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083:雨垂れ

土砂降りの夜だった。
雨でナイフが滑ってしまわぬように、手のひらとナイフを紐で結わえた。後ろから近づいて刺すだけで、それは終わった。あっけない最後だった。近づいて、声を掛ける。振り返ったところを、首を狙って切りかかれ。首は血がたくさん噴き出すから、雨の日の、夜にしろ。場所は海の近くがいい。血の匂いがまだしも紛れる。それが、どこぞの小悪党から教えてもらった、“ひとごろし”の方法だった。
「敵討ちだなんて、古風だなあ」と、その男には笑われた。
「どこかの時代劇みてえだ」
「家族を殺された」
「理由は?」
「理由?」
久々知は顔をあげて男を見上げた。男はまばらに髭の生えた冴えない風体をしていた。痩せぎすで、黒光りする硬そうな皮膚が、彼の歳が見た目よりずっと老けていることを教えていた。けちけちしくちびた煙草を咥えて、男はナイフを研いでいた。
「人が殺されるにゃあ、それなりの理由があるもんじゃないかねえ」
「知らない。警察があいつを追わないと言ったから、理由はわからない」
「警察が追わない理由は?」
「教えてもらえなかった」
久々知は、男の手から、研いだばかりのナイフを受け取った。それは初めて持つのに、妙に久々知の手になじんだ。男は、久々知の手のひらを上から包み込んで、それの握り方を教えた。
「仇を見つけたら理由を聞くかい」
「・・・聞かない」
久々知の手のひらがぎゅっと強くナイフを握った。ぞっとするほど冷たい目で、虚空を睨んでいた。おっかないねえ、と男は茶化して笑ったが、久々知は自分のことだとは思わなかったから聞き流した。
「どうせ殺すんだから、そんなものを聞いても仕方がない」
 
 
***
 
 
「ふつう、親が殺されたって悲しい悔しいって思うだけで、反対に殺し返してやろうとは思わないんじゃないかな」
「そうかな」
「もし思ったとしても、実行には移さないと思う」
そうか、と久々知は思った。もう名前も忘れた、昔の友達との会話だ。まだ久々知が忍術学園に通う前の学校で、束の間知り合った。そう、友達というよりは、あれは知り合いだ。久々知は竹谷に出会うまで、「友達」というものを必要としなかったし、そのため、つくらなかった。そもそも友達というものがどういう関係のものを指すのかも、よくわからなかった。
久々知は物静かで、口数の少ない子どもだった。預けられた先でも、施設でも、学校でも、必要以上に人と交わることをしなかった。それでも疎まれたり苛められたりしなかったのは、彼が成績も運動も非常によくできた少年だったからだ。彼は周囲の平凡な才能の子どもたちから、羨望と尊敬の眼差しで容認された。彼はそういう状況を是とも否ともしなかった。ただ、自分は関係ないような素振りで、誰の世界においても存在感のない端っこの登場人物でいようとした。
それを彼は努力によって為しえようとはしなかった。呼吸をするように、当然のこととしてそういう存在を目指した。その頃からすでに忍者としての才能を発揮していた。目立たぬように、誰の目にも留まらぬように、しかし並外れた知識と技術をもって、ひっそりと目的を遂行する。
そんな彼がどうして“知り合い”とこんな会話をするに至ったかというと、兵助はもう忘れているが、少年から、
「君のことをもっとよくわかりたい」
といわれたからだった。兵助は問答のように、返事の代わりにある例え話をした。
「もし君の親が殺されたら、君はなんて思う?仕返しをしたいと思う?」
それから、兵助は言葉を続けた。「俺は、仕返しをしたいと思う。そういう人間なんだ。変かなあ」
兵助が、どうも自分と周囲は思考の在り方に崩しようのない断絶があるらしいと自覚したのはそのときだ。そのときから兵助は、努めて自分の思考を隠すことを考えた。本当の自分というのを気取らせないように心を砕いた。どうも、自分は変わり者らしい。変わりものだと知られたら、目立ってしまう。目立っては、いつか実行する敵討ちに支障が出る。
 
 
***
 
 
土砂降りの夜だった。あの夜と同じだと思うだけで、身体が震えた。目の前に倒れているのは、でっかい狼だ。学園の周囲にしばしばあらわれていたやつで、誰かが餌付けしているに違いないって噂がたっていた。その死骸に取り縋って、同級生が泣いている。こっそり餌付けをしていたのは、そうか、こいつだったのか。名前をなんといったっけ、隣のクラスの、ええと、
「はち!」
別の生徒が、名前を呼んで雨の中走り寄ってきた。
兵助は、ああ、そうだった、と思い出す。竹谷八左ヱ門。動物好きの同級生。目がくりくりとでっかくて、よく笑う。明るくてみんなに優しいから、同級生に好かれている。世界がまるで違うなあと思って、兵助のほうでずっと避けてきた少年だった。理解ができないものは、馴れ合うのが難しい。必要なとき以外、関わり合わないのに限る。
「どうして殺したんだよ」
死骸を抱いたまま、静かに竹谷が問うた。黒ずんだ血が竹谷の服を濡らしても、彼はいっこうに気にしない様子で、まっすぐ久々知を見ている。久々知は、竹谷の静けさは烈しい怒りによるものかと思っていた。しかしその瞳には、怒りの炎はなかった。ただ真実を見極めようとするひたむきな誠実さだけがあった。久々知はこのとき、竹谷を恐ろしいと思った。彼は、相手に嘘をつかせない。
「邪魔だ、から」
久々知の言葉には、決定的に言葉が足りなかった。彼は、彼の今までの生き方のおかげで、哀しいまでに弁明が苦手だった。
「そんな理由ではちの狼を」
責めるように言ったのは、竹谷の名を呼んだもうひとりの同級生だった。久々知は顔をあげて、その少年を睨みつけた。
「“そんな理由”じゃない。野良を手懐けると、仲間を呼んでくる。通う動物が多くなると、怪しまれる。学園の所在が余所にばれる」
「馬鹿な!この狼を手懐けることは、学園長様の許可があってのことだ。何も知らないくせに、勝手なことをする。お前、この狼を躾けるまでにはちがどれだけの苦労をしたか、」
「いいんだ」
竹谷は、彼のために久々知を責める友の言葉を打ち切った。
「いいんだ。およその事情はわかった。お前のいうことももっともだ」
竹谷は狼の死骸を抱いて立ち上がる。久々知の切った腹から、内臓がこぼれていた。
「だけど、それは殺さなくてはいけないことだったのか。他に方法はなかったのか」
竹谷のまっすぐな瞳に見つめられて、久々知はしばらく逡巡したあと、力なく項垂れた。
「それは、その通りだと思う。殺すのがてっとり早いと思ったのは、俺の短慮の表れだ」
弱弱しい言葉に、驚いたのはむしろ久々知を責め立てていた少年のほうだった。この優等生ならば、屁理屈をこねて自分を正当化してくるものだろうと思いこんでいた。どうする、と困惑したように竹谷を振り返ると、彼は死骸を愛おしそうに抱き寄せたまま、久々知に向かって微笑んでいた。
「なあ、いのちは、ひとつだ。そして一度失えば決して帰ってこない。それは人間だって、動物だって、虫だって、みんないっしょだ。俺は、殺すのは、いちばん最後の手段だと思う。ほんとうにもうどうしようもなく他の方法がなくなってから、はじめて、覚悟を決めて、奪うべきものだと思うんだ」
久々知は天を仰いだ。大粒の雨の一滴一滴が、鉄砲のように降り注いで久々知を痛めつけた。久々知の凛とした瞳からは、いつしか涙があふれていた。ひどく辛い、と久々知は思った。けれど、心は不思議と潤っていた。なにものも恨む気持ちにはならなかった。ただ広い荒涼感と静かな充足があった。
「竹谷、ごめん。お前の、大切ないのちを奪ってしまって」
竹谷は力強く一度、頷いた。それから、久々知に向かって、「帰ろう」と言った。
「今夜はひどい雨だ。ここは、よく冷える」
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091:サイレン

現代版忍術学園です。


兵助の器用な手先が、りんごの皮さえも大根のかつらむきを思わせる薄さで剥いてゆく。するするとベッドテーブルの上の皿に下りてくるそれを、三郎がつまみ上げて、窓辺の光に透かした。「おお~世界が赤く見える」などといってはしゃいでいるのを、雷蔵が「やめなよ」と呆れ口調で窘めた。
「ハチ、」
と声を掛けると、竹谷八左ヱ門がベッドに横たわったまま、あんぐりと大きな口を開けた。そこへ、久々知兵助が剥いたばかりのりんごでひとくち大に切ったのを、落とした。しゃりしゃりと黙ってりんごを嚥下する竹谷に、「美味いか」と訊ねる。竹谷が「ふぉう」と頬をふくらましたまま返事をした。
「それはよかった。今朝とれたばかりのりんごだそうだ。食堂のおばちゃんが食べさせてやれってもたせてくれた」
「悪いな、面倒かけちまって」
「気にするな」
「そうそう、俺たち、お前の見舞いって口実で街に降りてこれて役得よん♪」
三郎らしい物言いに、竹谷は笑った。生真面目な久々知は当然癇に障ったらしく、言い返すことこそしないものの、三郎が「俺にもりんご」と腕を差し出すのに、わざと剥いていないままのりんごを手渡した。三郎は気にしないふうに、差し出されたりんごのまるごとに、しゃりりとかぶりつく。
「退院は三週間後だそうだから、それまではここでゆっくりしてろって。俺たちも週末ごとに見舞いに来るつもりだ。明日は学園長が見舞いに来られるそうだから」
「なんだか大事になっちまったなあ」
「じゅうぶん大事だろう」
久々知は剥いたりんごを皿に並べて、これは雷蔵に手渡した。雷蔵は礼を言って、近くのパイプ椅子を持ち出して、腰かけた。枕元に近いベッドサイドの特等席は、久々知に占領されたままだ。彼は無意識にも、竹谷のそばを他に譲る気を持たないらしい。雷蔵は苦笑して、素直にその位置を久々知に譲った。指摘するのもやぶへびだろう。
竹谷はベッドに横たわったまま、顔動かすのがせいぜいだ。全身打撲。肋骨のひびに、右手首、左大腿骨の骨折。病院で支給される簡易寝間着の下からは、全身に巻かれた痛々しいまでに真っ白な包帯がのぞいている。それでも、ショッピングモールの3階吹き抜けからふいに突き落とされて、これだけの怪我ですんでいることが幸運といえた。もちろん、実際は幸運でもなんでもなく、ひとえに竹谷が普段から訓練で身体と技術を鍛えていたことのたまものというだけの話なのだが。
「びっくりしたよ。日曜午後のショッピングモールだぜ?信じられないくらいの人混みの中で、えらい恥かいちまったぜ。目立っただろうなあ」
「おうよ、ばっちり。これ、今日の朝刊。見るか?」
三郎が手渡した新聞は五紙。全国版から地元紙まで多様だったが、どれもそれなりの大きさで、“男子高校生ショッピングモール落下事故”を取り上げていた。記事によると、地元高校に通う男子学生が吹き抜けの柵にふざけて腰かけていたところ、誤って転倒したということになっているらしい。三郎がテレビをつけると、ちょうど昼のニュースにも取り上げられていて、「店側の安全管理のずさんさ」と「マナーを守らない若者による事故」をコメンテイターたちが口々に嘆いていた。
「これじゃ俺があほみたいだな」
情けない顔で呟く竹谷に、雷蔵が苦笑いしてフォローを入れた。
「学園長先生が直々に手をまわしてくださったんだ。誰かに突き飛ばされて落下、ってほうがより大騒ぎになるだろう。理不尽だろうけどさ、ハチがこんな馬鹿なことするやつじゃないって、学園のみんなはちゃんとわかってるよ」
久々知は相変わらずの無表情でりんごを剥き続けている。三郎が竹谷の横たわるベッドサイドに腰を下ろした。三郎の体重を受け止めたスプリングがわずかに揺れて、その振動に竹谷が顔を歪める。久々知が顔もあげずに「三郎、降りろ」と言った。
「仕方ないだろ。お前がずっとそこを退かないから」
久々知は初めて顔をあげて、不思議そうに首を傾げる。三郎はうんざりした表情で、雷蔵に視線を送った。
「見たあ?無意識だよこいつ」
雷蔵は苦笑を返すだけにとどめた。どうせ、久々知はどれだけ言ったってよく理解できないだろう。三郎が、竹谷のために剥かれたりんごをひとくち摘む。咀嚼しながら、言葉を発した。
「ハチを突き飛ばしたやつの顔は見なかったのか」
「見なかった。周囲にいたやつの顔はある程度覚えているけどさ、本当にたくさんいたんだ。俺を突き飛ばせるぐらいだから、ある程度力のある男だろう。それでも、家族連れだろ、カップルに、男ばっかり四、五人でつるんで動いていたやつもいるし・・・。俺も目の前で赤ん坊が落っこちると思ってそっちにばかり意識を集中してたからさ、隙をつかれたよ」
「赤ん坊は罠だね。赤ん坊は落ちなかったっていうしさ。ハチの気を逸らせるためにやったことだろうね」
「不逞ことしやがる」
三郎は息巻いたが、竹谷は、「ああ、そう」と嬉しそうに頷いた。「よかった、じゃあ赤ん坊は無事だったんだな。びっくりしたぜ。俺ならともかく、赤ん坊が落ちたんだったら絶対助からないしさ」
竹谷は、吹き抜けから赤ん坊を落とそうとしている母親の姿を見たのだという。それが自分に対するおとりであったと聞いて、心の底から安堵した。その姿を、3人の同級生たちは、「竹谷らしい」と思って苦笑した。
「ハチ、りんご」
久々知が、3個目のりんごを皿に並べて竹谷に差し出す。「おう」と受け取った竹谷は、見舞いの果物籠から4個目を取り上げた久々知を見て、「俺、もう食えないかも」とストップを出した。久々知は例の無表情で、「剥かせてくれよ」と返す。
「剥いてでもいないと、平静を保てそうにないんだ」
「おう?」
雷蔵が立ち上がった。「りんごばっかりも飽きるんじゃないかな。兵助、下行ってなんか買ってこようよ。ハチ、なんかリクエストある?」
「あっ、じゃあ、ジャンプ買ってきて」
「その身体で読めるのかよ」
「俺をなめんな?見舞いに来てくれた奴らに朗読してもらうんだよ」
ぎゃははっ、と三郎と竹谷が笑い合う。三郎が振り返って、明るく「俺、コーラ」と声をあげた。それから、立ち上がった久々知に、軽い口調のまま「兵助、それ置いてけ。善良な市民のみなさんがびっくりするだろうが」と注意した。久々知が気付かなかった、とばかりに己の手元を見た。右手には、しっかり果物ナイフが握られている。雷蔵がにっこり微笑んだまま、久々知の手からそれを取り上げてベッドボードに置いた。
「じゃあ、行ってくる。兵助、行こう」
久々知の右手をぎゅっと握り、引っ張るように病室から連れ出していく。三郎が、久々知の座っていた場所に腰かけると、声をあげて笑った。茶化すように竹谷を見る。そういう、三郎特有の笑顔を浮かべると、彼は何者に変装していても、酷薄な狐のように見える。
「あいつ、表情こそ変わらないものの、ブチギレてる。学園でもあいつ押さえるの苦労してんだぜ、俺たち」
「ううん」
竹谷は喉の奥で唸るばかりだった。久々知は、大切なものをあまりつくらない代わりに、一度心を許すと何処までも深入りする。命に代えても大切にしようとする。その数少ない相手が竹谷だった。
「お前を狙った相手の捕縛を、学園長から仰せつかっている」
「久々知も?」
「いや、あいつは暴走するだろうからって、おあずけ。だけど勝手に動くだろ。あいつより先に見つけてとっつかまえないと、相手の命がないよ。だから、結構気張らないとって、焦ってんのよ、俺も。犯人の手がかりは?」
「・・・ある」
竹谷は低声で囁くように言った。三郎がそっと竹谷の口もとに耳を寄せる。
「はっちゃんを使ってマーキングしてある。孫兵なら扱えると思う。学園に帰ったらはっちゃんを渡してくれ」
「ん」
三郎は頷き、それから、「で、はっちゃんっつーのはなんなんだい?」と竹谷を見た。竹谷は自分の寝間着のあわせをそっと開いた。ブウゥンと嫌な羽音を出して一匹の蜂が、三郎の頭上を旋回した。
「蜂かよッ。刺したりしないだろうな」
「大丈夫。はっちゃんは卵寄生蜂だから、芋虫の体内に卵を産み付けるだけで、あとはいたって温厚な蜂だ」
「なんだかぞっとしねえんですけど、その説明」


病院の1階にある購買までは、わざと階段で行った。
「落ち着いて、兵助」
久々知よりも一歩先を行く雷蔵が、彼に背中を向けたまま静かに声を出した。
「うん」
久々知の返事は、端から聞く限りでは、ずいぶんと落ち着いているようである。けれど、彼の右手が小刻みに震えていることは、それを握っている雷蔵にしかわからなかった。
「自分を制御しきれない。理性では、理解しているつもりなんだ。感情の整理もできている、つもりだ。だけど、震えが止まらない。今犯人を見つけたら、たぶん、殺してしまうと思う」
「忍者と暗殺者は違うよ、兵助」
「わかってる。わかってる、つもり、だ・・・」
兵助の言葉はずいぶんと弱々しかった。大切なものなんか、つくるんじゃなかった。心のよりどころなんて、やっぱり持つものじゃなかった。そんな久々知の慟哭と間違った後悔が聞こえてきそうで、雷蔵は、振り返って久々知の頬を両手の平でバシンと打った。
「勝手をして、お前が怪我をしたら、はちが悲しむ。はちを悲しませるのは兵助の本意じゃないだろう」
兵助がしょんぼりとした様子で肩を落とし、大きく頷いた。これは兵助が乗り越えるべき心の弱さで、仇を討っても何をしても、解消されるものではない。兵助自身が飲み込んで成長しないといけない類のものだ。そこに介入できない自分を、雷蔵はもどかしく感じる。だけど、己を成長させるのはいつだって、最後には自分自身だ。そこには誰も踏み入れない。周囲はただ見守るだけだ。
「俺は弱いな。早く強くなりたいよ」
五年のなかでも抜きんでた成績を保持する優等生徒が、悲嘆に暮れたように長く息を吐いた。雷蔵は息を吐いて、「あせりなさんな、みんなそうだよ」と笑った。

034:手を繋ぐ(五年+タカ丸)

今度の合同演習のために街へ下見に出ることになった。「日曜なら一日遊べる、日曜にしよう」と三郎が提案すると、皆もとっくにそのつもりだったらしく当然のように「それしかあるまい」とにんまり笑顔で頷いたが、兵助だけが浮かぬ顔をして返事を渋った。
「日曜か、日曜はなァ・・・」
下見の必要がある。つくりの複雑な都会ならこれは絶対のことだ。だが、
「一日遊ぶのはなあ。俺は止しとく。下見が終わったら、悪いが俺だけ帰るよ」
と兵助が言うものだから、久しぶりでみんなと街の遊びができると楽しみにしていた八左ヱ門は、隠しもせず鼻白んだ視線を彼に向けた。
「なんだよ、何の用だ。付き合え」
と肩を抱いて唇を尖らせていう。兵助は「用ってほどのことでもないんだが」と口をもごもごと動かしたっきり、困った表情で、あとは八左ヱ門の大雑把な犬のような戯れを受けている。雷蔵が苦笑をして三郎を見遣った。三郎は空と呆けた表情で、
「街かあ、案内があればいいなあ」
と呟いた。それを雷蔵が引き継ぐ。
「案内なら、彼はどうだい、新しく入った四年の。ほら、確かもともと街で生まれ育ったというし」
くわしいはずだね、と兵助を振り返れば、彼は二重のぱっちりした瞳でぎょろんと五年の名物双子を見ていた。食いついた。雷蔵からしたら、それは予見されるべき当然の結果だったが、それにしても、あまりの食いつきのよさには笑ってしまう。何も知らない八左ヱ門だけが、「ったって、ツテはあるか」と少し困った表情を浮かべる。
「それなら、兵助が懇意だよ」
「懇意ってほどじゃ」
「変な謙遜するな。今度の日曜の件も、ヤツが理由なのだろ」
「誤解するなよ、三郎。俺はただ、頼まれて勉強を教える予定になっていて」
「なんだ、兵助、いつの間にそんな知り合いが」
「斎藤さんは火薬委員なんだ」
「ああ、委員会のよしみか」
「あ、ああ、ああ、そんなところだ」
「いやいや、もともとこいつはアルバイトで知り合っていて。斉藤さんが忍術学園に入ろうと決めたのも、兵助が」
「三郎、黙れ。打つぞ」
兵助の必死な言動に、雷蔵は苦笑し、三郎はからかう表情になっている。何も知らぬ八左ヱ門ばかりが、どういうことだと会話の流れに眼を白黒させている。
「とにかく。そういうことだから、兵助、斎藤さんにお願いしておいてもらえるかな」
「あ、ああ」
「ちゃんと一日中付き合ってもらえるようにお願いするんだぞ」
三郎の言に、八左ヱ門が横からはいる。
「いや、それは駄目だろう、三郎。だって斉藤さんとやらは日曜の午後は兵助に勉強を見てもらわなけりゃならんのだろ」
それに返したのは兵助だった。
「いや、そういうことなら斎藤さんもうんと言ってくれるだろう」
「あ、そうなのか?あれ、でも、いいのか?」
兵助の態度の変わりようにきょとんとする八左ヱ門を尻目に、「分かりやすいやつ」と三郎が呆れた顔で兵助を指差し、雷蔵の苦笑を買った。
 
 
 
兵助曰く、タカ丸は二つ返事で承諾してくれたらしい。待ち合わせは校門の前にした。久々知と八左ヱ門と三郎と雷蔵。四人が連れ立って校門へ参じると、とうにタカ丸は来ていて、彼のぶんの外出許可証を受け取った小松田秀作と談笑していた。
髪の色が明るい金に染められている。八左ヱ門は、ははあ、と目を丸くして唸った。それから感心したように
「四年だなあ」
と呟いた。この学園では、「四年である」ということは、容姿の美しさを称える言葉と同義である。今年の四年生は、容姿端麗の者が多い。
ぞろぞろと四人が近づくと、タカ丸は顔を上げて明るい笑顔を四人に向けた。
「忙しいところを付き合ってもらって」
「いいえ、僕も街で買い物をしたかったところですから」
「学園は山奥だから不便でしょう」
「まあ、時々は」
久々知は談笑に混じらない。気のない素振りをして校門の古びて黒光りした木目なぞを指で撫でている。この男が、自分でも自覚のないうちに年上の下級生に魅かれ始めていることを、雷蔵と三郎は気づいていた。兵助とタカ丸のやりとりの間に誰かが入ると、あからさまに面白くなくなった顔をして、ふいと余所を向いてしまう。子どものような所作だ。兵助はだんだん幼くなっていく。入学したての、あの誰より大人びていて誰にも懐かなかった兵助は、雷蔵たち友を持つことでよく笑い茶目っ気を出すようになり、タカ丸と出会って嫉妬を覚えた。
それをいいことだと雷蔵は見ている。「あいつこのままじゃ、どんな子どもっぽい忍者になるか」などと三郎はからかう。
その子どもを、タカ丸が明るい声で呼んだ。
「へいす・・・久々知くん、誘ってくれてありがとう」
「いや、俺の提案じゃないから・・・」
照れたように視線をそらす。誘ってくれてありがとう、は、本来は兵助こそが同級生たちに言わねばなるまい。
 
 
街をそぞろ歩きし大方の地形を掴むと、話は相手方の攻め方に及び、一気に話の様相がきな臭いものに変わった。こうなると話の主導権を握るのは三郎と兵助で、三郎は話のネタの豊富な男であるからどんな場面においてもそれなりの主導権はとるも。しかし兵助は、街に向かうまでの流行の音楽や芸能ネタにはすっかり閉口していたことを考えれば、これほど生き生きとよく喋るのはタカ丸には新鮮だった。
「久々知くんは、こういうのが好きなんだね」
「こういうの?」
タカ丸の呟きに、雷蔵が首を傾げる。
「演習、というか、・・・実戦が。俺なんかは、慣れていないのもあって、実技がくるたびになんだかドキドキしてしまう。教科のほうが気楽でいいなあなんて思うよ」
「好きというか・・・どうだろう、兵助は能力のあるぶんこういうことに集中しやすい性質なんだろうね。自分から戦いをふっかけるわけでもなし、こういうことが好きなのはどっちかっていうと三郎」
自分の名前が雷蔵の口から出たのを聡く聞きつけ、「ん、何だって?」と三郎が振り返る。なんでもないよ、とは雷蔵は言わなかった。そんな言葉で納得をする友人ではない。
「三郎はこういうのに熱中する性質だって話してたのさ」
「それをいうなら兵助だって」
三郎が、コンビニで買った街の地図を畳み込む。歩きながら地図を見遣っている姿は、はたから見れば高校生の旅行者だ。だが実際には、地図を見ながらトラップを張る場所、その方法を話しこんでいるのだから、やれ忍者というのは怖いものだとタカ丸は内心で身を震わせる。
「俺らがどうこうじゃなくて、雷蔵がもっと集中しろ!」
兵助がいかにも真面目に言い返すものだから、雷蔵は「はいはい」と慌ててふたりの間に駆け寄って行った。
話す相手を取られてしまったタカ丸が仕方無しにのんびり後ろをついて歩くと、より先のほうを歩いていた八左ヱ門がタカ丸に駆け寄ってきた。
「斎藤さん」
「タカ丸でいいよー」
「タカ丸、かき氷食いたくねェ?」
「え、食べたい」
「なんかこの先に行列できてるカキ氷屋あるんだけど!寄ってかねェ?」
「寄っていきたい!」
「んじゃ、けってーい!」
八左ヱ門がタカ丸の片手を掴んで、ぶんぶんと振り下ろす。子どものような浮かれた所作に、タカ丸も弾んだ笑顔で付き合う。結局、ふたりはよく似ているのだった。八左ヱ門がタカ丸の手を握ったまま、「うおーい、お前らー!かき氷食いませんかー!?」と声をあげると、三者三様に振り向いた。
呆れたような瞳で振り返った兵助が、八左ヱ門の手ががっしりとタカ丸のそれを握っているのをみて、ムッとしたように眉を潜めた。
「行かない。腹減ってない」
「でもタカ丸も行きたいって言ってる。なっ!」
「うん。久々知くんは、かき氷嫌い?」
「好きですけど、」
「食べる気分じゃない?」
「そんなこと無いですけど」
「じゃ、行こう」
笑顔で空いたもう片方の手のひらを差し出され、兵助は頬を赤らめた。睨むようにしてじっとその手のひらを見つめたまま、だが、それを握り返そうとはしない。そこまでの勇気と思い切りは、まだないのだろう。
「いいですけど」
「八左ヱ門、やったね!」
「やったね!」
イエーイ!とハイタッチを交わすふたりに兵助の眉間の皺はますます深くなってゆく。それを見遣って、とうとう三郎は耐え切れず爆笑した。

093:Stand by me(優タカ18禁)

せめて、シャワーを。タカ丸は優作の腕の中で哀願した。だが、いったん決めたことを、優作が途中で止めることはない。もともと意志の強い男である。これまでタカ丸の想いを知りながら頑なに手を出さないできたのも、その意志の強さゆえであった。だが今宵、タカ丸を抱くと決めた。決めたからには手放す気はない。タカ丸の怖気を汲んで腕の中から逃してやれば、機会を失ってしまうだろうことを優作は理解していた。タカ丸は気がついていないが、優作は、タカ丸が久々知兵助に惹かれはじめていることに気がついていた。この先ずっといっしょにいてやれるわけではない。このまま何ごともなくタカ丸を忍術学園へ行かせてしまえば、それで二人の関係は終わってしまうのだと優作は気がついている。優作はタカ丸より年をとっているぶん、タカ丸のように離れていても愛し合ってさえいればお互いの想いが続くのだとは信じていなかった。愛の脆さを知っていた。
ベッドにタカ丸を降ろすと、暫く上からタカ丸の姿を鑑賞する。タカ丸はその視線に恥じらい、身を丸めてしまう。そんなタカ丸の肩に優作は力強く腕を伸ばし、自分のほうにしっかりと向かせた。
「タカ丸くん」
名を呼び、唇を近づける。
「・・・優作さん、」
間近で見る、いつも以上に真剣な優作の瞳にタカ丸は酔う。
「優作さん」
小さく、しかし何度も名前を呼んでくる恋人を、優作は制するようにその口で唇を塞いだ。舌の侵入は密やかだった。タカ丸の唇が溶かされ、徐々に開いてゆく。優作の舌は、その狭間からそっと侵入してくる。そうしてタカ丸の舌を優しく絡めとった。
(逃がさない)
そんな優作の意思が伝わるようだった。
「んっ・・・」
厭くこともなく絡まる舌。タカ丸の咽喉に、その唇から漏れた唾液の滴が伝った。その後を追うようにして優作の舌は、タカ丸の顎や首筋を味わい始める。
やがて彼の舌がタカ丸の臍の辺りに辿り着いたとき、優作はタカ丸の制服のベルトを器用に緩めた。まだ着慣れない忍術学園の制服は、糊がよくきいて皺ひとつなかった。成長のことを考えて、少し大きめのものを買ったのだろう。きつく締められたベルトを緩めると、ウエストのあまりが目立った。それは細いタカ丸の腰をますます細く頼りない風情に見せている。優作は、大きな指をウエストのあまりから直接素肌へと侵入させた。
びくん。
優作の指を肌の上に感じ、タカ丸は一瞬身体を強張らせる。
「優作さん」
タカ丸の両手を伸ばさせて、白いシャツを剥ぎとる。白く、うっすらとあばらの透ける胸や腹。胸のふたつの蕾に、優作はそっと口付ける。優しく下で転がし、吸ってやる。
「ああ・・・、」
タカ丸はその刺激に過敏な反応を見せた。
胸に起る快感により、タカ丸の身体は緊張から解かれていく。目をつむって、与えられる刺激を懸命に受けているタカ丸の姿に優作は果てしない愛情を感じた。この先、一生一緒にいられないことはわかっていた。自分は長男として店を継がなくてはならない。当然、結婚して跡継ぎを用意することも望まれている。
幼い頃からタカ丸のことが好きだった。彼が慕ってくれるたびに、ずっとこの手で守ってやれたらと思い続けてきた。それができないのなら、いっそ、想いを遂げることをやめようと決めていた。いつか別れが来ることが分かっていて、愛し合うことは残酷だと思った。しかし、実際にタカ丸と離れることになって、彼が自分の知らぬ誰かに柔らかく微笑みかけているのを見て、耐えられないような心地がしたのだった。この情事が良いことなのかいつか後悔することになるのか、優作にはもう考えられなかった。
ズボンの前立てから優作の手が侵入する。下着の上からタカ丸の中心を探る。
「・・・あ・・・ああ」
下から上へと何度も擦る。そのふくらみを確かめるように、何度も、何度も。
「・・・や・・・ゆう、さくさん・・・」
優作はタカ丸のズボンを脱がせ、下半身を楽にさせてやる。そして、もう一度下着の上から今度はそのふくらみを確かめるために口を使って愛撫する。
「あ・・・ああ」
タカ丸の腰が揺らめき始める。下着に、優作の唾液以外のものが滲み始める。それを確認すると、優作は前を肌蹴、ベッドにあがる。ベッドヘッドに背を預けて座ると、自分の上にタカ丸を重ねて座らせた。
背後の優作の顔を、タカ丸は不安そうに振り返って見る。
「こうすると、暖かいだろう」
優作の低い声に、タカ丸は安心する。背後から廻された手が、もう一度タカ丸の中心にまわり、下着の上から根気よく愛撫を再開する。初めてで緊張の強いタカ丸は、思うまま快感に身体を委ねられないでいる。
タカ丸の尻のあたりに優作の男性があたっている。下着の上からとはいえ、だんだんと熱を持ってくる優作のそれを感じないわけにはいかない。
「ゆ・・・優作さん」
優作の右手はタカ丸の袋を転がし、そのふくらみにそって上へと指を運ぶ。
「優作さ・・・」
タカ丸は涙を溜めた瞳で背後の恋人を振り返った。
「気持ち良いかい」
問いかけに、タカ丸は頷く。
「ああっ・・・!」
そのとたん、下着の間からいきなり優作が侵入し、タカ丸の熱を包み込んだ。
「濡れている」
タカ丸の顔が羞恥で赤くなる。
「触るだけでこんなになってる」
「や・・・」
下着の中に侵入した手は、既に滲み始めているタカ丸の液をタカ丸自身に擦り付けて、自由自在に扱く。
「やぁ・・・ああ」
腰を揺らし始めたタカ丸の髪に口付けをひとつ落とすと、脚を折らせて彼の下着を取り払う。何ひとつ見につけていないタカ丸は、尻に感じる優作の中心の熱と硬さに身体を浮かせた。だか力強い腕がタカ丸を逃がさない。
「僕のこれを、君の中に入れたい」
耳元で囁かれて、タカ丸はますます赤くなる。粘着質の音とタカ丸の喘ぎが広い部屋に響き渡る。タカ丸の中心を扱き続ける優作の指はもう、タカ丸の液でぐちゃぐちゃに濡れている。タカ丸は、既に理性はない。優作は両手でタカ丸の熱を思う存分可愛がる。タカ丸は尻の間に優作の高ぶりを感じて悶え続け、無意識に、それに尻を擦り付けた。
「あ!ああ・・・んっ。ああ・・・あ」
「僕のを感じているの、タカ丸くん」
「んん・・・ん!」
タカ丸は頭を優作の肩に預けて仰け反った。脚は、既に理性が失われていることを証明するかのように開かれている。滑った指がタカ丸の秘所を狙っていた。
「ほら」
タカ丸の目の前に汁が滴る指を見せる。
「これはぜんぶ君から滲んだ液だよ。全身で僕のことを欲しい欲しいっていってる。・・・可愛いね」
「優、作さ・・・」
タカ丸は優作の指の行方を目で追った。だが、タカ丸の最も奥を狙うそれに気づくのが遅かった。
「ああッ・・・!」
優作の中指と人差し指は、タカ丸の滲み出した液に助けられ、その奥に侵入し始めている。ぶるり、と快感がタカ丸の背中を走る。
「そんなに締め付けたら動かせない」
「やあ・・・!優作さん」
優作は逃げかけるタカ丸の身体をもう片方の腕で抱きしめる。
「大丈夫だよ、タカ丸くん。大丈夫。僕がいる」
タカ丸の瞳から涙が零れ落ちた。優作が好きだ。それは確かなのに、今だけは、優作が知らない誰かのように感じられてタカ丸には心細かった。
タカ丸をベッドに横たわらせる。
自分を見下ろす優作を、タカ丸はじっと見つめる。ああして後から抱き締められて身体をほぐされると、優作に対する緊張も和らぐようだった。優作はそれを分かっていたのだろうか。
「タカ丸くん、・・・好きだよ」
タカ丸の頬に手をあてながら彼の瞳を真っ直ぐに見つめると、優作はその胸の奥から最も大事な言葉を取り出す。まだ幼かったころ、タカ丸の小さな指先が懸命に自分の背中にしがみ付いていた。そんな昔からずっと温めてきた感情だった。
タカ丸の瞳に涙が浮かび、そして頬を濡らしてゆく。
「優作さん・・・お、俺も。俺も!」
タカ丸は優作を迎え入れるために瞳を瞑った。その承諾に優作が応えないことがあるだろうか。タカ丸の唇に口付けを与えてから、タカ丸の脚をゆっくりと開かせる。
「ん・・・ああっ・・・!」
さすがに、大きいものが身体をわって入ってくる衝撃は、タカ丸にとってかなりの苦痛を感じさせる行為となった。だが、先ほどから我慢させられている身体は驚くほど柔軟に優作のものに慣れていく。
優作が腰を使って、強く深くタカ丸の中を蹂躙していく。
先ほどから尻に感じていた優作の男性が自分の中に入っているのだ。そう思うとタカ丸は、それをしっかり味わいたくて、より身体に密着させるために優作の背に脚を廻した。
「あっ・・・ああ・・・あああああ!」
タカ丸も腰を使って懸命に優作を味わう。ずっと求め続けた。叶わない、幸せな結末の待っていない恋だとわかっていても、お互いに会っている時間が何よりの幸福だった。言葉も要らず、ただ同じものを見てそばに居られたらそれだけでよかった。
激しく腰を揺さぶられながらタカ丸の理性は緩み、奥底に眠っていた想いが溢れ出て来た。タカ丸の汗ばんだ顔に、明るい色の髪が貼り付く。
「優ちゃん!ゆうちゃ・・・」
たどたどしい舌使いで、いつしかタカ丸は、昔の呼び方で優作を呼んでいた。
「タカ丸・・・!」
獣のように、身体を燃やすことでふたりは己の深さを証明していく。もはや言葉は何の意味もなさなかった。ふたりは壊れた玩具のようにお互いの名前ばかりを口にした。
優作はタカ丸を攻め立てる。彼が初めてであるということを、優作はいつしか忘れていた。広いベッドに無言でタカ丸を追い立てた。様々な体位になってもそれは、意図したことではなく、あまりに激しい追い立てにタカ丸が逃げるように身体を捻ったからだった。長く、長く、その攻めは続いた。
「もう・・・もう!優ちゃん、もう許して」
タカ丸は懇願した。
「どこにも行くな」
激しすぎる抱擁から逃れようとしても、自分の秘所に優作の男性が入り込み、逃げられない。あまりの攻め立てにタカ丸は乱れ切る。そこには、未来でいとおしむぶんまですべて今日で清算しようとでもしているかのような、焦りがあった。
声などとうに抑えきれない。タカ丸の喘ぎは、そのまま彼の愛の言葉だ。
後から激しく攻め立てられ、タカ丸の口からは止め処もなく悩ましい声が漏れ続ける。タカ丸から放たれたものが、ホテルのシーツのあちらこちらにこびり付いている。タカ丸の尻からは、優作の液が滴り落ちていた。優作の激しい攻めにより、それを留めておくことができなかったのだ。
優作が、タカ丸の最奥を深く抉った。
「あ!ああああ・・・!」
タカ丸は絶叫に似た激しい嬌声とともに欲望を吐き出した。同時に、最奥に今夜何度目かの優作の飛沫を感じる。数度目の絶頂であったため、タカ丸は気をやったのだった。

017:√(五年生の一年時)(自分設定横行)

お父さん、お母さんへ
 
 
忍術学園に来てから、三か月がたちました。ぼくは、五月にちょっとおなかをこわしてしまったけれど、それ以外は元気です。
どうしておなかが痛くなったのかというと、保健室の新野先生がおっしゃるには、ストレスだそうです。ぼくは、友達はすぐにたくさんできたけれど、りょうで同じ部屋になった鉢屋三郎くんが苦手で、どうやって仲良くなったらいいかわからなかったので、それでおなかが痛くなったのです。
鉢屋くんはどういう人かというと、いじわるな子です。人の嫌がることをいっぱい言います。ぼくも、毎日、「宿題やるのおそいね」とか「ねぞうわるすぎだよね」とか「そんなにゆうじゅうふだんだと忍者になるのは無理だよ」とかいやなことをいっぱい言われます。先生に言ったら、「三郎くんはああいう子だと思って無視をしなさい。世の中にはああいう子もいるんだよ。色んな子がいるんだよ」とおっしゃられたので、先生の言われたとおりにしようと思って、がんばって無視をします。本当は、「いやなこと言われたな」と思っても、気にしないふりをします。そうすると、鉢屋くんはますます、ぼくのまわりにべったりくっついて「人のこと無視したらダメなんだよー。不破くんは人のこと無視するわるい子なんだー。へーえ」といやみをいっぱい言ってきます。ぼくは、不破くんはどうして人のいやがることばっかり言うのかな、と思います。不破くんは勉強もできるし、実技の成績だってとってもよいけれど、人のいやがることをいっぱい言ったりやったりするので、みんなからきらわれています。ぼくもあんまり好きじゃありません。
お父さんとお母さんは、人のこときらいと言ったらいけませんと、ぼくをしかるかもしれないけれど、でも、本当にいやな子なんです。
こんなことがありました。
一年い組に、久々知兵助くんという子がいます。あんまりみんなとしゃべらないで、休み時間もひとりで勉強したり、本を読んでいたりします。ちょっと変わった子です。でも、話しかけるとちゃんとおしゃべりしてくれるので、たぶん、ひとりで静かでいるのが好きな子なんだろうと思います。
ゴールデンウィークになっても久々知くんは家に帰らないでずっとりょうにいました。家が遠い子や特別の事情のある子は一週間ぐらいの休みだと家に帰らないので、そのことは別に変ではありません。だけど、この間、夏休みのお話を先生がしてくださったときに、「夏休みはりょうが閉まってしまうので、みなさんはその間家に帰らなくてはなりません。」とおっしゃって、それから、「久々知くんはあとで先生のところへいらっしゃい、いっしょにお話をしましょう」と言われました。久々知くんはふつうの顔で、「はい」と返事をしていたけれど、ぼくらは、久々知くんはどういう事情があるのかしらとちょっと気になると思いました。
掃除の時間になってぼくが外で掃き掃除をしていると、クラスの友達が何人か来て、「職員室をこっそりのぞいてきた。久々知くんって、家族がいないみたいだよ。帰るところがないから、先生のうちに泊まるんだって」と教えてくれました。ぼくは、なんだかいやな気持ちになったので、「そういうことあんまり言いふらさないほうがいいと思うよ」といったけれど、みんなは「別に悪口じゃないよ」と言って、また別の子に話をしに行ってしまいました。
となりで話を聞いていた鉢屋くんが口笛を吹いて、「てんがい孤独の身の上ってやつだな」と言いました。鉢屋くんは難しい言い回しをいっぱい知っています。
放課後になってい組の友達とサッカーをしようと思ってい組のクラスにいくと、鉢屋くんがいました。鉢屋くんはにこにこしながら本を読んでいる久々知くんの前に立って、久々知くんを見下ろしていました。鉢屋くんはこうやって言いました。
「久々知くんの家族を殺したのはぼくの一族の人だよ」
ぼくは、同じ年の子から“殺す”という言葉が出たので、ひやりとしました。実習で大きな失敗をしてけがをしそうになったときみたいに、どきどきして体がふるえて心臓がきゅってちぢむ感じがしました。そうしたら久々知くんは表情を変えないで、「ちがうよ」と言いました。
「ぼくの家族のかたきはちがう人だよ。それにもういないよ」
「なんで」って他の友達が聞いたら、久々知くんは「死んだから」と言いました。それから、誰もいないところをちょっとにらみました。ぼくは、そのとき、久々知くんのことをちょっとこわいと思いました。それから、久々知くんはまたひとりで本を読み始めました。ぼくは急にサッカーがしたくなくなったので、久々知くんを、「図書室に行こう」とさそいました。そうしたら、鉢屋くんも「ぼくも行く」と行ってついてきました。僕はいやだなあと思ったけれど、久々知くんが「いいよ」と言ったので、なにもいいませんでした。久々知くんはいい人だと思いました。
図書室までのろう下で、鉢屋くんが、久々知くんに、「どうしてかたきの人は死んだの。どうしてそれがわかったの」と聞きました。ぼくは「やめなよ」と止めたけれど、久々知くんはあっさり答えていました。それはびっくりの答えでした。
久々知くんは、なんでもない顔で、「ぼくが殺したから」と言いました。
ぼくはどきどきして言葉が出ませんでした。でも、ぼくのとなりで鉢屋くんは、「そっかー」とふつうに返事をしていたので、ぼくはすごいと思いました。
それから鉢屋くんは、「ぼくの一族はわるいこといっぱいやってるんだよ」と言いました。久々知くんにいやなことを言わせたので、そのお返しでそんなことを言ったのかなと思いました。鉢屋くんは、こうやって言いました。「いっぱい人を殺してるし、いっぱい人をだましてるんだよ。だから、ぼくもいやなやつなんだ」
久々知くんは「ふうん」と返事をしたっきりでした。ぼくはやっぱり何もいえませんでした。
部屋にもどってから、鉢屋くんがベットにねころがってまんがを読み始めたので、ぼくは宿題をしながら言おう言おうと思っていたことを小さな声で言いました。
「鉢屋くんの、おうちは、関係ないと思うけどな」
鉢屋くんは何も言いませんでした。部屋がしーんとしたので、ぼくはドキッとしました。鉢屋くんをふり返ったら、鉢屋くんはだまってじっとこっちをみていました。ぼくは顔が真っ赤になるのが分かりました。ぼくは、こんなにまじめに、人から見つめられたのは初めてだと思います。だからうそをついたりごまかしたりしては失礼だと思ったので、どきどきしながらぼくの思っていることをおしまいまで言いました。
「鉢屋くんの、おうちがいやなことばっかりしてても、それは鉢屋くんがいやなやつってこととはちがうと思うけどな」
「でもぼくいやなやつだろ」
「それは、鉢屋くんが、いやなこといっぱいするからだよ」
「ぼくがいやなことをしてもしなくても、ぼくはいやなやつだよ。だからぼくはいやなことをするんだよ」
「・・・よくわかんない」
「きみはぼくじゃないから」
ぼくは鉢屋くんの言葉がちっとも理解できませんでした。だけど、理解したいと思いました。だから正直それを伝えると、鉢屋くんは変な顔をして「変なの。不破くんって変な人だね」と言いました。鉢屋くんはやっぱりいやな人です。
もうすぐ夏休みですね。家に帰ったら、またお母さんのおいしいご飯がいっぱい食べたいです。お父さんともキャッチボールがしたいです。
それまでお元気で。
 
 
不破雷蔵

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