孫兵書こうとするとどこかヤンデレっぽくなるよな!
孫竹で竹谷女体化で食満竹でもある。そして自分勝手な設定が山ほどあるので注意です。
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いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた。
ねえ、だからあのときに言ったでしょう、先輩。僕の勘はよく当たるんだ。そう言ってみたかったけれど、そんなことを言えば先輩は必ず悲しむから、僕はその言葉を飲み込んだ。最後に見たときよりも、先輩はずいぶん痩せたようだった。無理もない、今は特に、先輩も村を率いて大変なときだから、気苦労が多いのだろう。いたわしい。先輩は白無垢に似合わない、疲れたようなぼんやりした表情で、襖絵を見ていた。それは色とりどりの虫たちがいっぱいに戯れていて、少し離れたところから見ると、大輪の牡丹が咲き競っているようにも見える、僕の村の宝だった。
「先輩、長旅ご苦労様でした」
僕が庭から声をかけると、先輩はようやく僕の存在に気づいたらしく、のろのろと視線をこちらに寄越した。くすんだ顔色に、唇に刷かれた紅だけが、別の生き物みたいに真っ赤にぬらぬら光っていた。婚礼の着物を着てきたと聞いたときは驚いたが、それは実際に見てみると、僕が想像するよりずっと簡素だった。けれど、生地は上等のものを使っているのだろう、白い絹の着物に、下は唇と同じ濃紅を重ねている。学園にいるときはいつも高く結っていたぼさぼさの髪も、今日ばかりは椿油で丁寧に梳られ、背中に長く流されていた。
「孫兵」
ふ、と先輩は小さく息を吐くと、ふわりと笑った。
「久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。お変わりがないようで・・・と言いたいところですけれど、今日は随分と様変わりしておられる」
僕の揶揄に、先輩は困ったように眉を下げて笑った。それから、畳に手をついて、丁寧に僕に頭を下げた。
「不束者ですがお願いします。・・・まずはこうだよな」
先輩の村が焼き払われたのは、一年前のことだ。先輩は学園を卒業したあと、村には戻らずにフリーの忍者として活躍していたらしい。先輩の村は技能者集団の集まりで(そういう村は結構多く、大概が村ごとどこかの殿様に雇われたりする)動物を操るのに長けていた。山奥で野生の生き物たちと共存しひっそりと暮らしている人たちだったが、ある領主の要請を突っぱねたために、村を焼かれた。苛烈な性質で有名な男だった。山ごと焼かれたので、動物たちも大勢死んだ。焼き出されて山を下りてきた人たちは、麓で待ち受けていた武士たちに、女子ども関係なしに切り捨てられた。生き残った数人たちは、先輩を惣領に担ぎ上げて、村を焼き払った領主と徹底抗戦することに決めた。先輩は村の惣領のひとり娘だったのだ。
徹底抗戦のための同盟相手として、先輩の村は、僕の村を選んだ。僕の村は虫を扱うのを得意としていて、先輩の村とは昔から交流があった。僕も、まだ学園に入る前、ほんの子どもの頃に何度か先輩にあったことがある。とはいっても、その時は遠くから先輩を眺めるだけだったけれど。
僕の村は、先輩の村を焼き払った領主とは、つかずはなれずの関係にあった。僕の父は―つまり、僕の村の惣領ということになるが―その男と深く関わりすぎないように、死ぬ間際まで細心の注意を払っていた。父が死んで僕が跡継ぎになるとすぐ、先輩の村から同盟の依頼状が来た。村は賛成と反対で割れた。結論を待つのに焦れた先輩の村が、先輩を同盟を事実上成立させるために、一方的に僕のもとへ先輩を送ってきた。
これを娶れ。要らぬならば切って捨てよ。
それが、先輩とともに送られてきた書状の内容だ。半強制の政略結婚だ。このやり方には、先輩の村への反発が強くなった。けれど、その一方で、同情心も色濃くなった。実際に先輩が来てみると、先輩は明るく気だてがよく人の心を掴むのが上手いために、誰も邪険に扱えなくなってしまったのだ。
僕の育ての親であり、よき助言者でもあるばば様は、「お主の好きになされよ」と一言だけ言った。「それがどういう決定でも、我らはそれに従おう。」
さて、先輩は村であつらわれたという花嫁姿で、僕の前に座っている。
僕はすっと、こういう日が来るんじゃないかと思っていた。それは、まだ僕らが忍術学園にいた頃―先輩が先輩で、僕がただの後輩であった時からずっとだ。いつか先輩はきっと不幸になる。僕は確信にも近い予感をずっと抱いていた。先輩が、あの男の隣で幸せそうに笑っていたときからずっと。
僕は先輩の元気がない本当の理由を知っていた。先輩は過酷な毎日に神経を磨り減らしてこんなに元気がないのではない。先輩はあの男と敵対関係になってしまったことをひどく気に病んでいるのだ。
先輩の村を焼いた領主の抱える忍者隊。そこには、先輩が学園時代に恋人と慕った食満留三郎がいた。
五年×竹谷という可能性を模索してみた。
久々知×竹谷(おそらく竹谷受の王道だと思われる)
久々知はときどき、突然むすっと機嫌が悪くなる。どうも、緊張がある程度に達すると機嫌が悪くなるようで、だいたい彼の眉間に皺がよるのは、大きな実習の前と決まっていた。彼は機嫌が悪くなると、色んなものの扱いが強引で乱暴になる。そうして、実習前はこれが最期かも知れないから、と言って、必ず竹谷を抱いた。つまり、実習前の久々知との交わりは、大抵が乱暴でされるがままである。竹谷は、のんびりした性格だから、あまり考え込むこともなく、久々知の乱暴に付き合ってやる。やれやれまたか、しょうがないな、くらいのノリである。
その日も、床板に腹ばいになって忍たまの友を読んでいたら、上から圧し掛かられて、装束の合わせに手を入れられた。竹谷が仰向けになろうとすると、耳元で「このままやる」とぼそりと囁き声。竹谷はこんな獣の体勢は恥じらいが高いし、負担も大きいし、嫌だ。嫌だ、と言ってみたが、無言で耳を甘噛みされて胸の突起をいじられてしまいだった。ようは、無言のもとに却下されたのだ。愛撫が本格的に身体の快楽を呼び覚ましてくると、竹谷は零れる声を抑えるために、装束の襟を噛んだ。ふぐ、うー、とくぐもった声がして、襟は唾液でびしょびしょになった。
行為が終わると、竹谷は床板に転がった。無理をされて身体が痛い。男だったら頑丈だし、女より好きにしてもいいと思ってるのか。久々知最低。襟の噛み過ぎで顎が痛い。久々知が背中や首筋に接吻を降らせながら、「はち、よかった。はち、」と囁いた。竹谷は疲れていたので返事はいいやと思って、放っておいた。すると、しおれた声で、「すいませんでした」と聞こえてきたので、笑ってしまった。一応、自覚はあったのか。
それで竹谷は、笑いながら、「兵助、もっかいやれ。今度は優しく!」と自分から久々知を抱きしめて強請った。
不破×竹谷(ほがらかなかんじがする)
ぽかぽか陽気の小春日は、縁側に出て昼寝に限る。猫を撫でているうち眠たくなって、竹谷はそのまま猫のふかふかした体毛に鼻先を押し付けて、ぐっすり眠り込んでしまった。
あったけー気持ちいー。極楽ってこういうこというんかなーなどと考えていると、遠く、名前を呼ばれた。
(はちざえもーん)
それは柔らかく、寄せては返す春の海に似ている。竹谷は山育ちだったが、学園の実習でなんどか海に行ったことがあった。砂浜に裸足で立つと、波がひたひたと竹谷の足を掴まえに来て、足の裏がざわざわとして、それがくすぐったくて気持ちがよかった。
(はちざえもん)
と、また遠くで名前を呼ばれる。竹谷はいつのまにか小さな子どもの頃に戻っていて、きょろきょろとあたりを見渡した。すると、遠くのほうで、雷蔵が大きく手を振っているのだった。
「はちー!こっちだよーう!」
「あ、らいぞう!」
竹谷は微笑んで、おおい、と両手を大きく振り替えした。雷蔵は微笑んだまま、こちらに走ってくる。両腕にはたくさんの菜の花を抱えていた。雷蔵は歯を見せて満面の笑顔を浮かべると、「これぜんぶ、はちにあげるね!」といった。竹谷はとても嬉しくて、黄色が眩しいくらいの菜の花を受け取ると、自分も雷蔵に何か返そうと慌ててあたりを見渡した。なにも見つからず困り果てていると、雷蔵は、微笑んで、「ぼくははちがいればなんにもいらないよ」といった。
なんという夢を見たんだろう!竹谷は目が覚めて、夕暮れの少し冷たい風に頬を撫でられて、初めて自分の顔が真っ赤に火照っていることを知った。あたりは太陽を蕩かして、真っ赤に染まっていた。柔らかい黄金の光が竹谷の素足を染めていた。ああ、びっくりした。竹谷が身体を起こすと、耳元で、「もうちょっと寝てようよ」と優しい声がした。夢の中よりは低く掠れて、落ち着いた深みのある優しさが備わっている。それは誰でもない雷蔵の声だ。竹谷は、あっ、と声を上げて、隣を振り返った。雷蔵が肘で枕をしてこちらを見上げていた。
「もっと一緒に寝ていたいな」
「びっくりした。いつから、」
「うん、半刻ほど前かな。遊びに着たら寝てたから」
竹谷の身体には掛け布がかけられていた。おそらく、雷蔵の気遣いだろう。竹谷が礼をいうと、雷蔵は笑って竹谷の身体を引っ張った。バランスを崩し、再び床板の上に転がる竹谷を抱きしめて、ちょっとの間口を吸った。
「はち、僕の名前を呼んで真っ赤になってたよ。どんな夢見たの」
「うそ、」
竹谷の頬がまた火照った。雷蔵はくすくす笑うと、
「好きって言ってた」
と告げる。それで今度こそ竹谷の顔が燃えるように真っ赤になって、「ほんとか!?」とずいぶん慌てたように言った。雷蔵が「うそ」とすぐにばらすと、そのまま、目をぱちくりさせたままの竹谷の頬をするりと撫で、「はち、好きだよ」といつかの菜の花みたいに微笑んだ。
鉢屋×竹谷(がんばれ竹谷!がんばれ三郎!)
三郎にとって雷蔵は一番で絶対だから、竹谷はまさか今日が来るとは夢にも思わなかった。
三郎は怒ったみたいな表情で竹谷の手をとり、「はち、好きだ。やらせろ、」といった。飾らない素朴な告白ね、男らしいわ。とでも言ってもらいたいのか。竹谷は一言「死ね」と言ってやった。三郎は「ちぇ、」と舌打ちすると、「じゃあなんだ、愛してるお前だけだお前は俺の太陽だラブリベイベーウォンチューアイニージューとでも言ったらいいのか、ロマンチストめ」
「逆ギレか馬鹿野郎!」
竹谷と三郎はしばらくにらみ合ったが、やがて三郎がふいうちで竹谷の鼻にかじりついた。うわっ、と竹谷は鼻を押さえて、三郎を睨みつけた。
「俺だったらからかってもいいと思ってるのか、馬鹿!」
「俺は本気だ!」
竹谷は、三郎の神様は雷蔵だと知っているから、三郎が竹谷のことを好きだといってくるたびに腹を立てていた。それは、竹谷は雷蔵のことが大好きだったからだ。竹谷は雷蔵が三郎のことを何より愛しく思っていることを知っていた。
「雷蔵のことがかわいそうと思わないのか馬鹿!」
「雷蔵への好きとお前への好きは違うんだよ馬鹿!」
「よくわかんねえこといってんじゃねー!」
「わからずやはお前だコラ!」
「なんだとこんにゃろ!」
「やるかこんにゃろ!」
そうしてふたりでつかみあってもんどりあいの大喧嘩だ。やがてお互いに殴りつかれた身体で転がった。「好きだ」三郎が、天井を見ながら、小さくポツリと呟いた。「どうしたら信じる」
竹谷はやっぱり天井を睨みつけて、「雷蔵を好きだっていえ、そしたら信じてやる」と返した。
不破竹が好きかもしれない。