孫兵書こうとするとどこかヤンデレっぽくなるよな!
孫竹で竹谷女体化で食満竹でもある。そして自分勝手な設定が山ほどあるので注意です。
***
いつか、こんな日が来るんじゃないかって思ってた。
ねえ、だからあのときに言ったでしょう、先輩。僕の勘はよく当たるんだ。そう言ってみたかったけれど、そんなことを言えば先輩は必ず悲しむから、僕はその言葉を飲み込んだ。最後に見たときよりも、先輩はずいぶん痩せたようだった。無理もない、今は特に、先輩も村を率いて大変なときだから、気苦労が多いのだろう。いたわしい。先輩は白無垢に似合わない、疲れたようなぼんやりした表情で、襖絵を見ていた。それは色とりどりの虫たちがいっぱいに戯れていて、少し離れたところから見ると、大輪の牡丹が咲き競っているようにも見える、僕の村の宝だった。
「先輩、長旅ご苦労様でした」
僕が庭から声をかけると、先輩はようやく僕の存在に気づいたらしく、のろのろと視線をこちらに寄越した。くすんだ顔色に、唇に刷かれた紅だけが、別の生き物みたいに真っ赤にぬらぬら光っていた。婚礼の着物を着てきたと聞いたときは驚いたが、それは実際に見てみると、僕が想像するよりずっと簡素だった。けれど、生地は上等のものを使っているのだろう、白い絹の着物に、下は唇と同じ濃紅を重ねている。学園にいるときはいつも高く結っていたぼさぼさの髪も、今日ばかりは椿油で丁寧に梳られ、背中に長く流されていた。
「孫兵」
ふ、と先輩は小さく息を吐くと、ふわりと笑った。
「久しぶりだな」
「はい、お久しぶりです。お変わりがないようで・・・と言いたいところですけれど、今日は随分と様変わりしておられる」
僕の揶揄に、先輩は困ったように眉を下げて笑った。それから、畳に手をついて、丁寧に僕に頭を下げた。
「不束者ですがお願いします。・・・まずはこうだよな」
先輩の村が焼き払われたのは、一年前のことだ。先輩は学園を卒業したあと、村には戻らずにフリーの忍者として活躍していたらしい。先輩の村は技能者集団の集まりで(そういう村は結構多く、大概が村ごとどこかの殿様に雇われたりする)動物を操るのに長けていた。山奥で野生の生き物たちと共存しひっそりと暮らしている人たちだったが、ある領主の要請を突っぱねたために、村を焼かれた。苛烈な性質で有名な男だった。山ごと焼かれたので、動物たちも大勢死んだ。焼き出されて山を下りてきた人たちは、麓で待ち受けていた武士たちに、女子ども関係なしに切り捨てられた。生き残った数人たちは、先輩を惣領に担ぎ上げて、村を焼き払った領主と徹底抗戦することに決めた。先輩は村の惣領のひとり娘だったのだ。
徹底抗戦のための同盟相手として、先輩の村は、僕の村を選んだ。僕の村は虫を扱うのを得意としていて、先輩の村とは昔から交流があった。僕も、まだ学園に入る前、ほんの子どもの頃に何度か先輩にあったことがある。とはいっても、その時は遠くから先輩を眺めるだけだったけれど。
僕の村は、先輩の村を焼き払った領主とは、つかずはなれずの関係にあった。僕の父は―つまり、僕の村の惣領ということになるが―その男と深く関わりすぎないように、死ぬ間際まで細心の注意を払っていた。父が死んで僕が跡継ぎになるとすぐ、先輩の村から同盟の依頼状が来た。村は賛成と反対で割れた。結論を待つのに焦れた先輩の村が、先輩を同盟を事実上成立させるために、一方的に僕のもとへ先輩を送ってきた。
これを娶れ。要らぬならば切って捨てよ。
それが、先輩とともに送られてきた書状の内容だ。半強制の政略結婚だ。このやり方には、先輩の村への反発が強くなった。けれど、その一方で、同情心も色濃くなった。実際に先輩が来てみると、先輩は明るく気だてがよく人の心を掴むのが上手いために、誰も邪険に扱えなくなってしまったのだ。
僕の育ての親であり、よき助言者でもあるばば様は、「お主の好きになされよ」と一言だけ言った。「それがどういう決定でも、我らはそれに従おう。」
さて、先輩は村であつらわれたという花嫁姿で、僕の前に座っている。
僕はすっと、こういう日が来るんじゃないかと思っていた。それは、まだ僕らが忍術学園にいた頃―先輩が先輩で、僕がただの後輩であった時からずっとだ。いつか先輩はきっと不幸になる。僕は確信にも近い予感をずっと抱いていた。先輩が、あの男の隣で幸せそうに笑っていたときからずっと。
僕は先輩の元気がない本当の理由を知っていた。先輩は過酷な毎日に神経を磨り減らしてこんなに元気がないのではない。先輩はあの男と敵対関係になってしまったことをひどく気に病んでいるのだ。
先輩の村を焼いた領主の抱える忍者隊。そこには、先輩が学園時代に恋人と慕った食満留三郎がいた。
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