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食満の受験生日記

12月14日(木)

・10分で解く!世界史Ⅳ~Ⅵ(八割得点)
・センター国語(2004)、数学(2005)(漢文沈没)
・現代文応用⑯(まあまあ)
放課後ハチと会ったら、「やっぱ24日きびしいっすかね?」と聞かれた。俺は受験生でも、クリスマスはきちんとハチと過ごすつもりだったから驚いて、「厳しくねーよ。イルミネーション見に行こうぜ?飯はどこがいい?考えとけ」って返したら、ハチは目をぱちくりさせて驚いたふうだった。それから、「大丈夫ですか、24日は外して、別の日でも俺はいいですけど」というので、ちょっと不思議に思って、でも「大丈夫に決まってるだろ!」って強く返した。家帰ってカレンダー見てびっくりした。
24日センタープレ!!マジかよ?終了時刻19時とかありえねーだろ。業者も空気読めだよなあ、ほんと。ラストの科目が社会二科目っつーんで、現社受けるのドタキャンしてやろうかな。そしたら18時には向こう出られるもんな。

12月15日(金)

・センター社会(2006)・理科(2006)(遺伝分野要勉強!)
・英語長文必勝L18~23(専門テーマさっぱり)
・チャート(微積んとこ。やっぱ難しい。仙蔵に応用5聞く!)
ハチに現社受けるのやめるッつー話をしたら、「ちゃんと受けたほうがいいっすよ」と返された。「俺、女じゃないしクリスマスとかこだわりません。先輩に時間が出来たら遊びましょう」だってさ。俺も現社は一応受けときたいし、言葉に甘えることにした。でもクリスマスはちゃんとやる!イルミネーションは調べたらどこも大体21時まで。・・・電車で行ってもぎりぎりだよなあ。まず、テスト会場から駅に出るまでにバスで軽く40分かかるからな。急げば間に合うだろうけどゆっくり楽しめる雰囲気じゃないよな。明日塾帰りにガイド本買お。

12月16日(土)

・チャート(微積6割)
・センター英語(2004~6)
・必携生物(遺伝)
・塾の復習
塾で冬期集中合宿の説明があった。小平太が、「必勝」ハチマキしねーのな!って残念がってた。ふつーあるだろって。いや、ないだろ。あるかなしかでいったらなしだろ、んなダセえもん。不参加者増えるぜ。でも長次がいうには、三年くらい前まではハチマキあったらしい。マジかよ!?なくなった理由はしらねーって言ってたけど、たぶん、嫌がったやつが多いかったからだろうな。
クリスマスのガイド本買う。イルミネーションはやっぱどこも行くまでに時間かかるっぽい。一番近いとこで宝寺街公園のやつ。電車で一時間。ムリくせー。あーなんかいい方法ないかな。仙蔵とかしらねーかな。明日聞いてみよ。つーかクリスマスディナーとか高すぎ!レストランでコース2万からとか、一体何食ったらそんな金額になんの?すげーな。でもこういうデートコース設定しちゃう男とかいっぱいいるんだよな。
俺も出世しよ。とりあえず大学入る!

12月17日(日)

・塾今日の復習と来週の予習(分詞構文サッパリわからん)
・チャート(三角関数。まずまず)
・古典応用(9割!!)
塾の帰りに小平太と長次とマックはいって受験の話。小平太がプレ受けたくないってしきりに言う。「ぜってーいい判定とれねえもん」ばっかいってる。確かに、Cより上は難しいだろうけど、でも猛勉強のかいあってか最近小平太の成績がすげー伸びてる。○×大はムリでも、△□大ならイケそうなカンジだ。文次郎が小平太の追い上げがすげえっつって唸ってた。ま、あれは誰でもビビるよな。俺もビビった。勉強がんばろ。
小平太と分かれてから長次が、俺に小平太の志望大学聞いてきた。なんだよ、あいつ長次と同じとこ行きたいくせに長次にそれ言ってなかったのかよ。俺からばらすのもなんだし、知らねーっつっといた。長次がすげえ疑ってる表情だったので、実家から通いたいらしくて、近所探してるみたいだって付け加えたらますます苦い顔になった。あいつカンいいし、小平太がどこねらってるかばれたかな?
夜ハチと電話。風邪とか寝不足とかないかってしきりに心配された。くすぐったいけどこういうの悪くねーよな。クリスマス遊ぼうなつったら、「無理に時間作らなくてもいいですよ」ってずっと言ってたけど、最後に「やったー」って照れ笑いしてた。マジかわいい。よし、絶対イルミネーション探す!

12月18日(月)

・10分で解く!世界史総合問題(社会はイケる!)
・英語構文500(分詞構文がネック。長次にきく)
午前の授業全部センターの過去問といて終わりだった。あんまり学校来る意味なくね?小平太は家だとやらないからたすかるっつってた。えらいな、こいつ。まわりが猛烈がんばってるとわけもなくあせるよな。
仙蔵にイルミネーションのこと聞いたけど、無理だろって言われた。やっぱ無理かー。でもせっかくのクリスマスなのに、イルミネーション見なきゃ、あとなにすんだってかんじだよな?あきらめない!

12月19日(火)

・センター過去問社会(2003~5)(追試難しすぎだろ)
・英語構文500(明日こそ長次にきく)
小平太と長次が大ゲンカした!・・・俺のせい?
文次郎が、イルミネーションやめて夜景にしろっつった。それもいいかも。でも、チャリで山道きつい。

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小平太の受験生日記

11月15日(水)

あーあー!絶対バカなことしたって気がする!どーしよう!

11月16日(木)

今朝イチでもんじろーに相談したら「ばかじゃねーの。お前が自力で入れる大学なんてろくなとこないぞ?」って言われた。あいつ性格悪い!サイテー!女にモテない!おっさん!
おれがバカなのはおれがいちばんよく知ってるけど、人から言われると腹が立つっていうか、ふつうさ、友達の決心をそういうふうにけなしたらだめじゃねえ?仙ちゃんにいったら、「おおっ・・・」っつって驚いたっきり黙ったままだった。地味にショック。え、おれが一般受験すんのそんなにヤバいかんじなの?そりゃ、親にも先生にも「ムリ」とか「ばか」とかどうなっても知らねーとかいわれたけど、そんなにむり?ビビルくらい?いさっちゃんとケマにゆったら、「お前がマッターホルンの登頂に成功するよりはるかに難しいが、人類がロケットなしで大気けん突入するよりは可能性がある」っていってくれた。なんか勇気出た。がんばる!
目指せ、長次とおんなじ大学!
いけどん!

11月17日(金)

長次に志望大学聞いたら、○×大学っていった。超地元じゃん。電車で三駅目じゃん。ちょっとつまんねー。推セン決まってた大学は神奈川だったから、遊ぶとこいっぱい会ってちょっと後悔しそうになったけど、でもやっぱり神奈川には長次いないしな!がんばろーおれ!いけどん!
でも、先生に「○バツ大受ける」っつったら、「超ムリ」っていわれた。ボーダー表見たら、長次の大学超上のほうにあってビビった。ビビって鼻水でた。すげー長次頭よすぎくね?いさっちゃんの大学ももんじろーの大学も上のほうすぎて見上げてもよく見えんかった。実はふたりとも天才だったのか?

11月18日(土)

長次に推セン蹴ったこと言った。なんでって聞かれたから、なんとなくって答えといた。だっていっしょの大学行きたいからとか行ったらなんとなく困った顔されそうだなーと思ったから。困った顔されても行くつもりだけど、でも、今はあんまり落ち込みたくないからな!長次がどこ受けるのって聞いたので、決めてないっていっておいた。それから長次は何も言わんかったので、ちょっと怖くなって、「ばかなことしてるっておもったか?」って聞いた。やっぱりなんも言わんかったので、「思ってもいいよ」つったら、「思わない」って言ってくれた。
それからコンビニいって、長次があんまんと、おれが肉まんかって、コンビニ裏の公園でブランコこぎながら食った。超うまかった。小学校のときからずっとやってるけど、おれ、やっぱり長次とこういうことしてるのが一番楽しい。大学入っても続けたいから、俺が神奈川いったらそれはむりだから、やっぱり推セン蹴って間違ってなかったと思った。肉まん最高!

11月19日(日)

駿台マーク模試。第一志望に○×大って書いてみたけど結果は??なんもわからんかったけど、とりあえず全部埋めた。全部埋めるのはキホンだってもんじろーがいったから。数学と理科終わった後、いさっちゃんとこいって答えがどうなったか聞いたら、数学は結構合ってるっぽかった。でもカンで書いたっつったらケマが「それじゃ意味ねーだろ」っていった。むっとしたけど確かに意味ない。国語は論説文からわけわからんかった。なんで頭いいやつがあんな意味わからんこと書くんだ。頭いいやつは誰が読んでも意味わかる文かかなきゃダメだろ、頭いいんだから。
せめてC判定でますよーに!
帰りにケマと仙ちゃんと本屋行って、センター試験の過去問買った。あと、ケマが赤本買えっつったので、赤本も買った。あと、仙ちゃんがマドンナ実況はいいっていったので、それも買った。あとゴロ語。おれ、勉強にこんなに金つかったの初めて。おれすげー。なんか受験生ってカンジ。おれがんばれ!いけどん!

11月20日(月)

センター過去問といてみたら一問目からわけわからんかった。超へこんだ。

11月21日(火)

長次になんで落ち込んでるかきかれたけど、そんなもんいえるわけないので、だいじょうぶっつっといた。おれバカなのに長次と一緒の大学とかねらって、バカなんじゃなかろうか。なんでおれこんなバカに生まれてきたんだろう・・・。大学受からん気がしてきた。っていうか受かるわけない!
先生に相談したら、浪人したら可能性はでてくるかもっていった。浪人したら意味ない。長次と一緒に大学通いたい。頭よくなりたい。
マジセンターの過去問なんてもう見たくなかったけど、でも、バカなのに勉強サボったらますますばかになるので、問題といた。やっぱりよくわからんくて、バツいっぱいだけど、がまんして毎日といたらそのうちいっぱい○がつくようになるんかな?

11月22日(水)

ケマと長次の通ってる予備校におれも通うことにした。今日パンフもらってきて、さっき電話した。母ちゃんに塾通いたいっつったら、涙流して喜んでた。そんなに?それから、ケマに紹介してもらったっつったら、ケマのかーちゃんとこ電話してお礼言ってた。どんだけ?兄ちゃんが、「天変地異が起こる」ってじいちゃんと父ちゃんと笑ってきたので腹が立ってけんかした。あーまだ奥歯がぐらぐらする!
今週日曜から塾!いけいけどんどんおれ!

11月23日(木)

もんじろーにセンターの過去問教えてもらった。すげーわかりやすいからびっくりした。仙ちゃんよりわかりやすかった。仙ちゃんは余計な知識まで一緒に教えようとするから逆に難しいんだってもんじろーがいったら仙ちゃんはむっとしてた。なんかふんいき悪げでおれも勉強しにくかったし、「おれののうみそがバカでごめんなー」って仙ちゃんにあやまったら、もんじろーが「落ち込んでもいいがよけいなひげすんな」っつった。ひげって意味がよくわからんかったので、あとで辞書引いた。たぶんこれ→卑下。

11月24日(金)

気晴らしに放課後部活のぞいたら、滝がしっかり部長やってて笑った。ちょっとだけいっしょに練習したけど、やっぱ部活楽しすぎる!大学にもバレーあったらいいな。つーかなかったらつくる!

11月25日(土)

休みなのでずっと家で勉強してた。ひきこもりみたいにずっと部屋からでんかった。夕方になって長次から電話かかってきたから、長次んちいった。長次のじいちゃんはあいかわらずみかん食ってた。おれもいっしょにみかんくいながら長次のじいちゃんの戦争のときの話聞いた。もう何回目かわからねー小学校のときからいっつもきいてるからいいかげん内容覚えちまった。それから、長次のかあちゃんが豚汁あたためてくれたのでそれのんで帰った。久しぶりの長次んちだったのでなつかしかった。長次がおくるっつっていっしょにでてきたので、自販であったかいコーヒー買ってそれ飲んで公園に寄り道した。ジャングルジムに登ったら長次が下で、けがすんなっつった。あぶないから降りてこいっていうからおもしろかった。おれもうでかいし絶対落ちるわけないんだけど、おれが小学校のとき落ちかけたから、ビビってるんだとおもう。でも、そのときは長次がかばってくれたからおれはけがしなかった。ジャングルジムのてっぺんで上を見たら星がいっぱいできれいだった。けっこう夜でも雲のあるところとないところがよくわかっておもしろかった。
口をあけたまんまぼけーっと空を見てたら、長次が、「元気か」ってきいてきたんでびっくりした。
「元気」っつったら「そうか」って言っておしまいだった。
心配してくれたんかな?長次はいいやつだから、おれはやっぱ長次が好きだなって思った。
勉強がんばるぞ!

瞼の光

「遠い道」の呟き参照で、こへいたとたきやしゃまる。
旧知だったらいいなーって思ったんだよ。


私がその人を最初に見たのは、もうずっと昔のことだ。
忍術学園への入学を決める以前のことであったから、どれほど大きく見積もっても九つにはなっていなかったことになる。詳しいことは何にも覚えていない。その頃の私はまだ、人に傅かれるのを何の疑問にも思っていなかった、実に傀儡のような愚かな子どもであったから。覚えているのは、それがとても温かい小春日和の日で、庭に生っていた柿がぼってりと夕日の色を吸い込んで橙に熟していてひどくうまそうだったことだけだ。私はそれを食いたいと思ったが、そんなことを言えば母に鋭く窘められることを知っていたので、気づかない振りをして見ないように努めていた。目に触れれば、欲しくなる。欲しい欲しいと己の欲望のままに泣き叫ぶのは、みっともないことだと、そう教わっていた。
その人は、萌黄に若竹の着物を合わせていたのだったか、若者らしいさっぱりとした、それでいて温かみのある着合わせをして私の前に座していた。ぴんと伸びた背中や、膝の上の握りこぶしが、凛々しい人だと思った。目が大きくて、よく磨かれた宝玉のように輝いていた。膝元に姫君がよちよちと危なげな風情で歩み寄っていらっしゃったときも、にこにこと笑って、「あにさまのお膝にお乗り」とおっしゃって、抱き上げなされた。姫君はまだ大変小さかったので、涎がひどく零れてその人の美しい着物を汚した。これ、と周りの者は咎め、姫君をお放しなさいませと口々に申し入れたけれども、その人は屈託なく笑って、「よい」と言った。
「よい、着物なぞ、洗えばよいのだ」
七松はとても大きい家だった。平の家なども辛うじて七松の家と並べて口にされる程度の位置には認められていたが、実際の財力には天と地ほどの差があった。私の家は、何度か七松の家から金を工面していた。七松の家にいるときは、父も母も必ず恥じて深く頭を下げていた。私も一緒になって頭を下げさせられ、何を言われても「有難う存知まする」「一生の恩と思うておりまする」としか言わせていただけなかった。七松の主人は人がよく、「いやいや、」とそればかりを言って、「困ったときはお互い様だから」というようなことをいった。
「このご時勢だからなあ、武を持たぬものは駄目なのかもわからんなあ」
七松は少し前に、中在家という小さな武士団を身のうちに引き入れていた。七松の長女を中在家の頭領の甥の嫁にやり、婚姻関係を結んだ。若君にも世話役兼守り役をつけるのだといって、長次という同い年の小さな少年を、いつもその人のそばに控えさせていた。無口で目立つところのない人だったから、その人の記憶はあまりない。七松の主人はよく私の家にも武士を雇い入れることを進めたが、両親はどうしても怖がって、それだけは頑として受け付けなかった。結果として、それが幸いした。
七松の家は、七松の主人の死をきっかけに中在家のものに渡った。のっとられたのだ。私の両親は、七松はもう駄目だろう、ということを何度も言い、それから、若君はどうなるのだろうといった。私は、その人の姿を思い出した。明るいあわせの着物、屈託のない笑顔、うまそうだった柿の木。あの若君はどうなってしまうのだろう。嫌な目に、会うのだろうか。可愛そうな目にあうのだろうか。泣いてしまうのだろうか。あんなふうに、すべてが輝いていた人なのに、そんなことになってしまうのは、よいことなのだろうか。
それからしばらくして、若君が毒を飲まされたということを噂で聞いて、私は息を呑んだ。死んだのですか、と慌てて両親に質すと、滅多なことを言うものでないとひどく叱られた。まもなくして、若君は七松の家をでてどこか遠いところへ行ったのだと聞いた。

七松小平太という男は、ときどき、遠くをじっと見つめる癖がある。大きな瞳を、瞬きもせずに、じっと遠くに向ける。そうしてそれはだいたい、太陽の方向である。きらきらしたものを、眩さに目を眇めて、まるで睨むようにして、じっと見つめる。
「先輩、お止しなさい、目が焼けますよ」
と咎めると、屈託なく笑って、「いい」と言う。「太陽に焼かれるなら、まあ、いいさ」
「よくありませんよ、忍者を目指すものが。御自分を大切になさってください」
あのときの若君は、大きくなってここにある。七松の家にいた頃より、精悍さが増した。泥臭くもなった。だが、あのときの屈託ない笑みは変わっていない。何はともあれ、私はこの人が今日まで変わらないでいてくれたことを感謝する。毒が、人の醜さが、この人を殺さないでいてくれたことを。
「なあ、滝、お前に体育委員会は似合わないよ」
と歌うように嘯くので、私もそうですね、と言ってやる。私だって、こんなに頭を使わない委員会は私にはもったいないと思っている。
「馬鹿だね、お前、私を追ってここまできたのか」
忍術学園に入るといったら、両親には卒倒された。私は両親の言いつけには絶対逆らわない子どもだったからだ。なぜそんなところに訊くので、素直にわからないと言った。七松の若君が入学していると風の頼りに聞いて、つい真相を知りたくなっただけだった。あのきらきらと眩しかった人は今もいるのか。
七松先輩が振り返る。風が流れて、先輩の髪を私へと吹き流す。広げた両手の、その向こうにぼってりと沈んだ夕日が見える。私はいつかの柿を思い出す。あれはうまそうだった。手が入らないからこそ、ひどくうまそうだった。私はずっと、あのときの柿に焦がれていた。今もそうだ。ひどく咽喉が渇く。美しいものを見るたび、あの柿の甘い汁を啜ってみたかった、と思う。
「ここにはないもないよ」
と先輩はいい、私にはそれが可笑しかった。先輩の言葉に反して、とても嬉しそうな笑みを浮かべていたからだった。
「何もないのがあなたにはよいのでしょう」
と頷き、乱された髪を押さえる。、柿ならある、と傍になっていた柿の木に手を伸ばして、それをもぎ取った。
「お前も食うか、滝夜叉丸」
ぼってりと夕日の色の実を差し出され、私はツイ、と横を向く。
「要りませんよ、行儀の悪い」
くだらない矜持とこの人は笑うだろう。けれど私には、いつだって矜持しかない。瞼の奥のいつかの光だけが、私を生かしている。

遠い道


七松という家は、紀州では知らぬもののない名家だった。もともと帝に仕えていた、由緒正しい公家の家柄である。このご時勢だから、貴族なんて流行らない、今は屋敷ばかりが大きい貧しい家さと小平太は笑い飛ばすが、それにしても、彼の家柄は、おそらく学園中でも五本の指には入るだろう。
そんなよい家柄のものがなぜ、こんな学園にいるのかと生徒たちは首を捻る。行儀見習いで入ってくる良家の子息子女なら外にもある。小平太もそれかと思ってみると、彼はどうやら本気で忍者を目指しているらしい。
五年の春に、実習がある。そこで人を殺めなければならぬ。忍びになる覚悟のないものは、この実習を前に学園を去る決まりになっている。小平太は学園を去らなかった。血まみれの男の首をひとつ、風呂敷に包んで帰ってきた。教師は、小平太の返り血を咎め、それを叱り付けて実習は終わった。
七松の家に帰らぬのか、捨ててきたのかと、誰も問わない。小平太が七松の家に求められているのならば、彼は実習を前に実家から呼び戻されたはずだ。それが、何の音沙汰もない。つまりはそういうことなのだろう、と同級生たちは無言のうちに納得した。
卒業を前に、それぞれが進路を決める時期になった。潮江はある大きな城に声をかけられて、そこに勤めることになったという。食満は、力を持った村に雇われた。中在家にもいくつか声がかかっていたが、まだ選んでおらず、今度話を聞きに行くことになっている。小平太の進路については、トンと話題に上がらない。決まっておらぬようだが、本人は焦った様子もない。それが不思議だった。
とうとう、ある日、仙蔵が尋ねた。すると、小平太は饅頭を三つばかり食い終えた後で、おもむろに、家に帰る、といった。
「家とは、七松か」
「おうさ、七松の家に帰る」
「帰ってどうする」
小平太はその問いがよほどおかしかったようで、声をあげて笑った。それから、饅頭を掴んで、また食んだ。茶で流し込んでから、しみじみと、
「そうさな、帰って、のんびりしたいな」
と言った。その言い方が、あまりに七松小平太らしくなかったので、仙蔵はきょとんとした。それを見て、小平太はまた笑った。伊作が、君は嫡男かい、とおもむろに問うた。小平太は頷いた。
「おう、俺は長男だ。下には妹が一人いる。今年の春死んだがね」
紀州の七松といえば、もともとは帝に仕えていた名家だった。その昔、力のある武家集団にのっとられて、それから、運営権を半ばとりあげられて寄生されるかたちで、今は在るという。七松という名前は、七松という名前のを持つ者の領分ではなくなっていた。
「帰るのか」
潮江は神妙な表情をした。帰る、と小平太はもう一度頷いた。それで、小平太は何らかの覚悟を決めたのだと知れたのだった。
それから日々はまた単調に流れていった。卒業の前夜になって、長次は片づけをしている小平太の背中に声をかけた。小平太の荷物は少なかった。
「帰るのか」
小平太は黙って振り返って、頷いた。長次も、城勤めをすることに決めていた。彼は長いことふたつの城のどちらを選ぶかで悩んでいたが、そのひとつは、潮江の城と敵同士だった。小平太が、やめておけ、といった。仲間同士で好んで争うことはないさ、小さな城だっていい、もうひとつのほうにしておきなよ。それで長次は、小さな、戦に弱いもう一つの城に就職を決めたのだった。その城の殿様はぼんやりしてつかみどころのない人だったが、なかなか人間が出来ていたので、長次は気に入っていた。
「暇が出来たら、会いに来い」
長次がまた、ぼそりと呟いた。小平太はそれには頷かず、ふ、と口元に笑みを吐いた。
「長次、お前に餞別をやろうか」
「・・・」
「何が欲しい」
「・・・」
「酒か、花か、お前には一等いいものをやりたいな。だけどあいにく持ち合わせがないんだ、私はお前に何をやったらいいかな」
「・・・お前」
小平太は大きな瞳で真っ直ぐ長次を見た。長次も見返した。長次にそう言わせたのは小平太だったが、長次も遠慮していただけでずっと彼を欲しがっていたのだった。だが、小平太は小平太のものだった。長次は、武家の家の子だ。欲しいものを欲しいといってはいけないといわれているし、小平太は欲しがってはいけない家の子どもだった。
長次が捨ててきた中在家の家は、七松の家に寄生して大きくなっている。長次は長い間、自分を小平太の護り役だと思って生きてきた。幼い日は確かに、親からもそうと言い聞かされて生きてきたのだ。それが大人の調落だったにせよ、長次は今日まで小平太を護るためにここまでついて来たのだった。小平太が七松の家に帰るといったときから、長次は家を捨てた。自分も帰る、と言いたかったが、小平太に、「やりにくくなる」と言われてしまえば何も手出しは出来なかった。
呟いた後で、長次は、視線を横に流した。長次にとって、小平太はどこまでも仕えるべき主人で護るべき大切な人だ。家を捨てたからといって、突然なにもかもが対等になるはずもなかった。蒼い月明かりを背にして長次を見つめる、小平太の姿は外と比べようもなく美しい。
「私が欲しいか、長次」
「欲しい」
「ならば、やろう」
小平太は着ていた着物を肩に滑らせた。長次がそこに食いつくと、彼はしなやかに背をそらせた。
「私をお前にやろう」

***

長次に対して暴君、というか、言動が若様な小平太が好きらしい。
小平太は武士の子より貴族の子。しかも名家で、滝夜叉丸もよく知っていたらいいじゃない。
 

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