拍手ありがとうございます!「耳をすませば」に、なんか似たようなシーンがあったような気がする。
現パロ、女体化。
「えっ、そんな、俺困るよ!」
伊助は、虎若はきっと喜ぶと思って差し出した手紙を困惑気に拒否されて、瞳を瞬かせた。ラブレターだなんていまどき古風だけれど、その古風がきっと虎若にはたまらないだろうって、女子みんなで話し合って三治朗に書かせたものだ。今回の三治朗の告白に一番積極的に協力したのは伊助で、彼女は小学校から特別仲がよかった虎若の好みを積極的に教えたし、この手紙のためにわざわざ一番可愛いレターセットも買ってきた。そのレターセットはいつだったかに伊助が虎若への手紙を書くのに使ったもので(誕生日プレゼントにつけた手紙だったろうか、はっきりとしたことは覚えてない)、カントリーの落ち着いた風合いのもので、虎若が「品がいいね」と褒めたものだ。虎若が気に入ってた柄だよって三治朗に手渡したら、三治郎は、なぜだろう、少し困ったような顔で、「私が出しても同じように気に入ってくれるかな」などというから、伊助は小首を傾げて、「こういう柄に、三治朗の字ってすごく合うと思うよ。気に入らなかったら、もちろん、使う必要はないんだけど」伊助が遠慮を始めたら、三治郎は慌てて「ううん、使う、ありがとう」と笑ってそれを受け取った。
自分で手渡すのはどうしても嫌だと言ったから、机の引き出しに入れる法を兵太夫が提案したら、なぜだか「伊助が渡してきて!」と頼まれた。断ったのに、三治朗にしては頑固に頼んでくるから、どうしても断りきらなくて、仕方無しに頷いた。三治郎は可憐っていう言葉がよく似合う。優しいし、可愛らしいし、虎若にお似合いだ。きっと上手く行くと思ってたのに、虎若は困った顔している。
「それ、三治朗からのものなんだろう?」
「うん。三治朗が勇気を出して書いたんだよ。三治朗、ずっと虎若が好きだったんだって。優しいし、努力家だし、かっこいいしって。三治朗、見る目あるよ。私虎若の一番の友達だから、虎若には幸せでいて欲しいんだよね」
「だから三治朗、なんだ…?」
虎若は途方に暮れている。「悪いけど、俺、それ受け取れない。三治朗には悪いけど」
こんな展開考えていなかった。伊助は顔を青くする。三治朗になんて言ったらいいんだろう!
「だ、駄目だよ虎若!受け取らなきゃ駄目!三治朗がかわいそう!」
虎若の学生服の胸にぎゅうぎゅうと手紙を押し付ける。虎若は決してそれを受け取ろうととしない。
「好きでもないのに受け取るほうが卑怯で残酷だよ。とにかく、俺はそれは受け取れない。ごめん」
深く頭を下げられて、伊助のほうが困惑してしまう。
「どうして。三治朗って優しくてすごくいい子だよ。可愛いし、お似合いだと思うのに」
しょんぼりした伊助に、虎若は絞り出すような声で告げる。
「うん、三治郎はすごく可愛いよ。いいやつだし、俺も大好きだよ。でも俺、もっと可愛いと思う子がいるんだ。すごく好きで、幸せにしてあげたいなあって思う子がいるんだ」
「誰かきいてもいい?」
迷子のような気持ちで尋ねたら、虎若は口を開きかけて、だがどんな言葉を吐くより先に「…駄目だ、今は言わない」と視線を逸らした。
「なんで?」
神社の境内は、周囲の木々が陰になって、ひどく冷える。伊助はぶるりと身震いした。ぽとり、と言の葉が足元に落とされる。
「きっと伊助は困るから」
伊助が虎若を追いかけて教室をでてすぐ、兵太夫はきっと上手くいくよと両手ピースで笑ってくれた。三治郎はそれに微笑み返して、「ううん、絶対上手くいかないよ」とわざと軽く返した。兵太夫が眉を潜める。三治郎はもう一度微笑みかけた。
「虎若が好きなのは伊助だもん」
「は!?」
兵太夫の葡萄みたいに大きな目が見開かれる。あんぐりと大きく空けた口が、面白い。それに笑おうとして、三治郎は口元を釣り上げたが、なんだか頬の筋肉が引き攣って歪んでしまった。覚悟ならとっくの昔に決めたはずだが、引き摺らせてもらうなら、辛いものはやっぱり辛い。
「やだなあ、兵ちゃん、私虎若のこと本気だったんだよ。ずっと見てたんだもん、わかるよ」
「知ってて、伊助に自分のラブレター預けたの?」
「ラブレターじゃないよ、中身。伊助が好きなのに私からラブレター貰ったら、虎若が困っちゃうじゃない。くだらないことかいて終わらせちゃった。今頃虎若がいーちゃんに告白して、は組からカップルが誕生してる頃かもね」
兵太夫のかたちのいい眉がへにゃり、と奇妙に歪む。泣きそうな表情になった。
「虎若サイテー。伊助もサイテー」
「兵ちゃん、いくら兵ちゃんでも私の大切な友達ふたりをひどく言ったら絶交だからね」
ぼろ、と兵太夫の瞳から大粒の涙が零れた。ひくっ、と咽喉が鳴る。
「ばか、さんじろー!なんで私を泣かせるの!?今日睫プルーフじゃないのに、化粧はげたら三治朗のせいだからね」
「うん、ごめんね」
三治朗が笑っている。ばかだ、ばか。誰が馬鹿なのかは兵太夫にもわからない。誰も馬鹿じゃない、だから、こんなにもどかしくてどうしようもなく悲しい。なんでだ、みんながちょっとだけ幸せになりたいと思ってるだけなのに、何でこうなっちゃうかなあ?世の中って上手くいかない。ばかやろうは世の中だ。こんなふうに仕組んだ神様かなんかだ。ばかやろう、ばかやろう。
「コンビニ寄って馬鹿買いしよ。今日はさんじろーんチ泊まりにいく。一晩中美味いもん食って好きな音楽聴いて面白い映画見て楽しい話して、そんで忘れよ」
「うん。うん、そうだね」
すん、と三治朗の鼻が鳴るのを、兵太夫は聴こえないふりをして夕陽にきらきら輝く川面だけをにらんでずっと歩いた。前へ、前へ。
***
やべ、女体化楽しい。
左近と伏木蔵(この名前響きがすごく好きだ)も好きなんだが、どう想像しても古きよき時代の少女マンガになる。左近はほどほどに悪戯っぽくてでも常識人の良い子で、ちゃんと男の子しているのに、伏木蔵がどうしても箱入り娘になる。一年ろ組は想像するとみんな箱入りになる。箱の中でみんなしてきゃわきゃわしてる。そこがかわいい。だけど、妄想していると痒い。
痒いSS。(女体化現パロ)
思わず泣いてしまう、とてもよい映画だった。スタッフロールが流れて伏木蔵が小さく鼻を啜っていたら、 隣に座っていた左近が、小さくワンピースの袖を引っ張った。顔を上げたら、辺りに気兼ねするように、小さく、出るぞ、と囁いて、こそこそと席を立った。背中を丸めてかがんで人前を横切ると、なんだかとても悪いことをしているようなバツの悪い思いがする。映画館から出て、ロビーに出た途端、左近が謝った。
「あの映画、2時間半もあったんだな、悪い」
急げば電車に間に合うかも、と独り言のように呟くと、伏木蔵の手をとってスタスタと足早にビルから出てしまう。歩みの遅い伏木蔵は慌ててついてゆく。情緒がない。ぐいぐいと引っ張られる腕が痛くて、「先輩、手」と情けない声を出したら、「悪い」と一言言って、パッと手は離れてしまった。帰宅ラッシュにさしかかった駅の構内は混雑していて、伏木蔵は迷わないように左近の上着の裾をギュウと握る。付き合っているのだし、どうどうと腕を掴めばいいのだが、なんとなく、出来ないでいる。駅ビルの装飾は一ヵ月後のクリスマスに向けてサンタクロースがきらきらと微笑んでおり、ウインターセールの宣伝が賑わしく掲げられている。煌びやかな世界の様相に伏木蔵は楽しくなる。きょろきょろする伏木蔵をひとり楽しみの中に泳がせて、左近は電車の時刻掲示を眺めては、過ぎ去った電車を悔やんでいる。
「乗り過ごしたか・・・」
眉を顰めているのに、伏木蔵は両手でおずおずと腕を掴んで、彼を見上げる。「先輩、ちょっとくらいなら平気ですよ、たぶん」
「だけど今日親父さん帰ってくるんだろ。怒ると怖いんだろ」
「でも仕方ないから、」
映画って行ったら普通2時間にまとめてあるものですよね、私も気がつきませんでした。伏木蔵は微笑んで、携帯電話をバッグから取り出す。黒のがま口型のバックは、持ち手が黒いサテン地でリボンのようなあしらいになっていて、品が良くて可愛らしい。友人の平太からのプレゼントだといっていたっけ。誕生日に左近が与えた黒のセーターコートに合うから嬉しいと微笑んで、今日着てきた。昼に入ったデパートでふと伏木蔵のバッグと同じものを見つけて値段を見たら、左近の買い与えたものより1ケタ違う値段だったので白けた。伏木蔵はつくづく”お嬢さん”だ。
ぷちぷちとボタンをおして、小さく首を傾げ、上品に携帯を使う。
「あのね、お母さん、電車に乗り遅れちゃったからあと30分遅れるね。え、いいよう、迎えに来なくても。大丈夫。暗いけど、平気、明るいところ通って帰ってくるから。寒くないよ、コート着てきたもん。え、うん、…はい。お父さんにはちゃんと謝ります」
背中を小さくして喋るひとつ年下の少女の背中を、左近はぼんやりと見詰める。伏木蔵はまもなくぱくんと電話を閉じると、左近に微笑んだ。
「今日はあと30分も一緒ですね・・・!」
「なあ、親父さんにひどく怒られたら電話してこいよ」
「はーい。ねえ、先輩、お茶が飲みたいです」
伏木蔵ははしゃいで、駅ビルの中のカフェを指差すが、左近は指先で額をぺちんとはね、「馬鹿、そんな時間あるか」と怒った。伏木蔵は肩を竦めて残念がると、左近が足を進めるままに駅のホームへとあがる。ホームで缶入りのコーンポタージュスープを買ってもらう。喜ぶ小さくて細い体を、左近は愛おしいと思って、まだ抱き締めたことのない少女の指先を、そっと掴む。寒さでひんやりしている。
「先輩の手、あったかい」
「お前が冷たすぎるんだ。冷え性か」
線路に電車が滑り込んだ。埃臭い強風に煽られる。伏木蔵の黒髪が乱れる。整えようと手を伸ばしたら、伏木蔵がこちらを見上げて何ごとかを言った。小さな珊瑚色の唇が、小さく動く。
「つ」
「れ」
「て」
「に」
「げ」
・・・
風に吹き散らかされていく。左近は最後まで聞き取れず、眉を顰めた。轟音の去ったあと、伏木蔵は静かに微笑んで、「なんでもないです」といった。左近はそれで何もいえなくなってしまって、黙り込んだ。左近は今日のデート中、ずっと、「この間の見合いは上手く断れたか、」と聞けなかったのを、悔やんでいて、でも、とうとうそれを言い出せないままだ。黙って互いの熱を分け与えていたら、すぐに次の電車は来た。これに乗らなければ帰れない。左近は、最後の七分をもっと喋ればよかったと後悔して、それでも、また時間ができたらやっぱり自分たちは黙ってしまうのだろうと思った。
「来月のクリスマス、楽しみだな」
「はい」
伏木蔵はにこにこと微笑んで、するりと電車に乗り込んだ。甲高いホイッスル、機械音、電車のアナウンス。冷たい扉が閉じて、愛おしいあの子が攫われてゆく。左近はちょっと項垂れて、それから、ホームから立ち去った。
今日の映画はとてもよかった。ストーリーなんかもう、何にも覚えちゃいないけれど。
かか、かゆー!かゆ、うま(ちがう)。
現パロ女体化。続き・・・というとちょっと違うかもしれませんが。
伊助の作るお弁当おいしそうだね、って言われたのがきっかけなんだって。
嬉しかったから部活のときの差し入れにとでも思って、次の日におにぎりを余分につくっていって渡したんだって。ありあわせのフライドチキンと多めに作った卵焼きも入れて、それくらいの簡単なお弁当だったんだけど、意外なくらい喜んでくれて、それから毎回作っていくようになったんだって。最近じゃあ、伊助の差し入れを頼りに自分ではなんにもおやつを容易してこなくなっちゃって、そうなると今更サボるわけにもいかないから、毎回作っていくのが習慣になったんだって。
そんな成り行きを聞いてしまったら私、羨ましい以外の感想がでなくなってしまって、でもまさか伊助に向かってそんな言葉吐くわけにもいかないから、結局何も言わずに言葉を飲み込んで、パックジュースをずるずると啜った。
***
「差し入れにおにぎりっていうのがミソだよね。私なんか差し入れっていうとクッキーとかベタなやつしか思いつかないんだけど」
兵太夫が眉カットをしながら呟く。伊助は団蔵が「ぶっ壊れた」と言って持ってきたボタンの千切れてしまった学生服を縫いながら苦笑する。
「そんな、漫画みたいな。わざわざクッキ-つくるの面倒くさいじゃん。それに、部活の差し入れにそれはないよ」
「え、なんで?」
2,3日前から「団蔵に差し入れでもしてやるか」と何度も覚悟を決めては三治朗に宣言している兵太夫は、カットが途中のままの眉もそのままに、眉切りバサミを片手に伊助に向き直る。実は何を隠そう、この会話も、”男の子に差し入れをするための講習会”なのだ(伊助には内緒だが)。
伊助は、だって、と呟いてぷちんと歯で糸を切る。
当たり前のように伊助を頼った団蔵が憎らしく、彼のことが秘かに気になる兵太夫は、「私がやってやるよ」と宣言したが、団蔵にあからさまに嫌な顔をされ、「げ、いーよ。家庭科の裁縫でティッシュケースすら満足に作れなかったお前には無理だ」「はったおすぞこの野郎」「やってみろ馬鹿野郎」ものの数回の言葉のやり取りで喧嘩になった。
「だって、部活で汗をいっぱいかいたあとにもそもそしたもの食べるって地獄じゃない?」
「ああ、確かに・・・」
ちぇ、難しいなー、差し入れも。ハサミをシャキシャキと閉開して弄っている兵太夫の物言いに、気が効きすぎるほどの性格をしている伊助は、きょとんとした。
「何、兵ちゃん差し入れがしたいの?誰に?」
「えっ!?いやいや、将来的なビジョンでねー、いや、うん、そういうことも知っておいて損はないかと」
ふわふわした髪に指を突っ込んでぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。あ、動転してる。三治郎は内心で噴出す。今日の髪型決めるのにゆうに1時間は掛かったって、さっき言ってた。冷静になってからあとで慌てふためくに違いない。
「兵太夫、差し入れ向かない気がするけど」
「え、確かに私料理は苦手だけれどもさあ、」
「そうじゃなくて、差し入れって結構めんどくさいからさ。料理嫌いなひとはそのうち続かなくなるよ」
団蔵の学生服の繕いが終わった伊助は、今度は鞄からノートを取り出してせっせと英単語の書き取り練習をはじめる。授業前の小テストに落ちると課されるペナルティーだ。
「伊助、ここんとこずっと落ちてない?」
「うーん、覚える暇なくて。でも、駄目だ、そのうち庄ちゃんに怒られちゃう」
「べっつに、庄左のために勉強やってるわけじゃないんだから、あいつが節介やいてきても関係ないで済ませりゃいいじゃん?」
兵太夫のキッパリした物言いに、伊助が目を細める。
「そういやこの間庄ちゃんが兵ちゃんのこと褒めてた」
「は?アタシ何もしてないよ?」
「この間帰り一緒に帰ったでしょう、そのときに、なんか、ファッションについて熱く語ったんだって?庄ちゃんが、すごくよく研究してるって、あそこまで言ったら趣味の域を超えてるって。もうひとつの趣味の機械弄りといい、兵ちゃんは職人気質だって」
「なんかあいつの褒めどころって変わってない?」
「庄ちゃんそういうの好みだから」
三治朗が首を傾げる。「そういうの?」
「兵ちゃんみたいな子。一個をめちゃくちゃ極めつくすタイプ、好きみたい」
伊助のシャーペンはぴたりと動きを止めている。兵太夫は気まずそうにもごもごと口を動かして、「アタシみたいなのは、庄ちゃんとは合わないと思うんだけど」とそれだけを言った。「兵太夫って、綺麗だよなあ」帰りがけ、電車を待つまでのホームでしみじみと言われたとき、ほんとはちょっとドキッとした。庄ちゃんとの付き合いは長いけれど、そんなことは初めてだった。だけどこれは、誰にも言わないほうがいいような気がする。特に、伊助には。
「伊助も家事を極めてるじゃん」
三治朗がいれたフォローに曖昧に頷く。
兵太夫は眉を潜めた。最近、は組が難しいような気がする。それまでは、仲がいいことはよいことだ、でずっとやってきたのに。少し、仲良くなりすぎてしまったみたいだ。伊助の家庭的な能力が羨ましくて仕方のない三治朗と、兵太夫と。伊助は伊助で、兵太夫のことを羨ましく思っている。
なんだか世界が複雑になったようだった。
庄左ヱ門は別に兵ちゃんのことが好きなわけではないのだが。