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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑮

⑮追跡、それからところにより雷蔵

いつになくタカ丸が焦っているのをみて、食満はうろたえた。タカ丸は顔色を蒼白にして、彼を覗き込む食満の肩を両手で強く掴んだ。
「俺を狙うのは抜け忍の捕縛のためじゃない。俺の持っている巻物の、」

そのとき、ひゅ、と何かが風を切る音がした。

食満はほとんど条件反射で腰の刀を抜く。刀身が高い音を立てて、跳んできたそれを弾いた。弾かれたそれは食満の足元に突き刺さる。角手であった。忍術学園で支給されているものではない。用具委員の長を務めている食満はすぐにそれと気づいて、身を遠ざけた。そうして視線を戻して、そこにタカ丸のいないことに目を瞠った。
「長次、」
振り返れば、長次はすでに食満の傍らを駆け抜けている。
「追う」
背中が短く告げた。
「すまん、頼む」
角手の飛んできた方角を睨みつける。そこには文次郎と仙蔵が忍んでいたはずだった。常緑樹の樹上から忍び装束の男が降り立った。その後を手裏剣が追う。しかし男の動きを阻むことはできず、そのまま男は長次の向かった方角へ駆けて行ってしまう。樹上から、潮江文次郎と立花仙蔵が音も無く降り立った。
「すまん、逃がした」
潮江はよほど悔しかったのか歯噛みしている。「かなりの手だれだ。タカ丸さんの様子がおかしくなったあたりで、急に背後から襲われてな。とっさのことで角手を弾くのが精一杯だった」
「まずったな、タカ丸さんを奪われた」
仙蔵は表情を崩すことは無かったが、冴え冴えとした冷たい瞳が男の消えた先を睨んでいる。
「長次ひとりでは荷が重かろう。追おう」
仙蔵の言に文次郎は「言われんでもだ」と小憎らしい返事を寄越す。仙蔵が食満を振り返った。
「火薬は仕掛けてあるのだろう。後始末は私がやろうか」
「いや・・・そうもいかなくなった。巻物を探さねばならん」
「巻物?」
「タカ丸さんが奪われたのだといっていた」
「いつ」
「わからん」
「ここにあるのか」
「さあな、それもわからん」
仙蔵と文次郎は怪訝な表情で食満を見た。食満は、ふ、と口元を緩める。
「俺が残る。お前らは行け」
仙蔵の逡巡は短かった。一呼吸の後に「わかった」短く諾を告げると、なおも何かいいたげな文次郎をおいてその場から離れる。文次郎は慌ててその後を追った。食満を一人残していくことが危険なことは知れていた。が、そこで情を出して手助けをしてやれる事態でもないのだ。一歩遅れて追いついた文次郎に、仙蔵は振り返らないまま走りながら声を放った。
「文次郎、貴様足手まといだ。ついて来るな」
「うるせえ」
「私ひとりのほうが気が楽だ。お前は食満にでも面倒見てもらえ」
「仙蔵、平気だな?」
「笑止。貴様如きに心配されるなぞ、屈辱の極みだ。馬鹿文次」
行け。仙蔵が短く告げた。足は止めない。背後の文次郎が逆走を始めた足音を聞いて、片頬を緩めた。余韻はそれだけで、どこまでも冷静なこの男は表情を消すと長次に追いつくため足を速めた。

寺の者全員を殺すことになるだろう。今更だ。殺人に躊躇は無い。命も惜しくは無い。使命は、巻物を奪い返すこと。そして、男たちの足止め。それさえ達成されたならば、後はなんでもいい。食満は覚悟を決めて忍び刀の口を切る。そのとき、背後で足音がした。
「よォ。加勢してやる」
潮江文次郎の声だ。食満は胡乱な眼つきで振り返る。
「俺ひとりで十分だ、タカ丸さんを追跡しろ」
「仙蔵に任せた」
「此処は俺がやる。でしゃばるんじゃねえ」
「それは俺の台詞だ。てめえにばっかかっこいい役目譲るのは不愉快なんだよ」
「ばーか、勝手にしろ」
「ああ、そうするさ」
食満の脚が砂利を蹴った。文次郎の足音がそれ覆うようにわずかに音を立てた。
使命は、ひとつだ。


雷蔵は市井の中、ひとり順調に課題をクリアしていた。すべての札を集めきり、四年の生徒に批評を与えていた。その時だった。殺気を隠しもせずこちらに向かって駆けてくる男に、ぞくりと膚を粟だたせた。血走った鋭い視線を目があう。本能で、雷蔵は傍にいた四年生を突き飛ばしていた。
「先輩ッ!」
四年生の鋭い声が耳朶を打つ。男は肩に女を抱えている。遊び女だ。どうするべきか。雷蔵は一瞬迷った。男の殺気は、一般人のそれではない。しかし、本能が手を出してはいけないと告げている。きっと大怪我をする。
「不破、止めろッ」
よく知った声が彼の全身を打った。それからはもう迷いが無かった。雷蔵は身を低くすると、そのまま当身の要領で男の腹に掌打をぶつけた。男はずいぶんと手だれらしい。雷蔵の当身に大きく身体を傾がせたが、その体勢のまま雷蔵の肩に手刀を打ち込むのを忘れなかった。雷蔵が反射的に痛む肩を抑えた。その隙にとどめとばかりに手裏剣が投げられる。避ける暇はなかった。あわやというところで、縄標がそれを弾いた。
雷蔵を庇うように立っていたのは長次だった。
「中在家先輩」
「不破、すまんな」
演習の邪魔をしたことを詫びているのだろう。いいえ、と雷蔵は首を振り、中在家の隣で苦無を構える。突然の事態に眼を白黒させている四年に、苦笑を向けた。
「君、五年の鉢屋三郎を呼んで来てくれないか、頼む」
ぎり、と苦無を握りなおして相手の男を睨みつける。身のこなしからして同業者だ。肩に担いでいる遊び女はなんだろうか。じたばたとして暴れるのを、男が無言で首に手刀を打ち込んだ。女は悲鳴もなくぐったりしてしまう。横目で中在家を見ると、彼もこちらを見ていた。

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