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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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1のは女体化。きりまるとどいせんせーのあさ

目覚ましはかけない。土井半助という男は、ずぼらでだだくさなようでいてその実細やかなところにまで神経を張り巡らせているたちで、目覚ましをかけるとすぐさまぱっちり目を開いてしまうからだ。きり丸はその昔、早朝新聞配達のバイトの初日に目覚ましをかけ、3時半だというのに土井までぱっちり目を覚まし、あろうことか食事を作ってくれて「行ってこい」と玄関先で送り出されたことがあった。土井は前の晩、テストの採点で1時頃まで起きていた。その日以来、きり丸は目覚ましを使わず起きるようにしている。夏とはいえ、外は未だ薄暗い。きり丸は大きな欠伸をかみ殺すと、昨日の晩に作っておいた味噌汁とにぎりめしを温め直してもそもそと食った。先日粗大ゴミの日に拾ってきたちゃぶ台の上に、半助の書き置きが置かれていた。
「おはよう。気をつけていってくるように」
きり丸はそれを丁寧に折りたたむと、自分の勉強机の引き出しに仕舞う。その引き出しには、すでに何枚も同じような書き置きが眠っている。ジーンズと半袖シャツに着替えて、先日格安衣料店で1000円で買った安い甚兵衛を着た土井をまたいで玄関先へこっそり出て行く。
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幼年期の終わり

金吾と喜三太。女体化1のは。


お昼休みは机をくっつけて、ふたりで向かい合ってお弁当を食べる。まだ学園へ転校してくる前、喜三太は友達の少ない女の子だったから、心配して金吾が構ってやっていたのが、そのまま名残として今も続いているのだ。今はもう、構ってやるというよりは、面倒を見てやっている、と形容するのが正しい。今だって、金吾は、喜三太の口の周りについた食べかすに手を伸ばしている。
「ついてるよ」
「ん」
手を伸ばす金吾も金吾だけれど、その指に顔を寄せて、とって貰おうとする喜三太も喜三太なのだ。これで、とってやった米粒を金吾がぱくんと食べたらさすがに叱り付けてやろうと団蔵は密かに決めていたが、さすがにそれはなく、金吾は育ちの良さを見せるように、自分のナフキンにその米粒を零した。
「あ、ほら、またついてる。喜三太、もっと大きな口あけておにぎり食べなきゃ駄目だよ」
「うん」
金吾の甲斐甲斐しさは、よく気がつくのを通り越して、もはや”お母さん”だ。団蔵があきれ顔で見守っていると、虎若も同じように見やって、苦笑している。
「いい感じだね」
「いい感じっつか、親子みてえ」
「あー」
虎若も苦笑混じりで同調する。ふいに団蔵が、「あのふたりってつきあってんのかな」と呟いた。虎若は、初めて聞いた、とでもいうようにきょとんとした表情を浮かべて団蔵を見返した。だって、とその反応に言い訳するように団蔵は言葉を継ぐ。
「すげー仲いいじゃん」
「ああ、うん・・・。でも、改めていわれると変な感じがするなあ」
「なんで?いつもいっしょだし、怪しく思っても当然じゃねえ?」
「いわれてみると、そうなんだよなあ・・・。でもなんだろう、ふたりが恋人同士って考えると、ちぐはぐな感じするなあ」
団蔵と虎若は、己もそれぞれの弁当にかぶりつきながら、教室の一角のふたりに、再び視線を送る。
おにぎりを食べ終わった喜三太が、じーっと金吾のお弁当を見やっている。金吾はいつも、タッパーにフルーツを詰めて持ってきていた。食事のバランスを考えてのことらしい。毎日でっかいおにぎりを三つ作って持ってきている喜三太に比べて、なんともまじめで繊細だ。そのフルーツが、気になっているのだろう。
視線に気がついた金吾は、タッパーにフォークをつけて喜三太に寄越した。一人分の量しかないが、惜しげもなく全部を喜三太に寄越した。
「メロンだけど、なめさんたちにはあげたら駄目だからね」
「うん」
「全部食べていいよ」
「うん」
金吾は口の中に含んでいた最後の食事を咀嚼し終わると、茶で流し込んで、後は黙って喜三太がせっせせっせとフルーツを口に運ぶのをみていた。小動物みたいに夢中で食べるその姿に、口元が緩む。
「おいしい?」
「うん」
「味わって食べなよ」
金吾はにこにこ微笑む。自分のほうが、美味しいものを食べた後みたいに、嬉しそうに微笑んで喜三太を見ている。


午後は移動教室だった。雨で運動場が使えないから、図書館で読書、ということらしい。教室で女子が着替えをはじめてしまうから、男子たちは昼休みもそこそこに教室を追い出されてしまう。自販で紙パックのジュースを買い、それを飲みつつ、団蔵と金吾と虎若もてろてろと校内を移動する。授業中はもちろん飲食禁止だが、胃袋の大きい男子高生の手にかかれば、紙パックジュースなんて、移動の最中には飲み終わる。
「仲いいじゃん」
と団蔵がストローを加えながら金吾にそう切り出したとき、金吾は「腹減った」と呟いて、缶コーヒーを選んでいた。
「え、なにが?」
金吾はきょとんとして団蔵を見遣る。虎若がその背中をからかうみたいに押した。
「腹が減るならフルーツを喜三太にやらなきゃいいんじゃないのってハナシ」
「ああ」
金吾が頷く。なにをいまさら、とでもいわんばかりの表情を浮かべた。
「別に、いつもと特別なことはなにもしてないだろ。初等部の時と同じだよ」
「初等部の時の仲の良さが、ずーっと変わらず続いてるのがすげえってことだよ」
仲のいい1のはメンバーだって、初等部の時と今では、関係が少しずつ変化している。昔のようになにもかも一緒というわけにはいかない。ましてや男と女だし、成長しているのだから、当たり前のことだ。金吾はかがんで缶コーヒーを手に取りながら、「だって未だ子どもだから」と誰にともなく呟いた。
「だってまだ子どもなんだ。俺だって、これでいいのかなって時々思うけど、向こうが変わるのを許さないからさ」
この前の雨の日。金吾を待っていた喜三太はどこかふくれっ面だった。喜三太のリクエストで街のほうへ寄り道をして、ぶらぶらとふたりで歩いて、帰りに寄ったカフェで、喜三太は拗ねたみたいに怒った。
「なんで最近無視するの」
「誰が?僕が、喜三太を?」
喜三太はでっかいパフェを前に、むすっとした表情で頷く。
「気のせいだよ。僕は別に喜三太を・・・」
「この前、ひとりで、音楽室まで移動したもん。ぼく、乱太郎たちが、一緒にいこっていってたけど、断って、教室で、ひとりで待ってたんだよ。でも、金吾結局帰ってこなくて、ひとりで音楽室いっちゃったじゃない」
「だって、部活のミーティング、理科室だったんだよ?教室に帰ってくるより、そのまま行ったほうが近いから・・・」
金吾の口調に責める物言いはなかった。どこかいいわけじみた焦りが滲んでいるのを、彼自身が自覚していた。正論を主張しているほうがどこか慌てている、奇妙な会話だった。けれど、喜三太はみるみるうちにしゅんとして、すっかり肩を落としてしまったから、金吾も酷く慌てたのだ。結局、ごめんねごめんねって、なにがごめんなのか自分でもわからないまま何回も謝った。けれど喜三太は、元気なく、「もういいから」と呟いておしまいだった。「もう、いいから」
「喜三太もかわんねーよなあ」
団蔵が同意するように頷く。喜三太だけだ。いつまでも子ども体型で、恋愛事に興味も示さないで、毎日なめくじがどーだとかごはんがどーだとか。辛辣な表現を使えば、幼稚なのだ。金吾もこの間のやりとりを回想しながら、そう結論づけた。ひとりで教室で金吾を待ち続けたことを、金吾に責めてみても、それは結局のところ八つ当たりだ。でも、昔から手のかかる女の子ではあったけれど、こんなに、人を振り回すような困った言動をしていただろうか。時々、金吾には喜三太の考えることがわからない。それは、金吾が変わったということなのだろうか。
金吾はくさくさする気持ちで、缶コーヒーを飲み干した。


移動教室がある時は、いつも最後まで庄左ヱ門が教室に残る。戸締まりや消灯の点検をするためだ。その日の昼休みは、委員長会の招集があったから、庄左ヱ門はぎりぎりの時間を、委員長会室から走って教室まで戻った。消灯は終えてあったが、ぽつんと喜三太が立っているのに驚いた。
「喜三太、次移動教室だよ」
「うん」
「どうしたの、誰か待っているの?」
「金吾」
庄左ヱ門はしばらく考えて、いった。金吾が昼休みに部のミーティングに出ていることは把握している。
「ミーティングで理科室に呼び出されていたような・・・。音楽室に近いし、きっとそのまま行くんじゃないかな」
「・・・」
喜三太は頼りない風情でうなだれている。普段子どもっぽいのに、その一瞬が頭を垂れた百合のようで、庄左ヱ門は少し頬を赤くした。
「約束したの」
「してない」
「じゃあ、きっとそのまま行くんだよ。僕ももう移動するし、喜三太も一緒に行こう」
「やだ、待ってる」
喜三太が変なところでぐずるので、庄左ヱ門は困ったように首をかしげた。
「どうしたの、喜三太。何かあったの」
喜三太は、黙っていたが、しばらくして、ひぐっ、と変な具合に喉を鳴らした。下唇をかみしめると、そのままぼろぼろと大粒の涙を零した。掌が、ぎゅうっとスカートのひだを握りしめるので、変な具合に皺ができる。ひーっ、と喉を鳴らして喜三太は泣き始める。びいびいと泣き始めるクラスメイトに庄左ヱ門もびっくりして、金吾が普段しているみたいに、頭をぽんぽんと叩いた。年頃の女の子が泣くのを初めて見た。
「やだよう」
と喜三太がうめくように呟く。
「ばあちゃんが、お見合いするから村帰ってこいって。ぼくまだお見合いとか、・・・やだよう。行きたくないよう」
「ええっ!?」
喜三太が田舎の旧家の一人娘だということは聞いていた。庄左ヱ門は目を白黒させる。どうしたらいいか・・・言葉を探しあぐねている内に、喜三太はすんすんと鼻を啜りながらも泣きやんだ。
目をぱちぱちしばたかせている。
「泣いたらちょっとすっきりした。庄左ヱ門、びっくりさせてごめんね」
「う、ううん。それより喜三太、今の話だけど・・・」
「16になったら結婚するって、昔からばーちゃん言ってたの。ぼくらももう15だもんね。来年だもん。前からわかってたことなんだけど、なんかやだなーって思っただけ」
喜三太は照れ笑いして、ごしごし手の甲で涙の後を擦る。
「みんなには内緒ね」

とある雨の日

女体化1のは。


柔剣道場は体育館の裏にあって、日が当たらないからいつもどこか湿った日陰の匂いがしている。夏場の練習は、そうでなくても胴着は蒸すから、道場のドアはすっかり開け放した状態で行う。梅雨の時期は、ドアから、道場を取り囲むようにして植えられた紫陽花が見える。金吾はその風景を見るのが好きだった。ことに、雨がしとしと降っているなかで、青や紫や赤や、あるいは色のすっかり抜け落ちた白い鞠のような花がしっとりとそこに咲いているのを見ると、”艶やかな”という言葉はこれのためにあるのじゃないかとすら思う。
その日は土曜日で、学校は半日だった。中間テスト前で部活もなかったが、金吾は道場で一人素振りの練習をしていた。むしむしした空気も、練習に集中してしまうと全く気にならない。汗で濡れた髪が、ぺったりと肌に張り付く。その不快感すら、どこかに置いてけぼりで、金吾はただただまっすぐ前を見つめてただひたすらに竹刀を上げては振り下ろす。どれくらいそうしていたろうか、ふいに金吾は集中からとけて、ふと道場の開け放したドアの間から見える紫陽花に視線を送った。その垣根の間に、透明なビニール傘を広げて、喜三太が立っていた。
真っ赤なレインコートと、長靴。喜三太は傘を差すのがヘタだから、傘だけだとすぐびしょびしょに濡れてしまう。雨の日はレインコートと長靴も履きましょう、というのは、金吾が決めた約束だった。
「びっくりした。いつからそこにいたの」
「わかんない。金吾が練習してたときから、ずっと待ってた」
「なめくじの散歩させてたの?」
喜三太が腕に大事に抱きかかえている壺を見やる。喜三太が大きく一度頷いた。
「もう帰るから、待ってて」
「うん」
金吾は荷物だけまとめると、胴着のまま道場から出てきた。
「制服は?」
「胴着のが汗で濡れてるから、雨にはちょうどいいかと思って。このまま帰るよ」
「うん」
ふたりで並んで校門を出た。寮までの道とは違う方向を、喜三太が向いた。
「ねえ、遠回りしてかえろ」
「いいよ。街のほう行く?」
「うん」
それからふたりは、特に盛り上がる会話もなしに、とぼとぼと街のほうへ並んで歩いた。喜三太の歩幅は小さいから、金吾はわざとゆっくり歩く。
「喜三太、なめ壺があると他の荷物がじゃまだろ。持って上げるよ、貸してごらん」
「ううん、大丈夫。金吾のほうが荷物いっぱいだから」
金吾はまじめだから、学校に教科書を置いていったりしないので、鞄も重いのだ。金吾はそれなら、と喜三太の傘を取り上げて、自分の紳士用の黒い大きな傘を差し掛けた。「一緒に入りなよ」
つぶん、つぶん、と雨滴の音がする。金吾は隣を歩く、自分より少し小さい喜三太を見下ろす。可愛いな、と思う。

うつくしい人

ボーナスでたので、日頃のストレス発散に友達と散財しまくってたら思いついた話。

仙様女体化で文次郎といい感じ。・・・なのか?


ひらりと目の前で赤いワンピースの裾が翻った。シンプルな形のサマードレスだが、真っ赤な花のテキスタイルが目に眩しい。それは、仙蔵の背中に流した艶やかな黒髪と相まって、よく映えた。
「どうだ、文次郞」
試着室のカーテンを開けた仙蔵は、ひらりとワンピースの裾を揺らしてみせると、開口一番そういった。美しい顔には、余裕ぶった笑みが見える。「どうだ、似合うだろう?」とでも言いたげなその表情は、質問というよりは確認だ。仙蔵は、己が美しいことをよく知っている。そして、美しい己しか他人に見せない。だから、ただの試着であろうと、仙蔵が試着する商品を選び取ったときから、それは仙蔵によく似合っているに決まっているのだ。似合わないものを、仙蔵は絶対に試着して見せようとはしない。文次郎は、仙蔵のそういう隙のなさが苦手だ。大嫌いだといっていい。仙蔵は、世の中の何もかも、己の掌の上で転がそうとする。仙蔵は自分の意にそぐわないものや、自分の予想の範囲外のものが大嫌いなのだ。(だから、仙蔵にいつも斜め上のとんでもないトラブルを運んでくる厳禁コンビは、仙蔵にとってもはやアレルゲンといっていい。仙蔵が彼らを見つけたときの拒否反応といったら凄い。文次郎はいつも、それを見るたび胸が空くような思いがする)
文次郎は、絶対にこいつの恋人にはなりたくねえな、と思う。いつも思っている。仙蔵の恋人になるということは、仙蔵に首輪をつけられるのと同義だ。つまり、この陰険サディストの飼い犬になるということだ。それはよほどのマゾヒスト以外堪えられるまい。
「ああ、いいんじゃないか」
「さっきの青いワンピースとどっちがいい」
「んなもん、どっちでもいいさ」
お前の好きにしたらいいよ。文次郞は興味なさげに言い捨てる。お愛想笑いというよりは、仙蔵の美貌にすっかり夢中になっているらしい若い店員が、「お客様、どっちも本当にお似合いですっ!!」と横から妙に力説する。仙蔵は文次郞の脚を、パンプスを履いた脚でぐりぐりと踏みつける。
「どちらがよい、文次郞」
「あ・・・青のほうが・・・っましだった・・・!」
「なるほど。よかろう、それでは赤いほうをいただこうかな」
仙蔵は笑顔で店員を振り返る。ならきくんじゃねえよ、と文次郎は思うが、口に出すとまたパンプスが襲ってくるのだろう、黙って表情だけで悪態をついている。
仙蔵とショッピングというのも薄ら寒い話だ。買い物なんて女友達と行けよ、と文次郎は思う。実際、仙蔵が「お前、今日一日私の荷物持ちをしろ」という最低な誘い方で文次郞に声をかけてきたとき、そうやって断った。ところが仙蔵は、「うるさい、黙って付き合え」と高飛車な返事を返すばかり。文次郎が、いやだいやだとごねていると、仕舞いには拳やら蹴りやらが飛んでくる始末で、結局、暴力に負けて文次郎は荷物持ちをしている。
「やはりお前のアドバイスは参考になるな」
「なにがだ、ことごとく俺が指したのとは逆のものを選んでいくくせに」
文次郎のもっともな苦情を、仙蔵は妖艶な笑みで交わす。
「文次郞、私はきれいだと思うか」
「思うかもなにも、綺麗なんだろ。自分でそうしてるくせに、俺に聞くな」
「ふむ、質問を変えよう。では、お前の好みのタイプはなんだ」
「少なくともお前みたいなやつじゃない」
「はて、それはどういうやつだろう。・・・例えば、小平太」
「なんだと、馬鹿をいうんじゃねえ!恐ろしいやつと俺を組ませるなっ!」
ロマンチストのきらいがある文次郎は、部活帰りに牛丼3杯を平らげ、制服のスカートの下にジャージをはいてがはがはと大口開けて笑う小平太を、女として認めていない。だが、仙蔵は知っている。小平太が、彼女と恋仲にある長次の前では、はにかみやでしゅんと大人しくなることを。文次郎が鈍感でどうしようもない単純な男のだけなのだ。文次郎はことごとくセンスがなくて趣味が悪い。それは、彼は人に似合うものではなく、自分の好きなもので服を考えているからだ。
仙蔵は自分が青いドレスを着たときの姿を思い出して、ぞっとする。ただでさえ色の白い仙蔵が、真っ青なドレスを合わせるなど、顔色が悪く見えて仕方がない。最悪の組み合わせだ。青が似合うのは、本当は、
「お前が選んだあの青いドレス、伊作に似合いそうだったな。なあ、そうはおもわんか」
「知るか!そんなことなぜ俺にきく!」
文次郞は真っ赤になり、口から泡をふかんとばかりあわてふためく。滑稽なものだ。仙蔵は微笑む。
「知らん、何となくだ」
「何となくでそんなこというな」
「せっかく似合うのだし、買っていってやろうかな。なあ、文次郞、どう思う」
「知らん、好きにしろ」
「では、さきほどの店へ戻るぞ」
「面倒くさいものだ。服一着に行ったり来たりと」
「文次郎、あの青いドレス・・・お前が金を出せよ」
「はあっ!?お前が買おうといったのだろうが!」
「伊作に似合うと言ったのはお前だ」
「俺じゃねえお前だ!お前が勝手に言ったんだろうが!!」
通り過ぎる人たちが賑わしい男女連れを振り返っていく。
「恥ずかしいやつだな、文次郎、少しは黙れないのか」
「怒らせてるのはおまえだっ!」
ずんずんと元来た道を、店のほうへと引き返す文次郞の背中に、仙蔵は苦笑を向ける。お前の趣味を私に合わせるなよ、似合うわけなかろうが。お前はいつだってなんだって伊作に会うものばかり見わけようとする。
「だから、私からしたらお前のセンスが最悪なのは仕方のないことだな、文次郞?」

このサイトCPとかあんまり決まってません。申し訳ないです。

朝顔日記

久々知は頭いいし優秀なんだけど、忍務以外だと肝心なところでたいへんお馬鹿そうだという思いこみによる妄想。


愛することに慣れていないし、愛されることにも慣れていない。


「朝顔ですか」
タカ丸が浴衣姿で団扇を仰ぎながら、長屋から続く中庭にしゃがみ込んでいる。久々知が覗き込むと、ちいさな鉢にちょこんと緑色した双葉が見えた。タカ丸はそれを眺めてにこにこしているのだった。
「そう、一年生の授業での課題なんだ~」
植物の成長過程も忍びにとって重要な知識である。久々知は頷いた。タカ丸は笑顔のまま首を傾ける。
「兵助もやった?懐かしい?」
「やりましたよ。懐かしいです。俺はこういうのは苦手だから、苦労させられた」
「え、兵助にも苦手なんてあるの!?」
タカ丸の驚きに、久々知は心外そうに苦々しく眉を顰める。
「ありますよ、俺にだって苦手のひとつやふたつ。当たり前でしょう」
「ごめ~ん。だってさ、わりに器用で何でもできるじゃない?だから、」
「何かを育てたり面倒見たり、そういう慈しむようなのって苦手なんです。やり方がよくわからないから」
「やり方なんていいんじゃない?ただ、大好きだよ~って思って接してれば伝わるものだと思うけど」
無邪気にアドヴァイスをくれるタカ丸に、久々知はさして表情も変えず、さらりと「そうですね」と同調する返事を返した。タカ丸のアドヴァイスが心に響いたわけでもなく、しかし、さして反論する興味もないらしい。これ以上この話を深める気はない、そんな拒絶が伝わってくるような態度だった。タカ丸は、愉快な話題でもないのだろうと気を遣い、すぐに話題を変えた。

その十日後に朝顔が花を咲かせた。タカ丸は手を叩いて喜んだが、葉の色が黄色っぽくなっていることに気がついて、久々知に相談した。久々知は、指で葉を撫でると、「俺よりも竹谷のほうが適当だろうから」と、竹谷を呼んできた。
「ああ、水のやり過ぎですね」
「え、そーなの?花が咲いたから、その分いっぱい水がいるかと思って、俺・・・」
「ちょっと土が乾いてるくらいがちょうどいいんですよ。2、3日ほうっといてください。それから水をやったら、こいつ、ぐんぐん水飲みますよ」
毎日水をやって、可愛がりすぎたのだとタカ丸が反省した調子で言うと、竹谷が「気持ちはわかります」と笑う。「でもこいつも、生きてるから。生きてるやつってみんな、すげえ丈夫で強いから。だから、過保護にされると逆に調子狂って駄目になっちゃうんです。天気って、毎日雨降るわけじゃないでしょう?晴れのほうが多いくらいでしょう。だから、花だって、あんまり水飲まない方が生きてけるようになってるんですよ」
「なるほどねえ」
しみじみと頷くタカ丸の隣で、久々知は黙って冷たい茶を飲んでいる。久々知は一年の頃、課題の朝顔を枯らした。結局、合格はもらえないままだった。久々知は朝顔が好きだった。大好きだから、いっぱい花を咲かせて欲しいと思って、毎日水をやった。いつも鉢からあふれるくらい、水をやっていた。喉が渇いたらかわいそうだと思っていた。大雨の降る日にも、水をやった。ひしゃくですくっては、雨水であふれかえる鉢にさらに水をやった。
「元気出せ、大きくなれよ」って、枯れてしまった花に、優しい言葉をかけ続けた。あのときからすでに久々知は間違えている。でも、何が間違っているのかよくわからない。愛し方がわからない。動物の世話も植物の育成も、久々知はいつだってさんざんの成績だ。きれいに咲けよ、元気に育てよという願いならば、いつだって抱いているのに。

竹谷が帰ってから、タカ丸が久々知に肩を寄せてきた。夏の夕方だが、その日はいつもより涼しかった。
「へへ、ちょっと肌寒いから、暖取りだよ」
「掛布でも持ってきましょうか」
「ううん。兵助がいればいい」
タカ丸は白くほっそりした指で、久々知の、年齢の割にごつごつした指を撫でる。この節くれ立った、美しいとは言い難い隆起の激しい指は、そのまま久々知の人生だ。
「朝顔、回復しそうでよかったですね」
「うん。竹谷くんすごいねー」
「あいつは、いい男です」
友を誉められて嬉しかったのか、久々知の頬がかすかに緩む。タカ丸が微笑んで応える。久々知の視線が、不意にまっすぐひたむきにタカ丸を捉えた。指が持ち上がり、タカ丸の傷ひとつない滑らかな肌を滑る。
「・・・あなたのことを、上手く愛せるかな」
タカ丸はきょとんとした。しかし、久々知の瞳の奥にどことなく臆病の色が見えて、可笑しくて、可愛くて、少し笑った。
「大丈夫だよ。俺、花じゃないし。それに、ずっとずっと、しぶといもの。こう見えても兵助よりお兄さんなんだよ。・・・ね?」
言い聞かせるような、子どもに向かうような態度に、兵助の頬に種がさす。
その夜、久々知ははじめてタカ丸を抱いた。顔を真っ赤にして、呼吸を乱すタカ丸に、久々知まで苦しくなった。泣きながら久々知に貫かれるタカ丸を見ながら、この愛し方は正しいのかとすら思った。久々知は、快楽に腰をすすめながらも、何度も、謝っていた。
ごめんなさい、ごめんなさい。俺、あなたのこと好きなのに、大切にしたいのに、こんなふうな、泣かせるような愛し方しか知らなくて、ごめんなさい。

竹谷と出会ったばかりの頃、兵助は、竹谷からもらったひよこが嬉しくて、抱きしめて眠った。翌朝、自分の身体でひよこをつぶしてしまった。久々知は、かつてないくらい、生きたなかで後にも先にもないくらい、激しく泣いた。
「ひよ、ひよ、ひっ、ひよ、ひっひっ、ひよ」
「兵助、もう泣かなくていいよ。ひよこはもう埋めたから、きっともう成仏したよ。兵助のこと恨んだりもしてないさ。やさしいひよこだったもの」
「ひよ、ひよ、うえええ~」
「兵助はひよこが好きで、大好きだから、一緒に寝たかっただけだもんな」
「はっちゃ、ごめ、ごめんねえ」
「おれも怒ってないよ。だっておれ、ひよこと同じくらい、兵助のこと好きだもんなあ」

ふっと夜中に目が覚めて、自分の手が誰かを抱きしめていることにぎょっとした。久々知は何かを寝所に入れるのが、あれからずっと苦手だ。目を見張ったら、タカ丸だった。馬鹿なことだと思いながらも、不安に駆られて、彼の心音を確認する。とくん、とくん・・・生きてる。
(大丈夫だ、つぶしてない)
それから兵助は、なぜだか鼻の奥がつんとして、慌てて目を閉じた。鼻腔が、朝の冷たい空気にさらされて、兵助の気持ちを和らげる。ごめんな、ひよこ。タカ丸さんが丈夫でよかった。おれ、今度こそ、大切にしよう。タカ丸さんのこと、大切に大切に、愛そう。間違ったところがあったら、はっちゃんに叱って貰って、今度こそ、俺は。
夢うつつの兵助の耳元で、朝顔の花の開く音がした。

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