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男の子女の子

  20     日傘(竹谷女体化)
 
孫兵は日焼けしない。日焼けできない性質なのだ。長時間太陽に当たっていると白い肌が火照ったみたいに真っ赤になる。そうして、夜眠れないほどに痛くなる。だから真夏の孫兵にとって、日傘は必需品だ。黒いレースの日傘は同じ肌質を持っていた母親から譲り受けたもので、縁を金糸で薔薇の刺繍がしてあるのだった。女物ではあったが、店で求めるよりは品がよく、ごてごてとレースなどで飾り立てられていないぶんだけ、気に入って使うことができていた。
生物委員は真夏になると、炎天下の中生き物の飼育に追われるから人気がない。好きでやっているのは孫兵と五年の竹谷くらいのものだろう。竹谷はもともと生物が特別好きだと自覚していたわけではなかったそうだが、一年のとき何の気なしに生物委員になって、その大変さに一度と遠ざかった。
「だけどさ、次におれのかわりに生物委員になったやつがひどかったんだあ。面倒くさいってんで、何度か餌やりとか小屋の掃除とかさぼったらしくてさ、ほんと、弱い生き物なんかどんどん死んじゃって。それから、もう任せておけないってんでなんでだかずっと生物委員やってる」
およそ女の子らしくないがさがさごわごわした髪をかき混ぜながら、竹谷はそういって笑った。その飾り気のなさが孫兵は好きだった。
竹谷は、男女問わず色んな生徒から「女じゃない」なんてからかわれている。化粧もしないし、日焼けして真っ黒な肌をして虫たちの世話をしている。眉は整えなくても良いかたちを保っているけれども、少し太い。目鼻立ちがはっきりしているから、飾り立てればずいぶん美人になるはずなのになあ、と惜しむ声を漏らす男たちを孫兵は何度か見かけた。そんな風評を竹谷は知ってか知らずか、今日もジャージにTシャツという格好で校内を虫取り網片手に走り回っている。
日傘を差して毒蛇のジュンコの日光浴にグラウンドへ出たら、わきにある菜園から自分の名を呼ばれるのが聞こえた。
「お~い、孫兵!」
振り返ると、竹谷がしゃがみこんで、箸で一匹ずつ青菜についた毛虫を捕まえている。
「チュン吉たちの餌取りしてんだ」
ジリジリと焼け焦げるような蝉の声が、周囲の木々から響いてくる。竹谷が腕で乱暴に顎から滴る汗をぬぐった。その黒さに孫兵は驚く。
「いつから外にいるんですか」
「いつ・・・そういや午前くらいからかな」
「帽子もかぶらずに?」
「ああ、うん。帽子はさあ、被ると視界が狭くなるだろ、それが嫌でさあ」
「誰かにやらせたらいいのに」
「チビたちはこんな暑いのに仕事させたらかわいそうじゃん、プール行かせた」
「じゃ、せめて僕を誘ってくれたら」
「孫は日に弱いだろ。今日ひどく暑いしな、外出したら肌が真っ赤に火傷しちまうよ」
「でも先輩も・・・」
「ああ、おれは平気」
あっさりと竹谷が言う。あんまりあっさり言うから、孫兵は言葉に詰まった。
「日焼けは肌に良くないんですよ。それに、女性がこんな長時間日にあたってたら、体にも良くないだろうし・・・」
竹谷は、あはは、と声を出して笑う。それから、本当に、驚いたみたいに言った。
「女扱いされたのってはじめてかも。でもほんとに大丈夫だからさ、あたし女じゃないし」
孫兵はなぜだかカッとして、竹谷に向かって女じゃないとかいってきた連中みんな、殴ってやりたいような気分になった。こんなに綺麗なのに。自分を飾り立てて、ただ汚いものからは目を背けて、守ってもらうことを当然としている女を女というのなら、孫兵は女など嫌いだと思った。孫兵の思う美しさはそんなところにはない。
「馬鹿!何言ってるんですか、先輩、ちゃんと女性でしょう!」
「え、あ、はい」
「先輩が皮膚癌にでもなったら僕はどう責任を取ったらいいのか」
「いや、孫が責任を取る必要は別に」
「責任を取りたいんです」
ぎらっと鋭い視線で真正面から睨み付けられ、竹谷はただ圧倒されて頷いた。孫兵はそれから、持っていた黒いレースの日傘を竹谷に押し付けると、もっていた冷たいスポーツ飲料も一緒に渡した。
「孫兵?」
「残りは僕がやります」
青菜畑の中にしゃがみ込んで、虫たちを丁寧に取り上げていく。竹谷はそれをぼんやり見つめて、これはいったいどういうことか、と思った。長屋に帰ったら久々知に聞いてみなければ。孫兵は女の定義を間違えているのかしらん。それとも趣味が悪いのか。
 
そんな心配をする竹谷に、久々知はさも意外なことを聞かれたように目を丸くして、
「あ?何言ってんだ、ハチ、お前たいした美人だぞ」
といったものだから竹谷は思いっきりひっくり返ることになる。
「おれ、女じゃないとかよく言われるからてっきりすっかりそういうもんだと思ってきたけど」
「ああ、そりゃ見る目がないやつらなんだろ。本気にしてたのか、ハチ、ばっかだなあ。俺や三郎がどんだけお前のこと美人って言ってきたよ。友達の言うことは素直に信じろよ。あれだよ、お前、虫愛ずる姫君なんだ。伊賀崎って、あの三年の毒虫野郎だろ?ああ、そりゃお前に惚れても仕方ないわ」
ひとりだけ納得したような久々知に、竹谷は今度こそきょとんとするしかなかった。
後日、やっぱり真っ赤に日焼けして「痛い痛い」と顔を歪める孫兵に、多少の罪悪感を感じて、「薬塗ってやろうか、背中だしな、」と服をはだけさせようとした竹谷に、孫兵に大慌てで「先輩、僕男、あなたは女性!」と真っ赤な顔で怒鳴りつけられた。
「男と女って難しいもんだな」
そう途方にくれる竹谷の肌も始終ぽっぽと赤く火照っているのが、日焼けのせいでないと気づくのは、もう少し先のことだ。
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