忍術学園の四年生は怖いよ、という話。
話、というかシーンが書きたかっただけなので、特にストーリー性はないのですが、それでもよいよという方はどうぞ。
「待て待て待て待て待てゴルア!!!!」
ハードでスリリングな長い一日がようやく終わろうとしている夕刻。忍たま長屋の四年棟からはなにやら騒々しい物音と、叫び声と、怒鳴り声とがひっきりなしに上がっていた。ひとっ風呂あびてほこほこと身体から湯気なぞ立ち上らせながら渡り廊下をぞろぞろと進むは不破雷蔵・竹谷八左ヱ門を筆頭に後ろに続くは鉢屋三郎と久々知兵助といういつもの五年メンバー。彼らの前方から、おもむろに田村三木ヱ門が走りこんできて、五年はなんだなんだと飛び退いた。田村は足音も自嘲せずダカダカダカ!と物凄い音を立てて駆けてゆく。なんなんだ、一体、と呆れたような半目で三郎が呟けば、カサリと背後の植え込みでかすかな物音。兵助が首に巻いていた濡れ手ぬぐいを手にとって、植え込みに向かってビタン、とそれを振るった。触れている布はどうしてなかなか殴られると重い衝撃の武器になる。
「うごっ!」
と小さな悲鳴とともに、植え込みから何者かが飛び出してきた。すぐに屋根の上へ飛び移ってしまい一瞬しか確認できなかったがあれは、
「曲者、だな」
「捕まえるか!」
「それもいいけど、ハチ、庭を見ろ」
兵助の指摘に一同が振り返ると、りいりいと虫の音が微かに合唱する風情ある庭に、低く腰を落とし両腕に千輪を構える少年が独り。滝夜叉丸だ。
「ぬははは、この千輪の名手平滝夜叉丸様から逃れられると思ったのか馬鹿め!変態よ、ここが貴様の墓場となるのだ、ふーははははー!」
「うるさいっ!早くあいつを片付けろッ、馬鹿夜叉丸ッ!!」
横から、先ほど走り去ったはずの三木ヱ門が砲身を担いで走りこんできた。敵は屋根の上からひらりと向こう側、五年長屋の屋根に飛び移ろうとしている。「させるかあッ!!」三木ヱ門が漆喰砲をぶっ放し、滝夜叉丸が千輪を投げつけた。うまく当たって落ちてきた曲者は、そのまま地面に倒れ――ることなく、掘ってあった蛸壷に落ち込んでいった。穴の淵では、シャベルを構えた美少年綾部喜八郎が「だーいせーこう☆」と相変わらずのマイペースな呟きだ。
「曲者確保オー!」
「出合え出合え!!」
わやわやと長屋から飛び出してくる美少年たち。すべて四年生だ。各自に得意の武器を持って、曲者相手に容赦ない止めを刺す。人混みから遅れて苦笑気味に長屋から出てきたのは斉藤タカ丸だ。
「あ、兵助。みんなもこんばんわ~」
「何の騒ぎですか」
「うんと、曲者」
「はい」
「僕らどうもあの曲者さんたちに三日連続ふんどしを盗まれてまして、ひっ捕らえて吊るし上げようという作戦です」
「ぬあっ、変態か!」
くわっ!、と兵助が目をむく。ふんどし紛失騒動なら、兵助もタカ丸から聞いて知っていた。雷蔵が、「タカ丸さんは参加しなくていいの」と首を傾げると、タカ丸はごそごそと懐からはさみと櫛を取り出す。
「僕は刈上げ係なのです」
「なるほど」
五年はいちように頷いた。それから、
「アフロにしてやれ」
「ラーメンマンみたくしてやれ」
「馬鹿それじゃあ逆にかっこいいだろうが、スキンヘッドにしてやれ」
「いやいや、もういっそのことポニーテールに真っ赤なリボンつけてやれ」
などと勝手な応援をする五年生を背後に、曲者の哀れな悲鳴が木霊したという。
なんてどうでもいい話。
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