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ぼくらは男の子②

さて、翌日の体育委員会のことであった。裏山を登ったり降りたり登ったり降りたりして、夕刻。ようようの態で学園にたどり着いた委員たちは、倒れこむように校門の傍にへたり込んだ。委員長の小平太だけが、足りないから校庭走ってくる、と言い置いて駆け出していってしまう。その背中を見送りながら、三之助は「化けもんか、あのひと」と心のうちだけで呟く。それを口に出す愚行を犯さないのは、滝夜叉丸が小平太への礼儀に対してとてもうるさいからだった。滝夜叉丸は三之助と己を縛っていた迷子紐を解くと、金吾の手を握りながら、「では、歩くぞ」と歩き始める。プライドが高く自慢の多い鼻持ちならない人だと云われているが、実力は本物で、あれだけたっぷり運動した後でも、滝夜叉丸の息切れはすでに収まり始めている。激しい運動をした後は、すぐに身体を休めると返ってよくない。学園のないをゆっくり散歩してから解散するように、というのは小平太の指示だ。金吾は、一年生のなかでは体力のあるほうだけれども、激しすぎる運動量にぜえぜえと激しく咳き込んだ後の病人のような様子で、滝夜叉丸に手を引かれて歩き始める。三之助は昨日の顛末を滝夜叉丸に相談するかどうかを悩んでいた。ぼんやりしていたら、滝夜叉丸が振り返って、三之助に左手を差し伸べた。
「どうした三之助、ほら」
三之助は駆け寄ると、その手を握った。三之助自身はそうは思わないのだが、他人に言わせるとどうも彼は極度の方向音痴らしい。ひとりで歩かせるとすぐ逸れるからといって、滝夜叉丸は、運動の最中は迷子紐を互いに結びつけ、運動の後の散歩は手を握る。三年生になって間もない頃に、三之助は、急に人に手を引かれて歩く自分が恥ずかしくなって、滝夜叉丸の手を拒んだことがあった。滝夜叉丸自身は、「まあ、そういう年頃かも知れんな」と頷き、しかし、「迷子紐はなるべく使いたくないのだが」と断った。三之助は手を握って仲良しこよしで歩くよりは迷子紐のほうがずっといいと主張した。滝夜叉丸は「そうか」と頷いてくれるものの、「迷子紐は、なにやら動物にしているようで私は好かんのだ」とどうしても譲ってくれない。嫌だ嫌だ、手をつなぐのは恥ずかしいと駄々をこねていたら、小平太が「滝を困らせるな!」と一喝した。小平太は実のところあまり委員に対して怒りを露にすることはない。怒ったり褒めたり、説教したり、細かい面倒はみんな滝夜叉丸に任せている。だから、三之助が小平太に怒鳴りつけられたのはあとにもさきにもこのときだけだ。小平太は一喝すると、後は静かに、「三之助、」と呼びかけた。
「手を繋ぐのがなぜ恥ずかしい」
「子どものようだから、からかわれるかもしれない。それが嫌だ」
「三之助、それこそ子どもというものだ。大人はな、理にかなった行動ならば他人の評価など気にせず行うものだぞ。形だけを見て、理を考えずにあれこれ物をいうのは実に愚かな所作だ。滝者者丸はお前の能力を低く評価して子ども扱いをして手を引いているのではない。お前が道を把握することが苦手なぶん、導いてくれているのではないか。それは恥じることではないだろう」
諭されるように云われれば、三之助もなるほどそうかと頷かざるを得ない。それから三之助は、今日まで毎日滝夜叉丸の手を握って一緒に歩いている。遠く日が沈んで、あたりが橙に染まっている。
滝夜叉丸は、深く息を吸い込んで、「秋だな。金吾、今日は栗ご飯かもしれないぞ。食堂のほうからかすかに匂いがする」と一年生を励ます。金吾はほっぺたを真っ赤に上気させて、嬉しそうに微笑む。三之助は、この時間が、好きだ。滝夜叉丸の手を繋いだまま、「先輩、」と声を発した。
いろいろ迷ったが、やっぱり聞こうと思った。数馬は下世話な話だと嫌な顔をしたけれど、でも、大切なことだろうし、この人たちなら変にごまかすようなことはしないでいてくれるだろうと思った。
「赤ん坊って、どうやってできるんですか」
滝夜叉丸の歩みが止まった。ぎょっとした表情で三之助を見つめる。金吾があどけない瞳できょとんと三之助を見上げる。
「次屋先輩、赤ちゃんをお産みになられるんですか。でも、赤ちゃんておんなのひとしか産めないんじゃないんですか。違うのかな」
こほん、と滝夜叉丸が咳払いする。
「金吾、その通りだ。赤子は女性しか授からない」
「じゃあどうしてせんぱ」
「三之助、なぜ急にそのようなことを」
「えーっと、かくかくしかじかで春画本を見つけまして、ほにゃららのすえ、赤ん坊はどうやって出来てどこから出てくるのかという疑問が出来まして。先輩、どうやったら、赤ん坊が出来るんですか。俺でも作れますか?」
「三之助、その疑問を、あの方には決して問うでないぞ」
あの方、とは七松小平太のことであろう。
「どうしてですか」
「下品な話題だからだ。あの方のお耳を汚すことになる」
「でも俺どうしても知りたいんですけど」
「三之助、夜半になったら私の部屋に来い」
「はい」
金吾が首を傾げる。「ぼくも知りたいです。いっしょにいっていいですか?」
「ならん」
滝夜叉丸はびしりと言うと、そのまま深い溜息をついてまた歩き始める。
「まったく、子育てとはかくも大変なものであるのだな」
母となる女性は偉大といわざるを得ない。滝夜叉丸は疲れた気持ちでしみじみとそう思った。


さて、一方で浦風藤内である。彼が作法室で手慰みに生首の髪を梳いていると、綾部がふたりがけの文机の隣に肘を突いて、大きな欠伸をひとつ零した。それから藤内のほうを向いて、「ねえ君どうしたの」といった。
「え、なんですか」
「元気がなさそうに見えなくもないね」
「別に、なんでもないです」
「そう」
「はい」
障子窓の向こうでは鴉がカアカアと鳴いている。委員長の立花仙蔵は途中で教師に呼ばれ退出してしまって帰ってこない。指示が来ないから、作業が終わってしまって手持ち無沙汰で待ちぼうけの状態なのだった。一年生ふたりは、綾部が勝手に帰してしまった。綾部喜八郎は変わった男で、不思議な調子がある。藤内は少し苦手を感じていた。沈黙が降りる。その沈黙を、藤内は不自然な居心地の悪いものとして捉えたが、黙ってまたフィギュアの髪を梳いた。
おもむろに、綾部が口を開いた。
「私、今すごく先輩ごっこをしたいんだけど、付き合ってくれないかな」
「はあ」
「何があったの」
「・・・」
見詰め合うことしばし。藤内は観念したように溜息をつくと、実は、と昨日の一連の出来事を話した。綾部は黙って聞いていたが、藤内の疑問を聞くと、ふ、と美しい顔に笑みを刷いた。
「実に楽しい悩みだ」
「結構切実なんですけど」
「男女のまぐわいがどんなものかしりたいか・・・そうさね、さしずめ穴掘りだな。男女の性交は穴掘りに似ている」
また穴か、と藤内は思った。この男は穴ばかりだ。もういいです、と怒ったように呟くと、綾部は、詳しいことを教えてあげるから今夜部屋においでと言った。藤内はいいです、と首を横に振る。綾部は眠たげな目つきで、藤内を見つめつつ、
「かわいいねえ、」
と笑った。
「お茶菓子を用意して待ってるよ」
「行きませんってば」
「先輩ごっこはまだ続いてるよ~ん」
「先輩ごっこっていうか貴方は最初から先輩でしょ」
「やあだ、勝手に決めないでよ」
「最初から決まってるんですっ!」
「こないだ町でおっぱいプリン買ってきたから、ふたりでそれ食べよー」
藤内は泣きそうな表情を浮かべる。やっぱりこのひと苦手だ。すごく苦手だ。心のうちで呟いたら、綾部は振り返って、まさか心の声が聞こえたわけではあるまいが、にっこり笑って言った。
「ところがどっこいかわいそうなことに、私は結構君のことを気に入っちゃってるわけだ」

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