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よいこわるいこふつうのこ

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恋は思案の外

その日の昼になっては組はにわかに騒然となった。喜三太が学校を無断欠席した。それだけでなく、どうやら誰にもなにも告げず勝手に寮を抜け出したということがわかったからだった。担任の土井が昼休みにクラスのメンバーを集めて喜三太の行方を知る生徒がいないか確かめた。けれど、だれもなにも知らなかった。みんな困惑した表情で、喜三太がどうしてこんなことをしでかしてしまったのか、理由を探しているふうだった。金吾は黙り込んでいた。表情はやきもきと気を揉んで、落ち着かない様子だった。土井が職員室に戻ろうと教室から廊下に出ると、「先生!」ときり丸が背中から声をかけた。土井がふり返ると、きり丸はずいぶん落ち着いて、けれど心配げに眉根を少し寄せて、
「実家は」
と尋ねた。「帰ってねえの?」
土井は首をふった。午前中に確認のために電話を入れたが、帰宅することにはなっておらず、喜三太から特になんの連絡も受けてないということだった。
「警察に連絡とか、すんの」
そういう話題はすでに教師間で出ていたから、土井は素直に頷いた。
「そうだな。夕方まで待って、なんの進展もなかったら」
「そっか」
きり丸は頷いた。なにか自分なりに決めた様子だったので、土井はそれが知りたくて、首を傾げて見せた。きり丸は苦笑して、
「夕方まで何の進展もないようなら」
と返した。そのとき言う、という意味だ。土井は詳しくは聞かずに、そうか、とだけ頷いた。
「きり丸、喜三太やお前たちに悪いことにならないように。判断を誤らないようにな」
「うん」
きり丸は素直に頷いた。きり丸にとって土井はただの担任というわけでなく、兄代わりで親代わりだった。土井を裏切るようなことは絶対にない。土井もその信頼があるから、きり丸の返事に満足して大きく頷いた。
 
 
喜三太の実家の相模では、リリイに喜三太出奔の一報が入り、与四郎が駆けつけていた。与四郎は蒼白な顔でリリイに詰め寄った。彼には珍しく声を荒げて、外聞無くリリイを詰る。
「喜三太に俺との結婚を強要したのけ!そんなかわいそうなことすりゃ、姿くらますのも当然だべ」
「おぬしも喜三太も互いに想い合うておるのじゃから、婚約者と定めることの何がそんなに悪い」
「おばば!!喜三太はまだ14歳じゃっ!」
「もう14じゃ。あと2年したら立派に結婚できる」
「そういう問題じゃねえべ!14っていったら、ようやく世間様を知って色んなことに興味もわいてくる年頃だべ。相模にいたころは喜三太は他に比べても世間知らずの娘ッ子で、男も俺と仁之進くらいしか知らなかった。だども相模を出て遠くの学校行って、同じ年代の色んな男とも仲良くなったろう。喜三太だって人並みに恋くらいするだろうがよ。俺は確かに喜三太が好きだ。けど喜三太はそうともかぎらねえ。好きでもねえ男と婚約なんてあんまり可哀想だーよ
「喜三太が風魔以外の男と結婚したらならんのじゃ!それだから無理もいうておる。外の学園に行って、他の男を知るなんてあってはならんのじゃ。幸い、喜三太は心の成長が遅いし、まだ恋だのなんだのにはこれっぽちの興味もわいていない様子。じゃが、もたもたしておれば人並みに恋もしよう。そうなるまえに風魔に連れ戻しておぬしと結婚させる。それのどこが悪い」
「だからっ、それでは喜三太が可哀想じゃと…」
「与四郎ッ!!」
リリイの一際高い激昂が飛んだ。興奮していた与四郎は気圧されて息を呑む。
「勘違いするな。風魔のための結婚ぞ。好いた惚れたは思案の外じゃ」
与四郎は何か言い返そうと口を開いたが、結局は言葉を抑えて拳を握り、そのままリリイの家を出て行った。
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出発

早朝の新聞配達のアルバイトを終えたきり丸は、学園の寮門を静かに出てくる喜三太を見つけて「おい」と声をあげた。
「どうしたんだよ、喜三太。いやに早起きじゃねえか」
あたりはようやく日が昇りはじめた頃合いで、薄く朝もやがかかっている。朝陽があたりの雲を金色に染めあげて、藍色の空を少しずつ洗ってうす桃色、乳白色から浅葱へと染め直していく。喜三太は陽光を浴びてきらきらと輝きながら、そこに立っていた。ワンピースにパーカーをはおっただけのラフな格好をして、背中には荷物の少ないリュックサックが、ぺしゃんこのまま引っかかっていた。
「どっか行くのか」
きり丸はいぶかしげにたずねた。喜三太は困ったような顔をして黙っていたが、やがて小声で「・・・実家」と答えた。
「里帰りするのか。平日にか」
「うん。ちょっと、いろいろあって」
「ふうん」
きり丸は勘は鋭いが、人に深入りしない優しさを持っている。それは、例えば団蔵とは違う優しさで、団蔵は人の懐に潜り込んでどこまでもその人を深く知って飲み込もうとする。けれどきり丸は、誰もが抱えているはずの誰にも踏み入れられたくない心の場所を、気付いても気付かぬふりしてそっとしておいてくれる。きり丸は少しつきあっただけの人には、冷たい男だといわれる。きり丸本人も、そう言う。だけどは組のメンバーは、きり丸のそういう優しさをちゃんとわかっていた。世の中には色んな優しさがあっていい。
「誰にもいわないでね」
喜三太は、きり丸を見上げて言った。思いつめた表情だった。きり丸は、興味のなさそうな表情のままで、
首を傾げた。
「誰にも言わないでっていうのは、お前が早朝から実家に帰ろうとしていることを、っていうことか」
「うん」
「俺が黙っててもすぐばれるぜ。学校があるんだもの。お前が欠席してたら、みんな心配して、喜三太はどうしたんだって話になるだろ。土井先生は、お前が実家帰ること知ってんの」
「うん」
「じゃあ、俺が黙ってる意味、あるか?」
「あるよ」
「よくわかんねえ」
「そのうち、わかるから。わかっても、黙ってて。心配いらないから」
喜三太は妙に緊張した面持ちをしてきり丸と向かいあっている。寮門のうちで、へむへむの笑い声が聞こえた。
「いけない、みんな起きてきちゃう」
喜三太は慌てて駆けだそうとした。まるで、逃げるみたいだった。きり丸は、自分よりずっと背が低い喜三太の腕をぐっと掴んだ。喜三太は、それ以上進めなくなって、止まる。困ったようにきり丸を振り返った。
「離して」
泣いているみたいな声で訴えた。きり丸はため息を吐いて、
「大丈夫なんだよな」
と強い口調で念を押した。喜三太は黙ってうなずく。涼やかな美貌のきり丸が、少し逡巡したあと、顔を歪めてばりばりと頭を掻いた。
「俺はお前の友達だけど、は組の一員でもあるし、俺らの心配が限界越えたらお前との約束は破るぜ。それでもいいな」
喜三太はじっときり丸を見つめて、それからはっきりと一度うなずいた。
「うん、それでいいよ。ありがとう」
「怪我とか、病気とか、自分がつらくなるようなことはすんなよ。お前がつらいめに遭うと、いやな思いをするやつがいっぱいいるんだから」
「うん」
喜三太はまたうなずいて、それから、ワンピースのポケットを探ってひと掴みぶんの飴玉をとりだした。
「あげる。口止め料だよ」
「やっすい口止め。こりゃべらべら喋るしかねえな」
きり丸は笑って、包み紙をといて小さな飴玉を口の中に放り入れた。それから、「お前、金もってんの」とたずねた。喜三太は、「二千円くらい。ねえ、それで新幹線とかってのれると思う」と子どもみたいなことを聞く。きり丸は今度こそ呆れて、「無理だろ」とあっさり答えた。それからパーカーのポケットから給料袋を取り出すと、三万円を喜三太に手渡した。
「なるべく早く返せよな。それ、乱太郎の誕プレ資金なんだから」
喜三太は驚いて顔をあげた。きり丸から貸してもらうにはあんまり意外すぎるものだった。返そうと思ったが、そのときはもう背中を向けて、背中越しに手を振っていた。
「じゃーな、喜三太。早く帰ってこいよ」

先輩

故郷の人から電話だというので受け取ってみたら、与四郎からだった。与四郎が時々心配してかけてくれる電話は、喜三太にとって毎回とても嬉しいものだが、今回ばかりは弾んだ声が出せなかった。喜三太は、故郷のリリイばあちゃんがすでに与四郎になんらかの話をしたのだと思って、電話の内容をあやしがった。
喜三太は、リリイから、「16になったらお前は錫高野のせがれと結婚するのだ」と言い聞かされてきた。錫高野与四郎は喜三太より年上の青年だが、昔から喜三太に優しかった。喜三太にとって神奈川の小学校時代は、必ずしもいい思い出とはいえない。かわりものの喜三太は、同い年の女の子からは避けられることが多かったし、男の子からはひどい言葉でからかわれた。その時分、与四郎はすでに中学生だったが、部活があっても試験があっても喜三太が泣いて彼のもとを訪ねると、なんでもほっぽって喜三太の話を聞いてくれた。小学校でいじめられているのだという話をしても、与四郎は黙って最後まで話を聞いてくれたあと、
「俺はなにがあってもおめえの味方だ」
と言って、それから涙がとまるまでいっしょに遊んでくれた。
与四郎はことあるごとに言った。
「喜三太、生きてる限りつれえことはいろいろあるべさ。それは死ぬまでずっとだ。けどな、俺はいつでも喜三太の味方だ。世界中の人がおめえが悪いって責めるときがあっても、俺だけは喜三太は悪くないって言ってやる。おめえが変なやつだっていって笑っても、俺はそういうおめえがいっちゃん好きだべって言ってやる。人生に辛いことはいろいろあって、俺はどんなにがんばってもおめえからそういうもん全部とっぱらってやることはできねえ。けど、俺は最後までおめえの味方だ。なにがあってもおめえを泣かせるような真似だけはしねえ。俺のいのちにかけて約束する。この約束を、ずっと覚えててくれな」
からめた指の感触まで覚えている。そのくらい、与四郎はなんども喜三太に誓ってくれた。けれども喜三太は、このとき、与四郎を疑っていた。
「もしもし、」
という声がかすかにふるえていた。それに気付いてか気付かずか、与四郎は
「元気か」
とたずねた。喜三太はその言葉だけで息がつまりそうだった。いつ、故郷に戻ってきたら結婚するぞといわれるかと気が気ではなくなった。与四郎が嫌いなわけでは決してない。結婚するのだって、早すぎるという気持ちはあるにせよ、嫌だという気持ちはまるでない。
ない、はずだ。
なのに喜三太は、与四郎から帰ってこいといわれるのを、ひどく恐れた。いっしょになるぞといわれたら、大声をあげてわめいてしまうだろうと思った。自分でもどうしてこんな気持ちになるのかわからなかった。頭が混乱してひどく苦しかった。
「与四郎先輩、どうしてぼくに電話くれたの」
ふるえた声でたずねたら、与四郎は少し黙ったあと、すこし不思議そうに
「いや、ただ声が聞きたかっただけだ。元気してるかーって思ったんだ。今度の連休にでも帰ってこれんのか。久々におめえに会いてえ」
会いたいといわれて、喜三太は、結婚のために必ず故郷に帰ってこいと念をおされているような気になった。
「ちゃんと帰ります」
という返事が、不自然にふるえた。勝手に涙がでてきて、喜三太はこぶしで乱暴にそれをぬぐった。なんで泣くんだ、ばか。かなしくないのに。与四郎せんぱいのこと、ちゃんと好きなのに。泣いたりしたらかわいそうだと思った。与四郎先輩がかわいそう。こんなによくしてくれるのに。婚約者ってだけで、こんなに親切にしてくれるのに。結婚したくないなんて思ったらばちがある。
「喜三太、なにかあったんか」
電話ごしの声が低くなった。なんにも、とあわてて否定した喜三太に、与四郎はいたわるような口調で語りかけた。
「喜三太、俺はおめえの味方だ。元気だせ」
その言葉のあんまり優しいのに、喜三太は今度こそ声をあげて泣いた。学校がつれえのか、腹がいてえのか、友達とけんかしたんか、といろいろたずねてくるのに構わず、受話機ごしで甘えるようにわんわん泣いた。与四郎は、最後には黙ってそれを聞いていてくれた。なんにもいわず、受話機を切らないで、でも受話機ごしにちゃんとそこにいて喜三太を受け止めてくれていた。受話機ごしの気配を感じながら、喜三太は、制服のスカートの裾をプリーツがぐしゃぐしゃになるくらいつよく握って、ある決心をした。

スピークライカチャイルド

②皆本金吾(テーマが下品です)

そりゃ僕だって健全な男だぞ。そういうことがあったってしかたないさ。
金吾は日課の朝のランニングの最中、そればかりを免罪符のように繰り返している。だって僕だって男だもの。繰り返すのは押さえつけても押さえつけても罪悪感が消えないからだ。男だから仕方ない、と言い含めるような言葉の裏側では、もう一人の金吾がお前は最低の友達だ、と彼自身を責め立てている。
金吾は昨日、夢を見た。喜三太が出てきて、金吾の前で浴衣を脱ぎはじめた。夢の中の喜三太は幼稚さが全然なくて、舌っ足らずなしゃべり方は相変わらずだったけれど、悩ましげなため息を吐いて「ぼく、金吾が大好き。金吾ならいいよ・・・?」と、妖艶な流し目で言った。
妖艶な流し目だって、喜三太が。冷静に考えると笑ってしまう。なめくじさん大すきーってふにゃふにゃ笑ってるあの子が、どうしてそんなことするだろうか。だけど金吾は、夢の中でものすごく喜んでしまっていた。喜三太が自分からぎゅうって抱きついてきたのが可愛くて、嬉しくて、思わずキスをした。そうしたら、腕の中の彼女からは、わたあめみたいなマシュマロみたいなふわふわの優しい甘さがして、金吾は「食べちゃいたいなあ!」と声に出していった。喜三太は「や~ん(はあと)」って笑った。


・・・なにが「や~ん(はあと)」だ。僕は馬鹿か。

金吾は呆れ果てたように視線を座らせた。馬鹿なことを考えないように、ランニングのスピードを速めた。別にやらしい夢なんて、初めてじゃないし、やらしい夢を見れば誰だって起き抜けの身体の変化はあるものだ。男だから当然だ。だけど、知ってる女の子でそんなふうになるって、よくあることなんだろうか。しかも喜三太は、僕のものじゃないのに。僕だけの女の子じゃないのに。金吾は自分が恥ずかしくてたまらなくなる。
情けなくて仕方なかったのは、起き抜けに凄い夢を見たと思って、なのに自分の身体はしっかり兆していて、でもまさかどうしろっていうんだこれを。喜三太だぞ?そんなことできるわけないだろ。でも、じぶんひとりのことなら・・・夢の中のことだし・・・なんて逡巡しつつパジャマ代わりのスウェットの下に手を伸ばそうとしたら、布団の上に腰掛けた金吾の膝に隣の誰かがごろんって転がってきて、ふと隣を見たら、喜三太だった。金吾と喜三太が同室で寝てたのなんて、小学部一年生のときだけだ。いじめられっ子だった喜三太と泣き虫でホームシックの金吾が、互いに「同郷の子がいい!」って土井先生と山田先生にお願いして、それでかなった特別の部屋割りだった。そうじゃなきゃ男女同室なんて許されるもんか。だけど、これは内緒の話だけれど、金吾と喜三太は今日になるまで時々一緒に眠った。それはたいがい、金吾がどうしようもないホームシックになってべそをかきたいときだったり、喜三太が誰かに遠慮なしに甘えたいときだったりした。金吾は一人部屋だったから、そういうことは不可能じゃなかったのだ。でも、今日ばかりは情けなくて、泣きそうだった。
「どうして喜三太がここにいるんだよっ!」
半ばキレたように怒鳴りつけて起こしたら、喜三太はふにゃふにゃと寝ぼけ眼で笑って、「金吾に甘えたかったの」と言った。なんだよそれ。なんなんだそれ。わかってる、喜三太は幼稚で子どもだから、別にそんな意味で言ってるんじゃないのだ。本当に、ただたんに、甘えたかったんだろう。抱きしめてよしよしいい子だねーって言って貰いたかったんだろう。いつもだったら、呆れ半分で、だけどちゃんと望まれたとおりにする。だけど、今日は別だった。罪悪感と、やるせなさで泣きそうになって「出てけったら!男の部屋にこんなふうに入って来ちゃ駄目だってなんでわかんないんだよっ!!」と叩きだしていた。

深いため息をつく金吾の横を、すたすたと快調な足取りで、Tシャツに短パン姿の三治郎が通り抜けていった。ポニーテールがふわふわ揺れて可愛い。少し前までいって、振り返って、「あ、金吾、おはよう」って笑った。
「おはよう。どうしたの」
「ん?あのねえ、ダイエットなの」
「え?」
三治郎は金吾のさらに後方を振り返って、声を上げる。
「へーだゆーう、ファイト!あと半分だよー」
「うーん」
うあーんだかうえーんだかに聞こえる返事があがる。兵太夫は走りつけていないのがよくわかる、うつむいてぜえぜえ肩で息をしながら走っていた。兵太夫とおそろいのポニーテールが、やはり揺れている。「ね!」と三治郎がこちらを見てにこにこ笑う。三治郎は元気いっぱいだ。ああ、そういえば、運動が大得意だったっけ。最近はそういうの、隠してるみたいだったけど。隠すのやめたんだな。そっちのが三治郎らしくていいや。金吾はにこにこと笑い返す。
「兵太夫、前向かなきゃ余計疲れるよー」
「あご引いて、肘をもっと動かすといいよ。肘で走るようにしてごらんよ」
「楽しいこと考えなよー」
「がんばれ兵太夫!」
ふたりして応援する。兵太夫はひいひい言いながらなんとかふたりのところまで走り抜けた。それから、金吾はいつものコースを替えてふたりのランニングに付き合った。速さは兵太夫に合わせているからかもの足りなく、三治郎と普通に会話する余力があった。
「兵太夫が太ってるって?どこが?」
「さあ。団蔵も本心じゃないと思うんだけどねー。兵ちゃんがすっかり拗ねちゃって。スレンダー体型になるんだって」
「・・・うーん」
「あ、金吾微妙そうな表情だね」
「もったいないよなあ」
今ぐらいセクシーなほうが絶対いいのに。思わず呟いていたら、三治郎が横で爆笑した。素直すぎるよ、金吾。やっぱ男の子だったんだねえ。って笑い声を含んでそういうものだから、金吾は真っ赤になりながら罰が悪そうに笑って、「あー、兵太夫にはないしょね」と言った。
「兵ちゃんなら今の発言は喜びそうだけど」
「僕じゃ駄目なんだろ、団蔵じゃないと」
「うん、そーみたい」
「団蔵は男たちで締め上げとくよ。あいつ、デリカシーなさ過ぎ」
「うん、お願いします」
振り返ると兵太夫はいつもの美人さをどこかに置き忘れて、悲壮な様子で走っている。その一生懸命な様子がかわいいな、と金吾は思う。口ではぶうぶう言うけど、団蔵のこと、好きなんだなあ。団蔵好みの自分になるなんて、可愛いとこあるなあ。女の子はみんなそうなのかな。・・・喜三太も?喜三太も誰か、好きな人のために自分を変えていったりするんだろうか。
(馬鹿な。あいつはまだ子どもだから)
自分に言い聞かせるようにすると、その裏側でもうひとりの自分が、お前はそうやって「子どもっぽい」のを免罪符にしているだけだよ、と囁く。そうしてそれは真理かもしれなかった。金吾は、喜三太が一生色恋沙汰に疎い子どもだったらいいなと思っている。夢の中みたいに、金吾むかって流し目なんてくれなくていいのだ。そのかわり、誰にも流し目なんてしたら駄目だ。僕はたぶん、凄くわがままだ。そしてだれより子どもっぽい。
金吾はそういう自分を自覚して恥じる。火照った頬に、朝の潮風が、慰めみたいに優しい。
「金吾はデリカシーあるもんね。いい男って感じ」
「そんなことないけど」
「でも、すごくモテてるんだよ。知ってる?」
バレンタインデーのチョコレートだったり、告白だったりはそれなりにくる。だけど、金吾はそれをあまり気にしたことがなかった。
「関係ないよ、そんなの」
金吾は呟いていた。海の、生臭さを含んだ潮風を思いっきりかぐ。相模にも海があった。喜三太は故郷が懐かしくて泣いてばかりだった金吾を、この海に連れてきてくれた。それから、言った。
「金吾、あんまり帰りたいって言わないで。金吾が帰っちゃうと、ぼくらはまた離ればなれだよ。せっかく会えたのに、それじゃさみしいよ」
金吾のホームシックは、その日を境に、形を潜めた。先生は、金吾が大人になったからだと褒めてくださった。だけど、金吾を大人にしたのは喜三太だ。
「好きな人に愛されないと、意味ないよ」
金吾の呟きを、三治郎は笑わなかった。「そうだね。でもそれは、願って叶うものじゃないからね」それだけ言うと頷いて、あとはそのままふたりしてその会話を道ばたに捨てた。大人になるってやっかいなことだ。早く大人になりたい、でもまだ、ここでこうしていたい。
帰ったら、たぶんぷんぷん拗ねているだろう喜三太になんて言おう。お菓子をあげて、よしよしって子どもにするみたいにあやしてみようか。そんなこといつまで続くかわからないけれど、少なくとも今しばらくは、色んなことを知らないふりして子どもでいよう。

だって夏までもうすぐだから

お仕事で夏休みがもらえたので、ようやく更新できそうです。
ダイエット目的でプールで3㌔ほど泳いできたら、もともと頑丈でない右膝がイカれて(?)上手くしゃがめません。ショッピング中に試着お願いしたときに、スカートを履こうとかがんで「ぐおおっ」と声を上げてしまい、ドアをドンドン叩かれて「お客様!?大丈夫ですかお客様ッ!!」と大慌てされた。ご迷惑をかけて申し訳ありませんでした。もうしばらくあの店には行けない・・・。

そんな悔しさをもとに書きしたためる「1のは女体化夏の早起き話」。とくに盛り上がりのないオムニバス。
(喜三太の転校はひとまずうっちゃってください。)


① 笹山平太夫

平太夫は夏が好きだ。四季の中で一番好きだと言っても過言ではない。教室の窓からのぞく日々蒼さをましていく空と、むくむくわき上がってくるような入道雲。「あっついねー。勉強どころじゃないよもー」なんてがに股で椅子に座って下敷きのうちわ片手にクラスメイトとだれていても、心のどこかがすごくわくわくしている。夏が来る!今年は海に行こうか、山に行こうか。
雑誌をめくって新着の水着チェックに余念がない。どのページを繰っても、心躍るようなポップ&キュートな水着が並ぶ。ミントグリーンのドットプリントに、大人っぽい臙脂と白のストライプ。ワンピースもいいし、パンツスタイルもいい。去年はピンク&ブルーでまとめたから、今年はどうしようかな。ああ、ほんと、こういうの考えてるとき女の子に生まれてよかったなーって思う。
「あ、これかわいー」
新作のマンゴ&バナナのパックジュースを飲みながら、三治郎が雑誌を指差す。
「どれ?」
三治郎が選んだのはブルーグリーンとホワイトのボーダーだった。最近三治郎は、垢抜けたみたいに明るくてアクティブな格好を選ぶ。もともとは薄いピンクとかパステルイエローとかのいかにもフェミニンなものを着ていたのに。もともとは、こういうボーイズライクなもののほうが好きだったんだそうだ。虎若との恋がうまくいかなかったのはほんとに残念なことだけど、それがきっかけで三治郎がこういうふうに変わったのはいいことなんじゃないかなって思う。
「ボーダーかー。うーん、じゃあ私、これのチェリーピンクの色違い買おっかな。そんでおそろにすんの」
「いいね。でも、平太夫、パンツスタイルよりスカートタイプのが似合うと思うよ」
「じゃ、隣のは?」
「うん、いい感じ」
「今週の土曜さ、さんじろ、部活ある?」
「うん。でも午前オンリー。だから午後からならいけるよー」
「よっしゃ、んじゃ、土曜午後から買い物ね。水着制覇!」
「うん。ついでに浴衣も見て、あたりつけとこー」
「おっけ。あーテンションあがるうっ!燃えてくるぜ!!」
こみ上げるわくわくをこらえきれず、ガッツポーズをつくったら、三治郎がくすくす笑いながら、「あー夏だねー」と言った。教室の蒸すような熱気も、風ひとつないおもてに伸びるだけ伸びてる青草も、みんなみんな私を後押ししている。そんな気さえする。

放課後にコンビニでアイス買ってぼんやり渡り廊下で空見ながら食べてたら、団蔵にからかわれた。団蔵は平太夫を見るなりにやにや笑って「よく食うね、お前」と言った。平太夫は食は細いほうではないけれど、体重にもきちんと気をかけているし、人に心配されるほどではない。つまるところ団蔵はただなにかしら平太夫をからかいたいだけなのだ。団蔵はなぜか、そういう態度でしか平太夫に接することができない。小学校の時は平太夫とよくいたずらの応酬をしあった仲だからだろうか。今はお互いが成長していたずらなんてとっくの昔にしなくなっているのに、いつも正しい関係の持ち方がよくわからない。いたずらしあっていた子どもの時のほうが、なにも考えず素直に平太夫と笑い合っていた気がする。
「いーじゃんアイスぐらい」
「でもお前、最近よりいっそうふとましく見えるぜ」
「あっそ、ほっといて」
「かわいくねーの。三治郎みたいに女の子らしくしたら?」
「うっせーよ、バァカ!」
ミニスカートで思いっきり急所ねらって脚を蹴り上げたら、団蔵がうわっ!と声を上げて本気で仰け反ったので、それで少し溜飲が下がった。平太夫は最近、団蔵が三治郎のことを話題にするといらいらする。そして、そういう自分にもいらいらする。だから、凄くイライラするから、団蔵には三治郎の名前を呼ばないで貰いたいのだ。自分が、意味わかんない、つまんない嫉妬してるみたいな、嫌な女になるから。
団蔵はそんな気持ちを知って知らずか(この馬鹿がそんな繊細な女心を知っているはずないのだけれど)、「三治郎に比べて」と、またもやその名前を出す。
「お前のが太ってるのは確かじゃん。つーか、1のはの女子ん中で重そうなのは確実だろ」
スレンダーな三治郎、実は意外に一番スタイルがいい喜三太、胸ペタ尻ペタで薄い乱太郎に、幼児体型の伊助。確かに、一番むっちりしているのは平太夫だ。
「うるっさい!一番胸あるから仕方ないでしょ!」
髪をかき上げてセクシーさを強調するように胸を反らせると、団蔵は「ふーん」と興味ないふう。平太夫は自分のプライドががらがらと崩壊していく音を聞いた気がした。
(おっぱいが大きいのって、どんな男でも喜ぶんだと思ってた・・・のに・・・)
団蔵の反応の薄さはなんだろう。
「潰すぞこの野郎っ!!」
平太夫は、今度は容赦なく団蔵の急所を蹴り上げると、コンクリートの地面にもんどり打って苦しむ団蔵を尻目に、づかづかと校舎へ入っていた。
ダイエットだ。ダイエットしかない。おっぱいが目減りしたって、むっちりふとももだってぷりんな尻だって、意味ない。団蔵がなんの興味も持たないなら意味ない。路線変更だ。肉体改造だ。スレンダー体型になってやる!
平太夫はすぐさま伊勢丹へ行って、可愛いランニングシューズとジャージを買った。夏休みまであと一週間。三治郎を巻き込んで、減量大作戦の決行である。

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