視線が、不意にまっすぐひたむきにタカ丸を捉えた。指が持ち上がり、タカ丸の傷ひとつない滑らかな肌を滑る。
「・・・あなたのことを、上手く愛せるかな」
タカ丸はきょとんとした。しかし、久々知の瞳の奥にどことなく臆病の色が見えて、可笑しくて、可愛くて、少し笑った。
「大丈夫だよ。俺、花じゃないし。それに、ずっとずっと、しぶといもの。こう見えても兵助よりお兄さんなんだよ。・・・ね?」
言い聞かせるような、子どもに向かうような態度に、兵助の頬に種がさす。
その夜、久々知ははじめてタカ丸を抱いた。顔を真っ赤にして、呼吸を乱すタカ丸に、久々知まで苦しくなった。泣きながら久々知に貫かれるタカ丸を見ながら、この愛し方は正しいのかとすら思った。久々知は、快楽に腰をすすめながらも、何度も、謝っていた。
ごめんなさい、ごめんなさい。俺、あなたのこと好きなのに、大切にしたいのに、こんなふうな、泣かせるような愛し方しか知らなくて、ごめんなさい。

竹谷と出会ったばかりの頃、兵助は、竹谷からもらったひよこが嬉しくて、抱きしめて眠った。翌朝、自分の身体でひよこをつぶしてしまった。久々知は、かつてないくらい、生きたなかで後にも先にもないくらい、激しく泣いた。
「ひよ、ひよ、ひっ、ひよ、ひっひっ、ひよ」
「兵助、もう泣かなくていいよ。ひよこはもう埋めたから、きっともう成仏したよ。兵助のこと恨んだりもしてないさ。やさしいひよこだったもの」
「ひよ、ひよ、うえええ~」
「兵助はひよこが好きで、大好きだから、一緒に寝たかっただけだもんな」
「はっちゃ、ごめ、ごめんねえ」
「おれも怒ってないよ。だっておれ、ひよこと同じくらい、兵助のこと好きだもんなあ」

ふっと夜中に目が覚めて、自分の手が誰かを抱きしめていることにぎょっとした。久々知は何かを寝所に入れるのが、あれからずっと苦手だ。目を見張ったら、タカ丸だった。馬鹿なことだと思いながらも、不安に駆られて、彼の心音を確認する。とくん、とくん・・・生きてる。
(大丈夫だ、つぶしてない)
それから兵助は、なぜだか鼻の奥がつんとして、慌てて目を閉じた。鼻腔が、朝の冷たい空気にさらされて、兵助の気持ちを和らげる。ごめんな、ひよこ。タカ丸さんが丈夫でよかった。おれ、今度こそ、大切にしよう。タカ丸さんのこと、大切に大切に、愛そう。間違ったところがあったら、はっちゃんに叱って貰って、今度こそ、俺は。
夢うつつの兵助の耳元で、朝顔の花の開く音がした。
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ハッピーメリークリスマス!

>>『夏休みとかに料理つくりに遊びに行ってあげたらいいよ、タカ丸さん!帰ったときにおかえりーって温かい
ご飯と一緒に迎えてあげたらそれだけで久々知先輩倒れるよ!』

コメで最高の萌ネタをもらったので・・・(ありがとうございます)


なんかの冗談だろ。
久々知はまっしらけになったエクセル画面を見て、泣くことさえ忘れてただ呆然と立ち尽くしていた。傍らでは事務の小川さん(21歳/部長と不倫中☆内緒だゾ!)が、内股でごめんなさあ~いと涙目になって平謝りしている。
「ちょうど久々知さんのデスクの近くを通りかかったときにバランス崩して転びそうになっちゃってえ、慌てて手をついたらデリートキーぽちっとしちゃってたんですう~」
久々知は真っ白な頭のまま、「はあ、」と呟き、「怪我はなかったでしたか」とようやくそれだけを言った。小川は久々知はそういってくれると思っていたとばかりに輝いた笑顔を見せると、「はい、おかげさまで!」と力強く頷き、「それじゃああたし待ち合わせがあるんで」と申し訳そうな振りだけはたっぷりに、オフィスから去っていった。見るに見かねた上司が、久々知の肩をぽんと叩き、「えーっと、手伝おうか」と申し出てくれたが、久々知は口から魂を飛ばしつつゆるゆると首を横に振った。
「いえ、結構です。課長、今日はお子さんとクリスマスディナーに行かれるんでしょう?楽しんできてください。俺、何の予定もありませんから」
表情筋をフルに使い、にっこりと微笑み、やがて誰もいなくなった真っ暗なオフィスで手をついて倒れこんだ。泣くなおれ、泣くんじゃない、俺。お前もう成人して立派な大人だろ、泣くんじゃないよ。ああ、でも、今地球が滅亡しても俺はちっとも悲しまないぜ・・・。
久々知兵助、23歳の涙のクリスマスであった。


今日だけは父親に頼み込んで、店の手伝いをなしにしてもらった。クリスマスは、可愛くなりたい女の子たちで店が繁盛して忙しい日なのだけれど。いつもは仕事で忙しくて全然会えない久々知が、クリスマスだけは死んだって定時で上がるから、一緒に過ごそうといってくれたのだ。嬉しい。へへへ、死ぬほど嬉しい。タカ丸はゆるむ頬をつねって、念入りに髪形を整える。同じゼミ生の綾部が、「あやまあ、顔がゆるゆるだ」と横からからかってくる。
「今日はハッピークリスマスですか」
「うん、ハッピーです。綾部は?」
「私はタカ丸さんが私のディナーご一緒しませんかの誘いに頷いてくれればハッピークリスマスなのですがね。どうも叶わず、アンハッピークリスマスです」
「う、・・・ごめんなさい」
「いえいえ、お気になさらず。塾のアルバイトを入れたので、これから受験生相手にオラオラ、クリスマスは絶滅したんだよ、お前らのサンタクロースは微分積分だコラと叫んで恨まれてきますから」
「今週日曜の美術館めぐり、楽しみにしてるから!」
綾部は美しい笑みを浮かべる。頬を染めたタカ丸のポケットで携帯がなった。久々知からのメール着信である。慌てて尻ポケットから携帯を引っこ抜くと、ぱくんとフラップを開く。『ごめん。仕事で残業入った。何時までかかるか分からないから、今日はナシにしてくれ。ほんとごめん。・・・日曜あいてる?』
スッとタカ丸の表情が消えたので、綾部は横からお邪魔しますよ、と携帯の画面を覗き込んだ。そして、おやまあ、と呟いた。
「まあ、相手は社会人だから仕方ないです。元気出して・・・私との約束はまた別の日でいいですよ」
「ううん。先に約束したのは綾部だから」
タカ丸は首を横に振ると、ぽちぽちとメールを打った。『仕事ならしかたないね。こっちは気にしないで、仕事がんばってね。日曜は予定があるからちょっとムリなんだけど・・・ごめん。またそっちのスケジュール教えてね。空いてるときにごはんでも食べに行こうね』
それから携帯を閉じた。いいんですか、と瞳が語る綾部に、わざと明るい笑顔で「残念!」と茶化した。
「僕のバイト終わるまで待っててください、三木ヱ門のなりきり路上サンタクロースでケーキ売りバイトでも冷やかしに行きましょう」

久々知は、終電に滑り込んで帰宅した。それでも全部は終わらずに、持ち帰りだ。明日提出の書類が消えたのだから仕方なかった。恨む気持ちもないではないが、恨んだって仕方のないことだし、トイレ休憩だからと油断して保存しておかなかった自分も悪いのだ。久々知は溜息をついて自室のマンションのドアを開けた。真っ暗な玄関が自分を飲み込む。
が、奥の部屋から明かりが零れていて、久々知はびっくりして革靴を履き捨てると、部屋に上がった。掃除も満足にしていなかった汚い部屋が綺麗に片付けられて、小さいテーブルにいっぱいの食事が並んでいる。タカ丸が緊張したような笑顔を浮かべて、「お、おかえり~」と控えめな挨拶をした。
「タカ丸ッ!?へ、部屋ッ・・・家、鍵ッ・・・!」
うまく言葉にならない。タカ丸は「えと、あの、大家さんにあけてもらって・・・その、不法侵入してすいません」と深く頭を下げた。
「どうしても会いたくて、今日駄目になっちゃって、元気出そうと思ったんだけどやっぱりへこんでたら、友達が会いたいときは会うために会いに行けばいいって言うもんだから・・・その、一応ご飯なんかつくってみたりしたんだけれども。冷蔵庫の中身ちょっとだけ使っちゃいました、ごめんなさい。あと、友達からケーキ貰ってきたからご飯の後に食べよう。あ、あと、お風呂も沸いてる!仕事お疲れ様です。あの・・・怒ってる?」
立ち尽くしたまま、呆然とした表情でわなわなと震えている久々知に、タカ丸は圧倒されて怯えたように彼を見上げた。久々知は、くわ!と目を見開き、「怒ってなんか!」といった。声が大きくなってしまって、驚いたタカ丸がびくりと肩を揺らした。
「嬉しいです、ありがとう。部屋、・・・汚かったろ・・・ごめん。エロ本とか・・・出しっぱなしだった気がするし」
「いやいや、健全な男だから!い、一応ベッドの下においてみたりなんかしましたけれども・・・よかったですかね」
「結構です!飯まで作ってもらって・・・冷蔵庫、十ヶ月放置のマヨネーズとかあったろ・・・」
「ぱんぱんに膨らんでてちょっと怖かったかな。捨てちゃったけどよかった?」
「ありがとう・・・ほんと、嬉しい」
久々知はスーツ姿にコートを羽織ったまま、ぎゅうっとタカ丸を抱きしめた。
「嬉しい。ほんと、今なら死んだっていい。嬉しい。嬉しい。嬉しい。あーほんと、どう言ったらお前にこの気持ちが伝わるかな。ほんとに嬉しい。嬉しくってたまらない。ありがとな。好きだ、大好きだ」
「えへ、えへへへ。なんか、笑っちゃうね、なんか、嬉しくて。どうしよう、にやけがとまんないよ。あー、兵助としゃべってるだけでこんなに嬉しいんだよ、俺頭おかしくなちゃったのかも・・・。へへ、兵助大好き!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめあって、うへへ、とお互いにやけ笑いをして。真夜中だし、クリスマスなんてとっくにおわちゃってたんだけれども、ふたりはその晩タカ丸の作った料理を食べながらテレビもつけずお互いの話を何より面白いものとして没頭して聞いて、平凡だけど何より幸せな時間をすごした。
ハッピーメリークリスマス。すべての人に幸いあれ!


こういうことですか、わかりません!

僕の中の壊れていない部分

マニアック過ぎて伝わらない妄想。
社会人一年目久々知×大学四年生タカ丸。


風呂に入るのすらめんどくさい。独り暮らしのアパートの玄関を開けた途端、久々知は「あー!」と声を上げて黒のビジネスバッグと着続けてよれ始めたスーツの上着を放り投げた。ひどく疲れた。社会人がこんなに疲れるものだとは思わなかった。久々知は仕事ができるほうだったが、そのために上司や先輩から小言を言われることは少ないものの、逆に過分な期待をかけられたり、この先の野心を確認されたり、媚を売られたり逆に牽制されたり、その陰で同僚から反発を買わないように適度に仕事への愚痴を言ってみたり、小さなことを褒めてみたり、女子社員から色目を使われたり、相談を持ちかけられたり、誘われたり、断ったり、まあ色々だ。とにかく人間関係が疲れる。こちとら早く仕事を覚えたいばかりだというのに、真に出来るサラリーマンというのは仕事ではなく対人関係がうまく作れる人間のことを言うのだよ、と誰もが無言で久々知をテストしてくる。
誰もいない無人島へ行きたい、と久々知は半ば本気で思った。好きなやつとつるんでいればよかった大学時代の気楽さが嘘のようであった。久々知はネクタイを緩めながら薬缶に水を入れて火にかけた。カップラーメンを作ることすらひどく面倒くさいが、腹が減っていてこのままでは眠れない。敷きっぱなしの布団に倒れこんで、手元に転がっていたリモコンでテレビをつける。静か過ぎる部屋がともかくも退屈な騒音で、寂しくない程度には孤独を紛らわしてくれる。芸人たちが必死で笑われているのを見つめながら、大きく欠伸する。ああ、まずい、このままじゃ寝る。今寝ると大変だから、久々知は無理に体を起こす。布団の上に胡坐をかくと、また、「あー」と唸った。それからガシガシと頭を掻いてふらふらと立ち上がる。薬缶の水が沸騰する僅かな時間でシャワーを浴びる。風呂釜に湯なんて貯めない。たまには湯に使ってのんびりしたい、と思うが、湯を入れる作業がすでに面倒くさい。頭から湯を浴びると、少しばかり頭をしゃっきりする。薬缶がピーピー怒り始めると風呂から出て、バスタオルを腰に巻きつけただけの格好のまま、カップラーメンをつくる。昨日はねぎラーメンだったから、今日はシーフードだ。明日はソース焼きそば。そういえば大学時代に、カップラーメンばかりを続けて摂取すると身体に異常が起こるのだというテーマで、実際に泡を吹いて倒れた人の症例を紹介されたことを思い出す。ええと、あれは確か何日で身体に異常反応が起きたのだったか。俺はそのぎりぎりまで粘ってやるぜ。いや、むしろその発症記録を塗り替えてやるぜ。
ずるるーと麺をすすりながら、また大欠伸する。
会いたいな、と思う。せめて、声が聞きたい。
久々知が大学を卒業して社会人になってから、一気にタカ丸との距離が遠くなった。生活リズムが違う上に、むこうが気を使って頻繁に連絡をとることを遠慮しているらしかった。自分から電話しようかとも思うのだが、こんな深夜にかけるのも気が引ける。第一、会話の内容が愚痴になってしまいそうで怖い。寝落ちしてしまう可能性もたぶんにあって、そんなことをしてしまったら向こうは笑って許すだろうが自分が居た堪れない。
自分と同じように卒業して社会人になった同僚たちも、どうしてなかなか、仕事に私生活が食われがちらしい。一足先に社会人になった恋人を追うかたちで同じ会社に就職した竹谷は、「もう互いに忙しくてそれどころじゃねーって。廊下ですれ違って、アイコンタクトして励ましあって終わるくらいだよ。職場恋愛してるOLの先輩がいるんだけどさ、よくそんな元気あるよなーって感じ。この間なんか頑張って退勤時間揃えて早めに取ってさ、アフターファイブのデート計画したのはいいけど、結局飲み屋で愚痴りながらチビチビやって、先輩の部屋でふたりして大いびきかいて寝て終わった」と笑いながら話してくれた。恋人の雷蔵と同棲を始めた鉢屋は、久々知と電話したときにはまだ雷蔵が帰宅をしていなくて、どうも彼は仕事が忙しいらしく帰りが極端に遅いらしい。三郎は朝が早いから、雷蔵とはすれ違ってばっかりで同居の意味がまるで無いとぼやいていた。「この間焦れて互いに疲れてるのに、変なテンションで無理やり押し倒してエッチしたら、途中で電池切れて雷蔵がいびきかいて寝た。俺入れたままなのにだぞ?腹たって揺さぶって起こしたら、”うるさい、死ね”って殴られたんだけど。俺愛されてないのかもしれない。いっそ主夫になって雷蔵のために尽くそうかしら」とかわりとまじめに語ってくれた。
「会いたいよな、やっぱ」
久々知は呟いてテーブルの上の携帯を握り締める。五分だけでいい、元気かって聞いて、また近いうち遊ぼうなって詮無い約束をして。それでいいんだ。深いやり取りなんかなくたって、声が聞ければそれで。しばらく考えて、久々知はタカ丸のアドレスを呼び出すと通話ボタンを押した。コール二回で、タカ丸が出た。
「はい」
「俺だけど」
「うん。仕事の帰り?お疲れ様」
「お前は?寝てた?」
「うん、ベッド入ったとこ」
「悪かったな」
「ううん。ずっと話したかったから」
「うん、俺も」
「仕事、大変?」
「まあ。・・・お前は、卒論どう?」
「うん、まあまあ」
「そっか」
「うん」
そっけないような会話だった。それでも久々知は自分の心が満たされていくのを感じた。ああ、俺、明日もやってけるわ。ホッとした途端、久々知が大きく欠伸をしたので、タカ丸は近況報告を中断した。
「ごめん、疲れてるのに」
「や、いいよ。お前の話聞いてたい。ごめんな、ちょっと疲れててさ」
「電話きろうか」
「それはだめだ」
「うん」
久々知はごろんと布団の上に寝転がった。受話器を耳に押し付けながら、タカ丸の柔らかい、男にしては少し高いような声にじっと耳を済ませていた。ああ、俺やっぱこいつのこと好きだ。なんの気なしにカーテンの合間から見えるベランダに続く窓を見る。部屋の光に映し出された自分がいる。その顔が、自分でもびっくりするくらい幸せそうに微笑んでいるので、久々知はなんだか信じられないものを見たような気分だった。
「俺まだまだ大丈夫みたいだわ。笑えるとわかってよかったよ」
電話越しにひとりごちたら、愛しい声が、「え、」と返した。
久々知はまた大きく欠伸をして、カラスが生ゴミをついばむ、いつもの朝を平穏な気持ちで待った。

夜をどうしよう

あまあまなの書いて今日はもう寝ようと思う。
くくたかで砂を吐きたい人向け。

どうしてなかなか、タカ丸はずいぶんと努力家であるらしい。二人一緒に布団に包まって眠ったはずなのに、ふと兵助が目を覚ますと、いつ起きたのか、隣でタカ丸が油に火を灯して僅かな明かりで忍たまの友を捲っているのだった。
「タカ丸さん、」
名を呼んだそばから大きな欠伸が出た。
「起こしちゃった?ごめんね」
柔らかな声がそっと兵助の耳朶を撫ぜる。「いや、いいですけど」兵助は呟いて、もう一度大きな欠伸をした。昼間は実習やら自主訓練やらでこてんぱんに自分を虐めているから、夜半は眠気に勝てない。手探りでタカ丸の身体を、布団ごと抱き寄せた。
「復習ですか」
「うん、ちょっと・・・おれ物覚え悪いからたくさんがんばらないと」
「んん・・・?」
兵助の瞼はすっかり下りてしまっている。本当はぱっちり目を覚ましてタカ丸にいろいろ声をかけてやりたいのだけれど。くす、と耳元で小さな苦笑が聞こえた。柔らかい声が真綿みたいに兵助を包む。
「兵助、疲れてるでしょう、俺にかまわずちゃんと寝てね」
「あんたも寝なきゃだめですよ」
「うん、もーちょっとで寝る」
くあああ、と兵助は大きく欠伸をした。それから、タカ丸の懐にぐりぐりと頭を寄せた。「ちょっと、兵助、これじゃ本が読めないってば!」くすぐったさに笑い出しながらタカ丸が耳元で囁く。兵助はタカ丸の体温を感じながら、夢うつつのなかで、「あんたはいいにおいがするなあ」と呟く。はて、特に香りは纏っていないはずだけれどなあ、とタカ丸は首を傾げる。忍者は匂いを残してはいけないと習ったから、大好きな香も焚くのを我慢している。
「どんなにおい?」
「んん、・・・にんげんのにおい」
「・・・う?」
もしかして兵助寝ぼけてる?そっと耳元でたずねてみても、兵助はもう半分夢の中に入り込んでしまって満足に返事もしない。結局タカ丸はひっそりと忍び笑いして、兵助を懐に抱き寄せたまま、変な体勢で忍たまの友の続きを読み耽った。規則正しく上下する兵助の身体が嬉しい。大きくつられ欠伸をしたら、兵助が、「あんたが好きです」と真摯な寝言の告白をくれたので、「おれも好き、」と返してタカ丸は忍たまの友を枕元に放り出すと、明かりを消してぎゅっと兵助に抱きついた。
とたん兵助がもそもそ動き出して、耳元で、「勉強は終わったか。だったら、しよう」と掠れた声を上げるものだからタカ丸は「とんだ策士だなあ、この男」と苦笑交じりの溜息をついた。

嘘と沈黙

兵助は黙って噛み付くようなキスをした。早急な求め方は初めてだった。タカ丸は唇を強く吸われながら戸惑っている。彼のびしょ濡れた身体を抱きしめると、その身体は冷え切って、タカ丸は氷でも抱いているかのように感じた。執拗に求めてくる接吻の合間から、溺れかかったものがするように激しく息を接ぐ。空気を貪る。
タカ丸は理由を聞かなかった。代わりに、彼のしたいままにさせた。
彼はタカ丸の舌を吸いながら、己の身体とともに藁の上へタカ丸を押し倒した。馬の獣じみた匂いがタカ丸の鼻をついた。兵助の唇が彼のそれを離れ、首筋に降りていく。
タカ丸はとうとうそのときが来たことを悟った。タカ丸は、いつか兵助に求められるのではないかと気がついていた。それは、彼の自分を見る視線が時々ひどく思いつめていたからだった。タカ丸は彼の、自分を一切語らないところが、時々とても寂しかったので、彼に求められたら、それがどんなに一時の激情に駆られた末の行為だったとしても自分はとても喜んで受け入れるだろうと思っていた。
理由は知れないが、兵助は深く傷ついている。実習があったのだという、なにか、辛いことを経験したのだろう。兵助はいつも、タカ丸の知らないところで傷を受けて、そうしてそれを決して見せてはくれない。あんたは醜い傷口なんて見なくてもいいよ、ただそこで、何にも知らぬまま笑っておいで、と自分を除け者にする。それがどんなに悔しいか!兵助の愛撫のひとつひとつを瞳を閉じて受けとりながら、タカ丸はすぐさま心の中で決意をしていた。
兵助がどんなに嫌がったって、自分はいつか必ず兵助の傷口を見てやる。そうして必ず癒してみせるのだ。
忍びの恋は、別つ恋だと三郎が言った。決していつも一緒には入られない。兵助が自分より先に卒業てしまって、どこかの城に仕えることになって。そうしたら、自分たちはもう離れ離れになってしまうだろう。いつかそのときが来ても後悔がないように、この恋が一過性のもので終わったとしても、兵助にとってとてもよいものであるようにしたいとタカ丸は思うのだった。いつか分かれてしまっても、いつかどこかで兵助が別の誰かと笑いあうときに、その人と心根から対峙できるように。彼がこの先一人で幸せになっていけるように。
兵助の愛撫は性急だった。荒々しく肌に吸い付き、撫でさすり、膝でタカ丸の足を割った。服を脱がされながら、タカ丸は冷たい空気の中でいよいよ固く瞳を閉じた。
しかし、兵助はそれ以上求めてはこない。
急にそれまでの動きを止めてしまった。訝しく思ったタカ丸はそろそろと瞼を持ち上げる。兵助は瞳を曇らせたまま、神妙な瞳でタカ丸を見下ろしていた。
「…嫌がってくれないと」
寂しそうに笑う。
「勢いに駆られて、自分勝手にあんたを抱いて、取り返しのつかないことをしちまうところだった。俺が無茶したら、ちゃんと嫌がってくれないと」
タカ丸は上体を起こした。夜の空気の中で息を吐くと、冷えた身体が微かな熱を失って小さく震えた。兵助は剥ぎ取ったタカ丸の衣服を手繰り寄せたが、それが水気で湿っているのを知って、眉を顰めた。
「俺がびしょ濡れなせいで、あんたまですっかり冷やしちまった」
すいませんと苦笑して、立ち上がる。
「この時間じゃ風呂は使えないだろうな。部屋に戻りましょう、俺の分の掛け布も貸します。芯まで冷えないうちに寝ましょう」
「いいよ」
タカ丸は初めて口を開いた。何かに焦っているような兵助の、手首をしっかりと握って引き止める。兵助は立ち止まった。
「そんなのどうでもいい。それより、何があったの」
兵助がこちらを振り向く。その瞳が涙を堪えて潤っていた。それを隠すように、手首をつかまれたまま再びこちらに背中を向けてしまう。
「…なんにも」
年下の成績優秀のこの男は、いつも本当のことを言わない。独りで抱えるには重い本心ほど誰にも言わずに心の奥底に仕舞っておく。誰にも見せない。このことがタカ丸を不安にさせ、苛立たせているのだと、兵助自身も気がついている。それでも、自分はこんな生き方しか知らない。今更どうしろというのだ。心の藪の中に秘匿しすぎて、自分でも気付けなくなってしまった本心すらたくさんあった。兵助にとって、本音を零すことは、弱みをさらけ出すことだった。自分以外の誰かの前で傷口をさらけ出せば、そこから毒を塗り込められ、あるいは抉られ、自分は死んでしまうのだ。兵助は、そう思い込んでいる。誰かに自分を見せることは、彼にとって恐怖だった。
タカ丸が好きだと思うのは、彼の前では弱音をさらけ出してもいいと安心している自分に気がついたからだ。初めは、年上だがまるで忍術の心得のないこの男を、どこかで侮り、自分が彼に傷つけられることはないのだと彼の包容力に甘えていたのだろう。彼は、誰のどんなこともおよそ否定し、拒絶したことがなかったから。彼の前ではいつも本当の自分を見せてもいいと思えた。身のうちに隠しているいくつもの本音が姿を潜めることなく、胸にあり、裸のままの自分で彼と対峙することができた。この安心感は、すぐに愛に変わった。
俺はこの男を守りたいと思う。自分の心の平安のために守ってやりたいと思う。
「言えないことかい?」
タカ丸は短く応えた。兵助の下手くそな嘘はすぐにばれていた。
「言いたくないなら言わなくてもいいよ」
タカ丸は立ち上がって、兵助を背中から抱き締めた。兵助の背中が小さく震えた。人を殺した、とは言えなかった。返り血は浴びなかったけれど、血のにおいが染み付いているような気がして、頭から何度も冷たい井戸水を浴びてそのままタカ丸と逢瀬したのだった。兵助は、血なまぐさい本心は言わないままにして、代わりに、自分の胸を暖めてくれていたもっと別の本音を喋った。タカ丸には、好いものしか与えたくない。
「俺、あんたが好きです」
兵助の声は震えていた。低く掠れた言葉が、ぽつんと闇の中に吐き捨てられた。それは、兵助がおそるおそる吐き出した初めての“本音”だった。
「知ってる」
タカ丸は頷いて、頬をぴったりと男の背中にくっつけた。己のわずかな体温が男に移って、心ごとかれを暖めればいいと祈った。

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