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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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なんくるないさ(4年)

女体化で夏お題。4年全員女。


16    
お泊り

 
「このメンバーで旅行行くって言ったら、めちゃくちゃ驚かれた」
「私も」
飛行機に乗ってそうそう、三木はバリッとポテトチップスの袋を開けた。「離陸してからあければよかったのに、アンタ、揺れたらこぼれるよ」と滝夜叉丸が横で咎めると、三木はうるさそうな表情を浮かべて、「離陸のときは口を縛るからいいの」とつっけんどんに言った。ポテトチップスを食べることに関しても、お菓子くさい、とか、いちいちおやつ食べてたら太るよ、とか、油ものばっかり、とか言われそうだと三木は勝手に想像して眉をひそめた。滝夜叉丸とは、とても小さな仕草のいちいちからしてことごとく気が合わない。お互いにお互いの気に障ることばかりする。なんでそんな人と貴重な夏休みを旅行に行くの、と不思議がられても、三木は「よくわかんない」と返すしかなかった。
確かに沖縄には行きたかった。それを何かの拍子にぽつっと零したら、斉藤が「じゃあ行こうか。今度の土曜に一緒に旅行会社行こ」とにこっと微笑んで、三木は、こういうところほんとに人の許可を得ない人だなあと呆れたけれど、斉藤のことは嫌いじゃないから素直に頷いた。ふたりで旅行に行くのだろうと思っていたら、斉藤は勝手にたくさんの人に声をかけたらしくて、滝夜叉丸と綾部までついて来ることになっていた。
「ほんと不思議。私たちって、すごくマイペースで協調性がないもの同士でしょう」
一枚頂戴、と滝夜叉丸が三木の手のひらを見せた。「文句言ったくせに」「別に、食べることに関してはなにも言ってない」三木は白いほっそりした手のひらの上に2,3枚ポテトチップスをおいた。ありがとう、と滝夜叉丸はあっさりと言い、それを口に運んだ。咀嚼して、飲み込んでからぽつんと言った。
「うまくいくのかしらね」
自分たちのことなのに他人のことのように言う。三木は呆れたけれど、そのまま自分もポテトチップスを噛みながら、
「知らない」
と言った。
マイペースな4人が集まった旅行は、ホテルにチェックインしてからもすぐにその自由さを発揮した。ホテルは、プライベートビーチのあるわりと高価なところで、荷物を置いてバルコニーに出れば、眼前にはラムネの瓶の色をした海が広がっていた。
「わ、すごい!」
三木は声を上げると、部屋に戻って服を脱ぎ捨てた。そのままオレンジとイエローのエメラルドグリーンのストライプ柄が可愛いキャリーバッグから水着を掘り出すと、恥らうこともなく下着を脱ぎ捨てて着替えた。
「泳ぐの?」
斉藤は帽子をとって乱れた髪を、ブラシで梳いている。
「泳ぎます!」
「もう六時だけど」
滝夜叉丸はベッドに腰掛けてホッと落ち着いたところらしく、ここにくるまでに買った500mlのペットボトルをグラスに注いでごくごくと飲み干していた。
「沖縄の海は夕方でも温かいから泳げるらしいよ」
話なんか聞いていないと思っていた綾部がぽつんと言った。
窓側のベッドは綾部がホテルについて早々にとった。「私ここがいい」と宣言して、勝手に旅行鞄から枕を取り出したときは全員びっくりした。「蕎麦殻の枕じゃないと眠れないの」斉藤が、「空港のさ、荷物検査のとき、係りの人がちょっと驚いた顔してたんだけどあれってやっぱりこれが原因だったのかなあ」なんて言ったから、滝夜叉丸も三木もちょっと笑ってしまった。綾部は紺にイエローのチェックが入った短パンからすらりとした足を覗かせて、ベッドに寝転がっている。さやさやとカーテンを揺らす海風が、綾部の柔らかい解れ毛を揺らしている。こうしていると、つくづく綾部は美人だった。
「そうなんだ、さすが熱帯」
滝夜叉丸は頷くと、テレビのスイッチをぽちりとつけた。ニュースが流れ始める。三木は水着の上からエメラルドグリーンのタオル地のパーカーを羽織ると、ピンクの水玉模様のビニールサンダルに履き替えた。
「何よ、泳ぎに行くの私だけ!?」
「私、パス。疲れた」
「眠い」
滝夜叉丸と綾部の返事はにべもない。縋るような瞳で斉藤を見遣ると、彼女は苦笑して、「珊瑚拾いに行きたいから、一緒に行こうかな」と頷いた。
斉藤はそれから、市内観光で汗だくになった服を脱ぐと、サンドレスに着替えてサンダルを履いた。ゴールドのラメエナメルのそれは、薔薇のコサージュが派手すぎない程度につけてあって可愛い。
「それどこで売ってたんですか」
「え、このサンダル?近所の安い衣料品店だよ。コサージュは自分でつけたの」
「えっ、すごい!」
「こんど何か作ったげようか。三木は、ひまわりが似合うからひまわりのコサージュね」
斉藤は三木たちより2つ年上だ。実家は全国に店舗を出しているヘアサロンの本店で、斉藤も美容師の免許を持っているらしい。ブロンドに染められた髪はさらさらとして指どおりがよく、品のよい眩しさを纏っている。個性的なアシンメトリーの髪型も、なぜか周囲から浮かない自然さを持っていた。斉藤は性格もよく、すぐに三木の憧れの女性になった。
「私も綺麗になりたいな」
小さく呟いたら、斉藤にはしっかりと聞かれていたらしく、「なれるよ、すぐに」と後頭部を優しく叩かれた。
一泳ぎして、ヤドカリと遊んでいた斉藤を誘って部屋に戻ったら、ぬるい空気のこもった部屋で、滝夜叉丸が疲れた表情をしてテレビを見ていた。薄暗い部屋に、テレビの青い光だけがフラッシュしている。
「おかえり」
「なにここ、なんでこんな暑いの?!」
「綾部が、クーラーつけない派なんだって」
「電気は」
「綾部が寝てるから消した」
みると、この暑いのに綾部は腹に自前のタオルをかぶせてぐうぐう寝入っている。
「あつーい」
滝夜叉丸が汗で濡れた髪を指で掻き雑ぜる。
「勝手につけちゃったら」
三木も暑さに閉口した。そういうわけにもいかないでしょ、とたしなめたのは滝夜叉丸だった。暑い暑いとぼやきながら、冷蔵庫のサンピン茶を取り出してグラスに注ぐ。
「クーラー苦手な人って、つけるとすぐ体調崩す人が多いって言うし」
「だってこんなに暑いのにい!」
綾部ってほんとマイペース。三木が頬を膨らませて、寝入る綾部を睨みつけると、斉藤は、「私、扇風機ないかホテルの人に聞いてくるね」と身を翻して行ってしまった。
「扇風機なんてもらえると思う?」
「さすがに無理でしょ」
「それより晩御飯どうしよう」
「ホテルのレストランでよくない?」
滝夜叉丸が応えたら、横から綾部の声が挟まった。
「焼きそば食べたい」
「うわ、びっくりしたあ!」
綾部の瞳はパッチリと開いている。むくりと起き上がって、もう一度、「焼きそば」と言った。
「そんなもんどこに売ってんのよ」
「ビーチに海の家が出てたけど」
「ええ、晩御飯に海の家行くのお!?」
滝夜叉丸は不満げだ。三木はどっちでもよかった。三木は好き嫌いも特にないから、腹が膨れれば何でもおいしい。食事にまで色気を出すなんて、滝夜叉丸の彼氏にはなりたくないなと変なことを考えた。綾部が呟く。
「焼きそば」
「それはもういいって!」
「タカ丸さんが帰ってきたら何がいいか聞いて・・・」
滝夜叉丸の言葉に重なるようにして、部屋のチャイムが鳴らされた。ドアを開けたら、にこにこ笑った斉藤の隣にかりゆしを着たホテル従業員が、頬を赤く上気させて、満面の笑みで「どうも、扇風機お届けにあがりましたあ」と明るく叫んだので、ふたりは目を丸くして顔を見合わせた。
晩御飯に海の家を提案したら、斉藤は「いいね、それ」とあっさり頷いたので、一人不満げな滝夜叉丸を連れてビーチに出た。ホテルがスポットライトとして使っている緑のネオンに照らされて、ビーチは幻想的な色に明るかった。滝夜叉丸が、浜辺に近づく。足が波に浚われぬ距離で海を覗き込んで、
「あ、魚!」
と声を上げた。「こんな浅瀬なのに」
興味を引かれたのか、綾部も近づいていって、一緒に海を覗き込んだ。
「ツノダシ」
「これ、ツノダシって言うの。あんたこういうの詳しいのね」
「この日のために熱帯魚図鑑購入して予習したから」
「あんたの旅行の準備ってなんか間違ってるわよ」
それから4人で焼きそばだのジューシーだのマンゴージュースだのを買い込んで浜辺にレジャーシートを広げて食べた。焼きそばはふつうの海の家の焼きそばだった。少し冷めていて、特別おいしいわけでもなかったけれど、滝夜叉丸が「結構おいしい」と言ってもりもり食べていたのがおかしかった。明日はどこにしよう、なにをしようなんて話を一通りした後で、ふいに滝夜叉丸が、
「なんかあんたたちといると安心するわ」
と言った。
「どういう意味」
「そのまんまの意味。ああ、べつにいっかあって思える」
「なにがいいの」
「滝夜叉丸でも悩みなんてあるの」
「綾部あんたそれどういう意味」
ぎゃいぎゃいと言い合う3人の横で、朗らかに斉藤が笑った。
「私も滝夜叉丸の言う意味なんとなくわかるよ。3人とも大好き」
「私も斉藤さんは好きです」
「斉藤さんが好きです」
「私も好きです!斉藤さんなら!」
「3人とも仲がいいというか悪いというか」
ホテルに戻ったら11時で、みんなへとへとに疲れきっていたので、順番にシャワーを浴びてベッドに転がった。扇風機をつけてバルコニーに続く窓を開け放ったら、意外と涼しいのだった。ざあ、ざあ、と規則的に聞こえてくる波の音が眠気を誘う。
寝つきの早い滝夜叉丸はベッドに入った途端すぐに眠り込んでしまった。
「もう寝た?」
と綾部が言うので、「寝てない。タカ丸さんは?」
「私もまだ。ねえ、気持ちがいいね」
綾部が静かに言った。
「なんくるないさーってさ、どういう意味だったっけ」
「なにそれ」
「沖縄弁。予習してきたんだけど忘れちゃった」
「食べ物じゃない」
「なんだっけかなあ」
「明日ホテルの人に聞いてみようか」
うん、という答えがなかったので耳を済ませたら寝息が聞こえてきて、「ほんと自由人、みんな」と呟いたら、隣でくすくす斉藤が笑うのが聞こえた。
朝になって、綾部は最後まで寝ていた。三木が目覚めたとき、滝夜叉丸はとっくに起きて、服も着替えた状態でニュースを見ていた。斉藤もとっくに起きて、ストレッチをしていた。綾部を起こして、朝ごはんどうしようとだらだら話していると、綾部はその間に部屋を出て行ってしまった。
「どこいったの、あの子」
「さあ、そのうち戻ってくるでしょ」
チャイムが鳴ったのでドアを開けたら、綾部が4本のプラスチックカップを抱えて立っていた。
「なにそれ」
「ホテルの外で売ってたジュース」
「は、」
「飲もう。マンゴーとグアバとパイナップルとココナッツがあるよ」
綾部がグアバを抱えて「これ私の。なんびとたりとも手を出すんじゃねえ」と言ったので、他の三本を三人で分け合った。三木はマンゴーになった。滝夜叉丸も斉藤も、「三木はマンゴーにしなよ。マンゴーって感じだから」と勧めるのがおかしかった。だが、まあ、たしかにマンゴーは好きな味だ。
フルーツジュースはフラッペになっていて、冷たくておいしかった。乾いた身体に染み込んでいくって、こういうことかと思った。4人でバルコニーに出て、海を見ながら立って飲んだ。
「そういえば綾部、なんくるないさーってさ」
タカ丸が思いついたように言った。
「なんとかなるさって意味だって。起きてビーチ散歩してたら、仲良くなった人に教えてもらったよ」
「へえ」
それからくちぐちになんくるないさーと呟いて、面白いこれ、覚えて帰ろうとかみんなで言い合った。三木もなんくるないさーと呟いて、それから目の前の海を眺めた。きらきらと太陽が乱反射した海が、4人を包んでいる。
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