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真夏の夜の夢

02 スイカ(タカ丸女体化の綾タカ?)


ほんとに偶然、街で会った。
新しいデジカメが欲しくなってぶらぶらと秋葉原を歩いていたら、大きな電器屋の店先で名前を呼ばれた。びっくりして立ち止まったら、綾部だった。でたばかりのipodの新バージョンを試していたところらしく、イヤフォンを外しながら、「久しぶりですね」と軽く頭を下げられた。相変わらずの能面だったが、相変わらずの美少年だった。ふわふわの髪を軽くセットして、白のジーンズに藤色のシャツ。堅すぎないフォーマルな装いに、タカ丸はすぐに気がついた。
「あ、今日何かあるの」
綾部は少し驚いたように眉を上げて、「なんにもないですよ」と応えた。
「え、でも、ちょっと格好がフォーマルっぽかったから・・・」
「さすがですね、タカ丸さん。本当は、ありますよ、“何か”。なんだと思います」
「え・・・なんだろ、コンサートとか」
「当たりです。滝夜叉丸のヴァイオリンのコンサートです」
「え、すごい!滝夜叉丸、ヴァイオリン習ってるの」
タカ丸の瞳が少し開かれて、瞳がきらきらと輝く。白い頬にさっと赤みが上った。薄くファンデーションが塗られているのだろう、ルースパウダーもはたいているのか、少し肌がきらめいて見えた。長い手足に折れそうな細いからだ。そのくせ胸はしっかりと育っている、完璧なモデル体系だった。金の薔薇の縁取りが施された白いフレアスカートに、オリーブ色のニット。シャンパンゴールドのエナメルのミュール。同級生よりは明らかに大人の女の装いだった。
家が金持ちなのだという。白く細長い指にはネックレスとおそろいで嫌味にならない程度に真珠があしらわれたリングがはめられていた。学生が持っていいものじゃない。だが、彼女をより美しく見せていた。安いアクセサリショップで買えるようなアイテムでは、タカ丸の美貌をうまく飾れないのだろうと綾部は思った。
「時間が空いているなら、一緒に行きますか」
「え、今から」
「18時からです」
「行きたいな、行こうかな」
タカ丸はバッグから携帯を取り出すと、おもむろに電話をかけ始めた。相手はどうやら父親のようで、これから同級生のコンサートに行くのだとはしゃいだ声で告げていた。
「だからね、父さん、夕飯は一人で食べてね。ごめんね。・・・え、だめよう、それは一人で飲んだら。一緒に飲むっていったじゃん。あ、そうか、だったら私、帰りにチーズ買ってくるね。ブルーチーズでいい?・・・ふふ、楽しみ。じゃあね」
父子家庭だといつかに聞いた。本人の口からだったような気がする。今の口調からして、父親がとても好きなのだろうことが知れた。携帯を閉まって、タカ丸が振り返った。
「まだ六時まで少し時間があるね」
「どっかカフェでも入ります?」
「うん。あ、でもその前に、ショッピングに付き合ってもらっていい?この格好でコンサート行くのはあんまりだから、ショールでも買って少しまともにしておかないと」
タカ丸が言うほどおかしいとも感じなかったが、タカ丸はコンサートに行くにしてはラフすぎると気に病んでいるようだった。
「いいですよ、付き合います」
山の手線に乗って、新宿か、品川か。適当に場所を移動することにした。並んで立つと、タカ丸のほうが頭ひとつぶんほど高かった。タカ丸と懇意にしている5年の久々知兵助は、タカ丸より少し背が高い。思い出して、綾部は下唇を噛んだ。くだらないことにまで嫉妬している。愚かだという自覚はもちろんあった。
ふたりして電車に揺られながら、些細な話をいっぱいした。
「綾部も東京の人なの」
「違いますよ。わざわざ出てきたんです」
「滝夜叉丸のコンサートのために?仲がいいんだね」
「っていうか、」
タカ丸がうつむいた。白いうなじが綾部の眼前にぐいっと迫って、綾部は思わず息を呑んだ。半月に切られた西瓜かメロンのように、食いついてしまいたいと思う。噛むといっぱいの水気が出る気がした。そうしてその汁は少し甘くてよく冷えているのだろう。そんな想像をしているうちに、電車は目的の駅で止まった。「ここだよ、」とタカ丸が足を進める。
むわりとした空気が二人を包んだ。タカ丸に従ってついてゆくと、大きなデパートについた。連れてこられた店は品のいい、いかにもタカ丸の好きそうなデザインのものばかりが並んでいて、ここのブランドが好きなのだとタカ丸ははにかむようにして微笑った。
話をしながらディスプレイを見て回ったら、いい時間になってしまった。タカ丸はとっくに買うものを決めていたらしく、ミュールによく合う色のショールを選び取って身体に巻きつけた。
「どう、変じゃない」
「似合いますよ」
綾部は普段から表情に色がない。あっさりと言い放ってもタカ丸は気にしないふうだったが、横で店員が苦笑した。よくお似合いです、そのまま来て行かれますか。にっこりと微笑む店員に、そうですね、とタカ丸が頷くと、値札をお取りしますと身を翻しレジのほうへ向かっていく。それを待つ間に、綾部がショールについたままの値札をひょいと指でつまみあげた。それはちょうどタカ丸のうなじのあたりについていた。綾部はそのまま値札を引っ張ると、歯で噛み切ってしまった。
驚いたタカ丸が振り返る。
「こっちのほうが楽でいい」
「びっくりした」
綾部は噛み切ってはずした値札を無言で店員に渡す。貴族のような仕草だと店員は思った。
「さあ、本当に時間です。行きましょう」
「ごめんね、思わぬ時間を使ってしまったみたいで」
「気にしないでください」
綾部は店から出ると片手を挙げてタクシーを呼び止めた。ホールの名前を短く告げると、あ、と思い出したようにポケットを探った。しゃらっと金に光る細身のブレスレットが出てきた。
「綺麗ね、どうしたの、それ」
「あげます」
「え、でも、」
「今日の格好には似合いませんか。少しごてごてするかな」
「ううん、悪くないと思う」
「じゃあどうぞ」
「いつ買ったの」
綾部は無言で視線を泳がせた。返答を考えているようだった。タクシーの窓には、白んだ街に東京の街並みが流れてゆく。
「魔法で出したんです」
タカ丸はくすりと笑ってしまった。つかみどころのない美少年の、こういうところがタカ丸は好きだった。
「素敵なこたえ」
「お気に召しましたか、お姫様」
「はい、とても」
綾部がうっすらと微笑んだ。白いかたちのよい頬に桃色が広がって、美しかった。タクシーが止まった。タカ丸が降りている間に、綾部は誰かに携帯で連絡を取ったようだった。まもなく、ふたりの前に滝夜叉丸が現れた。藤色のドレスが上品でよく似合っていた。彼女はひどく怒っているようだったが、タカ丸を見ると、微笑んで深く頭を下げた。
「お久しぶりです」
「どうも。今日はコンサートだときいて」
「ええ、そうです。私と、そこの阿呆も」
「え」
滝夜叉丸がタカ丸の隣に立つ綾部を示した。タカ丸が振り返る。綾部は相変わらずのぼんやりした表情で、
「サボろうと思って秋葉原にいたんです」
と告白した。滝夜叉丸がひどく眼を吊り上げて怒ったように言った。
「サボるといったり、やっぱり弾くといったり、なんなんだお前は」
「俺のヴァイオリンどこ」
「控え室に運んである」
「あっそ」
「あっそじゃないだろーうッ!」
綾部はタカ丸に礼をすると、そのまますたすたとビルへと去ってしまおうとする。呆然とするタカ丸を振り返って、「あ、そうだ。俺、がんばりますね」と挨拶した。やっぱりいつもの無表情だった。
「不愉快なやつだ」
ぶつぶつと呟く滝夜叉丸を隣に、タカ丸は、魔法にでもかけられたような面持ちでぱちくりと瞬きを繰り返し、それから堪えきれずちょっと笑った。
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プラトニックゲーム

01 夏休み最初の朝

竹谷にょたいかで、ほんのりくく竹。意味のわからん話。


だから早く告白しろっていったじゃん。
耳元で誰かの声がした。久々知かな、三郎かな。恥ずかしすぎて情けなさ過ぎて誰にも言えんわ、あーなにこれ。涙でそう。なんか鼻の奥ツンてするんですけど。でもここで泣くと本気ダサいので絶対我慢する。ここでぽろっと涙流して身を翻して駆け出す、とか、前に雷蔵から借りた漫画にあったけど雷蔵ならともかく俺がそれやると絶対キモいし。っていうか留兄追ってこないだろうし。だから笑え、俺、超可愛いスマイルしろ。笑え、表情筋よ、動け、おらに力を!スマーイル!笑え、笑えってば、笑えよこのやろう。ほら、昨日笑金で爆笑したあのネタ思い出せ。るねっさーんす!あー、あは、いいぞーこの感じだ。何も考えるな。無だ、悟りを開け、ハチ。この世の惨めで情けない俺を哀れに思うな全力尽くして笑うのだ。笑い飛ばしてやるのだ!
「あっは、留兄偶然じゃーん!」
言ってからしまったと思った。偶然も何もここ留兄の家の前だぜ。否がおうにも絶対合うっつーの。っていうか俺会いにきたこともろバレじゃん。ちっくしょ、こんなだったら借りてたジャンプ持ってくるんだった。そんで、それ返したことにしてさ、そしたら自然な感じなのに。留兄超びびった顔してんじゃん。うう、申し訳ないなあ~。伊作先輩も超びびっただろうなあ。だけどさ、家の前で抱きしめあうことないじゃん。ご近所の人びっくりしちゃうでしょ。いちゃつくなら隠れていちゃつけっつうの。
「伊作先輩もこんにちわー。いい天気っすねえ!あはは、あたしですか、あ、あのー、あれです、留兄に、じゃねえや、あの、食満先輩にその、ジャンプを借りててですね、返そうと思ってきたんでーす。でも、聞いてください、これ笑い話なんですけど、ジャンプ家に忘れてきちゃったんすよう、あはは、ドジだー。やだなあ、驚いた顔してえ、どうしたんですか、スマイルでいきましょうよスマイルで♪あ、もしかしてこれからふたりデートかなんかですかあ、いいなあ、うらやましい~。なんちゃってー。あ、じゃあ、俺そろそろ帰りますんで、どうも失礼しましたー」
なんて空笑いで方向転換。やった、よくやったぞ俺。ナイススマイル。したら今度は全力疾走だ、唸れ俺のミラクルフット、逃げてみしょうぞどこまでも。
なッさけない終わりだった。驚くほどなっさけない終わり方でハチの長い片思いは終わった。
 
 
その日ハチが履いていたのは某ブランドのミニのフレアスカートで、ジーンズ地にレースの縁取りがしてあって、スポーティーななかにちょっとしたガーリーさを取り入れたこの夏の新作だった。という説明は、スカートを選んでくれたタカ丸さんがしてくれた。ハチは黙って履いては脱いでを繰り返してただけだ。
「やっぱスカートはやめとく・・・着る機会ないし、似合わないし」
おじけるハチの背中を押してくれたのは雷蔵だ。可愛いよ、ハチ。ハチなら絶対大丈夫だって。ああもう、なんなのこの天使。三郎がメロメロのわけがわかるわよ。タカ丸さんもきらっきらの笑顔を見せて、がんばってね、と微笑む。すごいな、100万ボルトのその微笑。なんちゅうボルト数っすか。街を歩けば人々が振り返り、モデルの勧誘にナンパに声かけられまくりの超美人。兵助がとち狂って恋に溺れたのもよくわかる。ハチはいままで宗教の勧誘と布団のキャッチセールスにしか呼び止められたことはない。
もっと早く告白しとけばよかったよな。
いまさら言ってもほんとにしょうのない話だ。思い立ったが吉日なんて、所詮は慣用句だ。ハチの場合、思い立ったが手遅れで、長年の思い人である食満にところにせいぜい可愛い格好でもして告白しようと勇んできてみれば、食満は学園では美男美女カップと名高い伊作と熱い抱擁を交わしていたという究極のオチだった。
ハチは泣くのを我慢したまま雷蔵の家に飛び込んだ。優しいママさんが、あら、サブちゃんも来てるわよと微笑んで、リンゴジュースをグラスに注いで持たせてくれた。鼻を啜りながら、もうほとんど決壊寸前になった瞳で雷蔵の部屋のドアを開けたら、雷蔵はベッドの上に倒れて、チェックのノースリーブシャツを腹からたくし上げられて、真夏の生ぬるい空気に素肌をさらして、上から圧し掛かった三郎に乳首を齧られていた。
「すいませんでしたあー!」
なんだあれなんだあれなんだあれ。涙も引っ込んだわ。慌てて雷蔵の家から飛び出す。背中から「三郎、馬鹿!この野郎!ぶん殴ってやる!」という雷蔵の怒鳴り声が聞こえたが、ハチは振り返らなかった。「なんで俺が悪いの、合意の上じゃん!不慮の事故じゃん!」と三郎の泣き声も聞こえたが、ハチは気にも留めなかった。ひいひいと咽喉で嗚咽をかみ殺しながら、今度は失敗がないように兵助に電話する。ワンコールで出た。
「兵助んち行っていい?」
「おう、こい、ハチ」
返事は短かった。ハチは兵助の家に行くまで我慢と思って、嗚咽を飲み込んで鼻を啜って涙を振り払って走った。兵助の住む一人暮らし用おんぼろアパートの扉を今度はノック付で開いたら、兵助は一升瓶を抱えてたこのように顔を赤くして酒を飲んでいた。
「男はつらいよ」
「へあ?」
「ひっく、女がなんだってんだ。たった一人の男がなんだってんだ。年下は頼りないかよ馬鹿やろう、だーあから、泣くくらいならあんな男やめちまって俺にしろって言ったんだよ、タカ丸さあん」
酒臭い軟体動物がぎゅうぎゅうしがみ付いてくる。兵助もどうやら辛いことがあったらしい。つらい恋をしているのだ。ハチは兵助を抱きしめて、一緒に畳みの上に転がった。古いい草が背中に刺さって痛かった。
「兵助、おれ、ふられた」
「俺もふられた」
くすん、とハチは鼻を鳴らした。くすん、と兵助も鼻を鳴らした。
「ハチ、なあ、キスしようぜ」
「友達はキスなんてしないんだぞ」
「そんな馬鹿なこと誰が言ったんだ。ここに連れて来い、俺が説教しちゃる」
兵助の舌がべろんとハチの首筋を舐めた。ひゃ、とハチは身を竦めて、兵助を強く抱きしめた。兵助の指がハチのキャミをたくし上げた。イエローのチェックのブラが露になった。一応勝負ブラなのだが、色気がないなあと他人のごとく思った。兵助は酔っ払ったまま、ブラの上から乳を揉んだ。
「ちいさくて揉みにくいな」
「うっせーな」
「ハチ、」
「なに」
「こういうときだから名前のひとつでも呼んだほうが良いのかと」
「じゃ、好きだって言ってくれ」
「好きだ」
兵助の声と、近くを走る総武線の音が見事重なった。ゴゴン、ゴゴンと重い音を立てて電車が走り抜けていく。電車から見えてしまう、と思ってハチは恥ずかしがって身をよじった。兵助がカーテンを閉めようと立ち上がった。部屋の隅に転がっていたハチの携帯がぴるぴると鳴った。兵助が拾い上げた。シャツから透けてわかる身体のラインが、見たことのない男のもののようで、ハチは視線をそらした。
「誰から?」
「食満先輩。どうする?」
「出たくない」
「俺でようか、」
兵助は答えのないうちにハチの携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし、俺ですけど。俺って、久々知ですけど。ハチに何の用ですか。え、なんで俺がハチの携帯に出るか?いいじゃないですか、そんなこと先輩には関係ないでしょう、・・・なんだと!?じゃあ言わせて貰いますけどね、あんたハチのことどう思ってるんですか、泣かせといて大切なとかよくいいまあすよほんと。誤解?誤解ってなんだ、だいたいあんたは」
部屋に転がっていた兵助の携帯も鳴り始めた。めんどくさがって着信も初期設定のチャイム音で終わらせているようなやつが、なんの心変わりだか、星に願いをなんてロマンチックな曲に設定しているんだから笑える。「兵助、電話」とハチは声をかけたけれども、へべれけの兵助は食満との電話越しの喧嘩に夢中だった。
コールは留守電に切り替わった。ピーという発信音のあとに、流れたのは綺麗な綺麗な年上の後輩さんの声だった。
「あのね、久々知、くん、さっきはごめんなさい。えと、優ちゃんのことは私がこだわっているだけなので、ほんとに優ちゃんは悪くないっていうか、・・・あ、そういうことが本題じゃなくて、あの、私のために本気で怒ってくれたりとか泣いてくれたりとかしてありがと。怒るのも泣くのもすごく体力がいるので、それをしてくれるひとって、ほんとに、その人のことが好きな人だと思う。あの、私をすきっていってくれて、ありがと」
ずるい人だな、と思う。こんな言葉聞かされたら、生殺しだ。いつまでたったって諦めきれない。どこかたどたどしいような言い方がかわいらしかった。兵助がつくづく羨ましくて、かわいそうだ。
「兵助、携帯かして」
怒鳴っている兵助の肩越しに、ハチは携帯を取り上げると、なにやらわめいているふうの食満に向かってはっきりと言ってやった。
「やっぱり好きです、付き合ってください。オッケーなら兵助んちにいるから迎えに来て」
携帯の向こうで食満が何かをポツリと呟いたようだった。ただしハチはそれを聞かずにぱくんと携帯を閉じた。兵助がきょとんとハチを見ていた。ハチが笑った。
「駄目だ、兵助。叶わない恋でも、辛い恋でもさ、逃げたら駄目だ。がんばろう。俺たちがどんだけ好きか、見せつけてやろう」
携帯はブラックアウトして切られていた。さて、どうなるか。だめでもいい。次のチャンスまで待とうと思う。一度きりの遠ざかりで、失ったとは思わない。続いている。続いている。続いてる、どちらともがやめないかぎり、まだ恋は続いてる。

日はまた昇る

ごめん・・・女体化じゃ・・・ない。
部活ものといったらこいつらだろ!

27 最後の試合(三之助と小平太)


最後の大会だった。
俺らの実力じゃせいぜいが地区大会どまりで、全国なんて目指せるはずもないと知れていたけれど、それでも俺が入部したころから毎日のように全国全国って言ってる先輩をどうにか行けるところまで行かしてやりたくて、俺はその夏、必死だった。
「もう動けないです」
ウーロン茶を一口で飲み干して、金吾は行儀よく呟いた。動けないっす!とか、体育会系らしく言えばいいのに、育ちのいいらしい後輩はいつも丁寧なしゃべり方をする。
部活のあと、俺は大概後輩を連れて帰り道のファミレスに寄った。そうしてそこで、ドリンクバーとシーフードピラフを奢った。シーフードピラフは、メニューの中じゃ一番量があって比較的値段が安い。どうせ育ち盛りの男たちなんか、飯の味なんてなにもわかっちゃいないのだ。
俺が飯を奢るのにはわけがあった。それは、情けないけれども、キツい先輩のしごきから後輩たちを逃げ出させないようにするためだった。先輩は技術があるから、出来の悪い俺たち相手に練習しているとどうしてもカッカするのだろう、練習も後半になってくると疲れてだれてきた俺たち相手に顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「全国いきたくねーのかお前ら!」
先輩がもといた中学は、中学バレーのトップ校で、それこそ、全国なんて当たり前。一位二位を争っていた有名校だったというから、地区大会に出場決定するだけで諸手を挙げて喜ぶような俺たちを率いて、フラストレーションが溜まることはこの上ないだろう。はじめから意識が違うのだ。
先輩が男子バレーの部長になってから、
「俺、部活やめます」
と言いにきた部員は後を絶たなかった。俺と一緒に男バレに入ったはずの同級生も、先輩が部長に決まるだろう噂が流れた春に逃げるようにして部をやめた。今じゃ二年は俺のほかに数人いるだけだ。俺も何度かやめようと思った。部活は全員強制されているこの学校で、男バレを選んだのは、あらゆる運動部の中で一番弱かったから練習もきつくないだろうと思ったからだった。
俺が入ったとき、先輩はイッコ上の二年生で、弱いだらだらした部活のなかで、先輩だけが吠えていた。もっと走れとか、だらけんな、とか、負けたくねーのか!とか。俺たちはそれを背中で受けながら、やっぱりとろとろと走って、「勝ちたきゃ別のガッコ行け、だよなあ」とか零していた。
俺は、みんなが辞めて行くなかで、辞めるタイミングを逃した、いわばトロ組だった。
金吾は家が剣道の道場らしい。うちの学校でもやっぱり剣道部に入るつもりだったらしいが、うちに剣道部はない。親は帰宅部にして、道場での練習に精を出せといったらしいが、部活は強制されているからそれも適わない。だったら一番練習量が少ないという男バレを、と思って選んだのだという。俺たちの部のなかでは筋のいいほうで、先輩から愛されていた。金吾は、年上に気も使えるいい少年だった。
「今年は先輩、いつも以上に張り切ってるんですね」
「ああ、まあ、先輩今年で卒業だからなあ」
なっちゃんを啜りながら頷く俺に、金吾はにやにやと笑う。
「ちがいます。七松先輩もそうですけど、それ以上に次屋先輩が」
「え、俺?」
「すごく張り切っておられますよね」
 
 
部活に残された俺は、参ったなあ、と頭を掻くしかなかった。まあ、半年たったら七松先輩は部活を辞めるし、それまでの辛抱だとだらだら部活に顔を出した。4月の中旬になると新人勧誘が始まって、俺は『男バレでいい汗流そう!』と書かれたプラカードを首から提げて、やっぱりだらだらと新人の間を歩いていた。練習量は少ないよ、俺らの部活弱いから。先輩もやさしー人ばっかだよ、なんて適当な一年生に声をかけていく。そんな声かけだから、集まるのもやる気のなさそうなやつらばっかりだった。明らかに腕のありそうなやつとかは、最初ッから野球部やらバスケ部やらに遠慮して声をかけなかった。それは暗黙のルールになっていた。
そんななかで、先輩だけが能力のありそうな新人に勇んで声をかけていた。先輩が腕を引いていたのは加藤団蔵という一年生で、そいつは中学のときからサッカーがずば抜けてうまいってんで有名なやつだった。
「バレーやらない?」
と先輩が声をかけたとき、どうやら高校ではサッカー以外もやってみたいと思っていたらしい団蔵が、「面白そう」と呟いたことで騒ぎは起こった。最初ッから団蔵を入れるつもりだったサッカー部が、団蔵を無理に言い包めたとかで、先輩に文句を言い始めたのだ。
「なんだよ、やりたいっていったのは本人だぞ!」
騒ぎのなかでよく通る先輩の声だけが憮然としていた。俺たち男バレメンバーは「部長空気読めよなあ」「恥ずかしいよ」なんて頭を抱えてた。俺も知らん振りしたいと輪のはずれでしゃがみ込んでいた。けれど、ぽつんと誰かの呟きが聞こえたのだった。
「小平太、お前調子に乗るなよ。中学で怪我して、使えなくなって学校捨てられたお前がさ。こんなところまで流されて何ひとりでがんばってんの」
そう、俺は知らなかったのだ。先輩が足首を悪くしてから、高校男バレのトップ校への推薦内定を先方から打ち切られていたこと。そうして、こんな僻地まで流されていたこと。
先輩は勝気で負けず嫌いでプライドが高いから、そんなことを言おうものなら掴みかかってぶん殴るだろうとひやひやした。だけど先輩はいつまでたってもそこを動かず、黙って突っ立って、言ったやつを睨みつけているだけだった。首輪につながれたライオンみたいだった。怒鳴りつけるべき唇は歯噛みして罵声を飲み込んでいて、打ち付けるべき拳はグッと衝動を握りこんで耐えていた。俺は何故だか居た堪れなくなって、「そこの一年坊主が自分で言ったんだよッ!」と先輩相手に啖呵を切っていた。
生意気だというんで、帰り道に伸された。部長のきつい練習のあとでくたくただった身体は、先輩からの拳を受けて一発でKOされた。体中に蹴りやら拳やらを叩き込まれながら、あーわりにあわねえなあとか遠ざかっていく頭で考えていた。翌日は学校を休んだ。怪我がひどくて熱が出たのだ。夕方になって先輩が自宅を訪れて、ジャージ姿のままで、「すまん!」と俺に頭を下げた。
「部活の帰りにわざわざ来てくれたんすか」
「わざわざっていうか、」
「着替えもしないでそのまま」
「あー、っていうか、ジャージなのは返り血がついてもいいようにってだけだから、気にとかすんな」
「え、返り血?」
「あ、なんでもない。あいつらには謝っとけって言っておいたから」
言っておいた、とは言うが、おそらくは肉体言語だろう。先輩の赤く腫れた右手を見つけて、俺はなんだか笑い出したくなった。先輩に関して初めて、明るい笑いが零れそうになっていた。
「あのときは暴力耐えてたんじゃなかったんすか」
「今回のは、お前の仕返しだから良いんだよ」
俺は先輩を駅まで送っていった。熱はもう下がっていた。夕日がきらきらと川べりを輝かせている中で、先輩はゆっくり歩きながら、昔のことを話してくれた。ひとりの神童が、何の因果でか足を悪くして、みんなからいらないといわれて捨てられたひとつのよくある話を。
俺はそれから、何でだか「全国を目指そう」と思った。全国なんていけるわけない。だけど、上れるだけ上へ上ろう、と思った。高みへ連れてきたい人ができた。ちやほやされ続けた上に、お前なんてもういらないとみんなから背を向けられた孤独なもとヒーロー。
帰りに金吾とブックオフに寄った。スラダンだのキャプ翼だのを捲りながら、「男バレにもこういう名作があったらなー。うちの部員にやる気が起こるかもしれないのに」と呟いたら、横で金吾が笑った。
「先輩、やる気ですね」
「ま、でも、やってるこたみみっちいよ。スポ根漫画じゃさ、こういうとき、俺が華麗にランク高い技でも見せてさ“お前ら俺についてこいや”ぐらいいってんのに、現実はファミレスで飯奢って、なんとか辞めるな辞めるなって拝んでんだもんなあ」
かっこ悪いよ、と呟く俺に金吾はまじめな顔で、「いいえ、かっこいいです」と言ってくれた。やっぱりこいつはまれに見るいい後輩だ。
 
地区大会で奇跡が起こった。うちの部活が決勝まで残ったのだ。俺は勇んで、金吾と手を取り合って喜んだ。決勝試合の前日、練習が終わっても先輩はなかなか体育館から去らなかった。俺は付き合おうと思って、先輩のぶんのスポーツドリンクを買って体育館に戻った。先輩、やったっすね!そういったら、笑顔で先輩は頷いてくれるだろうと思った。
けれど、どうも様子が違うようだった。
俺が体育館に帰ると、先輩はバレーボールを転がしたまま体育館の中央でぼんやり座っていた。体育座りに背中を丸めて顔を伏せているから、泣いているのかとひやりとした。
「ど、どーしたんすか」
声をかけたら、先輩が顔を上げた。
「三之助、」
スポーツドリンクを差し出した俺の腕ごと、先輩はぎゅっとそれを掴んだ。
「どうしよう、明日負ける」
「どうしたんですか、足が痛むんですか」
「うちの実力なんて俺が一番よく自覚してるよ。運よくここまできたけど、明日はもう、絶対負ける」
「テンション下がることいわないでくださいよ」
「昨日偶然昔の仲間に会ってさ、中学時代の親友で、もちろんそいつも決勝決めてとっくに全国行きの切符手にしてるんだけど、うちが決勝まで残ったの知っててさ、まだがんばってたんだなって笑うんだ。まだがんばってたんだな、またやれたらいいよな、がんばれよって笑うんだ」
俺は何も言えなかった。先輩の痛みは、理解ってやるだけで一緒に感じることはどうしてって出来ないから。
「そいつはただ励ましてくれただけかも知んないけど、俺は岩で頭ぶん殴られたような気がしたよ。ばっかじゃねえの、って笑われてるのかと思った。全国全国っていってりゃ、捨てられた未来の尻尾にまだ掴まっていられるような気がしてさ、もう全国目指せる昔の七松小平太なんてどこにもいないのに、ひとりでずっと騒いでる。三之助、俺怖いよ。明日負けて、夢から覚めるのが怖いよ」
先輩が顔を上げてまっすぐ俺を見た。その視線が縋るようで、だけど俺は何も言えなかった。
先輩が口を開いた。
「三之助、俺に諦めろって言え。お前じゃ全国なんて行けないよ、とっとと惨めな夢なんか捨てちまえって言え」
先輩は明日の試合を最後の試合にする気なのだ。俺は、今までの先輩をずっと思い出していた。まだ俺が入りたての頃。弱小の部活で、ひとりだけ「勝とうぜ、全国行こうぜ」って吠え続けてた。みんなから笑われていた、空気の読めない、馬鹿みたいな先輩。どんな気持ちで笑われてたんだ。周りと一緒に夢から覚められない自分のこと笑いながら、全国、全国って言い続けてきたのだろうか。そんなのダサすぎる。そんな先輩のことあこがれてる俺まで、ダサい奴になる。
「先輩、明日かって全国行きましょう。俺らなら、先輩なら、行けます」
俺の言葉に、先輩はぐっと息を詰まらせた。
「ひどい奴だお前」
と呟いた声が掠れていた。
 
 
結局、決勝戦は敗退した。まぐれで勝ち進んだ俺たちにとって、常に全国行きしている相手校は強すぎて、面白いくらいに点を入れられて、最後は敵ながら笑ってしまった。
「やっぱり俺らじゃ無理じゃん」
と、チームメイトに呟きに、俺も頷くしかなかった。金吾は悔しい悔しいと泣き喚いていて、やっぱりいい男だと思った。俺は先輩が心配だったけれど、吹っ切れたのか、いい笑顔で、金吾を慰めていた。「でも、ま、やっぱバレーっておもしろいよな!」
この負け試合が、先輩の最後の試合だった。
帰り道。いつかのように夕日がきらきらしている川べりを歩きながら、俺は先を行く先輩の背中に声を投げつけていた。
「先輩、これで終わったわけじゃないですよね」
先輩はバレー部のユニフォームも練習道具も全部、試合会場の体育館のゴミ箱に捨ててきていた。身軽になった先輩は俺を振り返って、夕日の中で、いたずらっぽくニッと笑った。
俺はこの笑顔があれば、まだまだ勝ちを狙っていけると思った。バレーが駄目でも、これから起こるすべての勝負事に、俺は俺の力を過信して、挑んでいける。先輩の今日の笑顔があれば。
「ばーか、まだ始まってもいねえよ!」
太陽が沈む瞬間のきらきらが、俺を、いつまでだって生かしている。

水の中の小さな太陽

31 夏の終わり(乱太郎女体化)


夏休みは毎日バイトで忙しいといっていたきり丸が、突然の電話をくれた。
「明日プール行かねえ?」
「突然どうしたの」
「俺、今、監視員のバイトしててさ」
「あ、プールの」
「ああ。明日でお仕舞いなんだけど、清掃があるからさ、チーフが清掃ついでにただで泳いでいいよって。午後から水抜くからさ、午前はほんとに泳ぎ放題なんだ。乱太郎、来ないか」
「行く」
頭の中では、水着どうしようとか広いプールにきり丸とふたりっきりなのかなとか、他のクラスメイトは誘わないのかなとか考えながらも、乱太郎はすぐさまオーケーをした。
「そっか」
受話器の向こうで、ちょっとホッとしたみたいなきり丸の返事が聞こえた。
乱太郎は学校で着るような紺の水着しかもっていなかったから、電話を切ってすぐ戸惑った。やっぱりよくないかなあ、と迷って、それから伊助に電話した。兵太夫に聞けばよいと思ったけれど、兵太夫にスクール水着しか持っていないなんていったら呆れられそうで、伊助にしたのだった。
伊助は電話の向こうで、「買ったほうがいいかもね」と言った。
「やっぱり、スクール水着はナシだよねえ」
「うーんとね、きり丸は別にそういうこと気にするやつじゃないと思うけど、」
伊助の声の向こうからはゴウンゴウンとどうやら洗濯機が回っているらしい音がしていて、乱太郎は なんだか安心した。伊助は夏休みでもいつもの伊助のようだった。
「でもね、きり丸は、ほら、スクール水着しか買ってないと思うのね」
「え、きり丸?」
「そう。わざわざプライベート用の水着なんて買わないでしょ、あの“どけちのきりちゃん”がさあ。乱太郎までスクール水着着てきたら、あいつ気にしないかなあ。乱太郎が気にしてるって、気にしないかな」
きり丸は人に同情されるのをすごく嫌がる。乱太郎は瞳をぱちくりとさせた。全然気がつかなかった、と思った。そんなこと思いもよらなかった。自分のことばっかり考えてた。
「あ、ああ、そっか・・・。そっかあ、さすが伊助、だねえ」
呆然と呟いた。なんだか自分が情けなくて涙が出てきそうだと思った。そうしたら、気遣い屋の伊助はそんなことも見通してしまったのか受話器の向こうで、「こういう考えすぎる性格が、いっつもきり丸に嫌がられるんだけどね。俺、お前のそーいうとこ嫌いっていつも面と向かっていわれる」と苦笑した。
乱太郎が慌ててフォローすると、伊助は明るい笑い声を立てて、大丈夫、と言った。
「大丈夫、気にしてないから。私、きり丸のああいう後ひかないところさっぱりして好きだよ」
夕方からじゃ街に出てファッションビルに入ることもできなくて、乱太郎は母親の買い物についてゆき、スーパーに併設されている水着売り場に行った。
「何、乱太郎、あんたこんな季節にプール行くの」
夏ももうおしまいで、朝や夕に、道行く人が「涼しくなりましたね」なんて挨拶を交わすようになっていた。乱太郎もクーラーのリモコンをしまったばかりだった。
「うん」
「寒くないかい」
「でも午前中だから」
乱太郎はオレンジのストライプのセパレートを買った。安っぽいかな、と思ったけれど、デートってわけでもないんだし気にしないことにした。
朝になってきり丸が自転車で迎えに来た。わりと高いやつで、土井先生が半額は出世払いでいいといって今年の春に進学祝でプレゼントしたものだった。きり丸は土井先生から物をもらうのをことさら嫌がるので、こういう言い方をしないと貰ってくれないと土井先生は苦笑していた。新聞配りのアルバイトなんかでずいぶん重宝しているらしく、よく使い込まれているようなのが見て取れた。
「乱太郎、自転車ある?」
「うん。ボロだけど」
「後ろ乗ってもいいよ」
「でもきりちゃん重くない?」
「ばかな!俺は毎日バイトで運動しないでぶっちょゴールデンレトリバーを荷台に乗せて街を回ってるんだぜ。それに比べたら乱太郎くらい」
乱太郎は声を上げて笑った。きり丸は白皙の美少年なのに、別の国の子どもみたいに真っ黒に日に焼けていた。それに、細い手首があいまって本当に異質なもののように見えた。
きり丸は孤児だ。ずいぶん苦労して生活している。あんまり毎日苦労しているから、みんなは同情もできないくらいだ。その苦労のひとつひとつがきり丸をかたちづくっている。粗野な言動とか、細いけれどしっかりした体つきとか、前を見据える少しきついまなざしとか、本当の優しさとか、厳しさとか、全部。もしきり丸に不幸が訪れなくて、今も両親と楽しく幸せに暮らしていたら、今のきり丸は絶対にいないだろう。そう思ったら乱太郎は、きり丸が今のきり丸でよかった、と思って、でもそんなことを思うのはきり丸に悪い気がして言えないでいる。
結局、きり丸の荷台に乗せてもらってプールまで行った。ぐん、ぐん、と力をこめて踏みつけられるペダルの重みを、乱太郎も一緒になって身体で感じながら、きり丸の身体にしがみ付いていた。少し汗のにおいがした。
水着に着替えてプールサイドに出ると、想像したとおりきり丸と自分しかいなかった。他のクラスメイトは、とは何故だか聞きがたく、「他のバイトの人は?」と尋ねると、「別にいいって」とそっけなく言われた。
「そうなんだ」
「町営のちゃちいプールなんかより、もっとでっかいとこ行くんじゃん?」
「ああ、大学生だもんね」
「うん」
広いプールに潜って、目を開く。ぼんやりした青が視界に広がった。その少し向こうをきり丸の細い身体がくねっている。すうっと、泳いできり丸のほうへいくと、きり丸が黙ってこっちを見ていた。近づくのを待っているんだと思った。近くまで泳いでいくと、きり丸は手首を掴んで、プールの水底から上を見上げた。小さい太陽のようなものが見えて、まわりに光のレースが浮いていた。
「きれい、」
と零したらそれは水の中で音にならず、泡になって上のほうへ上っていった。顔を上げてもう一度綺麗、と言おうとしたら、きり丸がぐいっと手首を引っ張った。身体が傾ぐ。きり丸が顔を覗き込むみたいにして、近づけた。近い、と思ったら、唇が当てられた。驚いているうちに、ぱっと離れた。
ふたりして息が続かなくなって顔を出したら、きり丸は開口一番「ごめん」と言った。
「何で謝るの」
「いきなりだったから」
「謝らなくていいよ」
「うん。あの、つまりそういうことだから」
「うん」
「好きなんだ。・・・これ言うの、初めてだっけ」
「うん」
「そっか。いっつもいってるような気になってた」
きり丸ははにかみ笑いをして、それから、「水着似合うよ」って言った。安い水着なんだけど、と思って、でもそんなこと、きり丸はとっくに気づいているような気がした。本当に水着が似合っているかどうかは知らなかったけれど、きり丸が褒めてくれる余地を作ってきたことをよかったと思った。
夏はもう終わる。涼しいくらいの風が剥き出しの肩を撫でて、乱太郎は、こういうふいのさみしさをきり丸と感じられることの幸福を想った。

なんくるないさ(4年)

女体化で夏お題。4年全員女。


16    
お泊り

 
「このメンバーで旅行行くって言ったら、めちゃくちゃ驚かれた」
「私も」
飛行機に乗ってそうそう、三木はバリッとポテトチップスの袋を開けた。「離陸してからあければよかったのに、アンタ、揺れたらこぼれるよ」と滝夜叉丸が横で咎めると、三木はうるさそうな表情を浮かべて、「離陸のときは口を縛るからいいの」とつっけんどんに言った。ポテトチップスを食べることに関しても、お菓子くさい、とか、いちいちおやつ食べてたら太るよ、とか、油ものばっかり、とか言われそうだと三木は勝手に想像して眉をひそめた。滝夜叉丸とは、とても小さな仕草のいちいちからしてことごとく気が合わない。お互いにお互いの気に障ることばかりする。なんでそんな人と貴重な夏休みを旅行に行くの、と不思議がられても、三木は「よくわかんない」と返すしかなかった。
確かに沖縄には行きたかった。それを何かの拍子にぽつっと零したら、斉藤が「じゃあ行こうか。今度の土曜に一緒に旅行会社行こ」とにこっと微笑んで、三木は、こういうところほんとに人の許可を得ない人だなあと呆れたけれど、斉藤のことは嫌いじゃないから素直に頷いた。ふたりで旅行に行くのだろうと思っていたら、斉藤は勝手にたくさんの人に声をかけたらしくて、滝夜叉丸と綾部までついて来ることになっていた。
「ほんと不思議。私たちって、すごくマイペースで協調性がないもの同士でしょう」
一枚頂戴、と滝夜叉丸が三木の手のひらを見せた。「文句言ったくせに」「別に、食べることに関してはなにも言ってない」三木は白いほっそりした手のひらの上に2,3枚ポテトチップスをおいた。ありがとう、と滝夜叉丸はあっさりと言い、それを口に運んだ。咀嚼して、飲み込んでからぽつんと言った。
「うまくいくのかしらね」
自分たちのことなのに他人のことのように言う。三木は呆れたけれど、そのまま自分もポテトチップスを噛みながら、
「知らない」
と言った。
マイペースな4人が集まった旅行は、ホテルにチェックインしてからもすぐにその自由さを発揮した。ホテルは、プライベートビーチのあるわりと高価なところで、荷物を置いてバルコニーに出れば、眼前にはラムネの瓶の色をした海が広がっていた。
「わ、すごい!」
三木は声を上げると、部屋に戻って服を脱ぎ捨てた。そのままオレンジとイエローのエメラルドグリーンのストライプ柄が可愛いキャリーバッグから水着を掘り出すと、恥らうこともなく下着を脱ぎ捨てて着替えた。
「泳ぐの?」
斉藤は帽子をとって乱れた髪を、ブラシで梳いている。
「泳ぎます!」
「もう六時だけど」
滝夜叉丸はベッドに腰掛けてホッと落ち着いたところらしく、ここにくるまでに買った500mlのペットボトルをグラスに注いでごくごくと飲み干していた。
「沖縄の海は夕方でも温かいから泳げるらしいよ」
話なんか聞いていないと思っていた綾部がぽつんと言った。
窓側のベッドは綾部がホテルについて早々にとった。「私ここがいい」と宣言して、勝手に旅行鞄から枕を取り出したときは全員びっくりした。「蕎麦殻の枕じゃないと眠れないの」斉藤が、「空港のさ、荷物検査のとき、係りの人がちょっと驚いた顔してたんだけどあれってやっぱりこれが原因だったのかなあ」なんて言ったから、滝夜叉丸も三木もちょっと笑ってしまった。綾部は紺にイエローのチェックが入った短パンからすらりとした足を覗かせて、ベッドに寝転がっている。さやさやとカーテンを揺らす海風が、綾部の柔らかい解れ毛を揺らしている。こうしていると、つくづく綾部は美人だった。
「そうなんだ、さすが熱帯」
滝夜叉丸は頷くと、テレビのスイッチをぽちりとつけた。ニュースが流れ始める。三木は水着の上からエメラルドグリーンのタオル地のパーカーを羽織ると、ピンクの水玉模様のビニールサンダルに履き替えた。
「何よ、泳ぎに行くの私だけ!?」
「私、パス。疲れた」
「眠い」
滝夜叉丸と綾部の返事はにべもない。縋るような瞳で斉藤を見遣ると、彼女は苦笑して、「珊瑚拾いに行きたいから、一緒に行こうかな」と頷いた。
斉藤はそれから、市内観光で汗だくになった服を脱ぐと、サンドレスに着替えてサンダルを履いた。ゴールドのラメエナメルのそれは、薔薇のコサージュが派手すぎない程度につけてあって可愛い。
「それどこで売ってたんですか」
「え、このサンダル?近所の安い衣料品店だよ。コサージュは自分でつけたの」
「えっ、すごい!」
「こんど何か作ったげようか。三木は、ひまわりが似合うからひまわりのコサージュね」
斉藤は三木たちより2つ年上だ。実家は全国に店舗を出しているヘアサロンの本店で、斉藤も美容師の免許を持っているらしい。ブロンドに染められた髪はさらさらとして指どおりがよく、品のよい眩しさを纏っている。個性的なアシンメトリーの髪型も、なぜか周囲から浮かない自然さを持っていた。斉藤は性格もよく、すぐに三木の憧れの女性になった。
「私も綺麗になりたいな」
小さく呟いたら、斉藤にはしっかりと聞かれていたらしく、「なれるよ、すぐに」と後頭部を優しく叩かれた。
一泳ぎして、ヤドカリと遊んでいた斉藤を誘って部屋に戻ったら、ぬるい空気のこもった部屋で、滝夜叉丸が疲れた表情をしてテレビを見ていた。薄暗い部屋に、テレビの青い光だけがフラッシュしている。
「おかえり」
「なにここ、なんでこんな暑いの?!」
「綾部が、クーラーつけない派なんだって」
「電気は」
「綾部が寝てるから消した」
みると、この暑いのに綾部は腹に自前のタオルをかぶせてぐうぐう寝入っている。
「あつーい」
滝夜叉丸が汗で濡れた髪を指で掻き雑ぜる。
「勝手につけちゃったら」
三木も暑さに閉口した。そういうわけにもいかないでしょ、とたしなめたのは滝夜叉丸だった。暑い暑いとぼやきながら、冷蔵庫のサンピン茶を取り出してグラスに注ぐ。
「クーラー苦手な人って、つけるとすぐ体調崩す人が多いって言うし」
「だってこんなに暑いのにい!」
綾部ってほんとマイペース。三木が頬を膨らませて、寝入る綾部を睨みつけると、斉藤は、「私、扇風機ないかホテルの人に聞いてくるね」と身を翻して行ってしまった。
「扇風機なんてもらえると思う?」
「さすがに無理でしょ」
「それより晩御飯どうしよう」
「ホテルのレストランでよくない?」
滝夜叉丸が応えたら、横から綾部の声が挟まった。
「焼きそば食べたい」
「うわ、びっくりしたあ!」
綾部の瞳はパッチリと開いている。むくりと起き上がって、もう一度、「焼きそば」と言った。
「そんなもんどこに売ってんのよ」
「ビーチに海の家が出てたけど」
「ええ、晩御飯に海の家行くのお!?」
滝夜叉丸は不満げだ。三木はどっちでもよかった。三木は好き嫌いも特にないから、腹が膨れれば何でもおいしい。食事にまで色気を出すなんて、滝夜叉丸の彼氏にはなりたくないなと変なことを考えた。綾部が呟く。
「焼きそば」
「それはもういいって!」
「タカ丸さんが帰ってきたら何がいいか聞いて・・・」
滝夜叉丸の言葉に重なるようにして、部屋のチャイムが鳴らされた。ドアを開けたら、にこにこ笑った斉藤の隣にかりゆしを着たホテル従業員が、頬を赤く上気させて、満面の笑みで「どうも、扇風機お届けにあがりましたあ」と明るく叫んだので、ふたりは目を丸くして顔を見合わせた。
晩御飯に海の家を提案したら、斉藤は「いいね、それ」とあっさり頷いたので、一人不満げな滝夜叉丸を連れてビーチに出た。ホテルがスポットライトとして使っている緑のネオンに照らされて、ビーチは幻想的な色に明るかった。滝夜叉丸が、浜辺に近づく。足が波に浚われぬ距離で海を覗き込んで、
「あ、魚!」
と声を上げた。「こんな浅瀬なのに」
興味を引かれたのか、綾部も近づいていって、一緒に海を覗き込んだ。
「ツノダシ」
「これ、ツノダシって言うの。あんたこういうの詳しいのね」
「この日のために熱帯魚図鑑購入して予習したから」
「あんたの旅行の準備ってなんか間違ってるわよ」
それから4人で焼きそばだのジューシーだのマンゴージュースだのを買い込んで浜辺にレジャーシートを広げて食べた。焼きそばはふつうの海の家の焼きそばだった。少し冷めていて、特別おいしいわけでもなかったけれど、滝夜叉丸が「結構おいしい」と言ってもりもり食べていたのがおかしかった。明日はどこにしよう、なにをしようなんて話を一通りした後で、ふいに滝夜叉丸が、
「なんかあんたたちといると安心するわ」
と言った。
「どういう意味」
「そのまんまの意味。ああ、べつにいっかあって思える」
「なにがいいの」
「滝夜叉丸でも悩みなんてあるの」
「綾部あんたそれどういう意味」
ぎゃいぎゃいと言い合う3人の横で、朗らかに斉藤が笑った。
「私も滝夜叉丸の言う意味なんとなくわかるよ。3人とも大好き」
「私も斉藤さんは好きです」
「斉藤さんが好きです」
「私も好きです!斉藤さんなら!」
「3人とも仲がいいというか悪いというか」
ホテルに戻ったら11時で、みんなへとへとに疲れきっていたので、順番にシャワーを浴びてベッドに転がった。扇風機をつけてバルコニーに続く窓を開け放ったら、意外と涼しいのだった。ざあ、ざあ、と規則的に聞こえてくる波の音が眠気を誘う。
寝つきの早い滝夜叉丸はベッドに入った途端すぐに眠り込んでしまった。
「もう寝た?」
と綾部が言うので、「寝てない。タカ丸さんは?」
「私もまだ。ねえ、気持ちがいいね」
綾部が静かに言った。
「なんくるないさーってさ、どういう意味だったっけ」
「なにそれ」
「沖縄弁。予習してきたんだけど忘れちゃった」
「食べ物じゃない」
「なんだっけかなあ」
「明日ホテルの人に聞いてみようか」
うん、という答えがなかったので耳を済ませたら寝息が聞こえてきて、「ほんと自由人、みんな」と呟いたら、隣でくすくす斉藤が笑うのが聞こえた。
朝になって、綾部は最後まで寝ていた。三木が目覚めたとき、滝夜叉丸はとっくに起きて、服も着替えた状態でニュースを見ていた。斉藤もとっくに起きて、ストレッチをしていた。綾部を起こして、朝ごはんどうしようとだらだら話していると、綾部はその間に部屋を出て行ってしまった。
「どこいったの、あの子」
「さあ、そのうち戻ってくるでしょ」
チャイムが鳴ったのでドアを開けたら、綾部が4本のプラスチックカップを抱えて立っていた。
「なにそれ」
「ホテルの外で売ってたジュース」
「は、」
「飲もう。マンゴーとグアバとパイナップルとココナッツがあるよ」
綾部がグアバを抱えて「これ私の。なんびとたりとも手を出すんじゃねえ」と言ったので、他の三本を三人で分け合った。三木はマンゴーになった。滝夜叉丸も斉藤も、「三木はマンゴーにしなよ。マンゴーって感じだから」と勧めるのがおかしかった。だが、まあ、たしかにマンゴーは好きな味だ。
フルーツジュースはフラッペになっていて、冷たくておいしかった。乾いた身体に染み込んでいくって、こういうことかと思った。4人でバルコニーに出て、海を見ながら立って飲んだ。
「そういえば綾部、なんくるないさーってさ」
タカ丸が思いついたように言った。
「なんとかなるさって意味だって。起きてビーチ散歩してたら、仲良くなった人に教えてもらったよ」
「へえ」
それからくちぐちになんくるないさーと呟いて、面白いこれ、覚えて帰ろうとかみんなで言い合った。三木もなんくるないさーと呟いて、それから目の前の海を眺めた。きらきらと太陽が乱反射した海が、4人を包んでいる。

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