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名前をつけてやる

妖怪第二部。豆腐小僧のターン!

---------- キリトリ -----------

猫は人に飼われる、豆腐小僧は猫又に飼われる。
小僧は猫又が呟くその冗談が好きで、よくせっついては猫又にそれを言ってもらい、そのたびに声を上げて喜んだ。猫又は猫が長く生きて変幻したあやかしだ。その昔、猫又は、優作という青年に飼われていたのだそうだ。とても大切にされていたらしく、首につけられた鈴は彼に貰ったものなのだと自慢げに揺すってみせる。りんりんと静やかな音をだすそれが羨ましくて、小僧は、
「俺にも鈴をくれろ」
と強請った。猫又はぽかぽかと陽気の差し込む縁側にゆったりと足を崩して座ると、幸せそうに目を細めて外を見ている。猫又の飼い主の優作はとうに死んで、今は優作のやしゃ孫の秀作が家を切り盛りしている。秀作はかなり不器用な性質で、頭のつくりもさほどよくないから、いつも猫又に知恵を借りて日々を生きている。秀作は、京で陰陽師をしている。とはいえ、帝に仕える陰陽師にはもっと立派で力のあるやつがいるから、秀作は、狐つきとか、小さな仕事ばかりをせっせとこなして生計を立てている。秀作は帝に仕える陰陽寮の陰陽師になりたいらしいが、猫又は、器じゃないと微笑んでは、人間もあやかしもそれなりがいちばんと微笑んでぽかぽか陽気の中昼寝をしている。
豆腐小僧は、三年前に猫又に拾われた。その頃は満足に言葉も喋られぬ小さな妖怪だったが、猫又に飼われるうちに知恵がつき、身体も、小僧と呼ぶのははばかられるほどに育ち始めた。秀作は、「これじゃ豆腐少年だ」と指差しで笑うのだが、小僧のなかでは「猫又>>>俺>>(越えられない壁)>>>秀作」の構図をもっているから、猫又に「小僧」と呼ばれるうちは秀作がなんと言おうと自分は小僧であると胸を張って主張している。
「おい、猫又、俺にも鈴をくれろ。俺はお前の豆腐小僧だ、なあ、その証拠に鈴をくれろ」
「小僧、お前、人のものをすぐに欲しがるのはよしなえ。みっともないよ」
にゃあ、と猫又は鳴く。ふわんふわんと、三叉に裂けた尻尾が揺れている。
「そんなら名前をくれろ」
猫又は秀作に、タカ丸と呼ばれている。その名前は、優作が猫又にくれたものだという。自慢の名前だよ、誰にもあげない。と猫又はいつも嬉しそうに言う。名は存在を縛るから、あやかしが名前なんてもっていたらよくないはずだのに、猫又は、優作ならいいのだという。僕はいっしょう、優作のもの。そういっては、ふにゃん、と笑う。
小僧はそれが羨ましくて仕方がない。自分も、いっしょう、猫又のものが好い。
「名前ねえ、なにがいいだろうね」
猫又はゆっくり舟をこぎながら呟いたので、小僧は名前がもらえることが嬉しくて、屋敷中を飛び回った。そうしたら、奥から寝起きの秀作が出てきて、「静かにしろ、豆腐小僧!お前の豆腐食っちまうぞ!」と脅したので、小僧は持っていた豆腐を顔面にぶつけてやって、「うるせー、秀作!昼間まで寝てないで仕事探して来い!」と言い返して、あっかんベーをした。「おのれ、就職活動の難しさを知らぬ妖怪めが!」秀作とどたんばたんと屋敷中を鬼ごっこして遊んでいたら、ふたりして猫又に叩き出された。猫又は縁側で、優作に貰った真っ赤なべべを被って、日向ぼっこして眠っている。豆腐小僧は、名前を貰うお礼に自分も猫又にべべをやろう、と京の市へ繰り出した。


羅城門のそばに、女のあやかしが一人ぼんやりと立ち尽くしていた。背中に白骨を背負った狂骨と呼ばれるあやかしだった。真っ赤な太い柱に背をもたれかけてぼんやり遠くを見ている。
「おい、」
と小僧は声をかけた。好奇心旺盛な小僧は、見知らぬものにあったとき、まず声をかけることにしている。
「豆腐食うか」
女はぼんやりと豆腐小僧を振り返ると、「豆腐って、何、」と聞いた。
「豆腐は豆腐だ。美味いぞ、なあ、豆腐食うか」
「知らないやつから知らないもの貰ったら駄目だって言われてる」
「知らないやつじゃない、俺は、豆腐小僧だぞ」
女は首を傾げる。それから、のんびりと、「三郎がいいって言ったら、いいの。三郎は、今、どっかにいっちゃった」
小僧は首を捻ってまじまじと女を見ると、「三郎ってやつが、あんたの飼い主か」と尋ねた。女はまた、ぼんやりと首を傾げる。
「飼い主って、何」
「自分の名前を握ってるものさ。そいつにだけは自分の全部を預けられる、そういう相手のことだ」
「三郎は、私の名前を知ってる」
「じゃ、そいつがおまえの飼い主だな」
したり顔で頷いた豆腐小僧の背後から、雷蔵、と声がした。小僧が振り返ると、金色の狐が立っていた。九尾の狐だ、小僧は思ったが、それにしては尾が八本しかない。
「三郎」
と、狂骨は小僧に向かって指をさしてみせた。小僧はびっくりして、目を丸くしている。九尾の狐といえば、あやかしのなかでもとても位の高い存在だ。猫又はよく今は昔の、玉藻御前の話を語ってくれた。帝に取り入った絶世の美女の哀れなお話。
唖然とする小僧に、三郎は目を向ける。つまらないものを見たとでも言うように、ふい、と視線を逸らすと、雷蔵の足元に擦り寄った。
「雷蔵、行こう。東にいると聞いた」
「三郎、三郎は、私の、飼い主なのね」
雷蔵はしゃがみ込むと、三郎の身体を抱きしめた。三郎が豆腐小僧を振り返る。その冷たい瞳に、ひい、と豆腐小僧は首をすくめた。
「違う、雷蔵、お前が俺の飼い主だよ。三郎という名前はお前がくれたものじゃないか」
雷蔵はぼんやりとした瞳で、三郎、と呼びつけてじっと毛並みを撫でている。三郎はその頬をぺろぺろと舐めてから、豆腐小僧を振り返って、「去ね」と吐き捨てるように言った。


豆腐小僧が帰ると、猫又は目を覚ましていて、遅かったねと小僧の頭を撫でてくれた。それから、くんくんと鼻を鳴らして、「おや、狐の匂いがする」と驚いた顔をした。
「ああ、羅城門の前で九尾の狐にあったよ。・・・尾が八本しかなかったけれど」
「へえ、珍しいね」
「三郎って呼ばれてた」
「ああ、あの偏屈か、京を出て行ったと聞いていたのに、帰ってきたんだね」
にゃあ、と猫又は鳴いた。小僧は猫又の隣に腰かけると、「なあ、俺の名前は考え付いたか」と催促した。猫又は目を細めて、「兵助、というのはどうだい」と言った。「好く兵を助く、よい名だろう」
「兵助か、うん、悪くないな。兵助かあ」
小僧は、兵助、兵助と何度も呟いてから、へへへ、と笑みを零した。猫又も目を細めて微笑んだ。
鵺が死んで三年目の春のことである。

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