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よいこわるいこふつうのこ

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スピークライカチャイルド

②皆本金吾(テーマが下品です)

そりゃ僕だって健全な男だぞ。そういうことがあったってしかたないさ。
金吾は日課の朝のランニングの最中、そればかりを免罪符のように繰り返している。だって僕だって男だもの。繰り返すのは押さえつけても押さえつけても罪悪感が消えないからだ。男だから仕方ない、と言い含めるような言葉の裏側では、もう一人の金吾がお前は最低の友達だ、と彼自身を責め立てている。
金吾は昨日、夢を見た。喜三太が出てきて、金吾の前で浴衣を脱ぎはじめた。夢の中の喜三太は幼稚さが全然なくて、舌っ足らずなしゃべり方は相変わらずだったけれど、悩ましげなため息を吐いて「ぼく、金吾が大好き。金吾ならいいよ・・・?」と、妖艶な流し目で言った。
妖艶な流し目だって、喜三太が。冷静に考えると笑ってしまう。なめくじさん大すきーってふにゃふにゃ笑ってるあの子が、どうしてそんなことするだろうか。だけど金吾は、夢の中でものすごく喜んでしまっていた。喜三太が自分からぎゅうって抱きついてきたのが可愛くて、嬉しくて、思わずキスをした。そうしたら、腕の中の彼女からは、わたあめみたいなマシュマロみたいなふわふわの優しい甘さがして、金吾は「食べちゃいたいなあ!」と声に出していった。喜三太は「や~ん(はあと)」って笑った。


・・・なにが「や~ん(はあと)」だ。僕は馬鹿か。

金吾は呆れ果てたように視線を座らせた。馬鹿なことを考えないように、ランニングのスピードを速めた。別にやらしい夢なんて、初めてじゃないし、やらしい夢を見れば誰だって起き抜けの身体の変化はあるものだ。男だから当然だ。だけど、知ってる女の子でそんなふうになるって、よくあることなんだろうか。しかも喜三太は、僕のものじゃないのに。僕だけの女の子じゃないのに。金吾は自分が恥ずかしくてたまらなくなる。
情けなくて仕方なかったのは、起き抜けに凄い夢を見たと思って、なのに自分の身体はしっかり兆していて、でもまさかどうしろっていうんだこれを。喜三太だぞ?そんなことできるわけないだろ。でも、じぶんひとりのことなら・・・夢の中のことだし・・・なんて逡巡しつつパジャマ代わりのスウェットの下に手を伸ばそうとしたら、布団の上に腰掛けた金吾の膝に隣の誰かがごろんって転がってきて、ふと隣を見たら、喜三太だった。金吾と喜三太が同室で寝てたのなんて、小学部一年生のときだけだ。いじめられっ子だった喜三太と泣き虫でホームシックの金吾が、互いに「同郷の子がいい!」って土井先生と山田先生にお願いして、それでかなった特別の部屋割りだった。そうじゃなきゃ男女同室なんて許されるもんか。だけど、これは内緒の話だけれど、金吾と喜三太は今日になるまで時々一緒に眠った。それはたいがい、金吾がどうしようもないホームシックになってべそをかきたいときだったり、喜三太が誰かに遠慮なしに甘えたいときだったりした。金吾は一人部屋だったから、そういうことは不可能じゃなかったのだ。でも、今日ばかりは情けなくて、泣きそうだった。
「どうして喜三太がここにいるんだよっ!」
半ばキレたように怒鳴りつけて起こしたら、喜三太はふにゃふにゃと寝ぼけ眼で笑って、「金吾に甘えたかったの」と言った。なんだよそれ。なんなんだそれ。わかってる、喜三太は幼稚で子どもだから、別にそんな意味で言ってるんじゃないのだ。本当に、ただたんに、甘えたかったんだろう。抱きしめてよしよしいい子だねーって言って貰いたかったんだろう。いつもだったら、呆れ半分で、だけどちゃんと望まれたとおりにする。だけど、今日は別だった。罪悪感と、やるせなさで泣きそうになって「出てけったら!男の部屋にこんなふうに入って来ちゃ駄目だってなんでわかんないんだよっ!!」と叩きだしていた。

深いため息をつく金吾の横を、すたすたと快調な足取りで、Tシャツに短パン姿の三治郎が通り抜けていった。ポニーテールがふわふわ揺れて可愛い。少し前までいって、振り返って、「あ、金吾、おはよう」って笑った。
「おはよう。どうしたの」
「ん?あのねえ、ダイエットなの」
「え?」
三治郎は金吾のさらに後方を振り返って、声を上げる。
「へーだゆーう、ファイト!あと半分だよー」
「うーん」
うあーんだかうえーんだかに聞こえる返事があがる。兵太夫は走りつけていないのがよくわかる、うつむいてぜえぜえ肩で息をしながら走っていた。兵太夫とおそろいのポニーテールが、やはり揺れている。「ね!」と三治郎がこちらを見てにこにこ笑う。三治郎は元気いっぱいだ。ああ、そういえば、運動が大得意だったっけ。最近はそういうの、隠してるみたいだったけど。隠すのやめたんだな。そっちのが三治郎らしくていいや。金吾はにこにこと笑い返す。
「兵太夫、前向かなきゃ余計疲れるよー」
「あご引いて、肘をもっと動かすといいよ。肘で走るようにしてごらんよ」
「楽しいこと考えなよー」
「がんばれ兵太夫!」
ふたりして応援する。兵太夫はひいひい言いながらなんとかふたりのところまで走り抜けた。それから、金吾はいつものコースを替えてふたりのランニングに付き合った。速さは兵太夫に合わせているからかもの足りなく、三治郎と普通に会話する余力があった。
「兵太夫が太ってるって?どこが?」
「さあ。団蔵も本心じゃないと思うんだけどねー。兵ちゃんがすっかり拗ねちゃって。スレンダー体型になるんだって」
「・・・うーん」
「あ、金吾微妙そうな表情だね」
「もったいないよなあ」
今ぐらいセクシーなほうが絶対いいのに。思わず呟いていたら、三治郎が横で爆笑した。素直すぎるよ、金吾。やっぱ男の子だったんだねえ。って笑い声を含んでそういうものだから、金吾は真っ赤になりながら罰が悪そうに笑って、「あー、兵太夫にはないしょね」と言った。
「兵ちゃんなら今の発言は喜びそうだけど」
「僕じゃ駄目なんだろ、団蔵じゃないと」
「うん、そーみたい」
「団蔵は男たちで締め上げとくよ。あいつ、デリカシーなさ過ぎ」
「うん、お願いします」
振り返ると兵太夫はいつもの美人さをどこかに置き忘れて、悲壮な様子で走っている。その一生懸命な様子がかわいいな、と金吾は思う。口ではぶうぶう言うけど、団蔵のこと、好きなんだなあ。団蔵好みの自分になるなんて、可愛いとこあるなあ。女の子はみんなそうなのかな。・・・喜三太も?喜三太も誰か、好きな人のために自分を変えていったりするんだろうか。
(馬鹿な。あいつはまだ子どもだから)
自分に言い聞かせるようにすると、その裏側でもうひとりの自分が、お前はそうやって「子どもっぽい」のを免罪符にしているだけだよ、と囁く。そうしてそれは真理かもしれなかった。金吾は、喜三太が一生色恋沙汰に疎い子どもだったらいいなと思っている。夢の中みたいに、金吾むかって流し目なんてくれなくていいのだ。そのかわり、誰にも流し目なんてしたら駄目だ。僕はたぶん、凄くわがままだ。そしてだれより子どもっぽい。
金吾はそういう自分を自覚して恥じる。火照った頬に、朝の潮風が、慰めみたいに優しい。
「金吾はデリカシーあるもんね。いい男って感じ」
「そんなことないけど」
「でも、すごくモテてるんだよ。知ってる?」
バレンタインデーのチョコレートだったり、告白だったりはそれなりにくる。だけど、金吾はそれをあまり気にしたことがなかった。
「関係ないよ、そんなの」
金吾は呟いていた。海の、生臭さを含んだ潮風を思いっきりかぐ。相模にも海があった。喜三太は故郷が懐かしくて泣いてばかりだった金吾を、この海に連れてきてくれた。それから、言った。
「金吾、あんまり帰りたいって言わないで。金吾が帰っちゃうと、ぼくらはまた離ればなれだよ。せっかく会えたのに、それじゃさみしいよ」
金吾のホームシックは、その日を境に、形を潜めた。先生は、金吾が大人になったからだと褒めてくださった。だけど、金吾を大人にしたのは喜三太だ。
「好きな人に愛されないと、意味ないよ」
金吾の呟きを、三治郎は笑わなかった。「そうだね。でもそれは、願って叶うものじゃないからね」それだけ言うと頷いて、あとはそのままふたりしてその会話を道ばたに捨てた。大人になるってやっかいなことだ。早く大人になりたい、でもまだ、ここでこうしていたい。
帰ったら、たぶんぷんぷん拗ねているだろう喜三太になんて言おう。お菓子をあげて、よしよしって子どもにするみたいにあやしてみようか。そんなこといつまで続くかわからないけれど、少なくとも今しばらくは、色んなことを知らないふりして子どもでいよう。

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