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一番綺麗な水②


男が男に襲われているのを、惚れた女性に見られるほど屈辱的なことって他にあるだろうか。
僕はその時、絶対死のう、と思った。死ぬ以外に道はないとさえ思った。男に無理矢理のしかかられて乱暴を働かれんとするのは・・・まだ、いい。そんなものは犬にでも噛まれそうになったと思えばそれで終わることだ。大変矜持を傷つけられることではあるけれども、回復の方法がないわけではない。例えば相手を殺してやるとか。三倍の恥辱を味わわせることで後悔させてやるとか。
閉鎖空間に若い男が押し込められている忍術学園では、時々そういう男同士の性的な悲劇が起こる。中にはショックを受けて学園を辞めるものまで出るというが、僕はそこまでの気持ちにはなれない。第一、最後まで手を出させてしまったのなら、それは自分の弱さが原因であろうし、そもそもこんなくだらないことにまともにショックを受けるのがもったいない。
だから僕は、そいつに薬を盛られて押し倒されたときだって、それほどの動揺は受けなかったし、どうやってこの場を逃げようかとかこの薬はいつまで効くんだとか、こいつにどうやって仕返しをしてやったらいいだろうかとか、そういうことを冷えた頭で考えていた。
だけど、誰も訪れないはずの納屋の扉があいて、呆然とした顔で僕を見つめる竹谷先輩を見てしまったとき、僕は逆上した。死ぬしかない、ひどい恥辱を受けた、と頭が真っ白になり、それから全身が熱くなり、勝手に涙がこぼれた。僕がぽろぽろ泣き出したのを見て、先輩はようやく我に返ったようで、僕にのしかかる男の後頭部に手刀をくれてやって、僕を助け出してくれた。
僕を抱きかかえてくれた先輩は、身体が弛緩している所為で声も出せずただ泣いている僕を、少し困ったように見遣ってから、ぎゅっと抱きしめた。先輩からは、よく晴れた日のあおい草いきれの匂いがした。
「よしよし、怖かったよな」
幼い子どもに言い聞かせるみたいな先輩の言葉がおかしかった。薬で麻痺していなかったら、きっと笑ってしまっていたと思う。先輩は僕を抱きしめながら、
「こんなことする奴は最低だよ」
と呟いた。たとえ極悪人であっても、滅多に人を悪くいわない先輩だったので、意外に覚えてよく覚えている。その時僕は、先輩はとても潔癖な人なのだと知った。
「こんな汚らわしいこと、」
と憤ったまま呟く先輩の、その美しい張りつめた瞳。ああ、先輩は、こんな場所にあっても心の中に汚いものをすまわせることはないのだなあ。僕はその時、この人は、この世の中で一番綺麗な人だと思った。
僕はこの人が好きだ。


先輩は、僕の言葉を聞いて驚いたみたいに目を丸くした。先輩の瞳は、赤茶色をしている。それが光に透けてきらきらして綺麗だった。僕は、もう一度言葉を繰り返した。
「僕は先輩とは結婚しません」
先輩は、喉を引きつらせて、ハッ、と息を吐いた。長くしなやかな指が、僕の裾をすがりつくみたいに握りしめた。
「そんなの困る」
「先輩、」
僕はなだめるように先輩の手の甲に僕の手を重ねた。けれど先輩は、思い詰めたように僕を見つめる。
「お願いだ、孫兵。かたちばかりでいい。お前に好いた女がいるなら、この一件が片付けば俺はどうにでもなろう。孫兵、お前しかいないんだ。俺の村を救うと思って、な、どうか頼む。正直、今回の件は俺の力だけじゃどうにもならん。だが、このまま村が消えていくのだけは阻止していかなければならん。お前も、当主の息子ならわかるだろう。な、頼む。この通りだ。俺と結婚しておくれ」
先輩は両手をついて、額を床に押しつけて懇願した。僕はそれを見たくなくて、慌てて先輩の横に移動して、先輩の腕をとった。
「先輩、落ち着いて。大丈夫です。僕はあなたを突き放したりしない。僕の村は総勢であなたを助ける。僕がいいたいのは、つまり、あなたは僕と結婚なんかしなくてもいいということなんです。僕の村は昔からあなた方の村と深い関わりがあった。同盟をするのに、今更証が要りますか。もうしそうでも、先輩、あなたがそんなことをしなくてもいい。僕の身内を人質としてそちらに渡しましょうか。それとも、僕の村の秘伝の巻物をあなたにお見せしようか。他に方法なら幾らでもある。あなたが悲しむ方法で、僕は同盟を結びたくないんです」
先輩の思い詰めたような瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。僕は満足だった。
「先輩、大変でしたね。もう大丈夫ですよ。先輩はひとりではないですからね」
「まごへ・・・」
「先輩が悲しそうだと僕まで泣きそうになる。笑ってください」
「ばか、これは、うれし涙だ」
先輩は慌てて鼻をすすって、強く目を擦った。顔の辺りが真っ赤になって、かわいらしかった。僕は満足だった。そう、先輩が僕のお嫁さんにならなくても。こんな方法で先輩が僕のものになっても、僕は何も嬉しくない。先輩は顔を真っ赤にして、僕に笑ってくれた。
「ああよかった、孫兵、ありがとう。なんだか急に心配事が無くなったような心地だ。俺の村はたぶん、大丈夫な気がする」
「気がするんじゃなくて、大丈夫なんですよ」
「ありがとう孫兵」
僕も微笑む。先輩はやっぱり綺麗だ、と思いながら。


おばばに同盟を組んだことを報告しようと廊下を行くと、渡りのところで、おばばの侍女のあやめが僕を待ちかまえていた。僕に向かって膝をつく。あやめは口がきけないが、そのかわり記憶力がとてもいい。一度見たもの、聞いたものを生涯忘れない。
「あやめ、お前聞いていたな」
あやめはこっくりと頷いた。
「なら話は早い。そういうことになった。あやめ、お前、僕の頼みを聞いてくれるかい」
あやめはまたこくりと頷く。はじめから、僕のお遣い用にばば様が寄越してくれたのだろう。ばば様は”遠耳”の持ち主だから、わざわざあやめを寄越さなくても、別の部屋からだって僕たちのやりとりは聞けたはずだった。
「人を探して欲しいんだ」
あやめは黙って僕の言葉を待っている。
僕は笑いそうになるのを噛み殺しながら言葉を継ぐ。僕はいつだって、先輩のことが一番大切だ。先輩はいつまでも綺麗で気高くあらなければならない。僕が先輩を汚すなんてもってのほかだし、他の男だってそうだ。
「とても重要な事だから、内密に。応援を使ってもいい。だけど、先輩にだけは知られてはいけない。食満留三郎という男を捜し出して欲しい。見つけたら、足のつかないように殺せ」


孫兵悪役でもいいじゃなーい!
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