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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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コニーアイランドベイビー

左近と伏木蔵(この名前響きがすごく好きだ)も好きなんだが、どう想像しても古きよき時代の少女マンガになる。左近はほどほどに悪戯っぽくてでも常識人の良い子で、ちゃんと男の子しているのに、伏木蔵がどうしても箱入り娘になる。一年ろ組は想像するとみんな箱入りになる。箱の中でみんなしてきゃわきゃわしてる。そこがかわいい。だけど、妄想していると痒い。



痒いSS。(女体化現パロ)



思わず泣いてしまう、とてもよい映画だった。スタッフロールが流れて伏木蔵が小さく鼻を啜っていたら、 隣に座っていた左近が、小さくワンピースの袖を引っ張った。顔を上げたら、辺りに気兼ねするように、小さく、出るぞ、と囁いて、こそこそと席を立った。背中を丸めてかがんで人前を横切ると、なんだかとても悪いことをしているようなバツの悪い思いがする。映画館から出て、ロビーに出た途端、左近が謝った。
「あの映画、2時間半もあったんだな、悪い」
急げば電車に間に合うかも、と独り言のように呟くと、伏木蔵の手をとってスタスタと足早にビルから出てしまう。歩みの遅い伏木蔵は慌ててついてゆく。情緒がない。ぐいぐいと引っ張られる腕が痛くて、「先輩、手」と情けない声を出したら、「悪い」と一言言って、パッと手は離れてしまった。帰宅ラッシュにさしかかった駅の構内は混雑していて、伏木蔵は迷わないように左近の上着の裾をギュウと握る。付き合っているのだし、どうどうと腕を掴めばいいのだが、なんとなく、出来ないでいる。駅ビルの装飾は一ヵ月後のクリスマスに向けてサンタクロースがきらきらと微笑んでおり、ウインターセールの宣伝が賑わしく掲げられている。煌びやかな世界の様相に伏木蔵は楽しくなる。きょろきょろする伏木蔵をひとり楽しみの中に泳がせて、左近は電車の時刻掲示を眺めては、過ぎ去った電車を悔やんでいる。
「乗り過ごしたか・・・」
眉を顰めているのに、伏木蔵は両手でおずおずと腕を掴んで、彼を見上げる。「先輩、ちょっとくらいなら平気ですよ、たぶん」
「だけど今日親父さん帰ってくるんだろ。怒ると怖いんだろ」
「でも仕方ないから、」
映画って行ったら普通2時間にまとめてあるものですよね、私も気がつきませんでした。伏木蔵は微笑んで、携帯電話をバッグから取り出す。黒のがま口型のバックは、持ち手が黒いサテン地でリボンのようなあしらいになっていて、品が良くて可愛らしい。友人の平太からのプレゼントだといっていたっけ。誕生日に左近が与えた黒のセーターコートに合うから嬉しいと微笑んで、今日着てきた。昼に入ったデパートでふと伏木蔵のバッグと同じものを見つけて値段を見たら、左近の買い与えたものより1ケタ違う値段だったので白けた。伏木蔵はつくづく”お嬢さん”だ。
ぷちぷちとボタンをおして、小さく首を傾げ、上品に携帯を使う。
「あのね、お母さん、電車に乗り遅れちゃったからあと30分遅れるね。え、いいよう、迎えに来なくても。大丈夫。暗いけど、平気、明るいところ通って帰ってくるから。寒くないよ、コート着てきたもん。え、うん、…はい。お父さんにはちゃんと謝ります」
背中を小さくして喋るひとつ年下の少女の背中を、左近はぼんやりと見詰める。伏木蔵はまもなくぱくんと電話を閉じると、左近に微笑んだ。
「今日はあと30分も一緒ですね・・・!」
「なあ、親父さんにひどく怒られたら電話してこいよ」
「はーい。ねえ、先輩、お茶が飲みたいです」
伏木蔵ははしゃいで、駅ビルの中のカフェを指差すが、左近は指先で額をぺちんとはね、「馬鹿、そんな時間あるか」と怒った。伏木蔵は肩を竦めて残念がると、左近が足を進めるままに駅のホームへとあがる。ホームで缶入りのコーンポタージュスープを買ってもらう。喜ぶ小さくて細い体を、左近は愛おしいと思って、まだ抱き締めたことのない少女の指先を、そっと掴む。寒さでひんやりしている。
「先輩の手、あったかい」
「お前が冷たすぎるんだ。冷え性か」
線路に電車が滑り込んだ。埃臭い強風に煽られる。伏木蔵の黒髪が乱れる。整えようと手を伸ばしたら、伏木蔵がこちらを見上げて何ごとかを言った。小さな珊瑚色の唇が、小さく動く。
「つ」
   
    「れ」
      
        「て」
           
              「に」
                 
                      「げ」
                     
                               ・・・
風に吹き散らかされていく。左近は最後まで聞き取れず、眉を顰めた。轟音の去ったあと、伏木蔵は静かに微笑んで、「なんでもないです」といった。左近はそれで何もいえなくなってしまって、黙り込んだ。左近は今日のデート中、ずっと、「この間の見合いは上手く断れたか、」と聞けなかったのを、悔やんでいて、でも、とうとうそれを言い出せないままだ。黙って互いの熱を分け与えていたら、すぐに次の電車は来た。これに乗らなければ帰れない。左近は、最後の七分をもっと喋ればよかったと後悔して、それでも、また時間ができたらやっぱり自分たちは黙ってしまうのだろうと思った。
「来月のクリスマス、楽しみだな」
「はい」
伏木蔵はにこにこと微笑んで、するりと電車に乗り込んだ。甲高いホイッスル、機械音、電車のアナウンス。冷たい扉が閉じて、愛おしいあの子が攫われてゆく。左近はちょっと項垂れて、それから、ホームから立ち去った。
今日の映画はとてもよかった。ストーリーなんかもう、何にも覚えちゃいないけれど。



かか、かゆー!かゆ、うま(ちがう)。

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たけくらべ

庄ちゃん成長後に関して、ふたつのイメージがある。ひとつは穏やかで落ち着きのある渋い大人。もうひとつは、ライバルたちとの競争の中で切羽詰って、屈折して、ストイックなんだけど、どこか危なげで余裕がない感じの青年。後者はとあるサイトさんを見ていて、ああ、そういうのもあるなあと感動して出来たイメージ。
そういう庄ちゃんといっしょにいるのは、伊助も疲れるから、このふたりはあんまり幸せになりそうもない。だけど、伊助はひとがいいし庄ちゃんが心配だから、反抗期の子どもに接するような母親の気持ちで(どんなやねん)庄ちゃんに節介を焼く。庄ちゃんは自分がどこかで歪んでるのがわかってて、だから、伊助を見てると悪いなあと思って反省するんだけれど、でもどうにもならない。そういう感じがいい。
ふたりはくっつかないけれど、お互いにお互いが心の軸になっている感じで、想像するとどうにもならなさにもやもやするが、でもそういうのもいいかなーと燃え萌えする。
まあ、ようはお前庄伊やったらなんでもええちゃうんかと(ry


そんなわけでもうひとりの庄ちゃんSS。
なんか痛々しい感じなので、伊助と庄ちゃんがお互いに傷ついているのは可哀想で見ていられないなあという方は避けてください。


***

厠の帰りに足が洗いたくなって井戸に向かったら、人影があってびっくりした。深夜で、むろん装束は着ていないし、どの学年のなんていうやつかも分からなくてちょっと遠慮しながら近づいたら、なんだ、伊助がぼんやりとしゃがみ込んでいるのだった。もぞもぞと不器用に縮こまった動きで何ごとかをしているから、ちょっと訝しく思って「伊助、」と名前を呼んだら怯えたみたいにびくんと大きく身体が動いて、こっちがびっくりした。
「団蔵、どうしたの」
伊助は慌てたみたいに桶の中に持っていた布巾を突っ込んで、寝巻きの襟ぐりを深く合わせ直した。俺は馬鹿だから、寒いのかな、ってそれで終わらせて、「便所」ってそのときは笑ったんだった。
「伊助こそ、どうしたの。こんな夜中に」
「うん、あの、」
伊助は言い辛そうにもごもごと口を動かして、それっきりだった。俺は、聴かないほうがいいのかなって思って、そういえば伊助の様子がなんだか元気がないし、肩を叩いて、「明日砲術訓練だし、早く寝ようぜ」ってわざと馬鹿みたいに明るい声を出した。伊助は救われたみたいにちょっと笑ってくれて、「そうだね」って頷いたから、俺はそれで良しとして、寝所に戻った。帰ったら珍しく虎若が起きていて、あれれ、今日はちょっとしたことが色々といつもと違うなあとしみじみ思った。
「便所?」
「そう。井戸んとこに伊助がいたぜ」
「こんな夜中に?」
「うん、」
「何やってたんだろ、顔でも洗いに起きたんだろか。そういえばさっきまで庄ちゃんの部屋、ずっと物音がしててさ。小さい音なんだけど、気になるんだよなあ」
庄左ヱ門は、思えば一年は組にいたころから妙に学級委員にこだわるやつだったけど、5年になってもっとひどくなった。勉強も忍術もきり丸が才能を現し始めて、きっかけといえばあれかな、2年の終わりに成績で抜かれた。最初は一回の出来事だってみんなで奇跡だって笑いあっていたけれど、それから庄ちゃんはどんなに頑張ってもきり丸に雪辱を晴らすことは出来なくて、俺たちの中では庄左はクラスのナンバーツー、そんな印象が当たり前になってしまった。庄ちゃんはきり丸に追い抜かされたことが悔しかったのか、鬼みたいに勉強していて、俺たちは、一年の頃に六年生の先輩にいらしゃった潮江文次郎先輩みたいだといって笑いあってた。そういえば、今になって思えば、伊助は同室だったからかひとがよいからか、俺たちの軽口に混じらずにずっと渋い顔で庄ちゃんを見ていたっけか。あんなにこだわっていた学級委員の役職は、4年の夏休み前に庄ちゃんが自分で降りた。その異変を俺たちはやっぱり笑ったけれど、理由を聞いたとき、庄ちゃんが「勉強時間が勿体無いから」と疲れた顔で言ったので、そのときは確かに、俺たちも変だなあとは思った。その頃から庄ちゃんはぴりぴりしてみんなで集まって馬鹿騒ぎするのが疎ましくなったように思えたので、俺たちも無理に誘わなくなって、そんな感じで今日まで来た。同室の伊助だけはずっと心配して、俺たちと庄左の間を取り持とうといろいろ動いていたようだけれど、そんな伊助を心配して、一時期兵太夫がしきりに伊助を宥めているのを何とか見かけた。
俺は布団に包まってそんなことを思い返して、
「みんな一年のときはちまちまして、なんていうか、いろんなことが心配なかったよな。あの頃が一番未来が保障されてて何の心配もなく、楽しいばっかりの日々だった気がする」
と言ったら、虎若は、「まあ、そりゃ、ちびだったしなあ」と仕方ないじゃんとでもいうように返した。
「大人になるって、自分の世界がどんどん不安定になってくってことだろ」
子どものころは誰もが大きな存在の庇護のもとでひよこみたいに無心でただただほわほわした温もりと夢の塊でいられた。じゃあ、大人になって庇護がなくなったら、俺たちはみんな一人ぽっちだろうか。さむい、さみしい、つめたい、こわい。俺はその夜ちょっと震えて、久しぶりに清八の名前を唱えながら寝た。


朝起きたら伊助はいなくて、庄左に聞いたら、熱出して寝てる、といった。
「風邪?」
「さあ」
庄ちゃんは教科書から目も話さなかった。俺はむっとして、「同室のくせに、ひどいやつだな、お前」と責めた。庄左はやっぱり何もいわず、だから俺も、腹が立ってどかどかと乱暴に歩いて席に戻った。
誰かの体調のことを質すならやはり乱太郎が適役だろうと彼のもとに向かったら、乱太郎は思い詰めた表情で三治朗と何ごとかを話していて、俺が顔を出したら、「団蔵、伊助は昨日井戸でなにやってた?」って責めるみたいに聞いた。俺はわけがわかんなくて、事情を説明したけれど、乱太郎はちょっと怖い顔のままで、「私、伊助のところにいってくる。五語の授業はお休みしますって、土井先生に言っておいて」と言いおいて足早に教室から出て行ってしまった。
「なに、フケんの?伊助に何かあったの?」
三治郎は困った顔で俺を見上げて、でも、黙っていた。三治朗は泣きそうな顔をしていて、芯の強い三治朗がこんなになるのは許せないことだと、また、なんだかよくわからないけれど腹が立って仕方がなかった。


そのまま乱太郎は戻ってこなくて、午後の授業は相変わらずきり丸が褒められて、土井先生は伊助と乱太郎の不在を授業前に怒ったけれど、授業後に俺たちに向かって「大丈夫か、あのふたり、何かあったのか」と心配そうに尋ねまわっていた。俺たちは先生のこういうところが大好きだ。放課後になって喜三太と金吾が見舞いにいくというんで、俺も同行した。伊助は熱も下がって、寝巻き姿に寝乱れた髪をしていたけれど、心配するほど暗い顔もしていなかった。「大丈夫だよ、何にもないよ、平気だよ」ってそればっかりを繰り返し俺らに言った。俺はほっとしたけれど、乱太郎は傍でずっと怖い顔をしていた。喜三太は「伊助、疲れた顔してるからよく寝なきゃ駄目だよ」と頭を撫でて、そうしたら乱太郎が、「伊助、部屋を変えてもらおう」と低い声で言った。伊助は、「でも、・・・」とかすかに項垂れたけれど、それっきり掠れて消えた声を搾り出すこともせずに、「庄ちゃんといっしょにいると辛い」とぽつんと呟いて、それからちょっと泣いた。伊助は俺たちの中では一番大人びていたから、一年の頃から滅多なことでは泣かなくて、だから俺たちはびっくりして、伊助を笑わせるために躍起になって慰めた。


部屋割りと言い出した乱太郎に庄左は何も言わなくて、「ああ、それがいいと思う」とぽつんと言った。それでお仕舞いだった。伊助は俺と虎若の部屋に来ることになって、それから俺たちの部屋には洗濯物がたまらなくなって、俺たちの日課に洗濯の時間が含まれて、変化といったらそれくらい。庄左にはますます誰も構わなくなった。乱太郎はあの日、ひどく怒っていて、庄左にむかって、「は組の中で一番お前を心配してたのは、伊助だよ、庄左ヱ門」と押し殺した声で言った。それは責めるような響きを含んでいて、かみそりのような鋭さで、庄左はそれも黙って受け止めて、それっきりだった。
伊助と庄ちゃんは大喧嘩したのかと思ったがそういうわけでもないらしく、伊助はときどき庄左ヱ門ひとりの個室となった部屋にいっては、掃除やら何やらをしてくるみたいだった。必要ない、とみんなは止めたけれど、庄左ヱ門のも来るなといったらしいけれど、伊助は「掃除されてない部屋って気になるんだよねえ」と相変わらず笑っていた。
空っぽの教室で、俺は一度見てしまった。机に突っ伏して転寝する伊助に、庄左ヱ門が小さく唇を落としていた。俺はびっくりして息を呑んだけれど、庄左ヱ門は一度触れるだけの接吻をして、そのまままた怖い顔で教科書を睨みつけていた。笑うのを忘れちまったんじゃねえの、アイツって、5年になった今では年中鬼気迫った表情をしている庄左ヱ門をみんなそうやって笑っている。俺、それが真実だったことを、泣きそうな気持ちで認めた。庄左、馬鹿、お前、笑うだなんてそんな簡単なことも忘れちゃったのかよ。そんな顔で人を想うやつがあるか。
だって庄左は、泣きそうな顔で、苦しくて痛くて仕方がない表情で伊助の髪を撫でて、接吻を与えていたのだった。


***


卒業間際で、団蔵は風の噂で庄ちゃんは昔苛々をぶつけるために伊助を強姦したらしいよときいて、「ああ、そう」と怒ったみたいにつぶやく。噂は一ヶ月くらいはこそこそと耳を汚したけれど、すぐに風に吹き飛ばされて消えた。

今日もいい天気だよ

庄伊、なのか・・・?
死にネタです、苦手な方は回避してください。


***


思い返せば子どものときからえらそーなことばかり言ってた。伊助はもっと勉強しないと、いつか絶対命を落とすぞってせつせつと説教くらわせてくれたこともあったぐらいだった。それなのに、ばっかでー、結局自分のほうが先に死んでやがんの。ばっかじゃないのって笑ってやりたかった。えらそうに、生き残ることの知恵ばかり押し付けてくれたくせに、結局先に死んでしまって。ほんと、ばっかじゃないの、って。


「死んだ」
ときり丸が短くいって、それっきり慰みの言葉もなかったので、僕も「そう、」としか言わなかった。後は黙って俯いて、先日できたばかりの左手の親指のところのささくれを、痛い痛いと思いながら触れるのを止められず、右の人差し指でずっと弄ってた。
どんなふうに殺されたかとか、聞きたいか、といったので、僕は「えぐい感じなら要らないよ」と笑って見せた。頬の辺りが少し引き攣って、だから、たぶん変な顔だったと思う。きり丸はべつに笑わなかったけれど、代わりに最期まで庄左ヱ門の最期を教えてくれなかった。そうか、えぐい感じに死んだんだな、と思って、それならいっそうどんな最期だったか考えるのは止めようと思った。死ぬ覚悟というやつは僕も庄左ヱ門も忍術学園時代に叩き込まれていたので、たぶん、最期まで庄左ヱ門に恐怖だとか後悔だとかいった心の揺れはなかったと思う(それを祈りたい)。だけど、死ぬ瞬間は痛かったろう、どんなふうに死んでしまったかはわからないけれど、きっと、痛かったろう。そのときに一体僕は何をしていたんだろう。もし、あったかい布団に包まってぬくぬく眠っていたり、家族と笑っていたり、美味しいご飯を食べていたんだったりしたら、悔やんでも悔やみきれない。
その夜は布団に包まって、庄ちゃんの最期についてずっと考えていて、そうしたら変に興奮して、涙は出なかったけれど、眠れもしなかった。足指が凍るように冷たいのだけを感じて、何度も擦ろうかと思ったけれど、庄ちゃんの最期を思うたびに、そんな小さな痛みすら堪えなければいけないような気がして、わざとずっと放っておいたりした。


次の日は納品が迫ったブツがあったので店棚に出たけれど、誰が聞いていたんだかみんなが僕を気遣って「今日はゆっくりしてください」と仕事を取り上げてしまった。その日は冬だというのにポカポカした小春日和で、庄ちゃんがいないのにこんなに幸せで穏やかなのは良くないと悔しいような思いがした。することがないから洗濯をして、冷たい井戸水に指を曝して、ぴりぴりした痛みをまるで免罪符か何かのように感じながら、洗ったばかりのものでも関係無しに、手当たり次第目に付いたものを全部洗った。庭に、洗濯物群がふわりふわりとさやいでいるのをみて少し気分は爽快になったが、ぼんやりしていると嫌なことを考えそうだったので、慌てて家中の掃除をした。藁御座をどけて埃を掃いていたら、ふいに目の前を十かそこらの庄左ヱ門が走り抜けて、頭がくらくらした。
(伊助、掃除が終わったら、遊ぼう)
幻聴に耳を塞いで、何も考えないようにひたすら雑巾掛けをしていたら、そのうち何も聴こえなくなったのでほっとした。何かに追われているみたいに胸がどきどきして、何かがとても不安だった。庄ちゃん、駄目だ、僕、いつまでこのままだろ。庄ちゃんがこの先死ぬまでどこにもいないって、耐え切らないような気がする、気狂いになってしまうよ。掃除が終わったら本当にすることがなくなって、当方に暮れていたら、母ちゃんが「あんた、向こうの奥さんに挨拶に行かなくていいのかい」といってくれたので、ああそうだったと思い出して、荷物をつくった。ふいに思いついて、最近染めたばかりの布地でも反物にして持っていってあげようかと思った。庄ちゃんはうちで染める茜色がとても好きだといった。
母親に相談したら「でも、茜ってめでたかないかい」と首を傾げられて、それもそうだと拡げた反物を再び巻き取った。結局当たり障りのないものをいくつか包んで、持っていくことに決めた。
町をとぼとぼと歩いていたらふんわり柔らかな色合いの萌黄の布地を見つけて、これはひなちゃんに似合うなあと思って我慢できずに買った。庄ちゃんが死んだのに、こんな優しい明るい色はなあ、と思ったけれどまだ幼いひなちゃんに喪失の痛みを分かちても仕方がないような気がした。ひなちゃんは庄ちゃんに愛された子だから、いつだって笑っているのが一番いい。


庄ちゃんの奥さんはひとえさんと言って、聡明な女性だった。思いつきのような僕の手土産にも丁寧に頭を下げて喜んでくれ、「あのひとはずっと、僕はこういう仕事をしている身だから、いつかは死ぬ。でも、きちんと聞き分けなさい、覚悟をしておくんだよといつもいつも仰っていたので、平気です。覚悟はしておりました」と淡々と語った。その眼は泣き腫らした跡でぼてっと腫れていて、僕は、愛おしいような人だなあと思った。覚悟なら、自覚はなくても、僕の中にもあったんだろうか、それともどこかが冷え切っておかしくなっているだけか。庄ちゃんが死んだときかされてから、そういえば一度も泣いていない。
もう平気かと思って、僕は庄ちゃんの家からの帰り道、乱太郎の家によって、「庄ちゃんが死んだよ」と伝えた。乱太郎はとっくにきり丸から聞き及んでいたらしく、疲れたような気持ちでいる僕の前でわんわんと泣いてくれ、あったかい雑炊をご馳走してくれた。「庄ちゃんは最期苦しまなかったそうだよ」と慰みのように言ってくれたので僕はびっくりして瞳をぱちりと一回瞬かせて、乱太郎に向き合った。
「きり丸は、僕には、庄ちゃんの最期はえぐいと言ったよ」
「庄ちゃんは矢傷が元で死んだんだって、途中何とかもち返したんだけれどもね、傷口から禁が入ってしまって」
「そう、苦しかったろうねえ」
「傷口から菌が入ると高熱がでるんだ、痛みというより、熱で朦朧としていたんじゃないかな」
乱太郎は医術の知識があるので、的確なことを言ってくれた。そうか、そんなに痛くなかったのか、それならよかった。ちょっとは救われる。そう呟いて笑った僕を、乱太郎が咎めた。
「伊助、泣かなきゃだめだよ。泣かなきゃ、壊れちゃうよ」
「でもね、乱太郎、僕、悲しいって思ったら多分気が狂ってしまい様な予感がするんだよ。だからこのまま、忘れてしまうまで上手いこと痛みを噛み殺してやり過ごそうと、」
僕の言葉に乱太郎はゆるゆると首を横に振った。
「伊助、庄ちゃんは死ぬ間際にきり丸に今はいつごろか、尋ねたってさ。お昼間だったので、そう答えたら、今度は、外は晴れているかって。いい天気だよ、風もないし、あたたかい、外でふわふわ草っぱが揺れてらあと言ったら、お昼間かァ、伊助は何をやっているかなあ、もう昼餉は食べたかなあ、何を食べたかなあ、僕は伊助の作る蜆の味噌汁が好きなんだと言ったってさ。だからきりちゃんが、そうさなァ、多分今頃は飯食い終わって仕事の前の一服で茶でもすすりながらぼんやり欠伸してるんじゃねえのかなと話したら、ああ、それはとてもいいなあって笑ったって。それで、最期だって。それが庄ちゃんの最期だって」
そのとき、ふわあ、と柔らかい風が頬を撫でて去っていった。鼻の奥がツンとして、咽喉の奥が引き絞られるみたいに痛くて、唾液が一杯でて、苦しい、と思ったらもう駄目だった。ふぐ、と変な音がして、引き攣るみたいにして泣いた。大泣きしたのは、庄ちゃんに関しては、三年のときの大喧嘩以来だ。うわあうわあと恥も外聞もなくみっともなく泣き喚いている間、乱太郎ずっと僕を見守ってくれていた。
庄ちゃんがいない、庄ちゃんがいないようと迷子の子どもみたいに泣きじゃくった。一年は組にいたとき、確か土井先生が何かの授業で、「忍者の仕事は危険だけれど、何かとても大切なものが自分の中にあれば、どんな任務も怖くはないものだよ」と仰って、庄ちゃんは、「僕はちょっと怖がりだから、大人になってピンチになったときも、怖くないと思えるような大切なものが出来ていればいいなあ」としきりにぼやいていたので、「そうだねえ、ほんとうにそうだねえ」とは組のみんなで頷きあったのだった。
庄ちゃんが死ぬ間際まで幸いであったなら、もし本当にそうだったなら、よかった。平凡な僕の、不躾な欠伸だとかみっともないぐうたらな日常だとかが、庄ちゃんから矢傷の痛みを庇うことができたなら。
僕はわんわん泣いて、泣きながら、僕の最期を思った。忍者にならなかった僕は、どんなふうに死ぬかはわからない。でも、どんなに苦しくても、僕は庄ちゃんが縁側でくつろいで、ちょっとだらしなく足を崩しながら、本なんか読んで、ははは、と声をあげて笑っている、そういうくだらなくて愛おしい場面を思い出して、幸せと思って死ぬのだろう。そう思った。

そのうち嵐

現パロ女体化。続き・・・というとちょっと違うかもしれませんが。


伊助の作るお弁当おいしそうだね、って言われたのがきっかけなんだって。
嬉しかったから部活のときの差し入れにとでも思って、次の日におにぎりを余分につくっていって渡したんだって。ありあわせのフライドチキンと多めに作った卵焼きも入れて、それくらいの簡単なお弁当だったんだけど、意外なくらい喜んでくれて、それから毎回作っていくようになったんだって。最近じゃあ、伊助の差し入れを頼りに自分ではなんにもおやつを容易してこなくなっちゃって、そうなると今更サボるわけにもいかないから、毎回作っていくのが習慣になったんだって。
そんな成り行きを聞いてしまったら私、羨ましい以外の感想がでなくなってしまって、でもまさか伊助に向かってそんな言葉吐くわけにもいかないから、結局何も言わずに言葉を飲み込んで、パックジュースをずるずると啜った。

***

「差し入れにおにぎりっていうのがミソだよね。私なんか差し入れっていうとクッキーとかベタなやつしか思いつかないんだけど」
兵太夫が眉カットをしながら呟く。伊助は団蔵が「ぶっ壊れた」と言って持ってきたボタンの千切れてしまった学生服を縫いながら苦笑する。
「そんな、漫画みたいな。わざわざクッキ-つくるの面倒くさいじゃん。それに、部活の差し入れにそれはないよ」
「え、なんで?」
2,3日前から「団蔵に差し入れでもしてやるか」と何度も覚悟を決めては三治朗に宣言している兵太夫は、カットが途中のままの眉もそのままに、眉切りバサミを片手に伊助に向き直る。実は何を隠そう、この会話も、”男の子に差し入れをするための講習会”なのだ(伊助には内緒だが)。
伊助は、だって、と呟いてぷちんと歯で糸を切る。
当たり前のように伊助を頼った団蔵が憎らしく、彼のことが秘かに気になる兵太夫は、「私がやってやるよ」と宣言したが、団蔵にあからさまに嫌な顔をされ、「げ、いーよ。家庭科の裁縫でティッシュケースすら満足に作れなかったお前には無理だ」「はったおすぞこの野郎」「やってみろ馬鹿野郎」ものの数回の言葉のやり取りで喧嘩になった。
「だって、部活で汗をいっぱいかいたあとにもそもそしたもの食べるって地獄じゃない?」
「ああ、確かに・・・」
ちぇ、難しいなー、差し入れも。ハサミをシャキシャキと閉開して弄っている兵太夫の物言いに、気が効きすぎるほどの性格をしている伊助は、きょとんとした。
「何、兵ちゃん差し入れがしたいの?誰に?」
「えっ!?いやいや、将来的なビジョンでねー、いや、うん、そういうことも知っておいて損はないかと」
ふわふわした髪に指を突っ込んでぐしゃぐしゃと掻き混ぜる。あ、動転してる。三治郎は内心で噴出す。今日の髪型決めるのにゆうに1時間は掛かったって、さっき言ってた。冷静になってからあとで慌てふためくに違いない。
「兵太夫、差し入れ向かない気がするけど」
「え、確かに私料理は苦手だけれどもさあ、」
「そうじゃなくて、差し入れって結構めんどくさいからさ。料理嫌いなひとはそのうち続かなくなるよ」
団蔵の学生服の繕いが終わった伊助は、今度は鞄からノートを取り出してせっせと英単語の書き取り練習をはじめる。授業前の小テストに落ちると課されるペナルティーだ。
「伊助、ここんとこずっと落ちてない?」
「うーん、覚える暇なくて。でも、駄目だ、そのうち庄ちゃんに怒られちゃう」
「べっつに、庄左のために勉強やってるわけじゃないんだから、あいつが節介やいてきても関係ないで済ませりゃいいじゃん?」
兵太夫のキッパリした物言いに、伊助が目を細める。
「そういやこの間庄ちゃんが兵ちゃんのこと褒めてた」
「は?アタシ何もしてないよ?」
「この間帰り一緒に帰ったでしょう、そのときに、なんか、ファッションについて熱く語ったんだって?庄ちゃんが、すごくよく研究してるって、あそこまで言ったら趣味の域を超えてるって。もうひとつの趣味の機械弄りといい、兵ちゃんは職人気質だって」
「なんかあいつの褒めどころって変わってない?」
「庄ちゃんそういうの好みだから」
三治朗が首を傾げる。「そういうの?」
「兵ちゃんみたいな子。一個をめちゃくちゃ極めつくすタイプ、好きみたい」
伊助のシャーペンはぴたりと動きを止めている。兵太夫は気まずそうにもごもごと口を動かして、「アタシみたいなのは、庄ちゃんとは合わないと思うんだけど」とそれだけを言った。「兵太夫って、綺麗だよなあ」帰りがけ、電車を待つまでのホームでしみじみと言われたとき、ほんとはちょっとドキッとした。庄ちゃんとの付き合いは長いけれど、そんなことは初めてだった。だけどこれは、誰にも言わないほうがいいような気がする。特に、伊助には。
「伊助も家事を極めてるじゃん」
三治朗がいれたフォローに曖昧に頷く。
兵太夫は眉を潜めた。最近、は組が難しいような気がする。それまでは、仲がいいことはよいことだ、でずっとやってきたのに。少し、仲良くなりすぎてしまったみたいだ。伊助の家庭的な能力が羨ましくて仕方のない三治朗と、兵太夫と。伊助は伊助で、兵太夫のことを羨ましく思っている。
なんだか世界が複雑になったようだった。


庄左ヱ門は別に兵ちゃんのことが好きなわけではないのだが。

おうちへ帰ろう

は組で現パロ女体化(三治朗、伊助、兵太夫、喜三太)。



「ありえない、」
と兵太夫は朝からぼってりした唇を突き出してふくれてばかりいる。
三治朗は兵太夫が塗ってくれるというので、長年のピアノ経験が滲み出たすらりとした細長い指先をそろえて彼女に差し出している。兵太夫は目を細めてせつせつと三治朗の爪に色を落とす。ほんのり、薄淡い桜色のネイルだった。
「綺麗な色だね」
三治郎はむっつりと仏頂面を崩しもしない兵太夫の気を、何とかそらそうと試みる。だてに永年彼女の親友をやっていないのだ、すぐに兵太夫は満面の笑みを浮かべた。
「だっしょー。昨日見つけてさ、絶対三ちゃんに似合うと思って。プレゼントだよ」
んふふ、と笑って、三治朗のほうにネイルの小瓶を寄越す。三治朗が微笑む。三治郎は笑うときに少し小首を傾げる癖があって、だから、笑うと豊かな髪がふんわり揺れて、微かにシャンプーの匂いが漂った。
「ありがとう、兵ちゃん、今度お礼するね」
「お礼なんていいよ、またいいの見つけたら教えるね」
三治朗との会話で俄かに機嫌が直っても、すぐにまた、むすっとした表情に戻ってしまう。膨れっ面の視線の先に団蔵がいることに気がついて三治郎は苦笑した。
「どしたの、兵ちゃん。団蔵と何かあった?」
「アイツ、サイッテー。絶対女にモテない」
むろん、そんなことはないと三治朗も兵太夫もわかってはいる。団蔵は明るいしリーダーシップがあるし、顔も悪くないから、学年問わず人気者だ。昨日も朝から女の子に告白されているところをは組メンバーに見られて、バツが悪いとぼやいていた。兵太夫は、手元に広げているファッション雑誌の、モノクロ記事を指差した。スクエアにカットされたネイルは艶やかなパープルが施され、黒い蝶と金のラメが散っている。
「…"デキ女・モテ女であるための、10のテクニック"…?」
「ちょっとこれ読んでみてよ。デキ女・モテ女は、料理好き、掃除好き…。古典ン時、これ読んでたの。したら団蔵のやつが横から覗いてきてさ、”へー、全部お前と違うじゃん”って。ブッ殺すぞアイツ」
「はは・・・」
三治郎はする苦笑するほかない。しょせんこんなものは、今流行っているドラマとのタイアップのための企画だ、真面目に捉えるものでもない。そんなことは普段の兵太夫なら充分わかっているはずなのに、今更ながら子どものように喚いているのは、ひとえに団蔵への想いゆえか。しかも、本人が気がついていないあたりが性質が悪い。
「気にすることないよ、団蔵が、こういう女の子が好みなだけでしょう。家庭的な女の子」
「げえ~、ふっるい男ォ!」
「ん~」
三治郎はやはり苦笑だ。
「家庭的ったら、やっぱ伊助かねえ・・・」
「どうかなあ、伊助はもうあれが趣味だしねえ」
ふたりでぼやいていたら、ちょうど伊助が戻って来た。
「あれ、ふたりともまだ帰ってなかったの?」
ひとつの机を挟んで向かい合ってダベるふたりに声をかけて、彼女は真っ直ぐ窓辺へ向かった。沈みゆく夕日の眩しさを遮断するためにひかれたままのカーテンをシャッと開ける。大きくグランドに向けて手を振った。
「虎ちゃ~ん、練習お疲れー。洗ったユニフォーム部室にあるからねー!」
がたん、と大きな音を立てて慌てて三治朗が椅子から立ち上がった。
「お、疲れ様っ、虎若!今練習終わったの?」
「おー、三治朗、まだ帰ってなかったの?」
「う、うん」
おーおー、真っ赤なほっぺたしちゃって。兵太夫は赤く染まった三治朗の頬や首筋やらを見て瞳を細める。小学校のときからの片思いだというから年季が入っている。虎若は野球部のエースで、容姿でいったら団蔵や金吾のような目だった華やかさはないけれど、とにかく真っ直ぐで人が良かった。三治朗の想いを知ったときはつくづく見る目があると感心したものだ。
「じゃあ、一緒に帰るー?暗くなるの早いし、危ないから俺、送ってくけどー」
「えっ、えっ、えっ…?」
幸運に慌てふためく三治朗に兵太夫はスクールバッグを渡してやる。「やったね、ラッキーじゃん。送ってもらいな」「え、でも、」「いーって、私はひとりで帰るから。ほらほら、行った行った」「うん、ごめんね、兵ちゃん」背中を押され、パタパタと校内サンダルの音を響かせて、三治朗が駆けてゆく。セーラーの襟が控えめにはためいて、そんなところまで女の子らしくて可愛い。兵太夫はその背中を見えなくなるまで見送ったところで、パクンと携帯を取り出して、三治朗宛にガンバレメールを送った。
窓越しに虎若の声が背中を叩く。
「伊助え、伊助も送ってくよ」
「ううん、私は委員会の仕事あるからもうちょっと残ってくー。虎若、三ちゃんよろしくねー」
「おう!」
兵太夫が振り返ったら、伊助が苦笑してこちらを見ていた。
「へへへ、人の恋路を邪魔するやつは団蔵に蹴られてなんとやらってねー」
「伊助三ちゃんの気持ち知ってるの?」
「だって、三ちゃん見ててわかりやすいんだもん」
困ったように笑って、横でひとつに纏めていた髪を、ふわりと解く。伊助は普段特に飾ることをしない。もともと地味な容姿だから、そうすると本当に目立たなくなる。それでも時々ふとした仕草に匂うような艶っぽさがあった。今だって、そうだ。兵太夫は息を呑んで、「ずっと髪おろしてればいいのに。そっちのほうが似合うよ」とアドヴァイスする。伊助は「ありがと」と軽くいなして、それで終わりだ。
「おしゃれとか、興味ない?」
「ないわけじゃないけど・・・そうだ、兵太夫、今度服見て貰ってもいい?」
「え、私服?いいよ。勝負服?なーんて」
冗談めかして笑おうとしたら、伊助はぽりぽりと首筋をかいてはにかんでいた。
「うは、マジで!?相手誰?庄ちゃん!?」
「もーなんで庄ちゃんがすぐでるかなあ!?」
伊助の顔は熟れた苺のように真っ赤だ。
「うはー、いいね、その顔!興奮するッ!!」
兵太夫がはしゃいで抱きつけば、「ちょっと、ちょっと、兵太夫オヤジくさいぞー!」伊助が声をあげて笑う。ぎゃいぎゃいと騒いでいたら、生真面目な顔をした庄左ヱ門が教室を覗いた。
「ふたりとも、そろそろ下校しなきゃ駄目だよ。僕ももう帰るし」
「あ、うん」
伊助はすんなり頷いて、それから、庄左ヱ門に向き合った。
「庄ちゃん、ねえ、兵太夫が帰りひとりみたいなんだ。方向同じでしょう、送ったげて」
「えー、いいよいいよ、私ひとりで帰れるから!」
思わぬ成り行きに兵太夫は慌てて拒否するが、庄左ヱ門はやはり真面目に頷いて、兵太夫の鞄を取り上げた。
「うん、わかった。一番重い荷物どれ、持つよ」
「ぎゃー、ほんといいって!庄ちゃんは伊助送ってってあげなヨ!」
「いやいや、私たち家反対方向だし」
伊助はひらひらと掌を振ると、少し慌てたように教室から出て行ってしまう。「ばいばーい、ふたりとも。また明日ねー!」
残された兵太夫は机の上に残された雑誌を見て、ふう、と溜息をついた。
「ふたりとも付き合ってるんじゃないの?」
「ふたりって、誰と誰?」
庄左ヱ門が不思議そうに首を捻る。あれ、と兵太夫まで首を傾げて、「は組ってさあ、仲良すぎするのがたまに瑕だよねえ」としみじみ呟いた。

一方の伊助は、ひとりで帰るつもりで昇降口で靴を帰っていたが、そこによっこいせ、と喜三太を負ぶった金吾を見つけて目を丸くした。
「わ、どーしたの金吾」
「わかんない。今日体育ではしゃいでたし、疲れて寝ちゃったんじゃない?剣道部の部室で眠り込んでたから、背負ってきた」
「お疲れ様です」
「まあ、慣れっこだし」
金吾は微笑んで、喜三太のぶんの荷物を持とうと手を出した伊助に一番軽い荷物を預けた。
「伊助、ひとり?送ってくよ」
「ありがと」
空に黄金の一筋がわずかに残るだけになった頃、眠りこける喜三太を負ぶった金吾と、その隣を歩く小柄な伊助の姿がバス停に向かって消えていった。



まだだれもくっついてない、みんな仲良しだから困るは組。ほとんど台詞だったけど、書いていたら案外楽しかったのでまた書くかもしれない。










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