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よいこわるいこふつうのこ

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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑮

⑮追跡、それからところにより雷蔵

いつになくタカ丸が焦っているのをみて、食満はうろたえた。タカ丸は顔色を蒼白にして、彼を覗き込む食満の肩を両手で強く掴んだ。
「俺を狙うのは抜け忍の捕縛のためじゃない。俺の持っている巻物の、」

そのとき、ひゅ、と何かが風を切る音がした。

食満はほとんど条件反射で腰の刀を抜く。刀身が高い音を立てて、跳んできたそれを弾いた。弾かれたそれは食満の足元に突き刺さる。角手であった。忍術学園で支給されているものではない。用具委員の長を務めている食満はすぐにそれと気づいて、身を遠ざけた。そうして視線を戻して、そこにタカ丸のいないことに目を瞠った。
「長次、」
振り返れば、長次はすでに食満の傍らを駆け抜けている。
「追う」
背中が短く告げた。
「すまん、頼む」
角手の飛んできた方角を睨みつける。そこには文次郎と仙蔵が忍んでいたはずだった。常緑樹の樹上から忍び装束の男が降り立った。その後を手裏剣が追う。しかし男の動きを阻むことはできず、そのまま男は長次の向かった方角へ駆けて行ってしまう。樹上から、潮江文次郎と立花仙蔵が音も無く降り立った。
「すまん、逃がした」
潮江はよほど悔しかったのか歯噛みしている。「かなりの手だれだ。タカ丸さんの様子がおかしくなったあたりで、急に背後から襲われてな。とっさのことで角手を弾くのが精一杯だった」
「まずったな、タカ丸さんを奪われた」
仙蔵は表情を崩すことは無かったが、冴え冴えとした冷たい瞳が男の消えた先を睨んでいる。
「長次ひとりでは荷が重かろう。追おう」
仙蔵の言に文次郎は「言われんでもだ」と小憎らしい返事を寄越す。仙蔵が食満を振り返った。
「火薬は仕掛けてあるのだろう。後始末は私がやろうか」
「いや・・・そうもいかなくなった。巻物を探さねばならん」
「巻物?」
「タカ丸さんが奪われたのだといっていた」
「いつ」
「わからん」
「ここにあるのか」
「さあな、それもわからん」
仙蔵と文次郎は怪訝な表情で食満を見た。食満は、ふ、と口元を緩める。
「俺が残る。お前らは行け」
仙蔵の逡巡は短かった。一呼吸の後に「わかった」短く諾を告げると、なおも何かいいたげな文次郎をおいてその場から離れる。文次郎は慌ててその後を追った。食満を一人残していくことが危険なことは知れていた。が、そこで情を出して手助けをしてやれる事態でもないのだ。一歩遅れて追いついた文次郎に、仙蔵は振り返らないまま走りながら声を放った。
「文次郎、貴様足手まといだ。ついて来るな」
「うるせえ」
「私ひとりのほうが気が楽だ。お前は食満にでも面倒見てもらえ」
「仙蔵、平気だな?」
「笑止。貴様如きに心配されるなぞ、屈辱の極みだ。馬鹿文次」
行け。仙蔵が短く告げた。足は止めない。背後の文次郎が逆走を始めた足音を聞いて、片頬を緩めた。余韻はそれだけで、どこまでも冷静なこの男は表情を消すと長次に追いつくため足を速めた。

寺の者全員を殺すことになるだろう。今更だ。殺人に躊躇は無い。命も惜しくは無い。使命は、巻物を奪い返すこと。そして、男たちの足止め。それさえ達成されたならば、後はなんでもいい。食満は覚悟を決めて忍び刀の口を切る。そのとき、背後で足音がした。
「よォ。加勢してやる」
潮江文次郎の声だ。食満は胡乱な眼つきで振り返る。
「俺ひとりで十分だ、タカ丸さんを追跡しろ」
「仙蔵に任せた」
「此処は俺がやる。でしゃばるんじゃねえ」
「それは俺の台詞だ。てめえにばっかかっこいい役目譲るのは不愉快なんだよ」
「ばーか、勝手にしろ」
「ああ、そうするさ」
食満の脚が砂利を蹴った。文次郎の足音がそれ覆うようにわずかに音を立てた。
使命は、ひとつだ。


雷蔵は市井の中、ひとり順調に課題をクリアしていた。すべての札を集めきり、四年の生徒に批評を与えていた。その時だった。殺気を隠しもせずこちらに向かって駆けてくる男に、ぞくりと膚を粟だたせた。血走った鋭い視線を目があう。本能で、雷蔵は傍にいた四年生を突き飛ばしていた。
「先輩ッ!」
四年生の鋭い声が耳朶を打つ。男は肩に女を抱えている。遊び女だ。どうするべきか。雷蔵は一瞬迷った。男の殺気は、一般人のそれではない。しかし、本能が手を出してはいけないと告げている。きっと大怪我をする。
「不破、止めろッ」
よく知った声が彼の全身を打った。それからはもう迷いが無かった。雷蔵は身を低くすると、そのまま当身の要領で男の腹に掌打をぶつけた。男はずいぶんと手だれらしい。雷蔵の当身に大きく身体を傾がせたが、その体勢のまま雷蔵の肩に手刀を打ち込むのを忘れなかった。雷蔵が反射的に痛む肩を抑えた。その隙にとどめとばかりに手裏剣が投げられる。避ける暇はなかった。あわやというところで、縄標がそれを弾いた。
雷蔵を庇うように立っていたのは長次だった。
「中在家先輩」
「不破、すまんな」
演習の邪魔をしたことを詫びているのだろう。いいえ、と雷蔵は首を振り、中在家の隣で苦無を構える。突然の事態に眼を白黒させている四年に、苦笑を向けた。
「君、五年の鉢屋三郎を呼んで来てくれないか、頼む」
ぎり、と苦無を握りなおして相手の男を睨みつける。身のこなしからして同業者だ。肩に担いでいる遊び女はなんだろうか。じたばたとして暴れるのを、男が無言で首に手刀を打ち込んだ。女は悲鳴もなくぐったりしてしまう。横目で中在家を見ると、彼もこちらを見ていた。

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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑭

⑭紫陽花寺のならずもの。あるいは食満、暗躍。

豪徳寺は紫陽花寺と呼ばれる。三年前に住職が他界して、今は廃寺になっている。そのわりに寺のつくりに廃れた様子が無いのは、その寺が常に何者かのアジトとして使われているからだといっていい。アジトにするにはその寺はあまりにもいい場所にある。都に近く、背後は山、足元は小高い丘になっていて攻められにくい。住職が死んだのも、此処をなんとかアジトにしたいと考えたならずもののひとりが、彼を討ったのだといわれている。紫陽花寺といわれているわけは、その寺の庭の紫陽花が主無き場所とは思えぬほど美しく咲き誇るからであった。
が、今はその時期ではない。
開け放した障子から吹き込む風が冷たい。堂の奥に据わっている男が、「寒ィ」と苛ついた声をあげた。
「おい、新入り。寒くてかまわねえや、障子を閉めろ」
「断る。紫陽花を見ている」
新入り、と呼ばれた男は、年のころなら15,6。ずいぶんと若い。だが、釣り目の三白眼が彼の表情に凄みを与えている。刀を抱いたまま開け放った障子の傍で、しきりに外を眺めている。一週間ほど前に仲間に入れろといって寺を訪ねてきた。大きな仕事の最中だ、首領は断ったが、その場にひとつ賊の首を転がした。それは、男たちの仕事の邪魔をした忍術学園の教師のもので、そうと知れたのは首を包んでいたのが学園の教師がつける忍頭巾だったからだ。とにかく腕が立つというので、しぶしぶ仲間に引き入れた。男は、素浪人だという。今回の標的である斉藤タカ丸という少年の祖父に、親を殺されたといった。
「あだ討ちか」
「まあそんなところだな」
無口な男で、それだけに凄みがある。だが変わり者には違いない。
「紫陽花って、咲いてねえじゃねえか」
「想像している」
「花をか」
「そうだ」
「ハッ、馬鹿じゃねえのか」
奥の男が鼻で笑う。新入りは気にも留めない。代わりに、「遅いな」といった。
「何がだ」
「偵察だよ。遅すぎる」
「何かあったのかもな」
「見てこよう。斉藤タカ丸というのはどんなやつだ」
「お前えと同じ年端の男だ。小奇麗な顔をして、髪は明るい色をしているからすぐ分かる。声が高い、少し間延びした話し方をする。あとは・・・そうだな、背中の辺りに小さな傷がある。刀傷だ」
「・・・ずいぶん詳しいんだな」
「まあな、あいつが餓鬼のころにちっとばかし可愛がってやったことがあるのよ」
男はそういうと下卑た笑い声を上げた。新入りは瞳を細める。
そのとき、「御免、」と門のほうから声がした。低い渋みのある声が一言だけだ。聞き覚えのない声に堂に集まっている男たちは怪訝な顔をする。紫陽花寺に訪問者など滅多に来ない。
「何だ?」
「俺だ」
新入りが腰を上げる。抱いていた刀を大事そうに持ち上げて腰にかけた。
「女を買った」
「他人にこの場所を教えやがったのか!勝手をするんじゃねェ」
仲間たちにどやされても、新入りは平気な顔でいる。
「送ってきた男は殺せばいいのだろう。女はお前らにも貸してやる。どうせ溜まっているんだろう。飽きたら偵察にでも使えばいい。なに、役に立つはずだ」
言っていることは正論で、仲間たちは口を噤む。ただ、勝手な行動がどうにも許せない。
「門まで迎えにゆく」
「だったら俺もついていく。お前はどうも信用がならん」
男の一人が立ち上がる。
「勝手にしろ」
新入りは言い捨てて、すたすたと堂から出て行ってしまう。その後を男が追った。

門前に立っていたのは、顔に傷を持つ男と、おぼこっぽい表情をした女だった。真っ黒な髪は艶がない。田舎から連れてこられたのだろう。ただ、そのわりには背が高く色が白すぎる。全体的にほっそりしすぎているのも女を貧相に見せている。美しい顔立ちではあったが、骨ばっていて、むしゃぶりつきたくなる、というのとは少し違う。
「抱くか?」
男に金を払いながら、新入りは女の前であっさりと男に問う。男は呆れた。女が少し恥ずかしげな表情をして、もぞりと身体を動かした。
(未通女か――)
急に男の芯に熱が点った。新入りが女を受け取って腕の中に抱いた。尻を撫でさする。女が、ひっ、と鋭く息を呑んだ。
「美しくないな」
「だが、未通女だぜ。それとも慣れない女は嫌いか?」
新入りの腕が、着物の裾をわり、女の秘所に触れる。女は「あっ」と声をあげる。その高い声に男はつい理性をくらませた。
「俺が抱く」
荒々しく女の腕を掴み、抱き寄せる。堂までは連れて行かれない。知らぬ女を首領に無許可で上げるわけには行かない。
「此処で抱く」
女が腕の中で震えている。尻をもみしだくと、「あ、いや、」とか細い声を上げた。尻肉は驚くほど薄かった。
鶏のような女だ。よくない。だが、我が侭を言っていられる余裕があるわけでもない。着物を肌蹴ようとすると、しきりに女が抵抗する。
「こんなところで」
「黙れ」
伸し掛かる男の背中からふいと新入りの腕が伸びた。その節ばった長い指は、女の瞳を追い隠した。
「見るな」
低い声が静かに囁いた。
女は黙って指の下で瞳を閉じる。音も無かった。ただ、伸し掛かる男の身体が急に重たくなり、その生温かさがひどく気持ち悪く感ぜられた。静かに倒れこんでくる男の身体は、しかし、すぐに離れた。
「食満、さん」
「すみません、こんな役目を頼んで」
食満は事切れた男の身体を脇に放ると、長次に刀を預けた。帯紐を口でくわえ、素早く羽織を裏返して着込む。変わり衣の術だ。
「今朝のうちに火薬を何箇所かに仕掛けてあります。終わったら焼き払う」
タカ丸は顔ざめた顔をして食満が殺した男の死体を見つめている。
「斎藤さん?」
「・・・っ、」
「すみませんでした。嫌なものを見せて」
食満は少しうろたえたようにタカ丸の視線から男の死体を隠すように立った。長次が背後からタカ丸の瞳を覆い隠す。
「見なくていい」
「すみません、違うんです。そうじゃなくて」
タカ丸の身体が震えている。長次が抱きしめると、その腕に縋るように掴まった。
「その男、」
「こいつですか?」
「あったことがあるんだ、昔。巻物を盗られた。・・・”浅茅生の篠原”・・・続きを探してるんだ!」
「タカ丸さん?」
「どうしよう、巻物を、取り返さないと!」

034:手を繋ぐ(五年+タカ丸)

今度の合同演習のために街へ下見に出ることになった。「日曜なら一日遊べる、日曜にしよう」と三郎が提案すると、皆もとっくにそのつもりだったらしく当然のように「それしかあるまい」とにんまり笑顔で頷いたが、兵助だけが浮かぬ顔をして返事を渋った。
「日曜か、日曜はなァ・・・」
下見の必要がある。つくりの複雑な都会ならこれは絶対のことだ。だが、
「一日遊ぶのはなあ。俺は止しとく。下見が終わったら、悪いが俺だけ帰るよ」
と兵助が言うものだから、久しぶりでみんなと街の遊びができると楽しみにしていた八左ヱ門は、隠しもせず鼻白んだ視線を彼に向けた。
「なんだよ、何の用だ。付き合え」
と肩を抱いて唇を尖らせていう。兵助は「用ってほどのことでもないんだが」と口をもごもごと動かしたっきり、困った表情で、あとは八左ヱ門の大雑把な犬のような戯れを受けている。雷蔵が苦笑をして三郎を見遣った。三郎は空と呆けた表情で、
「街かあ、案内があればいいなあ」
と呟いた。それを雷蔵が引き継ぐ。
「案内なら、彼はどうだい、新しく入った四年の。ほら、確かもともと街で生まれ育ったというし」
くわしいはずだね、と兵助を振り返れば、彼は二重のぱっちりした瞳でぎょろんと五年の名物双子を見ていた。食いついた。雷蔵からしたら、それは予見されるべき当然の結果だったが、それにしても、あまりの食いつきのよさには笑ってしまう。何も知らない八左ヱ門だけが、「ったって、ツテはあるか」と少し困った表情を浮かべる。
「それなら、兵助が懇意だよ」
「懇意ってほどじゃ」
「変な謙遜するな。今度の日曜の件も、ヤツが理由なのだろ」
「誤解するなよ、三郎。俺はただ、頼まれて勉強を教える予定になっていて」
「なんだ、兵助、いつの間にそんな知り合いが」
「斎藤さんは火薬委員なんだ」
「ああ、委員会のよしみか」
「あ、ああ、ああ、そんなところだ」
「いやいや、もともとこいつはアルバイトで知り合っていて。斉藤さんが忍術学園に入ろうと決めたのも、兵助が」
「三郎、黙れ。打つぞ」
兵助の必死な言動に、雷蔵は苦笑し、三郎はからかう表情になっている。何も知らぬ八左ヱ門ばかりが、どういうことだと会話の流れに眼を白黒させている。
「とにかく。そういうことだから、兵助、斎藤さんにお願いしておいてもらえるかな」
「あ、ああ」
「ちゃんと一日中付き合ってもらえるようにお願いするんだぞ」
三郎の言に、八左ヱ門が横からはいる。
「いや、それは駄目だろう、三郎。だって斉藤さんとやらは日曜の午後は兵助に勉強を見てもらわなけりゃならんのだろ」
それに返したのは兵助だった。
「いや、そういうことなら斎藤さんもうんと言ってくれるだろう」
「あ、そうなのか?あれ、でも、いいのか?」
兵助の態度の変わりようにきょとんとする八左ヱ門を尻目に、「分かりやすいやつ」と三郎が呆れた顔で兵助を指差し、雷蔵の苦笑を買った。
 
 
 
兵助曰く、タカ丸は二つ返事で承諾してくれたらしい。待ち合わせは校門の前にした。久々知と八左ヱ門と三郎と雷蔵。四人が連れ立って校門へ参じると、とうにタカ丸は来ていて、彼のぶんの外出許可証を受け取った小松田秀作と談笑していた。
髪の色が明るい金に染められている。八左ヱ門は、ははあ、と目を丸くして唸った。それから感心したように
「四年だなあ」
と呟いた。この学園では、「四年である」ということは、容姿の美しさを称える言葉と同義である。今年の四年生は、容姿端麗の者が多い。
ぞろぞろと四人が近づくと、タカ丸は顔を上げて明るい笑顔を四人に向けた。
「忙しいところを付き合ってもらって」
「いいえ、僕も街で買い物をしたかったところですから」
「学園は山奥だから不便でしょう」
「まあ、時々は」
久々知は談笑に混じらない。気のない素振りをして校門の古びて黒光りした木目なぞを指で撫でている。この男が、自分でも自覚のないうちに年上の下級生に魅かれ始めていることを、雷蔵と三郎は気づいていた。兵助とタカ丸のやりとりの間に誰かが入ると、あからさまに面白くなくなった顔をして、ふいと余所を向いてしまう。子どものような所作だ。兵助はだんだん幼くなっていく。入学したての、あの誰より大人びていて誰にも懐かなかった兵助は、雷蔵たち友を持つことでよく笑い茶目っ気を出すようになり、タカ丸と出会って嫉妬を覚えた。
それをいいことだと雷蔵は見ている。「あいつこのままじゃ、どんな子どもっぽい忍者になるか」などと三郎はからかう。
その子どもを、タカ丸が明るい声で呼んだ。
「へいす・・・久々知くん、誘ってくれてありがとう」
「いや、俺の提案じゃないから・・・」
照れたように視線をそらす。誘ってくれてありがとう、は、本来は兵助こそが同級生たちに言わねばなるまい。
 
 
街をそぞろ歩きし大方の地形を掴むと、話は相手方の攻め方に及び、一気に話の様相がきな臭いものに変わった。こうなると話の主導権を握るのは三郎と兵助で、三郎は話のネタの豊富な男であるからどんな場面においてもそれなりの主導権はとるも。しかし兵助は、街に向かうまでの流行の音楽や芸能ネタにはすっかり閉口していたことを考えれば、これほど生き生きとよく喋るのはタカ丸には新鮮だった。
「久々知くんは、こういうのが好きなんだね」
「こういうの?」
タカ丸の呟きに、雷蔵が首を傾げる。
「演習、というか、・・・実戦が。俺なんかは、慣れていないのもあって、実技がくるたびになんだかドキドキしてしまう。教科のほうが気楽でいいなあなんて思うよ」
「好きというか・・・どうだろう、兵助は能力のあるぶんこういうことに集中しやすい性質なんだろうね。自分から戦いをふっかけるわけでもなし、こういうことが好きなのはどっちかっていうと三郎」
自分の名前が雷蔵の口から出たのを聡く聞きつけ、「ん、何だって?」と三郎が振り返る。なんでもないよ、とは雷蔵は言わなかった。そんな言葉で納得をする友人ではない。
「三郎はこういうのに熱中する性質だって話してたのさ」
「それをいうなら兵助だって」
三郎が、コンビニで買った街の地図を畳み込む。歩きながら地図を見遣っている姿は、はたから見れば高校生の旅行者だ。だが実際には、地図を見ながらトラップを張る場所、その方法を話しこんでいるのだから、やれ忍者というのは怖いものだとタカ丸は内心で身を震わせる。
「俺らがどうこうじゃなくて、雷蔵がもっと集中しろ!」
兵助がいかにも真面目に言い返すものだから、雷蔵は「はいはい」と慌ててふたりの間に駆け寄って行った。
話す相手を取られてしまったタカ丸が仕方無しにのんびり後ろをついて歩くと、より先のほうを歩いていた八左ヱ門がタカ丸に駆け寄ってきた。
「斎藤さん」
「タカ丸でいいよー」
「タカ丸、かき氷食いたくねェ?」
「え、食べたい」
「なんかこの先に行列できてるカキ氷屋あるんだけど!寄ってかねェ?」
「寄っていきたい!」
「んじゃ、けってーい!」
八左ヱ門がタカ丸の片手を掴んで、ぶんぶんと振り下ろす。子どものような浮かれた所作に、タカ丸も弾んだ笑顔で付き合う。結局、ふたりはよく似ているのだった。八左ヱ門がタカ丸の手を握ったまま、「うおーい、お前らー!かき氷食いませんかー!?」と声をあげると、三者三様に振り向いた。
呆れたような瞳で振り返った兵助が、八左ヱ門の手ががっしりとタカ丸のそれを握っているのをみて、ムッとしたように眉を潜めた。
「行かない。腹減ってない」
「でもタカ丸も行きたいって言ってる。なっ!」
「うん。久々知くんは、かき氷嫌い?」
「好きですけど、」
「食べる気分じゃない?」
「そんなこと無いですけど」
「じゃ、行こう」
笑顔で空いたもう片方の手のひらを差し出され、兵助は頬を赤らめた。睨むようにしてじっとその手のひらを見つめたまま、だが、それを握り返そうとはしない。そこまでの勇気と思い切りは、まだないのだろう。
「いいですけど」
「八左ヱ門、やったね!」
「やったね!」
イエーイ!とハイタッチを交わすふたりに兵助の眉間の皺はますます深くなってゆく。それを見遣って、とうとう三郎は耐え切れず爆笑した。

女体化

今更過ぎる訴えですが、あのー、女体が好きです。あっ、違う、間違えた。女体が好きです。

5年生女体化させたら一番の好みは竹やんになります。元気いっぱい夢いっぱい!虫取り網を右手に、虫籠を肩にかけて学園中を走りまわる。
「どこだよー蝶助に蝶次ー!」
茂みからヌッと長次先輩が現われて「呼んだか?」
「あ、違います。ちょうちょの蝶次です」
わかりにくくてすんませんー。苦笑いして頭を下げる竹谷の頭を撫でて、「暑い日は帽子を被れ」と自分の麦藁帽をとって被せてくれる。(朝顔の飼育中だった長次)
「あ、りがとうございま、す」
「ああ」

久々知は優等生タイプ。授業のときだけ眼鏡をかける。髪が長いのは、面倒で美容室に滅多に行かないから。得意料理はサラダ(・・・料理?)。好きな料理は冷奴。

雷蔵は女の子になっても大雑把なままがいいな。いや、むしろ女の子だからこそ・・・!三郎は、自分がミニスカのくせに脚開いてはしたないかっこして笑ってるくせに、雷蔵をがそれをやると、「こら、女の子!」って注意する。わたしばっか怒るのずるい!さぶろーのばか!
委員会で帰りが遅くなったときとか、なぜだか三郎が待っていて、「女の子ひとりは危ないから送ってく」っていう。さぶろーも女の子じゃん。って言ったら、「あたしはいいの!」だって。よくわかんない。

あ、女体化かきたいな。女体化書こう。

こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑬

⑬その男、綾部喜八郎

綾部喜八郎とは不思議な人間である。
彼の所属する作法委員の委員長にして、忍術学園で陰の最高権力者とも称される立花仙蔵をして「あいつはよくわからん」と言わしめた人物である。この男をして、手を焼かせている。もともとはその容貌の美しさから仙蔵が委員会に誘った。誘ったはいいが、どうも自分を信奉するでもなし、作法委員が好む謀に興味を見せたかと思えば、別件で協力を請えば「面倒なので嫌です」と平気な面で言う。どこまでもマイペースで飄々とした面で、蝶のようにあっちへふらふらこっちへふらふら飛び回っている。気まぐれなようでいて塹壕堀には並ならぬ執着を抱いて、とにかく暇さえあらば学園中に穴を掘り続けている。
四年は美童が多い。綾部はその中でも特別美しい顔立ちをしている。少年らしい凛々しさや瑞々しさは田村三木ヱ門に譲る。また、貴族めいた上品さなら平滝夜叉丸の名こそ真っ先にあげられるだろう。綾部の美貌は、どこか少女めいたところにある。長い睫毛とくっきりした二重瞼が、瞳を葡萄のように大きく美しく見せている。すっと通った鼻筋も、ぷっくりとよいかたちにふくれた唇も、女のそれに似ている。肌の色は日に焼けづらいのか年中外に出ているにしてはいやに白く、頬のあたりはふっくらと肉がついて柔和な印象を持たせている。その美貌を土で汚して、平気な顔をして穴を掘り続けるから、周囲はただただ呆れるばかりだ。
その綾部が、小平太と久々知に対峙している。
戦いを挑むにしては半分瞼の降りた何処か眠たそうな面持ちで、しかし右手には苦無を構えている。課題のために着ている藤色の女物の装束が、彼を美しい少女に見せているだけに、穴の中の男が呻くたび「うるさい」と容赦なく足蹴にする様子はどうしてもちぐはぐに映る。
「悪いが俺には今、お前の相手をしている暇がない」
久々知が真っ直ぐ睨みつけると、綾部はぼりぼりと首筋を掻いた。容姿ばかりが可憐なこの男は、その本質は存外大雑把で男らしい。
「なにか面倒ごとでも起っているようですが」
ちらり、と視線が小平太を見遣る。
「おうさ」
小平太はあっさりと頷いた。
「俺ァ学園長命令で厄介ごとの清算の最中さ」
「久々知先輩は」
小平太は明るく笑って首を傾げる。
「さあ。・・・乗りかかった船、というやつかな」
「必死な顔をしている」
綾部は呟いて久々知をねめつける。「斎藤さんが心配ですか」
「綾部、お前何か知っているのか」
「さて、何にも知っちゃいませんがね。ただ、先輩はいつも斎藤さんが絡むとそういう表情をする」
久々知には綾部の言う”表情”とやらがどんなものかは見当付かない。綾部はざりり、と草鞋を履いたまま土を蹴った。久々知に向かって駆けた。
「お命頂戴」
「くれてやってたまるか!」
綾部の苦無をはじかんと、久々知も懐から苦無を取り出して、構えた。


長次はタカ丸の手を引きひたすら市井を突き抜けて走り続けている。
「先輩、どこまで行くんです!?」
運動量の足りないタカ丸は、すでに息があがりきっている。ここを追っ手に狙われれば確実に仕留められるだろう。長次はタカ丸の腕を強く引き、己のほうへ引き寄せた。そのまま背に負ぶおうとするのを、タカ丸が慌てて拒む。
「走れます」
長次は有無を言わさず彼の身を担ぎ上げる。タカ丸がわひゃあ、と悲鳴をあげた。
「紫陽花寺へ行く」
「紫陽花寺・・・豪徳寺ですか」
豪徳寺は市中にある寺院である。規模は小さくないが、少し小高くなった丘の上に立てられているので、市内の様子を見渡すのに都合がよかった。しかし、そのため、アジトにもなりやすい。
「売られた女の振りができるか」
「さっきみたいの、ですか・・・?」
「豪徳寺に食満がいる。三日前からあちらの仲間として潜入している」
あちら、というのはすなわちタカ丸を狙う忍者隊のことを言うのか。顔を青くして長次を見上げれば、彼は小さく頷き、「大丈夫だ」と一言言った。
「必ず守る」

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