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君は僕の太陽だ!

 
05 太陽(浦風女体化)
夏休み中盤。八月の二週目。それまで何の音沙汰もなかった富松作兵衛から電話が入った。富松は同じ学校の同学年で、学校ではそれなりに話もするけれど、実家はお互いに住所が別だしプライベートで連絡を取ったことはほとんどない。
電話も、恐らく連絡網で調べたのだろう、宅電に掛かってきた。
「お母さん、電話―」
昼真っからクーラーの効いた部屋で、ソファに寝転がりながらDVDを見ていた。地元の学校に通わないと、長期休暇は結構暇だ。だらだら過ごしていたら牛になるわよと毎日母に小言をぶつけられている。どうやら洗濯物を乾すついでにお隣さんと話し込んでいるらしい。
「藤ちゃん、代わりに出てー」と返事が来た。
「へーい」
「女の子がへーいなんて言わないのよ」
「はーい」
宅電は二階へ続く階段のそばにある。
「はい、浦風です」
「あ、俺だけど、富松」
「え?」
富松の顔を思い出すまでに数秒を要した。言い訳させてもらえば、夏休みが始まって家に帰ったとたん、学生なんて学校のことを7割は忘れるものだ。
「お前、今俺のこと必死で思い出してたろ。ひでえやつだな」
「そんなことないよ」
「しれっと嘘つくな」
「で、何の用?」
「おい、10日に会わねえ?」
「なんで?」
「俺の地元来いよ」
「何がある?」
「えーっと、ダイエーとジャスコとつぶれかけたショッピングモール。あと川。すっげ汚いけど」
「ひとりで遊んでろ」
「わー、冷たいこと言うな友達だろ!」
「都合のいいときだけね。何が楽しくて電車で30分もかけてダイエーいかにゃならんのか。そんな罰ゲーム私は嫌です。クーラー効いた部屋で寝るわ。じゃーね」
「あっ、じゃあ、パフェおごる!お前バケツパフェ食ったことある?俺の地元のカフェにあるんだよ。おごる、いや、おごらせてください、お願いします」
「何時にどこ集合?」
 
 
 
行ってみて驚いた。てっきりふたりで遊ぶのかと思っていたら富松の傍らにはそれぞれ二組のカップルがあったからだ。電車から降りて人ごみに流されるようにして小さな街の駅前に吐き出された。途端、富松と話していた遊んでるふうの男が顔を上げて「お、愛しのカノジョがきたみたいだぜ」とにやにや笑って富松の肩を叩いた。富松は苦笑してそれを否定しない。そこでようやく、浦風は自分が何に利用されたかを知ったのだった。
ちょいちょいと富松を駅構内のコインロッカーの陰に呼びつける。
「なんだよ、ふたりっきりがいいって?仕方ねえやつだなあ」
などと鷹揚に言って悠々と浦風の後をついてきた富松だったが、ふたりきりになった途端、「申し訳ありませんでした」と真顔で深く腰を折った。
「地元の友達に調子こいて彼女いるっていっちまってよお、んならトリプルデートしよーぜみたいなノリになったんで、俺も焦ったんだよ」
「孫兵のほうが近くに住んでるでしょ」
「メールしたら一言“死ねば?”ってきた」
「数馬は?」
「死んでも嫌だって」
「嫌われたもんね」
「な、一日でいいんだよ!バケツプリン奢るからさあ!お願いします、今日一日だけ俺の彼女になって!」
身も蓋もないプライドを捨てた富松の依頼に、浦風は溜息をつくしかなかった。
とはいえ彼女役といっても何をしたらいいものか。浦風は富松の横をビニールサンダルをぺたぺた鳴らしながら、ぼんやり考えていた。浦風はまだ誰とも付き合ったことがなかった。学園に入学するまでは、美人だといってちやほやされてもいたけれど、学園に入ってしまえば浦風以上の美人はそれこそはいて捨てるほどいて、浦風は自分が美人といわれていた過去を忘れることにした。彼女が入った作法委員会はたいそうな美男美女ぞろいで、ひとつ上の綾部先輩などは男のくせに浦風以上の美貌の持ち主なのだからもう笑うしかない。作法委員会の中では浦風だけ「ふつうだね」といわれることにももう慣れっこだ。浦風だって自分のことを「ブス」だと思ったことはないが、あんな平生からきんきんしゃらしゃらした人物たちと接していれば自分が美人であるなんていう誤解もいまさら生まれてこない。
富松の友達の一人だという遊び人風の男が振り返ってきた。
「ねえ、後でふたりで抜けださない」
と耳元でこっそり打ち明けられて顔を上げる。
「え、だって彼女はどうするの?」
「俺、浦風さんのほうが好きになっちゃった」
映画の時刻表を探していた富松が携帯から顔を上げたので、ぽん、と肩を叩いて男はまた彼女のほうへ帰っていった。「あとで合図する。ほんとは浦風さんも、富松の彼女ってわけじゃないんでしょ?」
「何の話してたんだ?」
富松が浦風を見上げた。浦風はすらりと長身だ。ちっと小さく舌打ちして、胸の前で腕を組んだ。
「ビーサンにジーンズは失敗だったかな」
「完璧にご近所行くときの格好だよな、それ。いかにお前が俺のことをぞんざいに考えているかが如実に現れてるよな」
「人生で初めて口説かれちゃった」
なんの気なしにぽろりと零したら、富松は「げ!」と声を上げ、浦風が思っていた以上に真剣な反応を示した。
「騙されるなよ、あいつ美人に対して手が早いんだ」
「んじゃ私は大丈夫じゃない?」
「お前美人だろ、自覚持てよ」
富松がお笑い芸人のような突っ込みを入れてくる。
「美人じゃないと思うけどなあ。よく作法なのに普通だねって言われるし」
「作法のきんきんしゃらしゃら集団と比べるなよ、あいつらは特別だ。人の生き血を吸って生きる吸血鬼だと俺は踏んでる」
「妄想乙。」
「とにかく!危ない男には近寄っちゃだめだからな!今度言い寄られたら俺に言え。現行犯でぶん殴る」
「穏便にね」
「ひとのオンナ口説くなんてふてえ野郎だ」
「ひとのオンナ(仮)ね」
ぼきぼきと指を鳴らして臨戦態勢に入る、武闘派用具委員長食満留三郎の後輩富松をぼんやり眺めながら、浦風は、なんだか悪くない気分だなと考えていた。あとでふたりで抜け出さない、とでも誘ってみようか。
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