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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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子どもの体温

「すきなものをたべる」の回で突っ込みを入れている竹谷があまりにも子ども体型でかわいかったのでうまれたわけのわからんパロ。

---------- キリトリ -----------

小学生のころは六年生のお兄さんがすごく大人に見えた。
孫兵が小学校三年生のとき、孫兵には六年生に憧れのお兄さんがいた。竹谷八左ヱ門という名前のそのお兄さんは、孫兵の住んでいる地区で地区リーダーをやっていた。地区リーダーというのは、地区の子ども会のリーダーのようなもので、孫兵の通っていた小学校は土曜日や特別予定で一斉下校になった日は、地区ごとに分団と呼ばれる班を作ってみんなで帰る決まりだったので、そういうときに交通安全とかかれた旗を持って、横断歩道に立ってくれたりする仕事があった。
八左ヱ門はごわごわの硬い髪の毛をもっていて、あまり梳かれていなくていつもぼさぼさに乱れていた。太い眉毛をもっていて目がくりくりしていた。いつもにこにこ笑って、動物や昆虫に好かれていた。
ファーブル昆虫記が大好きだった孫兵が、ある日本を読みながら帰っていると、「本を読みながら歩くと危ないぞ」って注意したあとに、「おれもその本好き。あと、シートン動物記も好き。おおかみ王ロボって知ってる?おれ、その話が一番好きなんだ。うちにあるから、明日もって来て貸してやろうか?」といって、にこっと笑った。それが、孫兵が最初に八左ヱ門を好きだと思った瞬間だった。
孫兵は人見知りの激しい性格で、虫ばかりを可愛がってなかなか友達を作ることをしなかったから、孫兵が八左ヱ門になついて、彼の後ろをまるでひよこのようについてまわりはじめると、孫兵の親はそのことをとても喜んだ。八左ヱ門とはいっぱい虫取りをした。動物園や水族館にも出かけた。とても楽しい日々だった。
ところが、八左ヱ門は小学校の卒業と同時に引っ越してしまった。孫兵が手紙を書きたいから新しい住所を教えて欲しいと頼むと、八左ヱ門は少し困った顔をした。電話番号でもいいと熱心に頼み込んだら、八左ヱ門のお母さんが車から出てきていった。
「孫兵君、今日まで八左ヱ門と遊んでくれてありがとうね。でももう、ハチのことは忘れてちょうだいね」
どうしてそんなことを言われるのかわからなくて、孫兵は走り去る車を見えなくなるまでただただ黙って見つめていた。
今はもう、昔の話だ。


県内の色んな中学の制服が、青空の下ごった返していた。むくむくとわきあがる入道雲を見上げて、孫兵はカッターシャツの釦を二つ目までくつろげると、持っていた学校案内のパンフレットで胸元に風を送った。
「あっつー」
「高校見学ってさあ、なんで夏にばっかやるのかな。秋にやればいいのに」
「クーラーついてる学校あったらさ、今なら俺、即効そこに願書出す」
「あはは、わかるわかる」
連れの三之助と富松の会話を話半分に聞きつつ、孫兵はぐったりとグラウンド沿いに置かれたベンチに座り込んだ。三之助と富松に付き合っただけで、孫兵の受験予定校ではない。孫兵は県下で一番の進学校を受験することに決めている。午後からは炎天下の中部活見学だ。
「どこ行くんだよ」
と富松に声をかけると、「見たいのはバスケ。でも真夏の体育館に行く気になれん」と暑さに食傷した返事が返ってきた。
「俺、バレー見に行こーっと」
三之助がすたすたと歩き始めると、富松は「げ!」と声を上げる。三之助を一人で歩かせると必ず道に迷うのだ。
「俺も行くって!だからお前は勝手に動くな!・・・孫兵、お前どうする?」
「真夏の体育館は勘弁。適当に見学してるよ」
「オッケー。じゃあ、時間になったらこの場所で落ち合おうぜ」
「ん」
片手を挙げて富松を見送ると、孫兵は立ち上がってのたのたと裏庭に向かって歩いた。裏庭には大きな桜の木が植わっているから、いい日陰になると思ったのだ。
裏庭にたどり着くと、孫兵はそこで目を見張った。三メートル四方の場所にぎっしりとひまわりが植えつけられているのだった。太陽に似た大輪の花たちが、規則正しく植わって、一様に太陽を見上げている。黄色の鮮やかさが目を焼く。
「すごいな」
思わずつぶやいた。そのままため息をついて惚けたように小さなひまわり畑を見つめていた孫兵だったが、ふいにがさごそとひまわりたちが揺れたことに驚いて目を丸くした。
「・・・よいしょっとお」
ひまわりを揺らして間から出てきたのは小学生ぐらいの少年だった。小学生にしては背は高いほうかもしれない。細い手足にこんがりとよく焼けた肌。ぼさぼさの髪には、くもの巣が張っている。少年が身に着けているのは、高校指定の体操服だった。少年はどう見ても小学生だから、あれ、不思議な格好をしているな。この学校に初等部なんて併設されていたろうかと考え込んでいると、少年はきょとんと孫兵を見上げて、「あ、」と声を上げた。そのままあわてて駆け出していく。どうやら驚かせてしまったようだ。孫兵が首をひねってその背中を見送っていると、今度は背後で「おーい」と高校生の声がした。
「チュン吉は見つかったのかあ?」
振り返れば、ずいぶんと背の高い高校生。目が合ったので頭を下げると、「あ、見学に来た中学生?部活見なくていいの?」ともっともな言葉。なんとなく居辛く感じて孫兵が身を翻すと、
「チュン吉ここにもいねえわ。どこ逃げたんだろうなあ。飛んでってないといいけど」
と変声期前の少年の高い声がした。先ほどの小学生だ。孫兵は気になって、思わず振り返った。どうも、気になるのである。何か大事なことを忘れているような気がして、ひどく気になって仕方がないのだ。
振り返ると少年と目が合った。くりんとした大きな瞳は瑞々しいぶどうの粒を連想させた。太い眉が寄せられる。
「あ・・・」
思わず孫兵の口から声が漏れた。が、何と言いたかったのかは孫兵にもよくわからなかった。少年はじいっと孫兵を見つめている。お互いにお互いから目が離せなかった。
「・・・なに、知り合い?」
高校生が、小学生に声をかける。
「や、なーんか、どっかで見たことあるような・・・」
小学生が顎に指を添えて首をひねる。癖だろうが、ずいぶん大人びた仕草をするものだと孫兵は思う。
「ハチ、」
高校生が声をかけた。その瞬間、孫兵の脳裏に雷が落ちた。一瞬の閃光が、孫兵の記憶をフラッシュバックさせた。
「・・・ハチお兄ちゃん・・・!」
雷に打たれように動けない孫兵が、何かの天啓でも受けたかのように名を呼ぶと、ハチと呼ばれた小学生が、びしりと背筋を伸ばした。そうだ、この小学生、竹谷八左ヱ門にそっくりなのだった。今度は小学生が驚く番だった。孫兵を指差して、声を上ずらせる。
「あ・・・あれ・・・もしかしてお前、孫兵!?滋野宮小学校の伊賀崎孫兵!?」
「そ、そうだよ・・・!」
孫兵は何度も頷いた。
「君は誰?竹谷八左ヱ門くんの弟か何か?」
尋ねる孫兵に、小学生の目が曇った。じんわりと涙が滲むのに、孫兵は慌てる。それに助け舟を出したのは隣の高校生だった。
「っていうか、そいつが竹谷八左ヱ門だよ。本人」
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ひとでなしの恋

大人兵助とタカ丸妄想。

*グロテスクなものの片鱗でも苦手な方は読まないようにしてください。
*途中で始まり途中で終わる。


「いけないよ」
庇うように抱きしめたタカ丸の腕を、兵助は残った左腕で、柔らかく押し返した。それから床についたタカ丸の左手の甲に、そっと己の右手を重ねた。
「いけないよ、タカ丸さん。今の俺にはあんたを愛してやる腕が足りない」
膝立ちのままタカ丸は兵助を見下ろした。こちらを見上げてくる男は静かな笑みを浮かべている。それは、昔のままの笑みだった。兵助は人前で容易に笑顔を振りまける性質の男ではなかったから、慈しむような愛でるような柔らかい微笑みは、いつもふたりっきりのときにそっと見せてくれるのが常だった。兵助は愛を語ることもまた、恥ずかしがって容易にはしてくれなかった。だが、身体をあわせる前のふたりでゆっくりと心をとろかしていく時間に、そっと抱き寄せて名前を呼んでくれたり指で髪を梳いたりしてくれた。それから、言葉少なに、ぽつぽつと「あなたの匂いが好きだ」とか「指の形がいい」とか身体の部分部分をいとおしんでくれるのだった。好きだとか愛しているだとかいう言葉は、情事の最中にひっそりと囁かれた。タカ丸は終わりがけの真っ白な意識の中で、どこか遠くから聞こえてくるような愛の告白を受け取っていた。
タカ丸の身体はふたりの男の愛し方を知っている。
優作の愛し方はどこまでも優しく、深く、時間をかけてタカ丸を蕩かせた。愛しているの言葉も惜しみなくふんだんに囁いてくれた。おかげでタカ丸は優作と愛し合うときはいつも身体も理性もぐずぐずに溶けた状態でいた。彼と比較すると兵助の抱き方はどこか性急で、獣じみてすらいた。己の本能を抑えてなんとか理性的に抱こうとしているのが荒い息や、どこか切羽詰ったような瞳からわかった。思えばそれは闇に対峙している男とそうでない男の違いであったかも知れない。初めて兵助に抱かれたとき、――それはタカ丸にとって優作以外の男を初めて知った瞬間でもあったのだが――兵助を、知らない男のように感じて薄ら寒いような不安に襲われた。
彼の不器用さと孤独を知った後は、彼に感じる恐怖は、そのまま彼を失うかもしれないことへの恐怖であったと気がついた。この男はいつか自分の前から消えてしまうだろう。繋いだ指を離して、闇の世界に行ってしまうのだろう。
「兵助」
タカ丸はなかなか触れようとしない男に焦れて自ら着物を脱いだ。襟元を大きく肌蹴させて兵助にまたがった。
「抱いてよ、君が欲しいんだ」
「俺は片端だ」
「馬鹿だね、兵助・・・。どこに置いてきてしまったの」
タカ丸は腕を失った兵助の左肩にそっと唇を押し当てた。火傷に触れられたように、びくんと大きく肩を揺らして、兵助は痛みをこらえるような表情を浮かべた。傷はとうに癒えていた。触れられていたいのは心だった。
「あんたはそんなものに触れなくてもいいのに」
「どうして」
タカ丸は兵助を床に押し倒すと、右手に指を絡めて、口を吸った。思う存分口腔を味わうと、そのまま兵助の男の部分に舌を絡めた。
「あっ・・・だめだ、タカ丸っ・・・」
「自分でやるから、兵助はそこで見てて」
タカ丸は兵助の右腕を己の右手を繋げたまま、左手で器用に己の後孔をくつろげた。髪結い衣装の明るい色あいの着物をそのままに、後ろの裾を捲りあげ、唾液で濡らした指でゆっくりと慣らしてゆく。
「ん・・・」
時々小さく啼くのが、兵助を狂わせた。見ている兵助の雄の部分も熱を帯びてくる。それを認めるとタカ丸はにんまりと微笑み、その楔に吸い付いた。唾液でぐちゅぐちゅに濡らしたそれを、己の後孔におしあてるとゆっくりと腰を下とした。

勝利の女神

19 チラリズム(4年女体化)

真夏の日が当たってグラウンドの土もどこか白い。学園の野球部員たちは、自分たちの応援団をみて次々と仲間たちと顔を見合わせて騒いだ。
「な・・・なぜあいつらがここに!?」
「え、あれ、どんなサービス?」
「学園長が急に編成したらしいよ」
ひそひそと騒ぎあっているのは他校も一緒で、「なに、忍術学園ってあんなかわいい子そろってんの?レベル高くね?いいよなー俺らのムサい学ラン応援団よりずっと目の保養」なんて囁かれている。応援席には、話題の原因となっている4人のチアガールたち。
明るい茶髪のストレートヘアをポニーテールにして、スポーツドリンクをあおっているのは4年の田村だ。自分のことを自分でアイドルといってしまう痛さはあれど、黙っていればすらっとした足のラインがかわいい、キュートな少女だ。その隣では、高貴な顔立ちをした平が振り付けについて隣の少女と真剣に話し込んでいる。彼女もたいそうな自信家でプライドが高く、話しているとついて行けないことも多いのだが、黙って遠くから眺めているぶんには、高飛車も表にあらわれず、ただ胸のでかい美人だ。胸は大きいのに、腰や手足はすらりと細く、その絶妙なバランスがどこかなまめかしい。それから、ひとり青いベンチでくつろいで、どこから持ってきたのか骨付きチキンを囓っている少女は綾部。組んだ足も胸の形もむっちりと胸がついてなんともコケティッシュだ。
後ろで束ねたポニーテールもふんわりとウエーブがかって女の子らしい。彼女も、口を開けば不思議ちゃんここにきわまれりで、周囲を圧倒する人物なのだが、黙ってたってくれている限りでは天使だ。
最後に、4人の中で一番背が高いのが斉藤。他の三人より2歳も年上なだけあって、身体も大人っぽく育っている。まぶしい金髪と独創的な髪型、整えられた眉など、一見するとギャル系なのに、ふんわり微笑んで平らから真剣そのもので振り付けの確認などしてもらっているのがひたむきで頼りない感じで、かわいい。チアのスカートが短いのが気になるのか、スカートの裾を下げようと必死で手で押さえているのがまた、恥じらいたっぷりで良い意味で男を裏切ってくれている。
「俺右」
「俺一番左」
「俺巨乳のやつ」
「いやいや、金髪だって」
「えー、あの肉食ってるやつもかわいくね?」
「あいつなんか変わり者って感じするからなあ」
他校の男たちに好き勝手評されているのをきいて、虎若は鉢屋を見上げる。彼は鉄道模型研究会なのだが、スポーツ万能なのでいろんな試合に引っ張りだこなのだ。鉢屋は口笛を吹く。
「おー俺たちの勝利の女神だな。縁起がいいや」
「どうしたんでしょうか、うち、チア部なんてないのに」
「さあ、学園長先生の思いつきじゃね?」
虎若が応援席へ駆け寄ると、斉藤がしゃがみ込んで微笑んだ。
「応援に来たよ。虎ちゃん、がんばってね」
「タカ丸さん、紫のチア衣装いいっすねー」
後ろからついてきた鉢屋の指摘にタカ丸はぷくうと拗ねたみたいにほほを膨らませる。
「何にもよくないって。こんなの恥ずかしいだけだよ」
「似合ってますよ」
言ったのは綾部だ。後ろからぎゅうっと抱きしめて、「タカ丸さん柔らかい」と背中に頬を押しつけている。タカ丸は頬を上気させた。
「綾部の方が似合ってるよ」
鉢屋は田村と平にも声を掛けた。「よー、ご苦労、我がアイドルたち」
「先輩、試合がんばってください」
ぺこりと頭を下げる礼儀正しい平の横で、田村が「アルバイトなんです」と口を挟む。
「先輩、絶対試合勝って下さいね!」
「勝ったらお前らに幾らはいるの?」
「一万です」
悪びれず答えたのは綾部だ。タカ丸は苦笑気味で、「鉢屋くん、がんばってね」と応援を重ねる。
「必ず勝つための秘策を用意してますから!」
田村と平が意気込むのに、虎若は嫌な予感を胸に抱いた。
かくて試合が始まり、順当に進んだゲームの末、優勝候補とぶつかった。相手の強さにさしもの学園野球部にも敗戦の匂いが漂った。そのときだった。
「N・I・J・Y・U・T・U!忍術学園☆ファイトッ!」
4年の女神たちが紫のチア衣装を身にまとい、ポンポンを投げ、大きく回し蹴りした。試合に命をかける球児たちの目に焼き付けられたるは、太陽よりまぶしき白パンツ――。
「優勝がんばれ!忍術学園☆」
その日、空に高く血しぶきが上がり、それはそのまま夕日となって試合は終わった。

「あはは、超ウケるんですけど、うちのガッコ」
腹を抱えて笑い転げる鉢屋の足下では、鼻血の出し過ぎで参加停止になった部員たちが、苦悶とほんのちょっとの喜びをない交ぜた表情で転がっていた。
「鼻血で予選敗退とか、ないんですけど――」

男の子女の子

  20     日傘(竹谷女体化)
 
孫兵は日焼けしない。日焼けできない性質なのだ。長時間太陽に当たっていると白い肌が火照ったみたいに真っ赤になる。そうして、夜眠れないほどに痛くなる。だから真夏の孫兵にとって、日傘は必需品だ。黒いレースの日傘は同じ肌質を持っていた母親から譲り受けたもので、縁を金糸で薔薇の刺繍がしてあるのだった。女物ではあったが、店で求めるよりは品がよく、ごてごてとレースなどで飾り立てられていないぶんだけ、気に入って使うことができていた。
生物委員は真夏になると、炎天下の中生き物の飼育に追われるから人気がない。好きでやっているのは孫兵と五年の竹谷くらいのものだろう。竹谷はもともと生物が特別好きだと自覚していたわけではなかったそうだが、一年のとき何の気なしに生物委員になって、その大変さに一度と遠ざかった。
「だけどさ、次におれのかわりに生物委員になったやつがひどかったんだあ。面倒くさいってんで、何度か餌やりとか小屋の掃除とかさぼったらしくてさ、ほんと、弱い生き物なんかどんどん死んじゃって。それから、もう任せておけないってんでなんでだかずっと生物委員やってる」
およそ女の子らしくないがさがさごわごわした髪をかき混ぜながら、竹谷はそういって笑った。その飾り気のなさが孫兵は好きだった。
竹谷は、男女問わず色んな生徒から「女じゃない」なんてからかわれている。化粧もしないし、日焼けして真っ黒な肌をして虫たちの世話をしている。眉は整えなくても良いかたちを保っているけれども、少し太い。目鼻立ちがはっきりしているから、飾り立てればずいぶん美人になるはずなのになあ、と惜しむ声を漏らす男たちを孫兵は何度か見かけた。そんな風評を竹谷は知ってか知らずか、今日もジャージにTシャツという格好で校内を虫取り網片手に走り回っている。
日傘を差して毒蛇のジュンコの日光浴にグラウンドへ出たら、わきにある菜園から自分の名を呼ばれるのが聞こえた。
「お~い、孫兵!」
振り返ると、竹谷がしゃがみこんで、箸で一匹ずつ青菜についた毛虫を捕まえている。
「チュン吉たちの餌取りしてんだ」
ジリジリと焼け焦げるような蝉の声が、周囲の木々から響いてくる。竹谷が腕で乱暴に顎から滴る汗をぬぐった。その黒さに孫兵は驚く。
「いつから外にいるんですか」
「いつ・・・そういや午前くらいからかな」
「帽子もかぶらずに?」
「ああ、うん。帽子はさあ、被ると視界が狭くなるだろ、それが嫌でさあ」
「誰かにやらせたらいいのに」
「チビたちはこんな暑いのに仕事させたらかわいそうじゃん、プール行かせた」
「じゃ、せめて僕を誘ってくれたら」
「孫は日に弱いだろ。今日ひどく暑いしな、外出したら肌が真っ赤に火傷しちまうよ」
「でも先輩も・・・」
「ああ、おれは平気」
あっさりと竹谷が言う。あんまりあっさり言うから、孫兵は言葉に詰まった。
「日焼けは肌に良くないんですよ。それに、女性がこんな長時間日にあたってたら、体にも良くないだろうし・・・」
竹谷は、あはは、と声を出して笑う。それから、本当に、驚いたみたいに言った。
「女扱いされたのってはじめてかも。でもほんとに大丈夫だからさ、あたし女じゃないし」
孫兵はなぜだかカッとして、竹谷に向かって女じゃないとかいってきた連中みんな、殴ってやりたいような気分になった。こんなに綺麗なのに。自分を飾り立てて、ただ汚いものからは目を背けて、守ってもらうことを当然としている女を女というのなら、孫兵は女など嫌いだと思った。孫兵の思う美しさはそんなところにはない。
「馬鹿!何言ってるんですか、先輩、ちゃんと女性でしょう!」
「え、あ、はい」
「先輩が皮膚癌にでもなったら僕はどう責任を取ったらいいのか」
「いや、孫が責任を取る必要は別に」
「責任を取りたいんです」
ぎらっと鋭い視線で真正面から睨み付けられ、竹谷はただ圧倒されて頷いた。孫兵はそれから、持っていた黒いレースの日傘を竹谷に押し付けると、もっていた冷たいスポーツ飲料も一緒に渡した。
「孫兵?」
「残りは僕がやります」
青菜畑の中にしゃがみ込んで、虫たちを丁寧に取り上げていく。竹谷はそれをぼんやり見つめて、これはいったいどういうことか、と思った。長屋に帰ったら久々知に聞いてみなければ。孫兵は女の定義を間違えているのかしらん。それとも趣味が悪いのか。
 
そんな心配をする竹谷に、久々知はさも意外なことを聞かれたように目を丸くして、
「あ?何言ってんだ、ハチ、お前たいした美人だぞ」
といったものだから竹谷は思いっきりひっくり返ることになる。
「おれ、女じゃないとかよく言われるからてっきりすっかりそういうもんだと思ってきたけど」
「ああ、そりゃ見る目がないやつらなんだろ。本気にしてたのか、ハチ、ばっかだなあ。俺や三郎がどんだけお前のこと美人って言ってきたよ。友達の言うことは素直に信じろよ。あれだよ、お前、虫愛ずる姫君なんだ。伊賀崎って、あの三年の毒虫野郎だろ?ああ、そりゃお前に惚れても仕方ないわ」
ひとりだけ納得したような久々知に、竹谷は今度こそきょとんとするしかなかった。
後日、やっぱり真っ赤に日焼けして「痛い痛い」と顔を歪める孫兵に、多少の罪悪感を感じて、「薬塗ってやろうか、背中だしな、」と服をはだけさせようとした竹谷に、孫兵に大慌てで「先輩、僕男、あなたは女性!」と真っ赤な顔で怒鳴りつけられた。
「男と女って難しいもんだな」
そう途方にくれる竹谷の肌も始終ぽっぽと赤く火照っているのが、日焼けのせいでないと気づくのは、もう少し先のことだ。

君は僕の太陽だ!

 
05 太陽(浦風女体化)
夏休み中盤。八月の二週目。それまで何の音沙汰もなかった富松作兵衛から電話が入った。富松は同じ学校の同学年で、学校ではそれなりに話もするけれど、実家はお互いに住所が別だしプライベートで連絡を取ったことはほとんどない。
電話も、恐らく連絡網で調べたのだろう、宅電に掛かってきた。
「お母さん、電話―」
昼真っからクーラーの効いた部屋で、ソファに寝転がりながらDVDを見ていた。地元の学校に通わないと、長期休暇は結構暇だ。だらだら過ごしていたら牛になるわよと毎日母に小言をぶつけられている。どうやら洗濯物を乾すついでにお隣さんと話し込んでいるらしい。
「藤ちゃん、代わりに出てー」と返事が来た。
「へーい」
「女の子がへーいなんて言わないのよ」
「はーい」
宅電は二階へ続く階段のそばにある。
「はい、浦風です」
「あ、俺だけど、富松」
「え?」
富松の顔を思い出すまでに数秒を要した。言い訳させてもらえば、夏休みが始まって家に帰ったとたん、学生なんて学校のことを7割は忘れるものだ。
「お前、今俺のこと必死で思い出してたろ。ひでえやつだな」
「そんなことないよ」
「しれっと嘘つくな」
「で、何の用?」
「おい、10日に会わねえ?」
「なんで?」
「俺の地元来いよ」
「何がある?」
「えーっと、ダイエーとジャスコとつぶれかけたショッピングモール。あと川。すっげ汚いけど」
「ひとりで遊んでろ」
「わー、冷たいこと言うな友達だろ!」
「都合のいいときだけね。何が楽しくて電車で30分もかけてダイエーいかにゃならんのか。そんな罰ゲーム私は嫌です。クーラー効いた部屋で寝るわ。じゃーね」
「あっ、じゃあ、パフェおごる!お前バケツパフェ食ったことある?俺の地元のカフェにあるんだよ。おごる、いや、おごらせてください、お願いします」
「何時にどこ集合?」
 
 
 
行ってみて驚いた。てっきりふたりで遊ぶのかと思っていたら富松の傍らにはそれぞれ二組のカップルがあったからだ。電車から降りて人ごみに流されるようにして小さな街の駅前に吐き出された。途端、富松と話していた遊んでるふうの男が顔を上げて「お、愛しのカノジョがきたみたいだぜ」とにやにや笑って富松の肩を叩いた。富松は苦笑してそれを否定しない。そこでようやく、浦風は自分が何に利用されたかを知ったのだった。
ちょいちょいと富松を駅構内のコインロッカーの陰に呼びつける。
「なんだよ、ふたりっきりがいいって?仕方ねえやつだなあ」
などと鷹揚に言って悠々と浦風の後をついてきた富松だったが、ふたりきりになった途端、「申し訳ありませんでした」と真顔で深く腰を折った。
「地元の友達に調子こいて彼女いるっていっちまってよお、んならトリプルデートしよーぜみたいなノリになったんで、俺も焦ったんだよ」
「孫兵のほうが近くに住んでるでしょ」
「メールしたら一言“死ねば?”ってきた」
「数馬は?」
「死んでも嫌だって」
「嫌われたもんね」
「な、一日でいいんだよ!バケツプリン奢るからさあ!お願いします、今日一日だけ俺の彼女になって!」
身も蓋もないプライドを捨てた富松の依頼に、浦風は溜息をつくしかなかった。
とはいえ彼女役といっても何をしたらいいものか。浦風は富松の横をビニールサンダルをぺたぺた鳴らしながら、ぼんやり考えていた。浦風はまだ誰とも付き合ったことがなかった。学園に入学するまでは、美人だといってちやほやされてもいたけれど、学園に入ってしまえば浦風以上の美人はそれこそはいて捨てるほどいて、浦風は自分が美人といわれていた過去を忘れることにした。彼女が入った作法委員会はたいそうな美男美女ぞろいで、ひとつ上の綾部先輩などは男のくせに浦風以上の美貌の持ち主なのだからもう笑うしかない。作法委員会の中では浦風だけ「ふつうだね」といわれることにももう慣れっこだ。浦風だって自分のことを「ブス」だと思ったことはないが、あんな平生からきんきんしゃらしゃらした人物たちと接していれば自分が美人であるなんていう誤解もいまさら生まれてこない。
富松の友達の一人だという遊び人風の男が振り返ってきた。
「ねえ、後でふたりで抜けださない」
と耳元でこっそり打ち明けられて顔を上げる。
「え、だって彼女はどうするの?」
「俺、浦風さんのほうが好きになっちゃった」
映画の時刻表を探していた富松が携帯から顔を上げたので、ぽん、と肩を叩いて男はまた彼女のほうへ帰っていった。「あとで合図する。ほんとは浦風さんも、富松の彼女ってわけじゃないんでしょ?」
「何の話してたんだ?」
富松が浦風を見上げた。浦風はすらりと長身だ。ちっと小さく舌打ちして、胸の前で腕を組んだ。
「ビーサンにジーンズは失敗だったかな」
「完璧にご近所行くときの格好だよな、それ。いかにお前が俺のことをぞんざいに考えているかが如実に現れてるよな」
「人生で初めて口説かれちゃった」
なんの気なしにぽろりと零したら、富松は「げ!」と声を上げ、浦風が思っていた以上に真剣な反応を示した。
「騙されるなよ、あいつ美人に対して手が早いんだ」
「んじゃ私は大丈夫じゃない?」
「お前美人だろ、自覚持てよ」
富松がお笑い芸人のような突っ込みを入れてくる。
「美人じゃないと思うけどなあ。よく作法なのに普通だねって言われるし」
「作法のきんきんしゃらしゃら集団と比べるなよ、あいつらは特別だ。人の生き血を吸って生きる吸血鬼だと俺は踏んでる」
「妄想乙。」
「とにかく!危ない男には近寄っちゃだめだからな!今度言い寄られたら俺に言え。現行犯でぶん殴る」
「穏便にね」
「ひとのオンナ口説くなんてふてえ野郎だ」
「ひとのオンナ(仮)ね」
ぼきぼきと指を鳴らして臨戦態勢に入る、武闘派用具委員長食満留三郎の後輩富松をぼんやり眺めながら、浦風は、なんだか悪くない気分だなと考えていた。あとでふたりで抜け出さない、とでも誘ってみようか。

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