AFTER DARK ――禁欲的な「色気」という手法
コンセプトは夜会。2008年春夏シーズンではスポーツミーツヘアをテーマにモードオリンピックとも呼べるようなスポーティーでいて、トラッドのある魅力的なスタイルを我々に提案してくれた斉藤タカ丸。秋冬はダークカラーを基調に、「和」を思わせる落ちつきのあるスタイルでアレンジ。秋冬コレクションにダークカラーが多いのは毎年の傾向だが、ゴシックアレンジが隆盛を極める中、同じブラックでも、どこかコケティッシュなゴージャスさをアピールすることであえて別方向からの”攻め”の姿勢を見せつけてくれた彼から、目が離せない。
「秋冬はクリスマスもあるし、フォーマルな装いが必要になるパーティーシーンも多いかなって。それで、インスピレーションソースを夜会に持ってきました。今年はゴシックが流行っている。そんな中で、当然「黒」もトレンドのひとつとして持て囃されるわけなんだけど、僕はあえて、別の方向から「黒」の魅力を見せたかった。もともと僕は、「黒」はカラーヴァリエーションの中でも、一番エロティックでありながら禁欲的な、コケティッシュさを匂わせるものだと思ってるから」
そんな今期テーマに対して、彼がヘアアレンジモデルとして抜擢したのは、黒髪が美しい無名の美少年。無駄のない鍛え抜かれた肉体を、シンプルラインの着物に包み込ませた姿は、不思議と私たちに研ぎ澄まされた日本刀を思わせる。少年と青年期の狭間という微妙な年齢の危うさが、長い睫毛に縁取られたクールな目元に漂っている。美少女とも美少年とも、そして美青年ともとれるこのモデルの織り成す不思議なコントラストは、我々を妖しい夜の眩さの中へ連れて行ってくれる。モデルの名前はあくまで”無名”。ヘアスタイルはもとよりファッション界からも世界中の注目を浴びた「彼」だが、「ヘアアレンジを見て欲しい」とあくまで正体を明かさない。
長く伸ばした髪は、どこまでも黒く、練り上げられた墨のよう。それを、斉藤はトップで結い上げ、あえてアシンメトリーにサイドに流すことで、コケティッシュとストイックが危ういラインで共存した見事なスタイルを作り上げてくれた。
「彼の髪はもともと、結構硬い。なのに、背中に垂らすとウェーブがあってとても柔らかく見えるんです。それが、真っ黒なのに重たさを感じさせなくてすごく魅力的だなと思った。今回のコンセプトには彼しかいないと思ったので、無理をいってお願いしました」
右ページ 黒字の綸子に右肩から背中にかけて咲き誇る真っ赤な椿が美しい着物¥224,000(ニノクルワ)/シルバーリング¥61,050(KEMA)/ブーツ¥98,700(フーマ)
---------- キリトリ -----------
これ、くくタカって言ったら怒られるだろうか、やっぱり。
「装苑」見てたら思いついたんでやった。後悔はしていない。
久々知先輩はモデルをやっている間すごく恥ずかしがってくれそうでいいですね。しかもそれが内面に現れていなくて、表向きはすごくポーカーフェイスでクールに見えるという・・・。世界的に有名なデザイナーやらモデルやらが挨拶に来てくれる間も、媚びることなく、かといって無礼なわけではもちろんなく、落ち着いた品位ある対応で周囲に舌を任せる。
「すごいね、彼、素人モデルだって?信じられないな」
などとタカ丸に零しに来る。
撮影が終わり、ロンドンのパブリックホテルに戻ってから、「疲れた!英語わからん!和食食いたい!豆腐!」などと竹谷と国際通話している。寝る前の「お疲れ様、兵助くん」コールに、「斉藤?あんたのほうが疲れてるだろ。今帰ったのか?遅くまで打ち合わせやってたんだな、食事は?そっか。・・・ああ、俺なら平気。しっかり寝ろよ。じゃな、おやすみ」と優しい深みのある声で返し、就寝。そんな一度きりのモデル経験。
・・・が、あったっていいじゃないか!
ま、気が済んだら消します。
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