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真夏の夜の夢

02 スイカ(タカ丸女体化の綾タカ?)


ほんとに偶然、街で会った。
新しいデジカメが欲しくなってぶらぶらと秋葉原を歩いていたら、大きな電器屋の店先で名前を呼ばれた。びっくりして立ち止まったら、綾部だった。でたばかりのipodの新バージョンを試していたところらしく、イヤフォンを外しながら、「久しぶりですね」と軽く頭を下げられた。相変わらずの能面だったが、相変わらずの美少年だった。ふわふわの髪を軽くセットして、白のジーンズに藤色のシャツ。堅すぎないフォーマルな装いに、タカ丸はすぐに気がついた。
「あ、今日何かあるの」
綾部は少し驚いたように眉を上げて、「なんにもないですよ」と応えた。
「え、でも、ちょっと格好がフォーマルっぽかったから・・・」
「さすがですね、タカ丸さん。本当は、ありますよ、“何か”。なんだと思います」
「え・・・なんだろ、コンサートとか」
「当たりです。滝夜叉丸のヴァイオリンのコンサートです」
「え、すごい!滝夜叉丸、ヴァイオリン習ってるの」
タカ丸の瞳が少し開かれて、瞳がきらきらと輝く。白い頬にさっと赤みが上った。薄くファンデーションが塗られているのだろう、ルースパウダーもはたいているのか、少し肌がきらめいて見えた。長い手足に折れそうな細いからだ。そのくせ胸はしっかりと育っている、完璧なモデル体系だった。金の薔薇の縁取りが施された白いフレアスカートに、オリーブ色のニット。シャンパンゴールドのエナメルのミュール。同級生よりは明らかに大人の女の装いだった。
家が金持ちなのだという。白く細長い指にはネックレスとおそろいで嫌味にならない程度に真珠があしらわれたリングがはめられていた。学生が持っていいものじゃない。だが、彼女をより美しく見せていた。安いアクセサリショップで買えるようなアイテムでは、タカ丸の美貌をうまく飾れないのだろうと綾部は思った。
「時間が空いているなら、一緒に行きますか」
「え、今から」
「18時からです」
「行きたいな、行こうかな」
タカ丸はバッグから携帯を取り出すと、おもむろに電話をかけ始めた。相手はどうやら父親のようで、これから同級生のコンサートに行くのだとはしゃいだ声で告げていた。
「だからね、父さん、夕飯は一人で食べてね。ごめんね。・・・え、だめよう、それは一人で飲んだら。一緒に飲むっていったじゃん。あ、そうか、だったら私、帰りにチーズ買ってくるね。ブルーチーズでいい?・・・ふふ、楽しみ。じゃあね」
父子家庭だといつかに聞いた。本人の口からだったような気がする。今の口調からして、父親がとても好きなのだろうことが知れた。携帯を閉まって、タカ丸が振り返った。
「まだ六時まで少し時間があるね」
「どっかカフェでも入ります?」
「うん。あ、でもその前に、ショッピングに付き合ってもらっていい?この格好でコンサート行くのはあんまりだから、ショールでも買って少しまともにしておかないと」
タカ丸が言うほどおかしいとも感じなかったが、タカ丸はコンサートに行くにしてはラフすぎると気に病んでいるようだった。
「いいですよ、付き合います」
山の手線に乗って、新宿か、品川か。適当に場所を移動することにした。並んで立つと、タカ丸のほうが頭ひとつぶんほど高かった。タカ丸と懇意にしている5年の久々知兵助は、タカ丸より少し背が高い。思い出して、綾部は下唇を噛んだ。くだらないことにまで嫉妬している。愚かだという自覚はもちろんあった。
ふたりして電車に揺られながら、些細な話をいっぱいした。
「綾部も東京の人なの」
「違いますよ。わざわざ出てきたんです」
「滝夜叉丸のコンサートのために?仲がいいんだね」
「っていうか、」
タカ丸がうつむいた。白いうなじが綾部の眼前にぐいっと迫って、綾部は思わず息を呑んだ。半月に切られた西瓜かメロンのように、食いついてしまいたいと思う。噛むといっぱいの水気が出る気がした。そうしてその汁は少し甘くてよく冷えているのだろう。そんな想像をしているうちに、電車は目的の駅で止まった。「ここだよ、」とタカ丸が足を進める。
むわりとした空気が二人を包んだ。タカ丸に従ってついてゆくと、大きなデパートについた。連れてこられた店は品のいい、いかにもタカ丸の好きそうなデザインのものばかりが並んでいて、ここのブランドが好きなのだとタカ丸ははにかむようにして微笑った。
話をしながらディスプレイを見て回ったら、いい時間になってしまった。タカ丸はとっくに買うものを決めていたらしく、ミュールによく合う色のショールを選び取って身体に巻きつけた。
「どう、変じゃない」
「似合いますよ」
綾部は普段から表情に色がない。あっさりと言い放ってもタカ丸は気にしないふうだったが、横で店員が苦笑した。よくお似合いです、そのまま来て行かれますか。にっこりと微笑む店員に、そうですね、とタカ丸が頷くと、値札をお取りしますと身を翻しレジのほうへ向かっていく。それを待つ間に、綾部がショールについたままの値札をひょいと指でつまみあげた。それはちょうどタカ丸のうなじのあたりについていた。綾部はそのまま値札を引っ張ると、歯で噛み切ってしまった。
驚いたタカ丸が振り返る。
「こっちのほうが楽でいい」
「びっくりした」
綾部は噛み切ってはずした値札を無言で店員に渡す。貴族のような仕草だと店員は思った。
「さあ、本当に時間です。行きましょう」
「ごめんね、思わぬ時間を使ってしまったみたいで」
「気にしないでください」
綾部は店から出ると片手を挙げてタクシーを呼び止めた。ホールの名前を短く告げると、あ、と思い出したようにポケットを探った。しゃらっと金に光る細身のブレスレットが出てきた。
「綺麗ね、どうしたの、それ」
「あげます」
「え、でも、」
「今日の格好には似合いませんか。少しごてごてするかな」
「ううん、悪くないと思う」
「じゃあどうぞ」
「いつ買ったの」
綾部は無言で視線を泳がせた。返答を考えているようだった。タクシーの窓には、白んだ街に東京の街並みが流れてゆく。
「魔法で出したんです」
タカ丸はくすりと笑ってしまった。つかみどころのない美少年の、こういうところがタカ丸は好きだった。
「素敵なこたえ」
「お気に召しましたか、お姫様」
「はい、とても」
綾部がうっすらと微笑んだ。白いかたちのよい頬に桃色が広がって、美しかった。タクシーが止まった。タカ丸が降りている間に、綾部は誰かに携帯で連絡を取ったようだった。まもなく、ふたりの前に滝夜叉丸が現れた。藤色のドレスが上品でよく似合っていた。彼女はひどく怒っているようだったが、タカ丸を見ると、微笑んで深く頭を下げた。
「お久しぶりです」
「どうも。今日はコンサートだときいて」
「ええ、そうです。私と、そこの阿呆も」
「え」
滝夜叉丸がタカ丸の隣に立つ綾部を示した。タカ丸が振り返る。綾部は相変わらずのぼんやりした表情で、
「サボろうと思って秋葉原にいたんです」
と告白した。滝夜叉丸がひどく眼を吊り上げて怒ったように言った。
「サボるといったり、やっぱり弾くといったり、なんなんだお前は」
「俺のヴァイオリンどこ」
「控え室に運んである」
「あっそ」
「あっそじゃないだろーうッ!」
綾部はタカ丸に礼をすると、そのまますたすたとビルへと去ってしまおうとする。呆然とするタカ丸を振り返って、「あ、そうだ。俺、がんばりますね」と挨拶した。やっぱりいつもの無表情だった。
「不愉快なやつだ」
ぶつぶつと呟く滝夜叉丸を隣に、タカ丸は、魔法にでもかけられたような面持ちでぱちくりと瞬きを繰り返し、それから堪えきれずちょっと笑った。
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