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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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予期せぬ雪の日

五年ろ組トリオって、らんきりしんに負けず劣らずすごくかわいい!のではないか、ということを言いたかった。

なんとなく一年時のお遣いを思い浮かべて書いた。

---------- キリトリ -----------

昼過ぎに降り出した雨は、夕刻にはすっかり雪に変わった。びょおびょおと吹き付けてくる吹雪を、鼻先まですっぽり覆うようにして深く巻いた頭巾でなんとかやり過ごそうとしても、季節の変わり目でひどい風邪をひいた三郎の身体は、遠慮無しに苦痛を訴えた。三郎は体力はあるものの風邪を引きやすい体質で、冬にも夏にも弱かった。頭巾の下でげほげほとくぐもった咳をしていると、気付かれないように遠慮がちにやっていたそれを耳聡く聞きつけて、竹谷が駆け寄ってきた。
「辛いのか?」
「や、全然大丈夫」
言ったそばから言葉尻に咳がこぼれて、気まずいったらない。竹谷は不安に眉根を寄せると、黙って己の身を包んでいた大判の上着を剥ぎ取ると、三郎の頭を覆うようにしてすっぽり被せた。
「え、ちょっと、何?何やってんの??」
「それ貸してやるよ。ちょっとは暖かくならねーかな?」
「いや、いいよ。そう変わんないし。ハチが着てろって」
三郎がショールを脱ごうとするのを、竹谷が力任せに腕を掴んでとめる。
「いかーん!」
「ええっ?」
「暖かくしなきゃ駄目だ!風邪がひどくなるぞ!それでもいいのか!?」
「えっ、いや…」
返答に困り、竹谷のいつになく押しの強い行動にも気圧されして、つい対応がしどろもどろになる。困ったように後ろをついてきていた雷蔵に視線をやれば、雷蔵は白い息を吐きながら、竹谷と同じように重ねてはおっていた上着のうちの一枚を脱いで、無造作に三郎に押し付ける。
「いや、いいってば。雷蔵が着てればいいから」
「別に、僕寒くないもの」
「とかいって、ついこの間まで雪が降るごとに防寒具買い足してたの誰?」
「知らない!」
雷蔵は三郎の背中に上着を重ねると、三郎を通り越して先を歩く。竹谷が微笑んで、彼の肩を叩いた。
「一日一善!」
右手の親指を突き立ててGJ!のサインをつくれば、雷蔵も頬もとをほころばせて同じサインを返す。
「なにふたりで結託してんの…」
「おれら秘密の同盟結んだんだ」
なー。と竹谷が首を傾げて隣に立つ少年に微笑みかければ、彼も微かな笑みを浮かべて二、三度首を縦に振る。三郎は呆れ果てた。
「なに、何の同盟?」
「えー、そんなの内緒だよな」
「三郎には秘密の同盟だよー」
「お遣いが終わったら町で暖かい飴湯奢る。俺、美味いとこ見つけたんだ」
三郎の懐柔に、ふたりはまんまと引っかかった。竹谷と雷蔵は顔を見合わせると、(どうする…?)(名前くらいならいいよな?)(うん。だって、飴湯だもんね、ハチ)(そうだな。今日みたいな寒い日は飴湯が美味いもんな)ごそごそと小声で相談を始める。吹雪の中でもふたりの談合ははっきりと聞こえてくるのだが、三郎は遠い目をして待った。やがて結論がついたのか、ふたりは同時に三郎を振り返ると、
「三郎を守ろう同盟」
「うん」
竹谷が口を開き、雷蔵が神妙に頷く。
「同盟の趣旨は、病弱な三郎が楽しく快適なお遣いができるように俺らでケアしてやることで、」
「病人には気を使ってあげなくちゃ」
「健康なものの務めだよな」
「うん」
三郎は目を点にして、それから、がっくりと肩を落とした。忍び装束に隠し持っている暗器が、バランスを失ってぼとぼとと真っ白な雪の上に落ちていく。
「どうしたんだ、三郎、身体辛いのか?」
「おぶってってあげようか?」
親切だがその方向性の間違っているクラスメイトとたちからそんな気を使われて、三郎は脱力したことこの上ない。努めて早く元気になろうと決めた。掛けられた上着たちも、果ては自分の分のそれらまで剥ぎ取ると、ふたりに着せていく。
「これで良し!」
「俺らが暖まってどうするんだ!」
「そーだよ、ぬくぬくしちゃってるよ!」
「これでいいの!お前らに気を使われるのがどれだけ屈辱的か…!」
「屈辱的?なんで?」
「わかんない」
ふたりを追い抜いて背中を見せた三郎の背後で、ふたりののんびりした会話が聞こえる。三郎はさきほどより薄着になった身体を挑むように外界にさらして、大股で北へと歩みを再会する。雪の下では埋まった花の固い蕾が遠い春の気配に震えて、殻を割ろうとしている。
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嘘と沈黙

兵助は黙って噛み付くようなキスをした。早急な求め方は初めてだった。タカ丸は唇を強く吸われながら戸惑っている。彼のびしょ濡れた身体を抱きしめると、その身体は冷え切って、タカ丸は氷でも抱いているかのように感じた。執拗に求めてくる接吻の合間から、溺れかかったものがするように激しく息を接ぐ。空気を貪る。
タカ丸は理由を聞かなかった。代わりに、彼のしたいままにさせた。
彼はタカ丸の舌を吸いながら、己の身体とともに藁の上へタカ丸を押し倒した。馬の獣じみた匂いがタカ丸の鼻をついた。兵助の唇が彼のそれを離れ、首筋に降りていく。
タカ丸はとうとうそのときが来たことを悟った。タカ丸は、いつか兵助に求められるのではないかと気がついていた。それは、彼の自分を見る視線が時々ひどく思いつめていたからだった。タカ丸は彼の、自分を一切語らないところが、時々とても寂しかったので、彼に求められたら、それがどんなに一時の激情に駆られた末の行為だったとしても自分はとても喜んで受け入れるだろうと思っていた。
理由は知れないが、兵助は深く傷ついている。実習があったのだという、なにか、辛いことを経験したのだろう。兵助はいつも、タカ丸の知らないところで傷を受けて、そうしてそれを決して見せてはくれない。あんたは醜い傷口なんて見なくてもいいよ、ただそこで、何にも知らぬまま笑っておいで、と自分を除け者にする。それがどんなに悔しいか!兵助の愛撫のひとつひとつを瞳を閉じて受けとりながら、タカ丸はすぐさま心の中で決意をしていた。
兵助がどんなに嫌がったって、自分はいつか必ず兵助の傷口を見てやる。そうして必ず癒してみせるのだ。
忍びの恋は、別つ恋だと三郎が言った。決していつも一緒には入られない。兵助が自分より先に卒業てしまって、どこかの城に仕えることになって。そうしたら、自分たちはもう離れ離れになってしまうだろう。いつかそのときが来ても後悔がないように、この恋が一過性のもので終わったとしても、兵助にとってとてもよいものであるようにしたいとタカ丸は思うのだった。いつか分かれてしまっても、いつかどこかで兵助が別の誰かと笑いあうときに、その人と心根から対峙できるように。彼がこの先一人で幸せになっていけるように。
兵助の愛撫は性急だった。荒々しく肌に吸い付き、撫でさすり、膝でタカ丸の足を割った。服を脱がされながら、タカ丸は冷たい空気の中でいよいよ固く瞳を閉じた。
しかし、兵助はそれ以上求めてはこない。
急にそれまでの動きを止めてしまった。訝しく思ったタカ丸はそろそろと瞼を持ち上げる。兵助は瞳を曇らせたまま、神妙な瞳でタカ丸を見下ろしていた。
「…嫌がってくれないと」
寂しそうに笑う。
「勢いに駆られて、自分勝手にあんたを抱いて、取り返しのつかないことをしちまうところだった。俺が無茶したら、ちゃんと嫌がってくれないと」
タカ丸は上体を起こした。夜の空気の中で息を吐くと、冷えた身体が微かな熱を失って小さく震えた。兵助は剥ぎ取ったタカ丸の衣服を手繰り寄せたが、それが水気で湿っているのを知って、眉を顰めた。
「俺がびしょ濡れなせいで、あんたまですっかり冷やしちまった」
すいませんと苦笑して、立ち上がる。
「この時間じゃ風呂は使えないだろうな。部屋に戻りましょう、俺の分の掛け布も貸します。芯まで冷えないうちに寝ましょう」
「いいよ」
タカ丸は初めて口を開いた。何かに焦っているような兵助の、手首をしっかりと握って引き止める。兵助は立ち止まった。
「そんなのどうでもいい。それより、何があったの」
兵助がこちらを振り向く。その瞳が涙を堪えて潤っていた。それを隠すように、手首をつかまれたまま再びこちらに背中を向けてしまう。
「…なんにも」
年下の成績優秀のこの男は、いつも本当のことを言わない。独りで抱えるには重い本心ほど誰にも言わずに心の奥底に仕舞っておく。誰にも見せない。このことがタカ丸を不安にさせ、苛立たせているのだと、兵助自身も気がついている。それでも、自分はこんな生き方しか知らない。今更どうしろというのだ。心の藪の中に秘匿しすぎて、自分でも気付けなくなってしまった本心すらたくさんあった。兵助にとって、本音を零すことは、弱みをさらけ出すことだった。自分以外の誰かの前で傷口をさらけ出せば、そこから毒を塗り込められ、あるいは抉られ、自分は死んでしまうのだ。兵助は、そう思い込んでいる。誰かに自分を見せることは、彼にとって恐怖だった。
タカ丸が好きだと思うのは、彼の前では弱音をさらけ出してもいいと安心している自分に気がついたからだ。初めは、年上だがまるで忍術の心得のないこの男を、どこかで侮り、自分が彼に傷つけられることはないのだと彼の包容力に甘えていたのだろう。彼は、誰のどんなこともおよそ否定し、拒絶したことがなかったから。彼の前ではいつも本当の自分を見せてもいいと思えた。身のうちに隠しているいくつもの本音が姿を潜めることなく、胸にあり、裸のままの自分で彼と対峙することができた。この安心感は、すぐに愛に変わった。
俺はこの男を守りたいと思う。自分の心の平安のために守ってやりたいと思う。
「言えないことかい?」
タカ丸は短く応えた。兵助の下手くそな嘘はすぐにばれていた。
「言いたくないなら言わなくてもいいよ」
タカ丸は立ち上がって、兵助を背中から抱き締めた。兵助の背中が小さく震えた。人を殺した、とは言えなかった。返り血は浴びなかったけれど、血のにおいが染み付いているような気がして、頭から何度も冷たい井戸水を浴びてそのままタカ丸と逢瀬したのだった。兵助は、血なまぐさい本心は言わないままにして、代わりに、自分の胸を暖めてくれていたもっと別の本音を喋った。タカ丸には、好いものしか与えたくない。
「俺、あんたが好きです」
兵助の声は震えていた。低く掠れた言葉が、ぽつんと闇の中に吐き捨てられた。それは、兵助がおそるおそる吐き出した初めての“本音”だった。
「知ってる」
タカ丸は頷いて、頬をぴったりと男の背中にくっつけた。己のわずかな体温が男に移って、心ごとかれを暖めればいいと祈った。

すっきりマンゴー

あ、「荘園(そうえん)」ってこれ笑いどころなんで、よろしくおねがいします。

三郎で炭酸ジュースのCM

学校の階段の踊り場。久々知とふたりして気だるげにしゃがみ込みながらダベっている。視線は上。真剣な表情で見上げている。女子の甲高い笑い声。(パンツを見ている)
「でさ、今度の模試の判定がな、」
「あー、うん」
「聞いてる?」
「あ、」
三郎の短い声に、久々知も顔を上げる。
「見えた」
「水色な」

緑の続く畦道を、竹谷と二人乗り。竹谷が必死で漕いでいる。三郎は、荷台で器用にバランスを取りながら応援。
「わーっやべえって、ハチ、前、前っ、!」
「ふんぬ~っ」
「わははは」
ふらふらと去っていく自転車を後ろからカメラが追う。
「わあああ!」
「うわあ!」
三郎と竹谷の悲鳴。(自転車が横転する)カメラ、青空を映す。

夕焼け空をバックに、三郎の横顔。真剣。低く掠れた声で、呟くように。となりに女優。
「誰も俺をわかってくれない」

ナレ「ハジケろ夏へ!すっきりマンゴー、出た!」
青空をバックに、マンゴーと商品のアップ。BGMストップ。

「なんちゃって!」
ヒロインのほうを振り返って、三郎、ふざけた決めポーズに変顔。

---------- キリトリ -----------

やりたくてやった。後悔はしていない。だけど謝る。ごめんなさい。

「荘園(そうえん)」

AFTER DARK ――禁欲的な「色気」という手法
コンセプトは夜会。2008年春夏シーズンではスポーツミーツヘアをテーマにモードオリンピックとも呼べるようなスポーティーでいて、トラッドのある魅力的なスタイルを我々に提案してくれた斉藤タカ丸。秋冬はダークカラーを基調に、「和」を思わせる落ちつきのあるスタイルでアレンジ。秋冬コレクションにダークカラーが多いのは毎年の傾向だが、ゴシックアレンジが隆盛を極める中、同じブラックでも、どこかコケティッシュなゴージャスさをアピールすることであえて別方向からの”攻め”の姿勢を見せつけてくれた彼から、目が離せない。
「秋冬はクリスマスもあるし、フォーマルな装いが必要になるパーティーシーンも多いかなって。それで、インスピレーションソースを夜会に持ってきました。今年はゴシックが流行っている。そんな中で、当然「黒」もトレンドのひとつとして持て囃されるわけなんだけど、僕はあえて、別の方向から「黒」の魅力を見せたかった。もともと僕は、「黒」はカラーヴァリエーションの中でも、一番エロティックでありながら禁欲的な、コケティッシュさを匂わせるものだと思ってるから」
そんな今期テーマに対して、彼がヘアアレンジモデルとして抜擢したのは、黒髪が美しい無名の美少年。無駄のない鍛え抜かれた肉体を、シンプルラインの着物に包み込ませた姿は、不思議と私たちに研ぎ澄まされた日本刀を思わせる。少年と青年期の狭間という微妙な年齢の危うさが、長い睫毛に縁取られたクールな目元に漂っている。美少女とも美少年とも、そして美青年ともとれるこのモデルの織り成す不思議なコントラストは、我々を妖しい夜の眩さの中へ連れて行ってくれる。モデルの名前はあくまで”無名”。ヘアスタイルはもとよりファッション界からも世界中の注目を浴びた「彼」だが、「ヘアアレンジを見て欲しい」とあくまで正体を明かさない。
長く伸ばした髪は、どこまでも黒く、練り上げられた墨のよう。それを、斉藤はトップで結い上げ、あえてアシンメトリーにサイドに流すことで、コケティッシュとストイックが危ういラインで共存した見事なスタイルを作り上げてくれた。
「彼の髪はもともと、結構硬い。なのに、背中に垂らすとウェーブがあってとても柔らかく見えるんです。それが、真っ黒なのに重たさを感じさせなくてすごく魅力的だなと思った。今回のコンセプトには彼しかいないと思ったので、無理をいってお願いしました」
右ページ 黒字の綸子に右肩から背中にかけて咲き誇る真っ赤な椿が美しい着物¥224,000(ニノクルワ)/シルバーリング¥61,050(KEMA)/ブーツ¥98,700(フーマ)


---------- キリトリ -----------

これ、くくタカって言ったら怒られるだろうか、やっぱり。
「装苑」見てたら思いついたんでやった。後悔はしていない。

久々知先輩はモデルをやっている間すごく恥ずかしがってくれそうでいいですね。しかもそれが内面に現れていなくて、表向きはすごくポーカーフェイスでクールに見えるという・・・。世界的に有名なデザイナーやらモデルやらが挨拶に来てくれる間も、媚びることなく、かといって無礼なわけではもちろんなく、落ち着いた品位ある対応で周囲に舌を任せる。
「すごいね、彼、素人モデルだって?信じられないな」
などとタカ丸に零しに来る。
撮影が終わり、ロンドンのパブリックホテルに戻ってから、「疲れた!英語わからん!和食食いたい!豆腐!」などと竹谷と国際通話している。寝る前の「お疲れ様、兵助くん」コールに、「斉藤?あんたのほうが疲れてるだろ。今帰ったのか?遅くまで打ち合わせやってたんだな、食事は?そっか。・・・ああ、俺なら平気。しっかり寝ろよ。じゃな、おやすみ」と優しい深みのある声で返し、就寝。そんな一度きりのモデル経験。
・・・が、あったっていいじゃないか!

ま、気が済んだら消します。

名前をつけてやる

妖怪第二部。豆腐小僧のターン!

---------- キリトリ -----------

猫は人に飼われる、豆腐小僧は猫又に飼われる。
小僧は猫又が呟くその冗談が好きで、よくせっついては猫又にそれを言ってもらい、そのたびに声を上げて喜んだ。猫又は猫が長く生きて変幻したあやかしだ。その昔、猫又は、優作という青年に飼われていたのだそうだ。とても大切にされていたらしく、首につけられた鈴は彼に貰ったものなのだと自慢げに揺すってみせる。りんりんと静やかな音をだすそれが羨ましくて、小僧は、
「俺にも鈴をくれろ」
と強請った。猫又はぽかぽかと陽気の差し込む縁側にゆったりと足を崩して座ると、幸せそうに目を細めて外を見ている。猫又の飼い主の優作はとうに死んで、今は優作のやしゃ孫の秀作が家を切り盛りしている。秀作はかなり不器用な性質で、頭のつくりもさほどよくないから、いつも猫又に知恵を借りて日々を生きている。秀作は、京で陰陽師をしている。とはいえ、帝に仕える陰陽師にはもっと立派で力のあるやつがいるから、秀作は、狐つきとか、小さな仕事ばかりをせっせとこなして生計を立てている。秀作は帝に仕える陰陽寮の陰陽師になりたいらしいが、猫又は、器じゃないと微笑んでは、人間もあやかしもそれなりがいちばんと微笑んでぽかぽか陽気の中昼寝をしている。
豆腐小僧は、三年前に猫又に拾われた。その頃は満足に言葉も喋られぬ小さな妖怪だったが、猫又に飼われるうちに知恵がつき、身体も、小僧と呼ぶのははばかられるほどに育ち始めた。秀作は、「これじゃ豆腐少年だ」と指差しで笑うのだが、小僧のなかでは「猫又>>>俺>>(越えられない壁)>>>秀作」の構図をもっているから、猫又に「小僧」と呼ばれるうちは秀作がなんと言おうと自分は小僧であると胸を張って主張している。
「おい、猫又、俺にも鈴をくれろ。俺はお前の豆腐小僧だ、なあ、その証拠に鈴をくれろ」
「小僧、お前、人のものをすぐに欲しがるのはよしなえ。みっともないよ」
にゃあ、と猫又は鳴く。ふわんふわんと、三叉に裂けた尻尾が揺れている。
「そんなら名前をくれろ」
猫又は秀作に、タカ丸と呼ばれている。その名前は、優作が猫又にくれたものだという。自慢の名前だよ、誰にもあげない。と猫又はいつも嬉しそうに言う。名は存在を縛るから、あやかしが名前なんてもっていたらよくないはずだのに、猫又は、優作ならいいのだという。僕はいっしょう、優作のもの。そういっては、ふにゃん、と笑う。
小僧はそれが羨ましくて仕方がない。自分も、いっしょう、猫又のものが好い。
「名前ねえ、なにがいいだろうね」
猫又はゆっくり舟をこぎながら呟いたので、小僧は名前がもらえることが嬉しくて、屋敷中を飛び回った。そうしたら、奥から寝起きの秀作が出てきて、「静かにしろ、豆腐小僧!お前の豆腐食っちまうぞ!」と脅したので、小僧は持っていた豆腐を顔面にぶつけてやって、「うるせー、秀作!昼間まで寝てないで仕事探して来い!」と言い返して、あっかんベーをした。「おのれ、就職活動の難しさを知らぬ妖怪めが!」秀作とどたんばたんと屋敷中を鬼ごっこして遊んでいたら、ふたりして猫又に叩き出された。猫又は縁側で、優作に貰った真っ赤なべべを被って、日向ぼっこして眠っている。豆腐小僧は、名前を貰うお礼に自分も猫又にべべをやろう、と京の市へ繰り出した。


羅城門のそばに、女のあやかしが一人ぼんやりと立ち尽くしていた。背中に白骨を背負った狂骨と呼ばれるあやかしだった。真っ赤な太い柱に背をもたれかけてぼんやり遠くを見ている。
「おい、」
と小僧は声をかけた。好奇心旺盛な小僧は、見知らぬものにあったとき、まず声をかけることにしている。
「豆腐食うか」
女はぼんやりと豆腐小僧を振り返ると、「豆腐って、何、」と聞いた。
「豆腐は豆腐だ。美味いぞ、なあ、豆腐食うか」
「知らないやつから知らないもの貰ったら駄目だって言われてる」
「知らないやつじゃない、俺は、豆腐小僧だぞ」
女は首を傾げる。それから、のんびりと、「三郎がいいって言ったら、いいの。三郎は、今、どっかにいっちゃった」
小僧は首を捻ってまじまじと女を見ると、「三郎ってやつが、あんたの飼い主か」と尋ねた。女はまた、ぼんやりと首を傾げる。
「飼い主って、何」
「自分の名前を握ってるものさ。そいつにだけは自分の全部を預けられる、そういう相手のことだ」
「三郎は、私の名前を知ってる」
「じゃ、そいつがおまえの飼い主だな」
したり顔で頷いた豆腐小僧の背後から、雷蔵、と声がした。小僧が振り返ると、金色の狐が立っていた。九尾の狐だ、小僧は思ったが、それにしては尾が八本しかない。
「三郎」
と、狂骨は小僧に向かって指をさしてみせた。小僧はびっくりして、目を丸くしている。九尾の狐といえば、あやかしのなかでもとても位の高い存在だ。猫又はよく今は昔の、玉藻御前の話を語ってくれた。帝に取り入った絶世の美女の哀れなお話。
唖然とする小僧に、三郎は目を向ける。つまらないものを見たとでも言うように、ふい、と視線を逸らすと、雷蔵の足元に擦り寄った。
「雷蔵、行こう。東にいると聞いた」
「三郎、三郎は、私の、飼い主なのね」
雷蔵はしゃがみ込むと、三郎の身体を抱きしめた。三郎が豆腐小僧を振り返る。その冷たい瞳に、ひい、と豆腐小僧は首をすくめた。
「違う、雷蔵、お前が俺の飼い主だよ。三郎という名前はお前がくれたものじゃないか」
雷蔵はぼんやりとした瞳で、三郎、と呼びつけてじっと毛並みを撫でている。三郎はその頬をぺろぺろと舐めてから、豆腐小僧を振り返って、「去ね」と吐き捨てるように言った。


豆腐小僧が帰ると、猫又は目を覚ましていて、遅かったねと小僧の頭を撫でてくれた。それから、くんくんと鼻を鳴らして、「おや、狐の匂いがする」と驚いた顔をした。
「ああ、羅城門の前で九尾の狐にあったよ。・・・尾が八本しかなかったけれど」
「へえ、珍しいね」
「三郎って呼ばれてた」
「ああ、あの偏屈か、京を出て行ったと聞いていたのに、帰ってきたんだね」
にゃあ、と猫又は鳴いた。小僧は猫又の隣に腰かけると、「なあ、俺の名前は考え付いたか」と催促した。猫又は目を細めて、「兵助、というのはどうだい」と言った。「好く兵を助く、よい名だろう」
「兵助か、うん、悪くないな。兵助かあ」
小僧は、兵助、兵助と何度も呟いてから、へへへ、と笑みを零した。猫又も目を細めて微笑んだ。
鵺が死んで三年目の春のことである。

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