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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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日はまた昇る

ごめん・・・女体化じゃ・・・ない。
部活ものといったらこいつらだろ!

27 最後の試合(三之助と小平太)


最後の大会だった。
俺らの実力じゃせいぜいが地区大会どまりで、全国なんて目指せるはずもないと知れていたけれど、それでも俺が入部したころから毎日のように全国全国って言ってる先輩をどうにか行けるところまで行かしてやりたくて、俺はその夏、必死だった。
「もう動けないです」
ウーロン茶を一口で飲み干して、金吾は行儀よく呟いた。動けないっす!とか、体育会系らしく言えばいいのに、育ちのいいらしい後輩はいつも丁寧なしゃべり方をする。
部活のあと、俺は大概後輩を連れて帰り道のファミレスに寄った。そうしてそこで、ドリンクバーとシーフードピラフを奢った。シーフードピラフは、メニューの中じゃ一番量があって比較的値段が安い。どうせ育ち盛りの男たちなんか、飯の味なんてなにもわかっちゃいないのだ。
俺が飯を奢るのにはわけがあった。それは、情けないけれども、キツい先輩のしごきから後輩たちを逃げ出させないようにするためだった。先輩は技術があるから、出来の悪い俺たち相手に練習しているとどうしてもカッカするのだろう、練習も後半になってくると疲れてだれてきた俺たち相手に顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「全国いきたくねーのかお前ら!」
先輩がもといた中学は、中学バレーのトップ校で、それこそ、全国なんて当たり前。一位二位を争っていた有名校だったというから、地区大会に出場決定するだけで諸手を挙げて喜ぶような俺たちを率いて、フラストレーションが溜まることはこの上ないだろう。はじめから意識が違うのだ。
先輩が男子バレーの部長になってから、
「俺、部活やめます」
と言いにきた部員は後を絶たなかった。俺と一緒に男バレに入ったはずの同級生も、先輩が部長に決まるだろう噂が流れた春に逃げるようにして部をやめた。今じゃ二年は俺のほかに数人いるだけだ。俺も何度かやめようと思った。部活は全員強制されているこの学校で、男バレを選んだのは、あらゆる運動部の中で一番弱かったから練習もきつくないだろうと思ったからだった。
俺が入ったとき、先輩はイッコ上の二年生で、弱いだらだらした部活のなかで、先輩だけが吠えていた。もっと走れとか、だらけんな、とか、負けたくねーのか!とか。俺たちはそれを背中で受けながら、やっぱりとろとろと走って、「勝ちたきゃ別のガッコ行け、だよなあ」とか零していた。
俺は、みんなが辞めて行くなかで、辞めるタイミングを逃した、いわばトロ組だった。
金吾は家が剣道の道場らしい。うちの学校でもやっぱり剣道部に入るつもりだったらしいが、うちに剣道部はない。親は帰宅部にして、道場での練習に精を出せといったらしいが、部活は強制されているからそれも適わない。だったら一番練習量が少ないという男バレを、と思って選んだのだという。俺たちの部のなかでは筋のいいほうで、先輩から愛されていた。金吾は、年上に気も使えるいい少年だった。
「今年は先輩、いつも以上に張り切ってるんですね」
「ああ、まあ、先輩今年で卒業だからなあ」
なっちゃんを啜りながら頷く俺に、金吾はにやにやと笑う。
「ちがいます。七松先輩もそうですけど、それ以上に次屋先輩が」
「え、俺?」
「すごく張り切っておられますよね」
 
 
部活に残された俺は、参ったなあ、と頭を掻くしかなかった。まあ、半年たったら七松先輩は部活を辞めるし、それまでの辛抱だとだらだら部活に顔を出した。4月の中旬になると新人勧誘が始まって、俺は『男バレでいい汗流そう!』と書かれたプラカードを首から提げて、やっぱりだらだらと新人の間を歩いていた。練習量は少ないよ、俺らの部活弱いから。先輩もやさしー人ばっかだよ、なんて適当な一年生に声をかけていく。そんな声かけだから、集まるのもやる気のなさそうなやつらばっかりだった。明らかに腕のありそうなやつとかは、最初ッから野球部やらバスケ部やらに遠慮して声をかけなかった。それは暗黙のルールになっていた。
そんななかで、先輩だけが能力のありそうな新人に勇んで声をかけていた。先輩が腕を引いていたのは加藤団蔵という一年生で、そいつは中学のときからサッカーがずば抜けてうまいってんで有名なやつだった。
「バレーやらない?」
と先輩が声をかけたとき、どうやら高校ではサッカー以外もやってみたいと思っていたらしい団蔵が、「面白そう」と呟いたことで騒ぎは起こった。最初ッから団蔵を入れるつもりだったサッカー部が、団蔵を無理に言い包めたとかで、先輩に文句を言い始めたのだ。
「なんだよ、やりたいっていったのは本人だぞ!」
騒ぎのなかでよく通る先輩の声だけが憮然としていた。俺たち男バレメンバーは「部長空気読めよなあ」「恥ずかしいよ」なんて頭を抱えてた。俺も知らん振りしたいと輪のはずれでしゃがみ込んでいた。けれど、ぽつんと誰かの呟きが聞こえたのだった。
「小平太、お前調子に乗るなよ。中学で怪我して、使えなくなって学校捨てられたお前がさ。こんなところまで流されて何ひとりでがんばってんの」
そう、俺は知らなかったのだ。先輩が足首を悪くしてから、高校男バレのトップ校への推薦内定を先方から打ち切られていたこと。そうして、こんな僻地まで流されていたこと。
先輩は勝気で負けず嫌いでプライドが高いから、そんなことを言おうものなら掴みかかってぶん殴るだろうとひやひやした。だけど先輩はいつまでたってもそこを動かず、黙って突っ立って、言ったやつを睨みつけているだけだった。首輪につながれたライオンみたいだった。怒鳴りつけるべき唇は歯噛みして罵声を飲み込んでいて、打ち付けるべき拳はグッと衝動を握りこんで耐えていた。俺は何故だか居た堪れなくなって、「そこの一年坊主が自分で言ったんだよッ!」と先輩相手に啖呵を切っていた。
生意気だというんで、帰り道に伸された。部長のきつい練習のあとでくたくただった身体は、先輩からの拳を受けて一発でKOされた。体中に蹴りやら拳やらを叩き込まれながら、あーわりにあわねえなあとか遠ざかっていく頭で考えていた。翌日は学校を休んだ。怪我がひどくて熱が出たのだ。夕方になって先輩が自宅を訪れて、ジャージ姿のままで、「すまん!」と俺に頭を下げた。
「部活の帰りにわざわざ来てくれたんすか」
「わざわざっていうか、」
「着替えもしないでそのまま」
「あー、っていうか、ジャージなのは返り血がついてもいいようにってだけだから、気にとかすんな」
「え、返り血?」
「あ、なんでもない。あいつらには謝っとけって言っておいたから」
言っておいた、とは言うが、おそらくは肉体言語だろう。先輩の赤く腫れた右手を見つけて、俺はなんだか笑い出したくなった。先輩に関して初めて、明るい笑いが零れそうになっていた。
「あのときは暴力耐えてたんじゃなかったんすか」
「今回のは、お前の仕返しだから良いんだよ」
俺は先輩を駅まで送っていった。熱はもう下がっていた。夕日がきらきらと川べりを輝かせている中で、先輩はゆっくり歩きながら、昔のことを話してくれた。ひとりの神童が、何の因果でか足を悪くして、みんなからいらないといわれて捨てられたひとつのよくある話を。
俺はそれから、何でだか「全国を目指そう」と思った。全国なんていけるわけない。だけど、上れるだけ上へ上ろう、と思った。高みへ連れてきたい人ができた。ちやほやされ続けた上に、お前なんてもういらないとみんなから背を向けられた孤独なもとヒーロー。
帰りに金吾とブックオフに寄った。スラダンだのキャプ翼だのを捲りながら、「男バレにもこういう名作があったらなー。うちの部員にやる気が起こるかもしれないのに」と呟いたら、横で金吾が笑った。
「先輩、やる気ですね」
「ま、でも、やってるこたみみっちいよ。スポ根漫画じゃさ、こういうとき、俺が華麗にランク高い技でも見せてさ“お前ら俺についてこいや”ぐらいいってんのに、現実はファミレスで飯奢って、なんとか辞めるな辞めるなって拝んでんだもんなあ」
かっこ悪いよ、と呟く俺に金吾はまじめな顔で、「いいえ、かっこいいです」と言ってくれた。やっぱりこいつはまれに見るいい後輩だ。
 
地区大会で奇跡が起こった。うちの部活が決勝まで残ったのだ。俺は勇んで、金吾と手を取り合って喜んだ。決勝試合の前日、練習が終わっても先輩はなかなか体育館から去らなかった。俺は付き合おうと思って、先輩のぶんのスポーツドリンクを買って体育館に戻った。先輩、やったっすね!そういったら、笑顔で先輩は頷いてくれるだろうと思った。
けれど、どうも様子が違うようだった。
俺が体育館に帰ると、先輩はバレーボールを転がしたまま体育館の中央でぼんやり座っていた。体育座りに背中を丸めて顔を伏せているから、泣いているのかとひやりとした。
「ど、どーしたんすか」
声をかけたら、先輩が顔を上げた。
「三之助、」
スポーツドリンクを差し出した俺の腕ごと、先輩はぎゅっとそれを掴んだ。
「どうしよう、明日負ける」
「どうしたんですか、足が痛むんですか」
「うちの実力なんて俺が一番よく自覚してるよ。運よくここまできたけど、明日はもう、絶対負ける」
「テンション下がることいわないでくださいよ」
「昨日偶然昔の仲間に会ってさ、中学時代の親友で、もちろんそいつも決勝決めてとっくに全国行きの切符手にしてるんだけど、うちが決勝まで残ったの知っててさ、まだがんばってたんだなって笑うんだ。まだがんばってたんだな、またやれたらいいよな、がんばれよって笑うんだ」
俺は何も言えなかった。先輩の痛みは、理解ってやるだけで一緒に感じることはどうしてって出来ないから。
「そいつはただ励ましてくれただけかも知んないけど、俺は岩で頭ぶん殴られたような気がしたよ。ばっかじゃねえの、って笑われてるのかと思った。全国全国っていってりゃ、捨てられた未来の尻尾にまだ掴まっていられるような気がしてさ、もう全国目指せる昔の七松小平太なんてどこにもいないのに、ひとりでずっと騒いでる。三之助、俺怖いよ。明日負けて、夢から覚めるのが怖いよ」
先輩が顔を上げてまっすぐ俺を見た。その視線が縋るようで、だけど俺は何も言えなかった。
先輩が口を開いた。
「三之助、俺に諦めろって言え。お前じゃ全国なんて行けないよ、とっとと惨めな夢なんか捨てちまえって言え」
先輩は明日の試合を最後の試合にする気なのだ。俺は、今までの先輩をずっと思い出していた。まだ俺が入りたての頃。弱小の部活で、ひとりだけ「勝とうぜ、全国行こうぜ」って吠え続けてた。みんなから笑われていた、空気の読めない、馬鹿みたいな先輩。どんな気持ちで笑われてたんだ。周りと一緒に夢から覚められない自分のこと笑いながら、全国、全国って言い続けてきたのだろうか。そんなのダサすぎる。そんな先輩のことあこがれてる俺まで、ダサい奴になる。
「先輩、明日かって全国行きましょう。俺らなら、先輩なら、行けます」
俺の言葉に、先輩はぐっと息を詰まらせた。
「ひどい奴だお前」
と呟いた声が掠れていた。
 
 
結局、決勝戦は敗退した。まぐれで勝ち進んだ俺たちにとって、常に全国行きしている相手校は強すぎて、面白いくらいに点を入れられて、最後は敵ながら笑ってしまった。
「やっぱり俺らじゃ無理じゃん」
と、チームメイトに呟きに、俺も頷くしかなかった。金吾は悔しい悔しいと泣き喚いていて、やっぱりいい男だと思った。俺は先輩が心配だったけれど、吹っ切れたのか、いい笑顔で、金吾を慰めていた。「でも、ま、やっぱバレーっておもしろいよな!」
この負け試合が、先輩の最後の試合だった。
帰り道。いつかのように夕日がきらきらしている川べりを歩きながら、俺は先を行く先輩の背中に声を投げつけていた。
「先輩、これで終わったわけじゃないですよね」
先輩はバレー部のユニフォームも練習道具も全部、試合会場の体育館のゴミ箱に捨ててきていた。身軽になった先輩は俺を振り返って、夕日の中で、いたずらっぽくニッと笑った。
俺はこの笑顔があれば、まだまだ勝ちを狙っていけると思った。バレーが駄目でも、これから起こるすべての勝負事に、俺は俺の力を過信して、挑んでいける。先輩の今日の笑顔があれば。
「ばーか、まだ始まってもいねえよ!」
太陽が沈む瞬間のきらきらが、俺を、いつまでだって生かしている。
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