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竹谷八左ヱ門は動かない

こんな忍者いねーよシリーズ③
この孫兵どう見ても悪役です本当にありがとうございました編。

ガサリ。
背後で葉を踏む音がしてサワリはぞくりと身を震わせた。おそるおそる後ろの林を振り向けば、杉の大木の陰から一人の少年が覗いているのである。それは、先ほど自分が谷から突き落としたはずの少年だった。暗闇の中で、白い膚がぼんやりと浮いている。
「ああ、そこにいたのか。探したよ」
「生きてたのか、生きてたのかよお前ええええ!」
サワリはほとんど恐怖で我を忘れて、懐の短剣を抜き出した。その刃先には、植物からとった猛毒が塗布されていた。孫兵はそのことを、大気中に混じったかすかな匂いから嗅ぎ取った。
「毒か。その匂いなら附子かな。附子の毒は、経皮呼吸・経粘膜呼吸によって、経口から摂取後数十分で心室細動ないし心停止によって死に至る。・・・あの晩、ミユキ殿を殺したのはお前だな」
「だったらどうする!」
サワリがナイフを突き出した。餓鬼独りに怖がっていられるかと、覚悟を決めて飛び出す。対峙する伊賀崎孫兵は随分と細く、体力も無さそうな様子である。勝てる、とサワリは踏んだ。事実、突き出されたナイフを避けきれず、孫兵は刃先をぐっと拳で掴んでそれを留めた。ぽたり、と滴り落ちた彼の血の匂いに、サワリはあはははは!と大声で仰け反って笑った。
「ばあか、毒の突いた刃先を握りやがった!俺の勝ちだああ!」
「いいや、お前の負けだよ」
孫兵はにやりと笑うと、短剣から腕を外し、血の滴る傷口を赤い舌をチロリと舐めあげた。サワリがキョトンと、目の前の少年を見つめる。
「残念だが私に附子は効かない」
ゆっくりと孫兵が歩み寄ってくる。サワリは今度こそ気が狂わんばかりに仰天した。猛毒が効かないなんて、そんな人間がいてもいいのだろうか。
「でたらめだろお前っ!」
わめくサワリを、孫兵は何の感情も滲まない冷たい瞳で見つめる。堂々と歩きながらじりじりと間合いをつめていく。サワリは後ずさりしてそれから逃れたが、やがて木に進路を防がれて止まった。孫兵はひどく冷たい視線――それこそ、一般に”虫を見るような”とでも形容される瞳で、サワリを見ている。サワリの怯えたような視線とぶつかると、美しい容貌を皮肉気に微笑ませた。
「普段私はジュンコを使って相手を倒すことは滅多にないんだ。だってそうだろう、美しい私のジュンコの牙が、醜いものの肉を食むだなんて、そんなこと一瞬でも許されるわけはないからね。でも、まあ、お前は特別だよ。特別にジュンコの毒を味合わせてやろう。ジュンコがお前をたいそう気に入ってな、噛みたい噛みたいと僕に言うんだよ。ジュンコの毒はそこらでは味わえない格別なものだ。酩酊のうちにあの世に逝けるぞ、光栄に思え」
なあ、ジュンコ、と、美しく微笑んで、孫兵は首に巻いた大蛇をひと撫ですると、低い声でサワリを見つめ、言った。
「往け、ジュンコ。お前の毒を分けてやれ」
孫兵が伸ばした腕を伝ってジュンコはするするとサワリのほうへ移動し、大きな顎を開けてサワリの首筋に齧り付いた。そこで、彼の記憶はまったく途切れてしまっている。
再び目が覚めたとき、彼の身体は生涯二度と起き上がれぬものに変わり果ててしまっていた。


ひいい、と吉佐はまったく間抜けな悲鳴を上げてそこらの林を走り回っている。
「動くなッ!」
彼を守りながら闘わねばならない立場にある竹谷は、吉佐に大して鋭く一喝する。ヒッ!と短い悲鳴を上げて吉佐はその場に尻餅をついた。竹谷の言うことを聞けといわんばかりに、彼のまわりを毒虫たちが飛び交って進路をふさいでしまったので、それ以上どこへ逃げることも出来なくなってしまったのだった。
竹谷は構えを解かぬまま、敵を見つめている。竹谷の得意は雷蔵と同じく体術だ。ただし彼の場合、そこに虫獣使いという特性も加わる。孫兵は毒虫専門だが、竹谷にはすべての毒が聞かぬなどという特殊な体質はない代わりに、すべての生き物に愛されるという性質を持っていた。野生の生物で、竹谷の前に立ちはだかるものはない。
コウガは構えもせぬままただ竹谷を見つめて立ち尽くしている。彼の傍らにはよく牙の尖れた狼が一匹、唸り声を上げている。ぐうるる、と低く唸る狼の口からはだらだらと唾液が零れていた。ひどく餓えているのだ。
「疾風丸は人の肉しか喰わんものでな、大喰らいなのに、可愛そうにここ三日ばかり何も食っておらんで腹を空かせている。幸い、お前の肉は美味そうだ、疾風丸が甘さず屠ってくれるだろうよ。なあ、疾風丸」
オオーン!と天高く鳴く。竹谷は構えたままじりじりと間合いをつめる。竹谷の目は、あくまでもコウガを見ている。疾風丸のことはまるで相手にせぬといった様子に、コウガは腹を立てた。
竹谷を援護せんとばかりに、大きな角を持った牡鹿が竹谷にすり寄った。
「いいんだ、山主。俺なら大丈夫だから、山主はあの狼に気をつけてくれ」
やまぬし、はこの山の主だ。彼が竹谷に懐いている限りは、この山の生き物すべて、竹谷の味方といっていい。
竹谷は間合いをつめきると、そのままコウガの懐めがけて走りこんだ。竹谷の得意とする体術は、大陸由来のものだ。身体の捌き方が独特で、獣に似せてある。そのうちの鷹爪拳は相手が倒れるまで攻撃をやめない、攻め一辺倒の動きだった。コウガの鳩尾に拳を叩き込んでやる前に、疾風丸が横から竹谷に喰らいついた。首筋から血が噴出す。林の奥から、野生の狼が二三匹走り来て、疾風丸に飛び掛った。竹谷は血を流したまま、コウガに蹴りを喰らわせる。コウガは大きく傾いだが踏みとどまって、そのまま竹谷めがけて拳を叩き込んできた。竹谷は両手でそれを押さえると、そのまま己のほうにぐいと引き寄せる。突然の行動にコウガが戸惑うふうなのを、竹谷はすかさず彼の身体を抱きこむと、至近距離で顔を近づけた。それから、太い眉を寄せて、はっきりと告げる。
「なあ、お前、山を騒がせたら駄目だろう。さっき、獣の臓腑で山主をおびき寄せるだとかどうとか言っていたが、そんな方法で山主がお前に力を貸してくれると思ったか?・・・馬鹿か、」
吐き捨てるように呟く。コウガは悲鳴を上げた。竹谷が話している間に、彼の足元からざわざわと大百足やら蜘蛛やらが這い上がってきていたのだった。手で払い落としている合間に、竹谷は鳩尾に一発拳を叩き込んでやる。それで終わった。
残った疾風丸が吉佐に襲い掛かったが、竹谷が間一髪で合間に入って彼を庇った。
「ひいい!」
疾風丸が竹谷の肩に歯を沈める深く喰いついてはなれない獣を、竹谷は両手で抱きこんだ。
「よしよし、そんなに腹減ってんのか。可愛そうにな。俺の肉でよかったら遠慮なく食え」
そうして疾風丸の美しい獣をわしわしと両腕で掻き混ぜる。人の肉しか食わない獣なぞいるはずがない、それしか餌を与えられず、他を喰うことを知らなかったのだろう。かわいそうな獣だ。疾風丸がひとかけの肉を千切って、あとは竹谷から離れた。
「それでいいのか。もう、満足したか」
オオーン、とひと鳴きして、疾風丸は竹谷の膝で丸くなった。あは、と竹谷が噴出す。吉佐がそろそろと竹谷に元に寄って来た。
「もう、大丈夫なんですか」
「たぶんな。見ろよ、疾風丸。睫毛が長くて可愛いなあ。こいつ、女の子だぞ」
にこにこと吉佐に話しかけるのに、彼はひどく疲れた表情で、「いえ、あんまり可愛くもないです」と呟いた。

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