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朝顔日記

久々知は頭いいし優秀なんだけど、忍務以外だと肝心なところでたいへんお馬鹿そうだという思いこみによる妄想。


愛することに慣れていないし、愛されることにも慣れていない。


「朝顔ですか」
タカ丸が浴衣姿で団扇を仰ぎながら、長屋から続く中庭にしゃがみ込んでいる。久々知が覗き込むと、ちいさな鉢にちょこんと緑色した双葉が見えた。タカ丸はそれを眺めてにこにこしているのだった。
「そう、一年生の授業での課題なんだ~」
植物の成長過程も忍びにとって重要な知識である。久々知は頷いた。タカ丸は笑顔のまま首を傾ける。
「兵助もやった?懐かしい?」
「やりましたよ。懐かしいです。俺はこういうのは苦手だから、苦労させられた」
「え、兵助にも苦手なんてあるの!?」
タカ丸の驚きに、久々知は心外そうに苦々しく眉を顰める。
「ありますよ、俺にだって苦手のひとつやふたつ。当たり前でしょう」
「ごめ~ん。だってさ、わりに器用で何でもできるじゃない?だから、」
「何かを育てたり面倒見たり、そういう慈しむようなのって苦手なんです。やり方がよくわからないから」
「やり方なんていいんじゃない?ただ、大好きだよ~って思って接してれば伝わるものだと思うけど」
無邪気にアドヴァイスをくれるタカ丸に、久々知はさして表情も変えず、さらりと「そうですね」と同調する返事を返した。タカ丸のアドヴァイスが心に響いたわけでもなく、しかし、さして反論する興味もないらしい。これ以上この話を深める気はない、そんな拒絶が伝わってくるような態度だった。タカ丸は、愉快な話題でもないのだろうと気を遣い、すぐに話題を変えた。

その十日後に朝顔が花を咲かせた。タカ丸は手を叩いて喜んだが、葉の色が黄色っぽくなっていることに気がついて、久々知に相談した。久々知は、指で葉を撫でると、「俺よりも竹谷のほうが適当だろうから」と、竹谷を呼んできた。
「ああ、水のやり過ぎですね」
「え、そーなの?花が咲いたから、その分いっぱい水がいるかと思って、俺・・・」
「ちょっと土が乾いてるくらいがちょうどいいんですよ。2、3日ほうっといてください。それから水をやったら、こいつ、ぐんぐん水飲みますよ」
毎日水をやって、可愛がりすぎたのだとタカ丸が反省した調子で言うと、竹谷が「気持ちはわかります」と笑う。「でもこいつも、生きてるから。生きてるやつってみんな、すげえ丈夫で強いから。だから、過保護にされると逆に調子狂って駄目になっちゃうんです。天気って、毎日雨降るわけじゃないでしょう?晴れのほうが多いくらいでしょう。だから、花だって、あんまり水飲まない方が生きてけるようになってるんですよ」
「なるほどねえ」
しみじみと頷くタカ丸の隣で、久々知は黙って冷たい茶を飲んでいる。久々知は一年の頃、課題の朝顔を枯らした。結局、合格はもらえないままだった。久々知は朝顔が好きだった。大好きだから、いっぱい花を咲かせて欲しいと思って、毎日水をやった。いつも鉢からあふれるくらい、水をやっていた。喉が渇いたらかわいそうだと思っていた。大雨の降る日にも、水をやった。ひしゃくですくっては、雨水であふれかえる鉢にさらに水をやった。
「元気出せ、大きくなれよ」って、枯れてしまった花に、優しい言葉をかけ続けた。あのときからすでに久々知は間違えている。でも、何が間違っているのかよくわからない。愛し方がわからない。動物の世話も植物の育成も、久々知はいつだってさんざんの成績だ。きれいに咲けよ、元気に育てよという願いならば、いつだって抱いているのに。

竹谷が帰ってから、タカ丸が久々知に肩を寄せてきた。夏の夕方だが、その日はいつもより涼しかった。
「へへ、ちょっと肌寒いから、暖取りだよ」
「掛布でも持ってきましょうか」
「ううん。兵助がいればいい」
タカ丸は白くほっそりした指で、久々知の、年齢の割にごつごつした指を撫でる。この節くれ立った、美しいとは言い難い隆起の激しい指は、そのまま久々知の人生だ。
「朝顔、回復しそうでよかったですね」
「うん。竹谷くんすごいねー」
「あいつは、いい男です」
友を誉められて嬉しかったのか、久々知の頬がかすかに緩む。タカ丸が微笑んで応える。久々知の視線が、不意にまっすぐひたむきにタカ丸を捉えた。指が持ち上がり、タカ丸の傷ひとつない滑らかな肌を滑る。
「・・・あなたのことを、上手く愛せるかな」
タカ丸はきょとんとした。しかし、久々知の瞳の奥にどことなく臆病の色が見えて、可笑しくて、可愛くて、少し笑った。
「大丈夫だよ。俺、花じゃないし。それに、ずっとずっと、しぶといもの。こう見えても兵助よりお兄さんなんだよ。・・・ね?」
言い聞かせるような、子どもに向かうような態度に、兵助の頬に種がさす。
その夜、久々知ははじめてタカ丸を抱いた。顔を真っ赤にして、呼吸を乱すタカ丸に、久々知まで苦しくなった。泣きながら久々知に貫かれるタカ丸を見ながら、この愛し方は正しいのかとすら思った。久々知は、快楽に腰をすすめながらも、何度も、謝っていた。
ごめんなさい、ごめんなさい。俺、あなたのこと好きなのに、大切にしたいのに、こんなふうな、泣かせるような愛し方しか知らなくて、ごめんなさい。

竹谷と出会ったばかりの頃、兵助は、竹谷からもらったひよこが嬉しくて、抱きしめて眠った。翌朝、自分の身体でひよこをつぶしてしまった。久々知は、かつてないくらい、生きたなかで後にも先にもないくらい、激しく泣いた。
「ひよ、ひよ、ひっ、ひよ、ひっひっ、ひよ」
「兵助、もう泣かなくていいよ。ひよこはもう埋めたから、きっともう成仏したよ。兵助のこと恨んだりもしてないさ。やさしいひよこだったもの」
「ひよ、ひよ、うえええ~」
「兵助はひよこが好きで、大好きだから、一緒に寝たかっただけだもんな」
「はっちゃ、ごめ、ごめんねえ」
「おれも怒ってないよ。だっておれ、ひよこと同じくらい、兵助のこと好きだもんなあ」

ふっと夜中に目が覚めて、自分の手が誰かを抱きしめていることにぎょっとした。久々知は何かを寝所に入れるのが、あれからずっと苦手だ。目を見張ったら、タカ丸だった。馬鹿なことだと思いながらも、不安に駆られて、彼の心音を確認する。とくん、とくん・・・生きてる。
(大丈夫だ、つぶしてない)
それから兵助は、なぜだか鼻の奥がつんとして、慌てて目を閉じた。鼻腔が、朝の冷たい空気にさらされて、兵助の気持ちを和らげる。ごめんな、ひよこ。タカ丸さんが丈夫でよかった。おれ、今度こそ、大切にしよう。タカ丸さんのこと、大切に大切に、愛そう。間違ったところがあったら、はっちゃんに叱って貰って、今度こそ、俺は。
夢うつつの兵助の耳元で、朝顔の花の開く音がした。
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