我慢できずやった。女体化。あほ。
「夏のデートスポットつったらプールだろ」
との三郎の一言でダブルデートの目的地は大型プール施設に決まった。決まったとたん雷蔵とタカ丸は落ちつかなげにそわそわして「水着どうしよう」とか「うひーん、ダイエットしなきゃ」とごにょごにょ囁きあっている。山を主張していた久々知は黙ったままだった。三郎が横から覗き込む。
「何を考えてる?」
「いや、別に何も」
「隠すなよ。三郎様グッジョブとか考えてるんだろ?自重しなくていいぜ」
「誰がそんなこと」
「タカ丸さんの水着姿。」
「・・・」
「三郎様GJ!って三回唱えろよ」
「死んでしまえ」
「楽しもうぜ、ひと夏のアヴァンチュ~ル」
ぽんぽんと三郎が久々知の方を叩いたところで、隣から、タカ丸がそっと久々知の袖口を引いた。
「ねえ、兵助、次の日曜に雷蔵と水着買いに行くことになったんだけど、」
「うん」
「どんなのがいい?」
首を傾げて雷蔵を覗き込むタカ丸の笑顔がまぶしすぎる。久々知はどう答えていいものか迷った。返事につまると、すかさず三郎が久々知の声音を真似て、
「黒のハイレグ。」
と言葉を挟む。「え?」キョトンとしたタカ丸に、久々知は怒りを露にし、三郎を殴りつけた。
「お前は黙ってろ!」
「兵助はパレオみたいな清楚系が好きっすよ」
「タカ丸さん、信じなくていいから!」
ぎゃいぎゃいと騒がしい男たちの横で、雷蔵は落ち着いて注文したアイスティーを飲んでいる。
「雷蔵は何着るの?」
タカ丸が訊ねると、雷蔵はにっこり笑って
「スクール水着」
と答えた。これに驚いたのは三郎で、「えっ!?」と動きを止めてまじまじと雷蔵を見つめる。
「三郎の趣味なの」
「雷蔵、俺そんなことひとことも言ってないぞ!」
「・・・私、店内で暴れる男の人って嫌い」
途端に大人しくなる三郎に苦笑したふたりだった。
現パロ 忍術学園現代版。
堅物の兵助が付き合い始めたのは、後輩だけど僕らよりひとつ年上の斉藤タカ丸。若いながら将来有望な見習い美容師なのだそうだ。最初に彼を見たとき、独創的なアシンメトリーの髪型に、金色に染めた髪。香るコロン。制服のネクタイをわざとリボン結びに決めてみたりして、一体どこのチャラ男だと僕らは目を丸くした。
兵助は今日まで色恋にはまるで感心のなかった朴念仁だ。どうしようもない堅物で、学校の校則を破るなんて微塵も考えないような男だ。それが、まるで世界が違う、今まで恋人がいなかった時期がないんだろうなっていうような派手な人間を捕まえて、「こいつが俺の恋人」などと臆面もなくいうのだから、僕らの驚きは相当なものだった。
「どこで出会ったの?」
と開口一番三郎が詰め寄ってしまったのも無理はないと思う。
兵助は相変わらずマイペースで、僕らの驚きなんかにはまるで気づいていないふうで、「俺腹減ったからメシくおーぜ」とあっさり言い、さっさと駅前のスターバックスに向かって歩き出した。
駅前のスターバックスで平助と三郎が僕らの注文もあわせて請け負ってくれている間、僕はタカ丸君とふたりっきりで向かい合うことになった。僕はどうしても兵助とタカ丸君を結びつけることができず、無遠慮にタカ丸君を見つめてしまっていた。彼は僕の視線に気がついて、真っ直ぐ僕を見ると、にっこりと微笑んだ。
「はじめまして」
「あ、こっちこそ、はじめまして」
「えっと、俺まだよく分かってないから申し分けないんだけど・・・不破、雷蔵さん、ですか?」
「あ、うん」
「双子じゃないんですよね」
「うん、まあ・・・・」
説明が面倒だから、僕らは堅気の人間には双子という設定にしてある。さては兵助が真実を喋ってしまったのか。いくら恋人相手だからって、兵助らしくない短慮だ。忍者が秘密をべらべらと喋るだなんて。それがどんなに小さな嘘でも、命取りになることだってある。僕はあとで兵助に文句を言ってやろうと思った。
タカ丸君は、ははあ、と感心したように溜息をついて、まじまじと僕を見遣る。
「学校は大変ですか」
「別に、学校なんてどこも一緒でしょ。ほどほどに楽で、でもテストは多いし予習も多いし、そういうところはやっぱり大変だよね」
「そうか、そうなんですね」
タカ丸は君はこくこくと深く頷く。ちょうどそのとき、コーヒーの香りとともに兵助と三郎が戻って来た。それぞれに、三郎は僕の隣、兵助はタカ丸君の隣に座る。
「どんな話をしてた?」
兵助が気遣うようにタカ丸君を見た。僕は、あれ、と思う。どうして兵助はわざわざ僕らを街に呼び出して、タカ丸君に合わせたんだろう。そんなことが今更ながらに気になる。
「自己紹介をしあっただけ」
「そうか」
兵助はタカ丸君に向かって深く一度頷いてみせると、そのまま僕らのほうをまっすぐ見つめて口を開いた。
「タカ丸は、桂男の家系なんだ」
胃腸風邪ひきました。皆様はお気をつけください。
現パロにするんだって、タカ丸は男がいいなあと思っているんですが、女体化してみました。という話。
(大いなる矛盾)
*まるっきり少女マンガです。
酎ハイをジョッキで3杯と、生ビール、泡盛を一杯に梅酒のロックを2杯。そっから先は覚えていない。ただ、お気に入りのソルティー・ラ・トマトを飲んでいないのは絶対おかしいので、記憶にないだけで多分2杯くらい飲んでる。浴びるように飲んでふらつく身体のタカ丸を、友達はからかい半分でひとりで帰れるか、と心配した。
「かえれるかえれる、だいじょぶ~、わたしさけはつよいかららら」
「いや、さすがに今夜は限度ってものがなかったぞお前」
「ほんとにへいきだってば」
笑顔で手をふって、携帯のメールをチェックしながらマンションまでの暗い畦道をとぼとぼ(いや、ふらふら?)歩いていたら、コンクリートの出っ張りに蹴躓いて道路側に転んだ。買ったばかりのリズリサのスカートは汚れるし、ブーツは変な折り目が尽くしでいいことない。「いったい…」呟いてみたところで誰も助けてはくれないのだから、むくりと起きあがって泥を払って携帯を拾うととりあえずはまたふらふら歩き始める。優ちゃんとのデートの来ていこうと思って買った千鳥柄のポンチョは、結局お役目ごめんになったので今日着ていった。友達は褒めてくれたけれど、やっぱ転んじゃうし、いいことない。
掌の中で携帯が震えたので、メールボックスを開いたらさっきまで一緒だった秀ちゃんだった。
件名 大丈夫?
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おにいちゃんをそっちまで寄越そうか?
いまどこにいるの(・о・)??
あー秀ちゃんはすごくいい人だけど時々こういう気遣いがない。こんな真夜中に優ちゃんを呼び出して、おいそれと新婚の旦那さんと会うわけに行かないだろうが。少しは向こうの奥さんの気持ちを考えろっての。それに、優ちゃんに会たいからこそ絶対会えないこの辺の悩みもちったあ気付いてほしいもんだ。
件名 ダイジョウブVv
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もうすぐ家なのでダイジョウブだよ、ありがと。
今日楽しかったね、またやりたいね。
おやすみ~(^_^)/~
ぷちぷちと立ち止まってメールを打っていたら、あんまり寒いんででっかいくしゃみがでた。あー寒い、駄目だ、もう我慢できない。タカ丸は携帯を鳴らすと兵助にコールした。ワンコールででた、その声には怒りが含まれていた。
「今どこだ?」
「駅までの途中にあるミニストップの近く。今寝てた?」
「寝てた」
「じゃいいや、おやすみ~」
「馬鹿!俺、終わったら連絡しろって言ったよな、迎えに行くからって。何で連絡よこさずんなとこまで歩いてるワケ?」
「やあ~、兵助チャリだし今日ちょう寒いし迷惑かなって思って」
「俺から誘ったことだろ」
「そーだけど」
ごめんね、とタカ丸は謝って、むき出しの膝小僧を擦った。あ、タイツ破れてる、青痣できてる。チョーかっこわるい。ぜったいぜったい兵助にきてもらっちゃ駄目だ。思えば私、兵助相手にはかっこわるいとこ見せすぎだ。大学では下級生だけど、でも年上だし、もっと頼りがいある綺麗で小粋なおねーサンって感じに見せたい。そんで、恋愛するにしてもお洒落な感じで、余裕のお付き合いすんの。前に兵助の友達が、タカ丸さんはそういう雰囲気するっていってた、から、たぶん兵助もそういう目的で合コンで声かけてくれたんだと思うし。だいたい、兵助の持ってるAVとかエロ本おねー様系ばっかりなんすよ、いいわ坊や、私が教えてア・ゲ・ル(はあと)みたいな。とかなんとか、前に兵助の友達から聞いた。
父さんが美容師だし、お洒落には確かに気を使っているけれど、実際遊んでるふうなのは見た目だけで、中学からずっと一人の人にしか恋したことないし、お付き合いもその人とだけ。それもこの間振られて終わったし、だからこと兵助の要求に関してタカ丸は全部見掛け倒しだ。
「今から迎えに行く、から、寒いしコンビニで肉まんでも買って待ってろ」
「あ、いいのいいの、こなくていい」
「…誰かいんの?」
「ひとりだけど、べつにダイジョウブだから、こなくていいよ」
「じゃなんで、電話」
「寒いからどうしてるかなーと思って、そんだけ」
「ふざけんなって、お前」
「寝てるの邪魔してごめんってば、そんなに怒んないでよ」
「馬鹿!そうじゃなくて、…あー、もう、いいや。やっぱそっちいくわ、待ってろ」
「こなくていいよ、私帰るし、来ても誰もいないよ」
「それでもいい、行く」
「来なくていいってば。今兵助と会うと絶対流されるもん」
「流されるの嫌か」
「嫌っていうか、怖い。だって、兵助は友達だもん、優ちゃんじゃ、ないもん」
いったとたん、涙が出た。涙だけでてればまだましだったのに、鼻水まで出てくるから、嫌だな、本格的にかっこわるい。くしゃみしながらべそべそ泣いてたら、携帯越しに、兵助の途方に暮れた声がして、
「ばか、お前、俺まで泣かせんな」
ってめっそりしてた。馬鹿だなあ、この世の中に、叶う恋しかなくなればいいのに。みんな、好きになってくれる人を好きになって、好きな人から好かれればいいのに。すきっていう気持ちはいいことのはずなのに、どうして恋というのはこんなに辛いもんかなあ。
涙でぐしょぐしょになったひどく不細工な顔になって、タカ丸はコンビニにはいることもできず、外で震えて兵助を待ちながら、流されることについて考えていた。
そういえば、24日のバイトは休みなのだ。同僚から、代わってくれるようお願いされているのだが、どうやって返事をしようか。兵助に決めてもらったら、なにか、変わるだろうか。