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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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プラトニックゲーム

01 夏休み最初の朝

竹谷にょたいかで、ほんのりくく竹。意味のわからん話。


だから早く告白しろっていったじゃん。
耳元で誰かの声がした。久々知かな、三郎かな。恥ずかしすぎて情けなさ過ぎて誰にも言えんわ、あーなにこれ。涙でそう。なんか鼻の奥ツンてするんですけど。でもここで泣くと本気ダサいので絶対我慢する。ここでぽろっと涙流して身を翻して駆け出す、とか、前に雷蔵から借りた漫画にあったけど雷蔵ならともかく俺がそれやると絶対キモいし。っていうか留兄追ってこないだろうし。だから笑え、俺、超可愛いスマイルしろ。笑え、表情筋よ、動け、おらに力を!スマーイル!笑え、笑えってば、笑えよこのやろう。ほら、昨日笑金で爆笑したあのネタ思い出せ。るねっさーんす!あー、あは、いいぞーこの感じだ。何も考えるな。無だ、悟りを開け、ハチ。この世の惨めで情けない俺を哀れに思うな全力尽くして笑うのだ。笑い飛ばしてやるのだ!
「あっは、留兄偶然じゃーん!」
言ってからしまったと思った。偶然も何もここ留兄の家の前だぜ。否がおうにも絶対合うっつーの。っていうか俺会いにきたこともろバレじゃん。ちっくしょ、こんなだったら借りてたジャンプ持ってくるんだった。そんで、それ返したことにしてさ、そしたら自然な感じなのに。留兄超びびった顔してんじゃん。うう、申し訳ないなあ~。伊作先輩も超びびっただろうなあ。だけどさ、家の前で抱きしめあうことないじゃん。ご近所の人びっくりしちゃうでしょ。いちゃつくなら隠れていちゃつけっつうの。
「伊作先輩もこんにちわー。いい天気っすねえ!あはは、あたしですか、あ、あのー、あれです、留兄に、じゃねえや、あの、食満先輩にその、ジャンプを借りててですね、返そうと思ってきたんでーす。でも、聞いてください、これ笑い話なんですけど、ジャンプ家に忘れてきちゃったんすよう、あはは、ドジだー。やだなあ、驚いた顔してえ、どうしたんですか、スマイルでいきましょうよスマイルで♪あ、もしかしてこれからふたりデートかなんかですかあ、いいなあ、うらやましい~。なんちゃってー。あ、じゃあ、俺そろそろ帰りますんで、どうも失礼しましたー」
なんて空笑いで方向転換。やった、よくやったぞ俺。ナイススマイル。したら今度は全力疾走だ、唸れ俺のミラクルフット、逃げてみしょうぞどこまでも。
なッさけない終わりだった。驚くほどなっさけない終わり方でハチの長い片思いは終わった。
 
 
その日ハチが履いていたのは某ブランドのミニのフレアスカートで、ジーンズ地にレースの縁取りがしてあって、スポーティーななかにちょっとしたガーリーさを取り入れたこの夏の新作だった。という説明は、スカートを選んでくれたタカ丸さんがしてくれた。ハチは黙って履いては脱いでを繰り返してただけだ。
「やっぱスカートはやめとく・・・着る機会ないし、似合わないし」
おじけるハチの背中を押してくれたのは雷蔵だ。可愛いよ、ハチ。ハチなら絶対大丈夫だって。ああもう、なんなのこの天使。三郎がメロメロのわけがわかるわよ。タカ丸さんもきらっきらの笑顔を見せて、がんばってね、と微笑む。すごいな、100万ボルトのその微笑。なんちゅうボルト数っすか。街を歩けば人々が振り返り、モデルの勧誘にナンパに声かけられまくりの超美人。兵助がとち狂って恋に溺れたのもよくわかる。ハチはいままで宗教の勧誘と布団のキャッチセールスにしか呼び止められたことはない。
もっと早く告白しとけばよかったよな。
いまさら言ってもほんとにしょうのない話だ。思い立ったが吉日なんて、所詮は慣用句だ。ハチの場合、思い立ったが手遅れで、長年の思い人である食満にところにせいぜい可愛い格好でもして告白しようと勇んできてみれば、食満は学園では美男美女カップと名高い伊作と熱い抱擁を交わしていたという究極のオチだった。
ハチは泣くのを我慢したまま雷蔵の家に飛び込んだ。優しいママさんが、あら、サブちゃんも来てるわよと微笑んで、リンゴジュースをグラスに注いで持たせてくれた。鼻を啜りながら、もうほとんど決壊寸前になった瞳で雷蔵の部屋のドアを開けたら、雷蔵はベッドの上に倒れて、チェックのノースリーブシャツを腹からたくし上げられて、真夏の生ぬるい空気に素肌をさらして、上から圧し掛かった三郎に乳首を齧られていた。
「すいませんでしたあー!」
なんだあれなんだあれなんだあれ。涙も引っ込んだわ。慌てて雷蔵の家から飛び出す。背中から「三郎、馬鹿!この野郎!ぶん殴ってやる!」という雷蔵の怒鳴り声が聞こえたが、ハチは振り返らなかった。「なんで俺が悪いの、合意の上じゃん!不慮の事故じゃん!」と三郎の泣き声も聞こえたが、ハチは気にも留めなかった。ひいひいと咽喉で嗚咽をかみ殺しながら、今度は失敗がないように兵助に電話する。ワンコールで出た。
「兵助んち行っていい?」
「おう、こい、ハチ」
返事は短かった。ハチは兵助の家に行くまで我慢と思って、嗚咽を飲み込んで鼻を啜って涙を振り払って走った。兵助の住む一人暮らし用おんぼろアパートの扉を今度はノック付で開いたら、兵助は一升瓶を抱えてたこのように顔を赤くして酒を飲んでいた。
「男はつらいよ」
「へあ?」
「ひっく、女がなんだってんだ。たった一人の男がなんだってんだ。年下は頼りないかよ馬鹿やろう、だーあから、泣くくらいならあんな男やめちまって俺にしろって言ったんだよ、タカ丸さあん」
酒臭い軟体動物がぎゅうぎゅうしがみ付いてくる。兵助もどうやら辛いことがあったらしい。つらい恋をしているのだ。ハチは兵助を抱きしめて、一緒に畳みの上に転がった。古いい草が背中に刺さって痛かった。
「兵助、おれ、ふられた」
「俺もふられた」
くすん、とハチは鼻を鳴らした。くすん、と兵助も鼻を鳴らした。
「ハチ、なあ、キスしようぜ」
「友達はキスなんてしないんだぞ」
「そんな馬鹿なこと誰が言ったんだ。ここに連れて来い、俺が説教しちゃる」
兵助の舌がべろんとハチの首筋を舐めた。ひゃ、とハチは身を竦めて、兵助を強く抱きしめた。兵助の指がハチのキャミをたくし上げた。イエローのチェックのブラが露になった。一応勝負ブラなのだが、色気がないなあと他人のごとく思った。兵助は酔っ払ったまま、ブラの上から乳を揉んだ。
「ちいさくて揉みにくいな」
「うっせーな」
「ハチ、」
「なに」
「こういうときだから名前のひとつでも呼んだほうが良いのかと」
「じゃ、好きだって言ってくれ」
「好きだ」
兵助の声と、近くを走る総武線の音が見事重なった。ゴゴン、ゴゴンと重い音を立てて電車が走り抜けていく。電車から見えてしまう、と思ってハチは恥ずかしがって身をよじった。兵助がカーテンを閉めようと立ち上がった。部屋の隅に転がっていたハチの携帯がぴるぴると鳴った。兵助が拾い上げた。シャツから透けてわかる身体のラインが、見たことのない男のもののようで、ハチは視線をそらした。
「誰から?」
「食満先輩。どうする?」
「出たくない」
「俺でようか、」
兵助は答えのないうちにハチの携帯の通話ボタンを押した。
「もしもし、俺ですけど。俺って、久々知ですけど。ハチに何の用ですか。え、なんで俺がハチの携帯に出るか?いいじゃないですか、そんなこと先輩には関係ないでしょう、・・・なんだと!?じゃあ言わせて貰いますけどね、あんたハチのことどう思ってるんですか、泣かせといて大切なとかよくいいまあすよほんと。誤解?誤解ってなんだ、だいたいあんたは」
部屋に転がっていた兵助の携帯も鳴り始めた。めんどくさがって着信も初期設定のチャイム音で終わらせているようなやつが、なんの心変わりだか、星に願いをなんてロマンチックな曲に設定しているんだから笑える。「兵助、電話」とハチは声をかけたけれども、へべれけの兵助は食満との電話越しの喧嘩に夢中だった。
コールは留守電に切り替わった。ピーという発信音のあとに、流れたのは綺麗な綺麗な年上の後輩さんの声だった。
「あのね、久々知、くん、さっきはごめんなさい。えと、優ちゃんのことは私がこだわっているだけなので、ほんとに優ちゃんは悪くないっていうか、・・・あ、そういうことが本題じゃなくて、あの、私のために本気で怒ってくれたりとか泣いてくれたりとかしてありがと。怒るのも泣くのもすごく体力がいるので、それをしてくれるひとって、ほんとに、その人のことが好きな人だと思う。あの、私をすきっていってくれて、ありがと」
ずるい人だな、と思う。こんな言葉聞かされたら、生殺しだ。いつまでたったって諦めきれない。どこかたどたどしいような言い方がかわいらしかった。兵助がつくづく羨ましくて、かわいそうだ。
「兵助、携帯かして」
怒鳴っている兵助の肩越しに、ハチは携帯を取り上げると、なにやらわめいているふうの食満に向かってはっきりと言ってやった。
「やっぱり好きです、付き合ってください。オッケーなら兵助んちにいるから迎えに来て」
携帯の向こうで食満が何かをポツリと呟いたようだった。ただしハチはそれを聞かずにぱくんと携帯を閉じた。兵助がきょとんとハチを見ていた。ハチが笑った。
「駄目だ、兵助。叶わない恋でも、辛い恋でもさ、逃げたら駄目だ。がんばろう。俺たちがどんだけ好きか、見せつけてやろう」
携帯はブラックアウトして切られていた。さて、どうなるか。だめでもいい。次のチャンスまで待とうと思う。一度きりの遠ざかりで、失ったとは思わない。続いている。続いている。続いてる、どちらともがやめないかぎり、まだ恋は続いてる。
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