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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ③

③ 不穏な3人組、または史上最低最悪の共同戦線


今日になってようやく4年生にも共同実習の実施要綱が配布された。説明を受けた後、長屋に帰る途中で綾部がにやにやと微笑ってタカ丸を見ているものだから、その視線に気がついた当人は困惑して首を傾げた。
「何、あやや」
「どう思った?」
「どう思ったって、何、実習のこと?」
「うん」
タカ丸はにこりと微笑んで、「俺はねえ、町娘をやる予定なんだあ」と緊張感のない口調で零す。学芸会ではあるまいし、誰の耳があるかもわからない表で自慢げに声に出すことではない。どうもその辺りの自覚が乏しいのが、この編入生の不安なところではある。しかし、綾部がぶすくれた表情を浮かべたそれが原因ではなかった。
「なんだ、君、知っていたの」
「うん。へいす…九々知先輩に聞いてね。あややは女装が上手そうだね」
「そうか、つまらん。ねえ、君、もとより女顔というのは、変装という点においては逆に不利なものだよ」
「そうなの?」
「忍たまの友145ページを読みたまえ」
「はーい」
素直に懐からメモを取り出して書き込みを始める。そんなタカ丸を放って、綾部はスタスタと長屋へ向かう。すると、普段はライヴァルを公言し張り合いと言い争いを常としている三木ヱ門と滝夜叉丸が長屋の玄関口で額をくっつけてひそひそと話し合っているのだった。好奇心を刺激された綾部は、瞳を細めてふたりのもとへ走り寄る。
「何をやっているのだって?」
「ああ、綾部か。気にするな、あっちへ行け」
三木ヱ門が無下に手で追い払う仕草をする。滝夜叉丸は独特に整えられた貴族眉を神経質そうにぴくりと上げて、綾部を見上げた。周囲に人の気配がないのを確認すると顔を近づけこそりと声を漏らす。
「時に綾部、貴様今年の鼠は誰になると踏んでいる」
鼠とは標的のことである。今回のような実習は、大概が2,3人鼠として選ばれて集中的に狙われるものだ。鼠はむろん技術的に高くない者が選ばれるものだが、真に極上の鼠はそれだけでは少し弱い。周囲の仲間も集めてくれるような、そんな美味しい餌にもならなければ。
「十中八九、斉藤タカ丸」
「やはりか」
「無論」
「それでは我々の意見に相違いなし、だな」
「斉藤さんが鼠だとしてどうするの」
「こちらの餌として使う」
「囮か。君たち、やはり攻めにはいるのか。予想を裏切らない奴だな」
やれやれと綾部が肩を竦める横で、三木ヱ門は胸を張り勝ち誇った笑みを漏らす。「どうせならば首級をあげるくらいでなければ面白くないな。相手は変装名人鉢屋三郎、相手にとって何ら不足なし!」
「要らぬ功名心は火傷の元だよ。これ、私の委員長からの有難~い教え」
興味の薄そうな綾部に、滝夜叉丸は「待った」と声をあげる。「貴様は乗らんのか」
「まるで興味ないね」
「お前のような男がこの実習を無事平穏に乗り切るつもりか、違うだろう」
「こちらで別にお楽しみは考えてある。君たちに舞台を用意してもらいたい気持ちなんてないさ」
「ホラ見ろ、いったとおりだろう。こいつの協力はあてにならん」
三木ヱ門が口を挟むが、滝夜叉丸にはまだとっておきの秘策があった。その名を口に出す。
「タカ丸さんを使えばいずれ必ず九々知兵助も罠にかかろう。貴様はあれに思うところあるのではないか?」
綾部が振り返る。その表情には何の色も浮かんではいなかったが、滝夜叉丸が返事を促がすように「うん?どうなのだ?」と重ねて問いかければ、やがて小さく「いいだろう」との返事。
「ただし私が協力するからには必ず成功してもらわねば困る」
「知れたことよ」
ふふん、と三木ヱ門が勝ち誇った笑みを浮かべ、滝夜叉丸は真剣そのものの面持ちで頷く。綾部はそのふたり相手に不吉に微笑むと、ひそりと舌なめずりした。
「合同演習、か。理屈抜きで5年の導を取れるのだから、こんなにいい機会はないさね」
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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ②

②衣装選び、あるいは色彩の海と欲情と


その日、火薬委員の委員会室の床には所狭しと色とりどりの色彩が散らばっていた。
「いちおう、家に頼んだら数十は送ってくれたんですけど」
伊助は散らばった着物を畳みながら、同時に新しい着物をタカ丸に手渡す。今度のは深緋で、燃えるような真っ赤な色が、タカ丸の赤毛といい具合を作り出していたが、いかんせん、いくら敵の目を誤魔化すとはいえ、これでは人の目をひきすぎる。タカ丸は困ったように小袖を羽織った。
「どう」
「いいと思いますよ、よくお似合いです。町娘の格好だと出来ませんが、もしもう少し裕福な家の娘に化けるのでしたら、家から綸子を持ってきてもらってもいいですし」
「綸子はもったいないよ!」
「先輩、着物は着られるためにあるんですよ」
染物屋の息子らしいもっともな台詞だ。タカ丸は苦笑して、足元に落ちていた山吹の小袖を拾い上げる。
「うん、いい色の着物だ。変装で使うのが勿体無いくらいだよ」
猩々緋の袷を羽織り、下ろした髪を漆黒、枯竹、蘇芳などの様々な色で結い合わせた紐でたかく括る。すべてが女物の衣装であるのに、不思議と男としてのタカ丸を鮮やかに引き立たせる、魅せる。さすがセンスもテクニックも一流の髪結いの息子であった。自分を最大限に美しく豪奢に見せるための技術と表現力に優れている。「よくお似合いです」
「女装ではないけどね」
タカ丸は苦笑してひらりと舞って見せた。似合うものに着られるのこそ着物の喜びである。幼い頃から両親にそういわれ続けてきた伊助は、その言葉の意味がようやくわかったと思った。
「子どものころ、母さんの着物を着て街を歩いたことがあるんだ。ホラ、男の着物とは色々と着方が違うだろう、見よう見まねで。多分、色々なところがおかしかった。みんなは笑ったけれど、ひとりだけ似合うといってくれた人がいた。女物の着物が似合う、ということではなくて、艶やかさがとてもよく似合っているねって。だから、それからしばらく女物の着物をどうにかして自分のファッションのレパートリーに入れられないかなってずっと思ってるんだ。男物の着物って、大概が地味で渋いだろう?」
「母上の着物を内緒で着たんですか」
「いや、形見だよ。うち、父子家庭なんだ。父さんがたまに俺は母さん似だというものでね、だったら俺が女の格好をしたら母さんの面影が偲べるのかと思ったんだ。父さん曰く、”てんで違う雰囲気だった”そうだけどね」
いつの間にやらファッションショーの様相を帯びてきた委員会室に、兵助が戻って来たのは夕刻だった。夕陽に赤く燃え上がる薄暗い橙の世界のなかで、華美な恋人と、下級生が無心に戯れている。その色彩の渦に入り込んで、呆れた声をあげた。
「あのなあお前ら、こんなに散らかしやがって」
「あ、先輩おかえりなさい」
伊助は礼儀正しく頭を下げると、タカ丸を振り返った。「タカ丸さんと話してたんですけど、化けるなら未婚の町娘かなあって。タカ丸さん、町娘なら髪結いをやっていた頃によく見ているから仕草も他の女性より知ってるって」
「成る程、いいんじゃないか。一口に女装といったって、どんな女に化けるのかで全然仕草は変わってくる。自分がよく知っている女に化けるのが一番手っ取り早いし安全だ」
兵助が頷いたのに、タカ丸と伊助は手を打ち合って喜んだ。肯定されると、頑張って考えた甲斐があったというものだ。
「さあ、もう着物を片付けてお開きにするぞ」
「はーい」
3人でせこせこと着物を片付ける。
風呂敷いっぱいに包まれたそれを背負って、伊助は退出した。タカ丸の衣装合わせのためにわざわざ染物屋をしている実家から取り寄せたのだった。「伊助、わざわざありがとう」タカ丸が微笑んでもう一度礼を言う。伊助は「いいえ」と照れたように笑って、「タカ丸さん、実習頑張ってくださいね」と手をふった。正月は、礼としてタカ丸に髪を結ってもらうと約束した。そうして兵助を合わせた3人で初詣に行くのだ。そのためにとびきりいい着物を用意しようと、伊助もつい職人気質が出てウキウキした。


取り残された空間に、ふたりは並んで立っている。タカ丸は選び取った着物を着付けたままだ。
「可笑しい?」
「いや、派手目だが、まあ、未婚の女性ならそれもありだろう。後は仕草だな」
「頑張って身につけるよ」
タカ丸が苦笑した。それから隣に立つ兵助の腕にギュウとしがみついて、「兵助くん、今夜は離さないでね☆」と女の子ぶってみせる。その不自然さに兵助はぽかりと後頭部を叩き、「せいぜい頑張れ」と先輩顔で返す。そうしてタカ丸を壁際に追いやって、深く口付けた。手元がするりと袂を割り、入り込んだ指先が肌の敏感なところを撫でる。
(こいつ、)
とタカ丸は思う。慣れていやがる。でもまあそれは自分とて同じことではある。身体を壁に押し付けたまま滑らせふたりして床に倒れこみながら、互いを弄る。
「兵助、欲情した?」
「お前、緋色が似合うな」
「むしゃぶりつきたくなるような美女?」
「美女?それはない」
「ひっどー」
軽口を叩きあいながらも、暴き合いはやめない。ごそごそと目も眩むような色彩のなかで、密やかに繋がりあう。放課後の廊下をぎしぎしと鳴らして渡る生徒たちの足音に怯えながら、ふたりはそれすらもスリルとし、しばらくの快楽の波に溺れた。

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