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よいこわるいこふつうのこ

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一番綺麗な水②


男が男に襲われているのを、惚れた女性に見られるほど屈辱的なことって他にあるだろうか。
僕はその時、絶対死のう、と思った。死ぬ以外に道はないとさえ思った。男に無理矢理のしかかられて乱暴を働かれんとするのは・・・まだ、いい。そんなものは犬にでも噛まれそうになったと思えばそれで終わることだ。大変矜持を傷つけられることではあるけれども、回復の方法がないわけではない。例えば相手を殺してやるとか。三倍の恥辱を味わわせることで後悔させてやるとか。
閉鎖空間に若い男が押し込められている忍術学園では、時々そういう男同士の性的な悲劇が起こる。中にはショックを受けて学園を辞めるものまで出るというが、僕はそこまでの気持ちにはなれない。第一、最後まで手を出させてしまったのなら、それは自分の弱さが原因であろうし、そもそもこんなくだらないことにまともにショックを受けるのがもったいない。
だから僕は、そいつに薬を盛られて押し倒されたときだって、それほどの動揺は受けなかったし、どうやってこの場を逃げようかとかこの薬はいつまで効くんだとか、こいつにどうやって仕返しをしてやったらいいだろうかとか、そういうことを冷えた頭で考えていた。
だけど、誰も訪れないはずの納屋の扉があいて、呆然とした顔で僕を見つめる竹谷先輩を見てしまったとき、僕は逆上した。死ぬしかない、ひどい恥辱を受けた、と頭が真っ白になり、それから全身が熱くなり、勝手に涙がこぼれた。僕がぽろぽろ泣き出したのを見て、先輩はようやく我に返ったようで、僕にのしかかる男の後頭部に手刀をくれてやって、僕を助け出してくれた。
僕を抱きかかえてくれた先輩は、身体が弛緩している所為で声も出せずただ泣いている僕を、少し困ったように見遣ってから、ぎゅっと抱きしめた。先輩からは、よく晴れた日のあおい草いきれの匂いがした。
「よしよし、怖かったよな」
幼い子どもに言い聞かせるみたいな先輩の言葉がおかしかった。薬で麻痺していなかったら、きっと笑ってしまっていたと思う。先輩は僕を抱きしめながら、
「こんなことする奴は最低だよ」
と呟いた。たとえ極悪人であっても、滅多に人を悪くいわない先輩だったので、意外に覚えてよく覚えている。その時僕は、先輩はとても潔癖な人なのだと知った。
「こんな汚らわしいこと、」
と憤ったまま呟く先輩の、その美しい張りつめた瞳。ああ、先輩は、こんな場所にあっても心の中に汚いものをすまわせることはないのだなあ。僕はその時、この人は、この世の中で一番綺麗な人だと思った。
僕はこの人が好きだ。


先輩は、僕の言葉を聞いて驚いたみたいに目を丸くした。先輩の瞳は、赤茶色をしている。それが光に透けてきらきらして綺麗だった。僕は、もう一度言葉を繰り返した。
「僕は先輩とは結婚しません」
先輩は、喉を引きつらせて、ハッ、と息を吐いた。長くしなやかな指が、僕の裾をすがりつくみたいに握りしめた。
「そんなの困る」
「先輩、」
僕はなだめるように先輩の手の甲に僕の手を重ねた。けれど先輩は、思い詰めたように僕を見つめる。
「お願いだ、孫兵。かたちばかりでいい。お前に好いた女がいるなら、この一件が片付けば俺はどうにでもなろう。孫兵、お前しかいないんだ。俺の村を救うと思って、な、どうか頼む。正直、今回の件は俺の力だけじゃどうにもならん。だが、このまま村が消えていくのだけは阻止していかなければならん。お前も、当主の息子ならわかるだろう。な、頼む。この通りだ。俺と結婚しておくれ」
先輩は両手をついて、額を床に押しつけて懇願した。僕はそれを見たくなくて、慌てて先輩の横に移動して、先輩の腕をとった。
「先輩、落ち着いて。大丈夫です。僕はあなたを突き放したりしない。僕の村は総勢であなたを助ける。僕がいいたいのは、つまり、あなたは僕と結婚なんかしなくてもいいということなんです。僕の村は昔からあなた方の村と深い関わりがあった。同盟をするのに、今更証が要りますか。もうしそうでも、先輩、あなたがそんなことをしなくてもいい。僕の身内を人質としてそちらに渡しましょうか。それとも、僕の村の秘伝の巻物をあなたにお見せしようか。他に方法なら幾らでもある。あなたが悲しむ方法で、僕は同盟を結びたくないんです」
先輩の思い詰めたような瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。僕は満足だった。
「先輩、大変でしたね。もう大丈夫ですよ。先輩はひとりではないですからね」
「まごへ・・・」
「先輩が悲しそうだと僕まで泣きそうになる。笑ってください」
「ばか、これは、うれし涙だ」
先輩は慌てて鼻をすすって、強く目を擦った。顔の辺りが真っ赤になって、かわいらしかった。僕は満足だった。そう、先輩が僕のお嫁さんにならなくても。こんな方法で先輩が僕のものになっても、僕は何も嬉しくない。先輩は顔を真っ赤にして、僕に笑ってくれた。
「ああよかった、孫兵、ありがとう。なんだか急に心配事が無くなったような心地だ。俺の村はたぶん、大丈夫な気がする」
「気がするんじゃなくて、大丈夫なんですよ」
「ありがとう孫兵」
僕も微笑む。先輩はやっぱり綺麗だ、と思いながら。


おばばに同盟を組んだことを報告しようと廊下を行くと、渡りのところで、おばばの侍女のあやめが僕を待ちかまえていた。僕に向かって膝をつく。あやめは口がきけないが、そのかわり記憶力がとてもいい。一度見たもの、聞いたものを生涯忘れない。
「あやめ、お前聞いていたな」
あやめはこっくりと頷いた。
「なら話は早い。そういうことになった。あやめ、お前、僕の頼みを聞いてくれるかい」
あやめはまたこくりと頷く。はじめから、僕のお遣い用にばば様が寄越してくれたのだろう。ばば様は”遠耳”の持ち主だから、わざわざあやめを寄越さなくても、別の部屋からだって僕たちのやりとりは聞けたはずだった。
「人を探して欲しいんだ」
あやめは黙って僕の言葉を待っている。
僕は笑いそうになるのを噛み殺しながら言葉を継ぐ。僕はいつだって、先輩のことが一番大切だ。先輩はいつまでも綺麗で気高くあらなければならない。僕が先輩を汚すなんてもってのほかだし、他の男だってそうだ。
「とても重要な事だから、内密に。応援を使ってもいい。だけど、先輩にだけは知られてはいけない。食満留三郎という男を捜し出して欲しい。見つけたら、足のつかないように殺せ」


孫兵悪役でもいいじゃなーい!
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一番綺麗な水①

孫兵書こうとするとどこかヤンデレっぽくなるよな!
孫竹で竹谷女体化で食満竹でもある。そして自分勝手な設定が山ほどあるので注意です。

***

いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた。
ねえ、だからあのときに言ったでしょう、先輩。僕の勘はよく当たるんだ。そう言ってみたかったけれど、そんなことを言えば先輩は必ず悲しむから、僕はその言葉を飲み込んだ。最後に見たときよりも、先輩はずいぶん痩せたようだった。無理もない、今は特に、先輩も村を率いて大変なときだから、気苦労が多いのだろう。いたわしい。先輩は白無垢に似合わない、疲れたようなぼんやりした表情で、襖絵を見ていた。それは色とりどりの虫たちがいっぱいに戯れていて、少し離れたところから見ると、大輪の牡丹が咲き競っているようにも見える、僕の村の宝だった。
「先輩、長旅ご苦労様でした」
僕が庭から声をかけると、先輩はようやく僕の存在に気づいたらしく、のろのろと視線をこちらに寄越した。くすんだ顔色に、唇に刷かれた紅だけが、別の生き物みたいに真っ赤にぬらぬら光っていた。婚礼の着物を着てきたと聞いたときは驚いたが、それは実際に見てみると、僕が想像するよりずっと簡素だった。けれど、生地は上等のものを使っているのだろう、白い絹の着物に、下は唇と同じ濃紅を重ねている。学園にいるときはいつも高く結っていたぼさぼさの髪も、今日ばかりは椿油で丁寧に梳られ、背中に長く流されていた。
「孫兵」
ふ、と先輩は小さく息を吐くと、ふわりと笑った。
「久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。お変わりがないようで・・・と言いたいところですけれど、今日は随分と様変わりしておられる」
僕の揶揄に、先輩は困ったように眉を下げて笑った。それから、畳に手をついて、丁寧に僕に頭を下げた。
「不束者ですがお願いします。・・・まずはこうだよな」


先輩の村が焼き払われたのは、一年前のことだ。先輩は学園を卒業したあと、村には戻らずにフリーの忍者として活躍していたらしい。先輩の村は技能者集団の集まりで(そういう村は結構多く、大概が村ごとどこかの殿様に雇われたりする)動物を操るのに長けていた。山奥で野生の生き物たちと共存しひっそりと暮らしている人たちだったが、ある領主の要請を突っぱねたために、村を焼かれた。苛烈な性質で有名な男だった。山ごと焼かれたので、動物たちも大勢死んだ。焼き出されて山を下りてきた人たちは、麓で待ち受けていた武士たちに、女子ども関係なしに切り捨てられた。生き残った数人たちは、先輩を惣領に担ぎ上げて、村を焼き払った領主と徹底抗戦することに決めた。先輩は村の惣領のひとり娘だったのだ。
徹底抗戦のための同盟相手として、先輩の村は、僕の村を選んだ。僕の村は虫を扱うのを得意としていて、先輩の村とは昔から交流があった。僕も、まだ学園に入る前、ほんの子どもの頃に何度か先輩にあったことがある。とはいっても、その時は遠くから先輩を眺めるだけだったけれど。
僕の村は、先輩の村を焼き払った領主とは、つかずはなれずの関係にあった。僕の父は―つまり、僕の村の惣領ということになるが―その男と深く関わりすぎないように、死ぬ間際まで細心の注意を払っていた。父が死んで僕が跡継ぎになるとすぐ、先輩の村から同盟の依頼状が来た。村は賛成と反対で割れた。結論を待つのに焦れた先輩の村が、先輩を同盟を事実上成立させるために、一方的に僕のもとへ先輩を送ってきた。
これを娶れ。要らぬならば切って捨てよ。
それが、先輩とともに送られてきた書状の内容だ。半強制の政略結婚だ。このやり方には、先輩の村への反発が強くなった。けれど、その一方で、同情心も色濃くなった。実際に先輩が来てみると、先輩は明るく気だてがよく人の心を掴むのが上手いために、誰も邪険に扱えなくなってしまったのだ。
僕の育ての親であり、よき助言者でもあるばば様は、「お主の好きになされよ」と一言だけ言った。「それがどういう決定でも、我らはそれに従おう。」
さて、先輩は村であつらわれたという花嫁姿で、僕の前に座っている。


僕はすっと、こういう日が来るんじゃないかと思っていた。それは、まだ僕らが忍術学園にいた頃―先輩が先輩で、僕がただの後輩であった時からずっとだ。いつか先輩はきっと不幸になる。僕は確信にも近い予感をずっと抱いていた。先輩が、あの男の隣で幸せそうに笑っていたときからずっと。
僕は先輩の元気がない本当の理由を知っていた。先輩は過酷な毎日に神経を磨り減らしてこんなに元気がないのではない。先輩はあの男と敵対関係になってしまったことをひどく気に病んでいるのだ。
先輩の村を焼いた領主の抱える忍者隊。そこには、先輩が学園時代に恋人と慕った食満留三郎がいた。

竹谷について模索してみた

五年×竹谷という可能性を模索してみた。

久々知×竹谷(おそらく竹谷受の王道だと思われる)
久々知はときどき、突然むすっと機嫌が悪くなる。どうも、緊張がある程度に達すると機嫌が悪くなるようで、だいたい彼の眉間に皺がよるのは、大きな実習の前と決まっていた。彼は機嫌が悪くなると、色んなものの扱いが強引で乱暴になる。そうして、実習前はこれが最期かも知れないから、と言って、必ず竹谷を抱いた。つまり、実習前の久々知との交わりは、大抵が乱暴でされるがままである。竹谷は、のんびりした性格だから、あまり考え込むこともなく、久々知の乱暴に付き合ってやる。やれやれまたか、しょうがないな、くらいのノリである。
その日も、床板に腹ばいになって忍たまの友を読んでいたら、上から圧し掛かられて、装束の合わせに手を入れられた。竹谷が仰向けになろうとすると、耳元で「このままやる」とぼそりと囁き声。竹谷はこんな獣の体勢は恥じらいが高いし、負担も大きいし、嫌だ。嫌だ、と言ってみたが、無言で耳を甘噛みされて胸の突起をいじられてしまいだった。ようは、無言のもとに却下されたのだ。愛撫が本格的に身体の快楽を呼び覚ましてくると、竹谷は零れる声を抑えるために、装束の襟を噛んだ。ふぐ、うー、とくぐもった声がして、襟は唾液でびしょびしょになった。
行為が終わると、竹谷は床板に転がった。無理をされて身体が痛い。男だったら頑丈だし、女より好きにしてもいいと思ってるのか。久々知最低。襟の噛み過ぎで顎が痛い。久々知が背中や首筋に接吻を降らせながら、「はち、よかった。はち、」と囁いた。竹谷は疲れていたので返事はいいやと思って、放っておいた。すると、しおれた声で、「すいませんでした」と聞こえてきたので、笑ってしまった。一応、自覚はあったのか。
それで竹谷は、笑いながら、「兵助、もっかいやれ。今度は優しく!」と自分から久々知を抱きしめて強請った。

不破×竹谷(ほがらかなかんじがする)
ぽかぽか陽気の小春日は、縁側に出て昼寝に限る。猫を撫でているうち眠たくなって、竹谷はそのまま猫のふかふかした体毛に鼻先を押し付けて、ぐっすり眠り込んでしまった。
あったけー気持ちいー。極楽ってこういうこというんかなーなどと考えていると、遠く、名前を呼ばれた。
(はちざえもーん)
それは柔らかく、寄せては返す春の海に似ている。竹谷は山育ちだったが、学園の実習でなんどか海に行ったことがあった。砂浜に裸足で立つと、波がひたひたと竹谷の足を掴まえに来て、足の裏がざわざわとして、それがくすぐったくて気持ちがよかった。
(はちざえもん)
と、また遠くで名前を呼ばれる。竹谷はいつのまにか小さな子どもの頃に戻っていて、きょろきょろとあたりを見渡した。すると、遠くのほうで、雷蔵が大きく手を振っているのだった。
「はちー!こっちだよーう!」
「あ、らいぞう!」
竹谷は微笑んで、おおい、と両手を大きく振り替えした。雷蔵は微笑んだまま、こちらに走ってくる。両腕にはたくさんの菜の花を抱えていた。雷蔵は歯を見せて満面の笑顔を浮かべると、「これぜんぶ、はちにあげるね!」といった。竹谷はとても嬉しくて、黄色が眩しいくらいの菜の花を受け取ると、自分も雷蔵に何か返そうと慌ててあたりを見渡した。なにも見つからず困り果てていると、雷蔵は、微笑んで、「ぼくははちがいればなんにもいらないよ」といった。
なんという夢を見たんだろう!竹谷は目が覚めて、夕暮れの少し冷たい風に頬を撫でられて、初めて自分の顔が真っ赤に火照っていることを知った。あたりは太陽を蕩かして、真っ赤に染まっていた。柔らかい黄金の光が竹谷の素足を染めていた。ああ、びっくりした。竹谷が身体を起こすと、耳元で、「もうちょっと寝てようよ」と優しい声がした。夢の中よりは低く掠れて、落ち着いた深みのある優しさが備わっている。それは誰でもない雷蔵の声だ。竹谷は、あっ、と声を上げて、隣を振り返った。雷蔵が肘で枕をしてこちらを見上げていた。
「もっと一緒に寝ていたいな」
「びっくりした。いつから、」
「うん、半刻ほど前かな。遊びに着たら寝てたから」
竹谷の身体には掛け布がかけられていた。おそらく、雷蔵の気遣いだろう。竹谷が礼をいうと、雷蔵は笑って竹谷の身体を引っ張った。バランスを崩し、再び床板の上に転がる竹谷を抱きしめて、ちょっとの間口を吸った。
「はち、僕の名前を呼んで真っ赤になってたよ。どんな夢見たの」
「うそ、」
竹谷の頬がまた火照った。雷蔵はくすくす笑うと、
「好きって言ってた」
と告げる。それで今度こそ竹谷の顔が燃えるように真っ赤になって、「ほんとか!?」とずいぶん慌てたように言った。雷蔵が「うそ」とすぐにばらすと、そのまま、目をぱちくりさせたままの竹谷の頬をするりと撫で、「はち、好きだよ」といつかの菜の花みたいに微笑んだ。

鉢屋×竹谷(がんばれ竹谷!がんばれ三郎!)
三郎にとって雷蔵は一番で絶対だから、竹谷はまさか今日が来るとは夢にも思わなかった。
三郎は怒ったみたいな表情で竹谷の手をとり、「はち、好きだ。やらせろ、」といった。飾らない素朴な告白ね、男らしいわ。とでも言ってもらいたいのか。竹谷は一言「死ね」と言ってやった。三郎は「ちぇ、」と舌打ちすると、「じゃあなんだ、愛してるお前だけだお前は俺の太陽だラブリベイベーウォンチューアイニージューとでも言ったらいいのか、ロマンチストめ」
「逆ギレか馬鹿野郎!」
竹谷と三郎はしばらくにらみ合ったが、やがて三郎がふいうちで竹谷の鼻にかじりついた。うわっ、と竹谷は鼻を押さえて、三郎を睨みつけた。
「俺だったらからかってもいいと思ってるのか、馬鹿!」
「俺は本気だ!」
竹谷は、三郎の神様は雷蔵だと知っているから、三郎が竹谷のことを好きだといってくるたびに腹を立てていた。それは、竹谷は雷蔵のことが大好きだったからだ。竹谷は雷蔵が三郎のことを何より愛しく思っていることを知っていた。
「雷蔵のことがかわいそうと思わないのか馬鹿!」
「雷蔵への好きとお前への好きは違うんだよ馬鹿!」
「よくわかんねえこといってんじゃねー!」
「わからずやはお前だコラ!」
「なんだとこんにゃろ!」
「やるかこんにゃろ!」
そうしてふたりでつかみあってもんどりあいの大喧嘩だ。やがてお互いに殴りつかれた身体で転がった。「好きだ」三郎が、天井を見ながら、小さくポツリと呟いた。「どうしたら信じる」
竹谷はやっぱり天井を睨みつけて、「雷蔵を好きだっていえ、そしたら信じてやる」と返した。


不破竹が好きかもしれない。

春の野原

竹谷女体化で室町で、孫兵。書きたいところを適当に。


「あはっは!すまん、すまん!」
豪快に笑う竹谷の右腕からはぼたぼたと血が流れている。足元にはちょっとした血だまりが出来ていた。その光景を見て、孫兵は思わずその場に卒倒するかと思った。慌てて駆け寄って、傷口を検分する。深いが、治らない傷ではない。毒もないようだ。だが、痕は残るだろう。孫兵が眉を潜めて表情を曇らせたのを見て、竹谷は慌てたように孫兵から腕を引くと、「すまん、でも、だいじょうぶだ!」と根拠のない慰めをはいた。
「何が大丈夫なんですか」
「いや、見た目ほど深くないから・・・」
「傷跡は残りますよ」
「仕方がないさ」
竹谷の返答はさらりとしたものだった。だが、孫兵は逆上するかというほど腹を立てた。どうしてもっと自分を大切にしてくれないのだろう。いっそ、竹谷が守られるだけのはかなげな女性だったらよかったに。そうしたら、彼女をどこにも行かせず、籠の中に閉じ込めて自分だけのものにするのに。食満が竹谷に男の格好をするのを許して、合戦場に出ることを認めているのが、孫兵には信じられなかった。
「あなたは女性だ」
竹谷は少し眉を潜めた。女扱いされることは、嫌いだ。がらんどうの屋敷で身をちぢこませて、ひたすら不安と恐怖に押しつぶされそうになりながら、男の帰還を待ち続ける。あんな日々を自分は送りたくない。合戦で愛する人と戦って、そして死ぬのだ。そちらのほうがずっといい。竹谷は父親の帰還を信じてただ待ち続けた果てに死んだ母親を思い出していた。女はきっと、悲しいだけの生き物だ。
「おれは女だけど、誰に守られたりもしない!孫兵だって、食満先輩だって、おれが守ってみせる」


竹谷は孫兵の瞳の剣呑とした光に息を呑んだ。目の前の少年は、誰だろう。こいつは孫兵じゃない、と竹谷は思った。竹谷の知らない孫兵の顔をしていた。
「僕はあなたを守るつもりですが、いいですか」
細い腕でぎゅっと抱きしめられ、言葉が告げなくなる。いつまでも子どもだと思っていたのに、意外なほどの腕の強さで、竹谷はびっくりして身動きが取れなくなってしまった。ぬるい春の風が吹いて、さわさわとあたり一面の菜の花が風にさやぐ。ふたりして黄色いばかりの菜の花の海に立っている。どこまでも空は蒼く澄み渡り、ところどころにぽっかりと白い綿毛のような雲が浮かんでいた。泣きたくなるほどの景色だった。あっ、と竹谷は声を出したっきり、黙り込んでしまった。
食満が学園を去った春に、彼は微笑んで、「またな」といった。だけど「また」なんていう日が、一体いつ来るというのだろう。「どうしたって分かたれていく道があるからね」と雷蔵は言った。そうだ、おれたちは、忍びだ。いっしょにずっといられる日がどうして来たりなんかするだろう。ずるい嘘だ。ふいに竹谷はそんなこと思った。それまで、彼の言葉を疑ったことなんてなかったのに。食満が好きだ。その想いは変わりないはずなのに、なぜだろう、あの日の降りしきるような薄桃色の花びらの向こうに、どうしても彼の顔が思い出せないのだった。
「孫兵、」
竹谷はようやくそれだけを言った。おれは守ってもらう必要なんかない、と乾いてひりひり張り付く咽喉でそう接ぐと、孫兵は思いつめたような瞳で、彼女を見上げた。
「あなたが好きなんだ」



孫竹増えろ孫竹!!!

春と修羅④

なまぬるい食満竹の性描写ありますんでご注意。


それから三日後に、竹谷は帰還した。
食満は、竹谷が帰ってきたことを食堂の五年生の噂話で知り、慌てて飯を掻き込むと、表へ出た。門のところまで出て行くと、竹谷は、友人たちに囲まれて笑みを零していた。なんだ、心配したほど落ち込んでいるふうでもないな、と食満は少し安堵すると、そのまま竹谷には声をかけず自室に戻った。何とはなしに勢いで作ってしまった虫網と虫籠は、またの機会にでも渡してやろう、そう思った。
夜になって、食満が布団を敷いていると、衝立の向こうから伊作が「行かなくてもいいのかい」と声をかけた。どこに、と問うと、「あの後輩のところへさ、」と言いにくそうなくぐもった声がした。食満はしばらく黙ってから、
「あいつが来たいと思ったら俺は受け入れる。だけど、俺から会いに行くというのは、違うんだ」
と返した。伊作は少しの沈黙の後、「そんなものかね」と溜息混じりに言った。
食満は、竹谷のいない間に、竹谷との距離を測りかねていた。後輩という意識は、やがて、弟のような、という想いに変わった。今は、それとも違うような気がして、それで困っている。弟に寄せるのよりもっとずっと親しい思いがあるような気がする。けれどそれは、友達というのとも違う。ただただ笑い顔が見たいと思う。竹谷の笑い顔は、食満を安心させる。幸せであってくれと思う。けれどもそれは、祈りとは違う、もっと欲望めいた強い思いだ。例えば、誰が彼を幸せにしてもいいわけではないのだ。俺が、と、思う。俺が、幸せにする。俺の隣でなければ駄目だ。俺のために笑っていなければ駄目だ。
食満はそれを、よくないことと思った。あまりにも、自分勝手で、愚かな感情だ。なによりも、竹谷によくない。あれにはもっと、優しい愛情を注いでやって、まっすぐ育たなければ駄目だ。

真夜中になって、ふと目が覚めた。月のある晩で、障子に人影が見えたから、食満は身体を起こして、障子を開けて表を見た。そこには、寝巻き姿の竹谷が立っていた。食満が起きてくるとは思っていなかったらしい、竹谷は、突然顔を覗かせた食満に驚いて肩を揺らした。
「先輩、」
「どうした。何か、用か」
「散歩です。眠れなくて」
「六年の長屋へ、わざわざ散歩に入ってきたのか。度胸があるんだな」
食満の意地悪な物言いに、竹谷は苦笑した。それで、小さく、「会いたくて」と言った。食満は、縁側の草履を出してきて、それを履くと、障子を閉めた。竹谷の手を握ったら、ひどく冷たかった。井戸水で手を洗ったばかりなのだろう、それはしっとりと濡れていた。
「洗っても洗っても落ちないような気がして」
竹谷は俯いて、表情ばかりは食満に悟らせないようにと思いながら、震える声で弱音を吐いた。誰かに弱音を吐きたかった。食満しか、思いつかなかったのだった。覚悟はしていた。後悔もなかった。けれど、人間の身体に刃物を突き刺すその瞬間の感触が、いつまでも手から離れなかった。血の匂いが、身体に纏わりついて消えなかった。飲み込んでいくしかない苦しみだとわかっていても、誰かに今のこの苦しみを分かち持ってもらいたくて仕方がなかった。食満は、ぎゅう、と竹谷を抱きしめた。それから、
「ハチ、」と呼んだ。
「ハチって呼んでもいいか」
「どうぞ」
竹谷は頷いてから、「呼んでください」と言い直した。
「今夜は一晩一緒にいてやる」
食満はそれだけ言って、竹谷の利き手をぎゅっと握った。その力の篭り方が、きっとこの人は、今夜中この手を離さないでいてくれるだろう、と竹谷に思わせた。竹谷はそれが嬉しくて、笑顔を浮かべた。ふたりで手を繋いでとぼとぼと用具倉庫までの道を歩いた。その間ふたりはなんでもないことを一生懸命話した。何が好きで、何が嫌いか、どんな生い立ちで、どうして忍者を目指したか。当たり前のつまらないことばかりを、どうして今まで知らずにいたのか、お互いに不思議な気持ちになりながら、確かめ合うように、語った。用具倉庫は真っ暗闇だった。扉を開けたら、懐かしい、かびと埃の入り混じった匂いがした。食満がそっと松明をつけた。橙色にまわりが明るくなった。食満が、何を話そうか、というと、竹谷が、何も、と応えた。それで、食満は黙った。竹谷は何も言わず、まっすぐ前を見ていた。きっと、この柔らかい心の少年は、大きな重た苦しいものをひとつ、必死で嚥下しようとしているのだと思った。それは、一年前に、食満が通った道だった。あの時は隣に、伊作がいた。ふたりして、やっぱり同じように、咎を行った手のひらをお互いに暖めあいながら、寒い夜を越えた。
豆だらけだった手のひらは、すこしずつ硬く分厚いものに代わり、豆を減らす代わりにたくさんの傷を手に入れた。そうして、昔よりもっとずっと強くなって、大きな手のひらを手にいれたはずだった。それでもまだ、愛しいものを守るには足りないのだなあと食満はぼんやり考える。傍らにある愛しい可愛い存在が、少しずつ心を硬くしていくのを、惜しいことと思いながらそばで見守っていてやるしか出来ない。
この学園で、出会って、分かれていく人たちは、お互いに優しい心を見せつけあいながら、己を殺していくのだと思った。せめて、覚えていて。どうか、俺がこれから殺して行く俺の心の弱く柔らかいばかりの部分を、どうか俺の代わりに覚えていて、と。食満は、いつか消えてしまうのだろう竹谷のそれを、消して忘れるまいと思う。自分の弱さをあのとき伊作に預けたように。そうして、伊作の心もまた、食満が請け負ったのだ。
食満は竹谷を抱き寄せて、そっと口を吸った。竹谷は少し驚いた表情をして、
「俺を、」
と言った。
「ああ。いやか」
「いえ、」
行為の最中も、食満は、律儀に竹谷の片手だけは決して離そうとしなかった。竹谷は、そんなことがとても嬉しく、ああ、このひとは、とてもよいひとだなあとしみじみ思った。行為の最中、食満が、小さく自分を伊作と呼んだことも、竹谷は目を閉じて黙って受け入れた。ただただ、血の匂いのする冷たい右手を、庇っていてくれることが嬉しくて、だからもう、ほかはどうでもよいとさえ思ったのだった。
竹谷の奥に熱情を叩きつけた後、食満がちょっと情けない表情をして、「悪い兄ちゃんだな、俺は」と苦々しく呟いたのがおかしくて、竹谷は声を上げて笑った。

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