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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑭

⑭紫陽花寺のならずもの。あるいは食満、暗躍。

豪徳寺は紫陽花寺と呼ばれる。三年前に住職が他界して、今は廃寺になっている。そのわりに寺のつくりに廃れた様子が無いのは、その寺が常に何者かのアジトとして使われているからだといっていい。アジトにするにはその寺はあまりにもいい場所にある。都に近く、背後は山、足元は小高い丘になっていて攻められにくい。住職が死んだのも、此処をなんとかアジトにしたいと考えたならずもののひとりが、彼を討ったのだといわれている。紫陽花寺といわれているわけは、その寺の庭の紫陽花が主無き場所とは思えぬほど美しく咲き誇るからであった。
が、今はその時期ではない。
開け放した障子から吹き込む風が冷たい。堂の奥に据わっている男が、「寒ィ」と苛ついた声をあげた。
「おい、新入り。寒くてかまわねえや、障子を閉めろ」
「断る。紫陽花を見ている」
新入り、と呼ばれた男は、年のころなら15,6。ずいぶんと若い。だが、釣り目の三白眼が彼の表情に凄みを与えている。刀を抱いたまま開け放った障子の傍で、しきりに外を眺めている。一週間ほど前に仲間に入れろといって寺を訪ねてきた。大きな仕事の最中だ、首領は断ったが、その場にひとつ賊の首を転がした。それは、男たちの仕事の邪魔をした忍術学園の教師のもので、そうと知れたのは首を包んでいたのが学園の教師がつける忍頭巾だったからだ。とにかく腕が立つというので、しぶしぶ仲間に引き入れた。男は、素浪人だという。今回の標的である斉藤タカ丸という少年の祖父に、親を殺されたといった。
「あだ討ちか」
「まあそんなところだな」
無口な男で、それだけに凄みがある。だが変わり者には違いない。
「紫陽花って、咲いてねえじゃねえか」
「想像している」
「花をか」
「そうだ」
「ハッ、馬鹿じゃねえのか」
奥の男が鼻で笑う。新入りは気にも留めない。代わりに、「遅いな」といった。
「何がだ」
「偵察だよ。遅すぎる」
「何かあったのかもな」
「見てこよう。斉藤タカ丸というのはどんなやつだ」
「お前えと同じ年端の男だ。小奇麗な顔をして、髪は明るい色をしているからすぐ分かる。声が高い、少し間延びした話し方をする。あとは・・・そうだな、背中の辺りに小さな傷がある。刀傷だ」
「・・・ずいぶん詳しいんだな」
「まあな、あいつが餓鬼のころにちっとばかし可愛がってやったことがあるのよ」
男はそういうと下卑た笑い声を上げた。新入りは瞳を細める。
そのとき、「御免、」と門のほうから声がした。低い渋みのある声が一言だけだ。聞き覚えのない声に堂に集まっている男たちは怪訝な顔をする。紫陽花寺に訪問者など滅多に来ない。
「何だ?」
「俺だ」
新入りが腰を上げる。抱いていた刀を大事そうに持ち上げて腰にかけた。
「女を買った」
「他人にこの場所を教えやがったのか!勝手をするんじゃねェ」
仲間たちにどやされても、新入りは平気な顔でいる。
「送ってきた男は殺せばいいのだろう。女はお前らにも貸してやる。どうせ溜まっているんだろう。飽きたら偵察にでも使えばいい。なに、役に立つはずだ」
言っていることは正論で、仲間たちは口を噤む。ただ、勝手な行動がどうにも許せない。
「門まで迎えにゆく」
「だったら俺もついていく。お前はどうも信用がならん」
男の一人が立ち上がる。
「勝手にしろ」
新入りは言い捨てて、すたすたと堂から出て行ってしまう。その後を男が追った。

門前に立っていたのは、顔に傷を持つ男と、おぼこっぽい表情をした女だった。真っ黒な髪は艶がない。田舎から連れてこられたのだろう。ただ、そのわりには背が高く色が白すぎる。全体的にほっそりしすぎているのも女を貧相に見せている。美しい顔立ちではあったが、骨ばっていて、むしゃぶりつきたくなる、というのとは少し違う。
「抱くか?」
男に金を払いながら、新入りは女の前であっさりと男に問う。男は呆れた。女が少し恥ずかしげな表情をして、もぞりと身体を動かした。
(未通女か――)
急に男の芯に熱が点った。新入りが女を受け取って腕の中に抱いた。尻を撫でさする。女が、ひっ、と鋭く息を呑んだ。
「美しくないな」
「だが、未通女だぜ。それとも慣れない女は嫌いか?」
新入りの腕が、着物の裾をわり、女の秘所に触れる。女は「あっ」と声をあげる。その高い声に男はつい理性をくらませた。
「俺が抱く」
荒々しく女の腕を掴み、抱き寄せる。堂までは連れて行かれない。知らぬ女を首領に無許可で上げるわけには行かない。
「此処で抱く」
女が腕の中で震えている。尻をもみしだくと、「あ、いや、」とか細い声を上げた。尻肉は驚くほど薄かった。
鶏のような女だ。よくない。だが、我が侭を言っていられる余裕があるわけでもない。着物を肌蹴ようとすると、しきりに女が抵抗する。
「こんなところで」
「黙れ」
伸し掛かる男の背中からふいと新入りの腕が伸びた。その節ばった長い指は、女の瞳を追い隠した。
「見るな」
低い声が静かに囁いた。
女は黙って指の下で瞳を閉じる。音も無かった。ただ、伸し掛かる男の身体が急に重たくなり、その生温かさがひどく気持ち悪く感ぜられた。静かに倒れこんでくる男の身体は、しかし、すぐに離れた。
「食満、さん」
「すみません、こんな役目を頼んで」
食満は事切れた男の身体を脇に放ると、長次に刀を預けた。帯紐を口でくわえ、素早く羽織を裏返して着込む。変わり衣の術だ。
「今朝のうちに火薬を何箇所かに仕掛けてあります。終わったら焼き払う」
タカ丸は顔ざめた顔をして食満が殺した男の死体を見つめている。
「斎藤さん?」
「・・・っ、」
「すみませんでした。嫌なものを見せて」
食満は少しうろたえたようにタカ丸の視線から男の死体を隠すように立った。長次が背後からタカ丸の瞳を覆い隠す。
「見なくていい」
「すみません、違うんです。そうじゃなくて」
タカ丸の身体が震えている。長次が抱きしめると、その腕に縋るように掴まった。
「その男、」
「こいつですか?」
「あったことがあるんだ、昔。巻物を盗られた。・・・”浅茅生の篠原”・・・続きを探してるんだ!」
「タカ丸さん?」
「どうしよう、巻物を、取り返さないと!」

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