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水の中の小さな太陽

31 夏の終わり(乱太郎女体化)


夏休みは毎日バイトで忙しいといっていたきり丸が、突然の電話をくれた。
「明日プール行かねえ?」
「突然どうしたの」
「俺、今、監視員のバイトしててさ」
「あ、プールの」
「ああ。明日でお仕舞いなんだけど、清掃があるからさ、チーフが清掃ついでにただで泳いでいいよって。午後から水抜くからさ、午前はほんとに泳ぎ放題なんだ。乱太郎、来ないか」
「行く」
頭の中では、水着どうしようとか広いプールにきり丸とふたりっきりなのかなとか、他のクラスメイトは誘わないのかなとか考えながらも、乱太郎はすぐさまオーケーをした。
「そっか」
受話器の向こうで、ちょっとホッとしたみたいなきり丸の返事が聞こえた。
乱太郎は学校で着るような紺の水着しかもっていなかったから、電話を切ってすぐ戸惑った。やっぱりよくないかなあ、と迷って、それから伊助に電話した。兵太夫に聞けばよいと思ったけれど、兵太夫にスクール水着しか持っていないなんていったら呆れられそうで、伊助にしたのだった。
伊助は電話の向こうで、「買ったほうがいいかもね」と言った。
「やっぱり、スクール水着はナシだよねえ」
「うーんとね、きり丸は別にそういうこと気にするやつじゃないと思うけど、」
伊助の声の向こうからはゴウンゴウンとどうやら洗濯機が回っているらしい音がしていて、乱太郎は なんだか安心した。伊助は夏休みでもいつもの伊助のようだった。
「でもね、きり丸は、ほら、スクール水着しか買ってないと思うのね」
「え、きり丸?」
「そう。わざわざプライベート用の水着なんて買わないでしょ、あの“どけちのきりちゃん”がさあ。乱太郎までスクール水着着てきたら、あいつ気にしないかなあ。乱太郎が気にしてるって、気にしないかな」
きり丸は人に同情されるのをすごく嫌がる。乱太郎は瞳をぱちくりとさせた。全然気がつかなかった、と思った。そんなこと思いもよらなかった。自分のことばっかり考えてた。
「あ、ああ、そっか・・・。そっかあ、さすが伊助、だねえ」
呆然と呟いた。なんだか自分が情けなくて涙が出てきそうだと思った。そうしたら、気遣い屋の伊助はそんなことも見通してしまったのか受話器の向こうで、「こういう考えすぎる性格が、いっつもきり丸に嫌がられるんだけどね。俺、お前のそーいうとこ嫌いっていつも面と向かっていわれる」と苦笑した。
乱太郎が慌ててフォローすると、伊助は明るい笑い声を立てて、大丈夫、と言った。
「大丈夫、気にしてないから。私、きり丸のああいう後ひかないところさっぱりして好きだよ」
夕方からじゃ街に出てファッションビルに入ることもできなくて、乱太郎は母親の買い物についてゆき、スーパーに併設されている水着売り場に行った。
「何、乱太郎、あんたこんな季節にプール行くの」
夏ももうおしまいで、朝や夕に、道行く人が「涼しくなりましたね」なんて挨拶を交わすようになっていた。乱太郎もクーラーのリモコンをしまったばかりだった。
「うん」
「寒くないかい」
「でも午前中だから」
乱太郎はオレンジのストライプのセパレートを買った。安っぽいかな、と思ったけれど、デートってわけでもないんだし気にしないことにした。
朝になってきり丸が自転車で迎えに来た。わりと高いやつで、土井先生が半額は出世払いでいいといって今年の春に進学祝でプレゼントしたものだった。きり丸は土井先生から物をもらうのをことさら嫌がるので、こういう言い方をしないと貰ってくれないと土井先生は苦笑していた。新聞配りのアルバイトなんかでずいぶん重宝しているらしく、よく使い込まれているようなのが見て取れた。
「乱太郎、自転車ある?」
「うん。ボロだけど」
「後ろ乗ってもいいよ」
「でもきりちゃん重くない?」
「ばかな!俺は毎日バイトで運動しないでぶっちょゴールデンレトリバーを荷台に乗せて街を回ってるんだぜ。それに比べたら乱太郎くらい」
乱太郎は声を上げて笑った。きり丸は白皙の美少年なのに、別の国の子どもみたいに真っ黒に日に焼けていた。それに、細い手首があいまって本当に異質なもののように見えた。
きり丸は孤児だ。ずいぶん苦労して生活している。あんまり毎日苦労しているから、みんなは同情もできないくらいだ。その苦労のひとつひとつがきり丸をかたちづくっている。粗野な言動とか、細いけれどしっかりした体つきとか、前を見据える少しきついまなざしとか、本当の優しさとか、厳しさとか、全部。もしきり丸に不幸が訪れなくて、今も両親と楽しく幸せに暮らしていたら、今のきり丸は絶対にいないだろう。そう思ったら乱太郎は、きり丸が今のきり丸でよかった、と思って、でもそんなことを思うのはきり丸に悪い気がして言えないでいる。
結局、きり丸の荷台に乗せてもらってプールまで行った。ぐん、ぐん、と力をこめて踏みつけられるペダルの重みを、乱太郎も一緒になって身体で感じながら、きり丸の身体にしがみ付いていた。少し汗のにおいがした。
水着に着替えてプールサイドに出ると、想像したとおりきり丸と自分しかいなかった。他のクラスメイトは、とは何故だか聞きがたく、「他のバイトの人は?」と尋ねると、「別にいいって」とそっけなく言われた。
「そうなんだ」
「町営のちゃちいプールなんかより、もっとでっかいとこ行くんじゃん?」
「ああ、大学生だもんね」
「うん」
広いプールに潜って、目を開く。ぼんやりした青が視界に広がった。その少し向こうをきり丸の細い身体がくねっている。すうっと、泳いできり丸のほうへいくと、きり丸が黙ってこっちを見ていた。近づくのを待っているんだと思った。近くまで泳いでいくと、きり丸は手首を掴んで、プールの水底から上を見上げた。小さい太陽のようなものが見えて、まわりに光のレースが浮いていた。
「きれい、」
と零したらそれは水の中で音にならず、泡になって上のほうへ上っていった。顔を上げてもう一度綺麗、と言おうとしたら、きり丸がぐいっと手首を引っ張った。身体が傾ぐ。きり丸が顔を覗き込むみたいにして、近づけた。近い、と思ったら、唇が当てられた。驚いているうちに、ぱっと離れた。
ふたりして息が続かなくなって顔を出したら、きり丸は開口一番「ごめん」と言った。
「何で謝るの」
「いきなりだったから」
「謝らなくていいよ」
「うん。あの、つまりそういうことだから」
「うん」
「好きなんだ。・・・これ言うの、初めてだっけ」
「うん」
「そっか。いっつもいってるような気になってた」
きり丸ははにかみ笑いをして、それから、「水着似合うよ」って言った。安い水着なんだけど、と思って、でもそんなこと、きり丸はとっくに気づいているような気がした。本当に水着が似合っているかどうかは知らなかったけれど、きり丸が褒めてくれる余地を作ってきたことをよかったと思った。
夏はもう終わる。涼しいくらいの風が剥き出しの肩を撫でて、乱太郎は、こういうふいのさみしさをきり丸と感じられることの幸福を想った。
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お返事

いつも拍手&コメントありがとうございます!お返事させてください~。

1:57 にょたいかたのしいです!ありがとうございます!  の方
や、こちらこそにょたいかたのしいです。ほんとにありがとうございます。

 0:53 更新楽しみにしてますvv   の方
ありがとうございます。こういうコメントいただけるとなんかホッとします・・・。(更新してもいいんだ的な意味で)

2:32 ~女体化と竹谷に綺麗に目覚めました。~ の方

ヤッター!竹谷も女体化もはまるととても楽しいものですよ。おいでませおいでませ。もったいないようなお言葉もありがとうございます。拙文ですが、そういっていただけたらほんとにありがたいです。
>勝利の女神でこんな応援をしたことを知った久々知先輩はさぞや不機嫌なのだろうなぁとか考えてにまにましております…
なんという妄想のタネを!あ な た が 萌 え 神 様 か !!
妄想してみました。
『勝利の女神、のち』
忍たま寮5年い組久々知兵助の部屋に、向かい合って座るふたりの男女が一組。男はせつせつと何かを説き、女はただただ項垂れている。
「あんたねえ、いい年をした女性がどういう応援してるんですか。金に困ってるわけでもないんでしょう、そんなに学園長からのおこづかいが欲しかったんですか。だからってあんた、まさか、パン・・・ごほん、下着を見せるなんてどういう神経してるんだか」
「だ、だってみんながやろうって」
「みんながやればあんたもやるんですか!そういう日本人の連帯主義は古くから批判されるべき国民性とされてきたはずですよっ!」
バンバンッ、と兵助の手のひらが畳をうつ。埃がこふこふと吹き上がった。
「すみません・・・」
「ごめんですんだら日本に猥褻物陳列罪なんてありません」
女の瞳はうるうると涙で潤みきっている。少し動けばすぐにでもぽろぽろと涙が零れ落ちてしまうだろう。
「反省してますか?」
「してます」
「何で俺が怒ってるかわかりますか?」
「わ、私が兵助以外の人にぱんつ見せちゃったからです・・・」
「ちーがーいーまーすー!!」
兵助が顔を売れたトマトより真っ赤にして叫んだ。「俺以外の人、という言葉が余計です!つまり、俺は他人に簡単に下着を見せてはいけないといっているんです!」
おおぐちをあけてわあわあと喚きたてる年下の恋人にタカ丸は可愛らしく小首を傾げた。
「・・・俺が、兵助にならぱんつ見せてもいいと思ってるのは、兵助にとっては迷惑なのかな?」
兵助はぎょっとした。それから、真っ赤な顔をうつむかせて、「なんて人だ、あなたは」と言った。
「いけないひとだ」
「怒るの?」
「怒ります」
兵助はそれからタカ丸を抱き寄せた。タカ丸が嬉しそうにしがみついてきたので。「怒ってるんだぞ」といって、力をこめてぎゅうっと抱きしめた。
  
0:54 長編の新作お待ちしていました!~ の方
現在あんな感じのとこで止まっちゃってますが・・・伊作もそろそろ出せるかと思いますので、今後とも読んでいただければ嬉しいです。ありがとうございました。

23:33 長編の最新話拝読しました!~ の方
鉢雷の関係性は、いろいろ妄想しましたが結局のところ恋人同士になる一歩手前のところが一番萌えると思いました。恋人じゃないんだけど、お互いにお互いが一番大切っていう・・・。そんでそんな相手の思いをお互いがきちんと理解しているっていうね。誰も邪魔できない感じでいいですね。でも恋人同士じゃないんですね。告白しないのかなあ、と久々知は思ったりするんですが、いまさらもう言葉なんか必要ないよと三郎も雷蔵も別々に笑うのですね。そういう鉢雷をよいこわるいこは応援したい!

19:09muryan様
あ・・・私の返信で変に気を使わせてしまったならすみません。コメントいただけるだけでもうめちゃくちゃ喜んでますので、内容とか、全然悪いものでもなかったですしどうか気になさらないでくださいね。お忙しそうですが、そのなかで定期的にコメントを寄せてくださって、本当に、私のほうも読むのを楽しみにしております。ありがとうございます。

12:49 は組死にねたシリーズを三作とも読ませていただきました。~ の方
死にネタなんてあんまり好かれないと思うのですが、読んでくださって、しかも好意的なコメントまで寄せてくださってありがとうございます。今後もぽちぽち書いていってコンプリート目指したいです(嫌な目標だな)!

しょうもない男

唐突に思い浮かんだから文仙。お互いにお互いが好きだけれど、まだ気持ちを確かめ合っていないころの空気が好きですよ。そういう話。


餓鬼大将がそのまま大きくなったような、と綾部が文次郎のことを評した。それはちょうど文次郎が旅先で腹を壊し、蒲団に包まりながらうんうんと唸っているときだった。襖を開けて、文次郎が痛みを堪えて転がっているのを壁にもたれて見下ろしながら、ぼそりと呟いた。
文次郎の枕元に腰を落ち着けて本を読んでいた仙蔵は、綾部の薄情な言葉に遠慮なく吹き出したけれども、当人の文次郎は脂汗が浮いたままの青黒い顔で綾部を見上げたまま、案外大きな眼でぎょろりと睨んだ。
綾部は意に返した様子もない。視線を仙蔵に転じた。
「女将に医者を呼ぶよう頼んできましたよ」
「あァ、すまんな」
仙蔵はにっこり微笑んで、読みかけの草紙を遠慮無しにぱたりと閉じた。綾部はきっちり着込んだ浴衣で懐手をして、相変わらず生真面目な表情を浮かべて仙蔵を見つめ続けている。仙蔵は視線を上げてもう一度微笑んだ。人を小ばかにしたような笑みの得意な人だけれども、素で笑うとそれは小春日和の日の陽光にも似て柔らかな暖かさを持っていた。
「何だ」
「街に行きませんか。女将に聞いたんですが、この季節だと紀ノ川のほとりが花が満開で大変綺麗だそうですよ」
「そうだな」
仙蔵はどっちつかずの返答をして、穏やかな目で文次郎を見下ろした。文次郎は渋い顔をしている。ひとりで寝ていてもつまらない、出来るなら仙蔵には一緒にいて欲しいが、もともとこの旅行は自分が言い出して無理やり仙蔵を誘ったものだ。俺はお前が心配しているようなことをするつもりはまったくない、まったくないけれども、どうしてもふたりきりがいやなら綾部でも誘え、と言って、文次郎のほうで勝手に綾部のぶんまで旅の手配をして、そうして発ったのだ。そうでもなくとも、自分が迷惑をかけている自覚はある、声を大にして「行くな」とはいい難いのだろう。仙蔵はそんな男の心情などすっかり把握していて、わざと焦らすようににやにや笑っていたが、やがて
「やめておこう」
とあっさり返した。綾部はそうした返事が返ってくるのは予め承知していたようで、殊更残念そうな表情も見せず、「そうですか」と頷いただけだった。
「こいつは私が見てるから、綾部は行ってくるといい」
「そうします」
綾部は頷いて、襖を閉めると浴衣を脱いでに衣姿に着替え始めた。準備が終わった後には、いそいそと脱いだ浴衣を丁寧にたたみ始める。最近かわいいこの後輩が執着している髪結いの少年に、脱いだ浴衣はきちんと畳むことを約束させられたらしい。その几帳面が似合わない後輩の小さな背中を仙蔵は団扇を片手ににこやかに眺めている。その様子が、文次郎には自分も連れて行けと訴えているように見えたのだろう、
「仙蔵、お前も行け」
と言い始めた。仙蔵は持っていた団扇を文次郎に向けて揺らしながら、
「行かん」
と軽く答える。頑固な男は、口を真一文字に結びながら、なおも「行け」と声高に命じた。小銭入れを手に取った綾部は振り返って二人の遣り取りを眺めた。
「俺は平気だから行って来い」
と言い張る文次郎に、仙蔵は団扇で親友と自分を交互に扇ぎつつ「ここにいると言っておろう」とのらりくらりと対応している。
「潮江先輩、餓鬼臭いことはお止めなさい」
綾部はそれだけいうと、あとは知ったことかとばかりに部屋を出て行ってしまう。唖然とする文次郎の傍らで、仙蔵は今度こそ声を出して笑った。


(潮江先輩、立花先輩はほんとは私を誘って欲しくなかったんだと思いますよ)

この鈍感男。

青葉若葉の輝きに

そういや久々知って文武両道でしたね、という話。



「神様の傑作のひとつ久々知の頭脳」と、そんな歌が五年の間で流行った。つくったのは同級生の誰からしい。テスト前にこの歌を答案用紙の端に書いておくとご利益があって落第しないというんで、試験間近になるとみんなが躍起になって歌を口ずさみながら教科書を睨んでいるのだった。
竹谷は本気で取り合わずに、そんな歌を覚えるくらいならそのぶん単語の2個や3個を覚えたほうがよっぽど及第すると吹聴していた。しかし、あるとき、どうしても解けない問題があって頭を抱えていたところ、藁にも縋る気持ちでノートの隅にこの歌を書きつけた。すると、ふいに今まで思いつきもしなかった解き方がむくむくと脳裏に浮かび上がり、せっせとノートに筆を運ばせたらするすると解答が出来たので、びっくりして胸がときめいた。
それから程なくして久々知に会ったとき、
「試験の神さま!」
と呼んだら、彼は顔を赤くして怒った。
「お前までそんなことを!頼むから馬鹿な迷信に騙されないで、必死で勉強してくれよ」
「でもな、兵助、聞いてくれ。例の歌は確かにご利益があるようだぜ。俺は先日どうしても解けない問題があったんだが・・・」
「偶然だ、偶然!」
久々知は聞きたくもないとばかりに耳をふさいで、殊更に声を荒げる。竹谷はそんな久々知が可笑しくてにやにやと相好を崩しながら、無理にでも話を聞かせようとする。背中から伸し掛かって耳もとに口を近づけては久々知神話を嘯く。久々知の迷惑はわかるし、実際気の毒だなとも思うのだが、彼をからかうのが面白くて堪らない。ただし、自分以外の同級生が久々知神話を殊更に崇拝するのは気に入らないらしく、竹谷はジャイアニズムを全開させて同級生を怒鳴りつけた。
「兵助に頼らず、己で勉強しろッ!!」
傍らで佇む久々知は、そんな竹谷の耳を引っ張って捻る。
「お前がそれを言えた義理なのか」
「俺はいいんだ。でも、他は駄目だ」
「なんだそれは」
久々知が呆れた表情を浮かべると、竹谷はにっこりと笑って、そのまま話を終わらせた。久々知は溜息をついて、再び並んで歩き出す。
試験前はどうしても精神が鬱屈するもので、それは落第からは縁遠いはずの久々知とて例外ではない。趣味でする読書は面白くもあるが、勉強で読まされるそれはどうしても脳が拒否する。何もかも放り出して何処かへ繰り出したくなるのを、理性が引き止めて、そのぶん腹の辺りがもやもやする。窓から見える景色は、五月の真っ盛りで空も瑞々しい葉をいっぱいに広げた木々も青々として生命に満ちている。こんな風景を前にして、建物の中に囚われているのは至極不健康な気さえする。
「ああ、遊びに行きたいなあ」
久々知がぼやいた。竹谷はにこにことして、
「うん、じゃあ、遊びにいこうや」
という。これには久々知が呆れてしまって、顔を顰めた。
「試験前にそんなことする勇気はないよ」
「忍者に一番必要なのはきっと勇気と負けん気だぞ」
「だから出かけても好いって?」
「お前の言う遊びって、鉢屋と違って、明るいときのほうだろ?じゃあ、握り飯を持って、何処か遠くへ行こう。俺は裏裏山へ行きたいな」
竹谷は久々知の言葉を耳に入れずに、どんどん話を先へ進めていってしまう。
「呆れた。行きたくばお前だけで行けよ」
「おい、俺は兵助が望むからいうんだぞ」
「俺はハチが俺と机を並べて勉強してくれることを望んでいるよ」
「一緒に握り飯食って太陽の下を走りまわろうや!」
「試験が終わったらな」
竹谷は立ち止まる。久々知は気にせず先に歩を進めた。どんどん距離を離してもいっこうに追いついてこないので、仕方無しに振り向く。竹谷は恨めしい顔でこちらを睨んでいる。
「つれない!久々知がつれない!久々知君はもう俺のことなんて嫌いになってしまったんだ」
「そうだ、勉強をしない竹谷君なんて俺の親友じゃない」
言い返しながらも、久々知は律儀に竹谷のほうへ引き返していく。
「お前が遊びたいだけのくせに」
「う~ん、若い者が狭い校舎に閉じ込められているというのはよくないと思うんだよ」
腕を組んでもっともらしく唸る竹谷に、久々知の表情に笑顔が浮かんだ。それは、苦笑に近い。この男の言動はいつも何処か茶目っ気たっぷりで、傍にいていつも笑ってしまう。
「試験が終わったら、本当に何処か遊びに行こうぜ」
「山がいいな!」
「俺は海がいい」
互いに肩を叩きあいながら、再び歩みを再会する。廊下ですれ違うたびにクラスメイトが近づいてきては久々知を拝んだりわからない問題を尋ねたりする。久々知はそのいちいちに律儀に答えながら、試験が終わるまでの長くて短い三週間を指折りで数えた。その向こうに、彼らの夏がある。

なんくるないさ(4年)

女体化で夏お題。4年全員女。


16    
お泊り

 
「このメンバーで旅行行くって言ったら、めちゃくちゃ驚かれた」
「私も」
飛行機に乗ってそうそう、三木はバリッとポテトチップスの袋を開けた。「離陸してからあければよかったのに、アンタ、揺れたらこぼれるよ」と滝夜叉丸が横で咎めると、三木はうるさそうな表情を浮かべて、「離陸のときは口を縛るからいいの」とつっけんどんに言った。ポテトチップスを食べることに関しても、お菓子くさい、とか、いちいちおやつ食べてたら太るよ、とか、油ものばっかり、とか言われそうだと三木は勝手に想像して眉をひそめた。滝夜叉丸とは、とても小さな仕草のいちいちからしてことごとく気が合わない。お互いにお互いの気に障ることばかりする。なんでそんな人と貴重な夏休みを旅行に行くの、と不思議がられても、三木は「よくわかんない」と返すしかなかった。
確かに沖縄には行きたかった。それを何かの拍子にぽつっと零したら、斉藤が「じゃあ行こうか。今度の土曜に一緒に旅行会社行こ」とにこっと微笑んで、三木は、こういうところほんとに人の許可を得ない人だなあと呆れたけれど、斉藤のことは嫌いじゃないから素直に頷いた。ふたりで旅行に行くのだろうと思っていたら、斉藤は勝手にたくさんの人に声をかけたらしくて、滝夜叉丸と綾部までついて来ることになっていた。
「ほんと不思議。私たちって、すごくマイペースで協調性がないもの同士でしょう」
一枚頂戴、と滝夜叉丸が三木の手のひらを見せた。「文句言ったくせに」「別に、食べることに関してはなにも言ってない」三木は白いほっそりした手のひらの上に2,3枚ポテトチップスをおいた。ありがとう、と滝夜叉丸はあっさりと言い、それを口に運んだ。咀嚼して、飲み込んでからぽつんと言った。
「うまくいくのかしらね」
自分たちのことなのに他人のことのように言う。三木は呆れたけれど、そのまま自分もポテトチップスを噛みながら、
「知らない」
と言った。
マイペースな4人が集まった旅行は、ホテルにチェックインしてからもすぐにその自由さを発揮した。ホテルは、プライベートビーチのあるわりと高価なところで、荷物を置いてバルコニーに出れば、眼前にはラムネの瓶の色をした海が広がっていた。
「わ、すごい!」
三木は声を上げると、部屋に戻って服を脱ぎ捨てた。そのままオレンジとイエローのエメラルドグリーンのストライプ柄が可愛いキャリーバッグから水着を掘り出すと、恥らうこともなく下着を脱ぎ捨てて着替えた。
「泳ぐの?」
斉藤は帽子をとって乱れた髪を、ブラシで梳いている。
「泳ぎます!」
「もう六時だけど」
滝夜叉丸はベッドに腰掛けてホッと落ち着いたところらしく、ここにくるまでに買った500mlのペットボトルをグラスに注いでごくごくと飲み干していた。
「沖縄の海は夕方でも温かいから泳げるらしいよ」
話なんか聞いていないと思っていた綾部がぽつんと言った。
窓側のベッドは綾部がホテルについて早々にとった。「私ここがいい」と宣言して、勝手に旅行鞄から枕を取り出したときは全員びっくりした。「蕎麦殻の枕じゃないと眠れないの」斉藤が、「空港のさ、荷物検査のとき、係りの人がちょっと驚いた顔してたんだけどあれってやっぱりこれが原因だったのかなあ」なんて言ったから、滝夜叉丸も三木もちょっと笑ってしまった。綾部は紺にイエローのチェックが入った短パンからすらりとした足を覗かせて、ベッドに寝転がっている。さやさやとカーテンを揺らす海風が、綾部の柔らかい解れ毛を揺らしている。こうしていると、つくづく綾部は美人だった。
「そうなんだ、さすが熱帯」
滝夜叉丸は頷くと、テレビのスイッチをぽちりとつけた。ニュースが流れ始める。三木は水着の上からエメラルドグリーンのタオル地のパーカーを羽織ると、ピンクの水玉模様のビニールサンダルに履き替えた。
「何よ、泳ぎに行くの私だけ!?」
「私、パス。疲れた」
「眠い」
滝夜叉丸と綾部の返事はにべもない。縋るような瞳で斉藤を見遣ると、彼女は苦笑して、「珊瑚拾いに行きたいから、一緒に行こうかな」と頷いた。
斉藤はそれから、市内観光で汗だくになった服を脱ぐと、サンドレスに着替えてサンダルを履いた。ゴールドのラメエナメルのそれは、薔薇のコサージュが派手すぎない程度につけてあって可愛い。
「それどこで売ってたんですか」
「え、このサンダル?近所の安い衣料品店だよ。コサージュは自分でつけたの」
「えっ、すごい!」
「こんど何か作ったげようか。三木は、ひまわりが似合うからひまわりのコサージュね」
斉藤は三木たちより2つ年上だ。実家は全国に店舗を出しているヘアサロンの本店で、斉藤も美容師の免許を持っているらしい。ブロンドに染められた髪はさらさらとして指どおりがよく、品のよい眩しさを纏っている。個性的なアシンメトリーの髪型も、なぜか周囲から浮かない自然さを持っていた。斉藤は性格もよく、すぐに三木の憧れの女性になった。
「私も綺麗になりたいな」
小さく呟いたら、斉藤にはしっかりと聞かれていたらしく、「なれるよ、すぐに」と後頭部を優しく叩かれた。
一泳ぎして、ヤドカリと遊んでいた斉藤を誘って部屋に戻ったら、ぬるい空気のこもった部屋で、滝夜叉丸が疲れた表情をしてテレビを見ていた。薄暗い部屋に、テレビの青い光だけがフラッシュしている。
「おかえり」
「なにここ、なんでこんな暑いの?!」
「綾部が、クーラーつけない派なんだって」
「電気は」
「綾部が寝てるから消した」
みると、この暑いのに綾部は腹に自前のタオルをかぶせてぐうぐう寝入っている。
「あつーい」
滝夜叉丸が汗で濡れた髪を指で掻き雑ぜる。
「勝手につけちゃったら」
三木も暑さに閉口した。そういうわけにもいかないでしょ、とたしなめたのは滝夜叉丸だった。暑い暑いとぼやきながら、冷蔵庫のサンピン茶を取り出してグラスに注ぐ。
「クーラー苦手な人って、つけるとすぐ体調崩す人が多いって言うし」
「だってこんなに暑いのにい!」
綾部ってほんとマイペース。三木が頬を膨らませて、寝入る綾部を睨みつけると、斉藤は、「私、扇風機ないかホテルの人に聞いてくるね」と身を翻して行ってしまった。
「扇風機なんてもらえると思う?」
「さすがに無理でしょ」
「それより晩御飯どうしよう」
「ホテルのレストランでよくない?」
滝夜叉丸が応えたら、横から綾部の声が挟まった。
「焼きそば食べたい」
「うわ、びっくりしたあ!」
綾部の瞳はパッチリと開いている。むくりと起き上がって、もう一度、「焼きそば」と言った。
「そんなもんどこに売ってんのよ」
「ビーチに海の家が出てたけど」
「ええ、晩御飯に海の家行くのお!?」
滝夜叉丸は不満げだ。三木はどっちでもよかった。三木は好き嫌いも特にないから、腹が膨れれば何でもおいしい。食事にまで色気を出すなんて、滝夜叉丸の彼氏にはなりたくないなと変なことを考えた。綾部が呟く。
「焼きそば」
「それはもういいって!」
「タカ丸さんが帰ってきたら何がいいか聞いて・・・」
滝夜叉丸の言葉に重なるようにして、部屋のチャイムが鳴らされた。ドアを開けたら、にこにこ笑った斉藤の隣にかりゆしを着たホテル従業員が、頬を赤く上気させて、満面の笑みで「どうも、扇風機お届けにあがりましたあ」と明るく叫んだので、ふたりは目を丸くして顔を見合わせた。
晩御飯に海の家を提案したら、斉藤は「いいね、それ」とあっさり頷いたので、一人不満げな滝夜叉丸を連れてビーチに出た。ホテルがスポットライトとして使っている緑のネオンに照らされて、ビーチは幻想的な色に明るかった。滝夜叉丸が、浜辺に近づく。足が波に浚われぬ距離で海を覗き込んで、
「あ、魚!」
と声を上げた。「こんな浅瀬なのに」
興味を引かれたのか、綾部も近づいていって、一緒に海を覗き込んだ。
「ツノダシ」
「これ、ツノダシって言うの。あんたこういうの詳しいのね」
「この日のために熱帯魚図鑑購入して予習したから」
「あんたの旅行の準備ってなんか間違ってるわよ」
それから4人で焼きそばだのジューシーだのマンゴージュースだのを買い込んで浜辺にレジャーシートを広げて食べた。焼きそばはふつうの海の家の焼きそばだった。少し冷めていて、特別おいしいわけでもなかったけれど、滝夜叉丸が「結構おいしい」と言ってもりもり食べていたのがおかしかった。明日はどこにしよう、なにをしようなんて話を一通りした後で、ふいに滝夜叉丸が、
「なんかあんたたちといると安心するわ」
と言った。
「どういう意味」
「そのまんまの意味。ああ、べつにいっかあって思える」
「なにがいいの」
「滝夜叉丸でも悩みなんてあるの」
「綾部あんたそれどういう意味」
ぎゃいぎゃいと言い合う3人の横で、朗らかに斉藤が笑った。
「私も滝夜叉丸の言う意味なんとなくわかるよ。3人とも大好き」
「私も斉藤さんは好きです」
「斉藤さんが好きです」
「私も好きです!斉藤さんなら!」
「3人とも仲がいいというか悪いというか」
ホテルに戻ったら11時で、みんなへとへとに疲れきっていたので、順番にシャワーを浴びてベッドに転がった。扇風機をつけてバルコニーに続く窓を開け放ったら、意外と涼しいのだった。ざあ、ざあ、と規則的に聞こえてくる波の音が眠気を誘う。
寝つきの早い滝夜叉丸はベッドに入った途端すぐに眠り込んでしまった。
「もう寝た?」
と綾部が言うので、「寝てない。タカ丸さんは?」
「私もまだ。ねえ、気持ちがいいね」
綾部が静かに言った。
「なんくるないさーってさ、どういう意味だったっけ」
「なにそれ」
「沖縄弁。予習してきたんだけど忘れちゃった」
「食べ物じゃない」
「なんだっけかなあ」
「明日ホテルの人に聞いてみようか」
うん、という答えがなかったので耳を済ませたら寝息が聞こえてきて、「ほんと自由人、みんな」と呟いたら、隣でくすくす斉藤が笑うのが聞こえた。
朝になって、綾部は最後まで寝ていた。三木が目覚めたとき、滝夜叉丸はとっくに起きて、服も着替えた状態でニュースを見ていた。斉藤もとっくに起きて、ストレッチをしていた。綾部を起こして、朝ごはんどうしようとだらだら話していると、綾部はその間に部屋を出て行ってしまった。
「どこいったの、あの子」
「さあ、そのうち戻ってくるでしょ」
チャイムが鳴ったのでドアを開けたら、綾部が4本のプラスチックカップを抱えて立っていた。
「なにそれ」
「ホテルの外で売ってたジュース」
「は、」
「飲もう。マンゴーとグアバとパイナップルとココナッツがあるよ」
綾部がグアバを抱えて「これ私の。なんびとたりとも手を出すんじゃねえ」と言ったので、他の三本を三人で分け合った。三木はマンゴーになった。滝夜叉丸も斉藤も、「三木はマンゴーにしなよ。マンゴーって感じだから」と勧めるのがおかしかった。だが、まあ、たしかにマンゴーは好きな味だ。
フルーツジュースはフラッペになっていて、冷たくておいしかった。乾いた身体に染み込んでいくって、こういうことかと思った。4人でバルコニーに出て、海を見ながら立って飲んだ。
「そういえば綾部、なんくるないさーってさ」
タカ丸が思いついたように言った。
「なんとかなるさって意味だって。起きてビーチ散歩してたら、仲良くなった人に教えてもらったよ」
「へえ」
それからくちぐちになんくるないさーと呟いて、面白いこれ、覚えて帰ろうとかみんなで言い合った。三木もなんくるないさーと呟いて、それから目の前の海を眺めた。きらきらと太陽が乱反射した海が、4人を包んでいる。

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