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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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たけくらべ

庄ちゃん成長後に関して、ふたつのイメージがある。ひとつは穏やかで落ち着きのある渋い大人。もうひとつは、ライバルたちとの競争の中で切羽詰って、屈折して、ストイックなんだけど、どこか危なげで余裕がない感じの青年。後者はとあるサイトさんを見ていて、ああ、そういうのもあるなあと感動して出来たイメージ。
そういう庄ちゃんといっしょにいるのは、伊助も疲れるから、このふたりはあんまり幸せになりそうもない。だけど、伊助はひとがいいし庄ちゃんが心配だから、反抗期の子どもに接するような母親の気持ちで(どんなやねん)庄ちゃんに節介を焼く。庄ちゃんは自分がどこかで歪んでるのがわかってて、だから、伊助を見てると悪いなあと思って反省するんだけれど、でもどうにもならない。そういう感じがいい。
ふたりはくっつかないけれど、お互いにお互いが心の軸になっている感じで、想像するとどうにもならなさにもやもやするが、でもそういうのもいいかなーと燃え萌えする。
まあ、ようはお前庄伊やったらなんでもええちゃうんかと(ry


そんなわけでもうひとりの庄ちゃんSS。
なんか痛々しい感じなので、伊助と庄ちゃんがお互いに傷ついているのは可哀想で見ていられないなあという方は避けてください。


***

厠の帰りに足が洗いたくなって井戸に向かったら、人影があってびっくりした。深夜で、むろん装束は着ていないし、どの学年のなんていうやつかも分からなくてちょっと遠慮しながら近づいたら、なんだ、伊助がぼんやりとしゃがみ込んでいるのだった。もぞもぞと不器用に縮こまった動きで何ごとかをしているから、ちょっと訝しく思って「伊助、」と名前を呼んだら怯えたみたいにびくんと大きく身体が動いて、こっちがびっくりした。
「団蔵、どうしたの」
伊助は慌てたみたいに桶の中に持っていた布巾を突っ込んで、寝巻きの襟ぐりを深く合わせ直した。俺は馬鹿だから、寒いのかな、ってそれで終わらせて、「便所」ってそのときは笑ったんだった。
「伊助こそ、どうしたの。こんな夜中に」
「うん、あの、」
伊助は言い辛そうにもごもごと口を動かして、それっきりだった。俺は、聴かないほうがいいのかなって思って、そういえば伊助の様子がなんだか元気がないし、肩を叩いて、「明日砲術訓練だし、早く寝ようぜ」ってわざと馬鹿みたいに明るい声を出した。伊助は救われたみたいにちょっと笑ってくれて、「そうだね」って頷いたから、俺はそれで良しとして、寝所に戻った。帰ったら珍しく虎若が起きていて、あれれ、今日はちょっとしたことが色々といつもと違うなあとしみじみ思った。
「便所?」
「そう。井戸んとこに伊助がいたぜ」
「こんな夜中に?」
「うん、」
「何やってたんだろ、顔でも洗いに起きたんだろか。そういえばさっきまで庄ちゃんの部屋、ずっと物音がしててさ。小さい音なんだけど、気になるんだよなあ」
庄左ヱ門は、思えば一年は組にいたころから妙に学級委員にこだわるやつだったけど、5年になってもっとひどくなった。勉強も忍術もきり丸が才能を現し始めて、きっかけといえばあれかな、2年の終わりに成績で抜かれた。最初は一回の出来事だってみんなで奇跡だって笑いあっていたけれど、それから庄ちゃんはどんなに頑張ってもきり丸に雪辱を晴らすことは出来なくて、俺たちの中では庄左はクラスのナンバーツー、そんな印象が当たり前になってしまった。庄ちゃんはきり丸に追い抜かされたことが悔しかったのか、鬼みたいに勉強していて、俺たちは、一年の頃に六年生の先輩にいらしゃった潮江文次郎先輩みたいだといって笑いあってた。そういえば、今になって思えば、伊助は同室だったからかひとがよいからか、俺たちの軽口に混じらずにずっと渋い顔で庄ちゃんを見ていたっけか。あんなにこだわっていた学級委員の役職は、4年の夏休み前に庄ちゃんが自分で降りた。その異変を俺たちはやっぱり笑ったけれど、理由を聞いたとき、庄ちゃんが「勉強時間が勿体無いから」と疲れた顔で言ったので、そのときは確かに、俺たちも変だなあとは思った。その頃から庄ちゃんはぴりぴりしてみんなで集まって馬鹿騒ぎするのが疎ましくなったように思えたので、俺たちも無理に誘わなくなって、そんな感じで今日まで来た。同室の伊助だけはずっと心配して、俺たちと庄左の間を取り持とうといろいろ動いていたようだけれど、そんな伊助を心配して、一時期兵太夫がしきりに伊助を宥めているのを何とか見かけた。
俺は布団に包まってそんなことを思い返して、
「みんな一年のときはちまちまして、なんていうか、いろんなことが心配なかったよな。あの頃が一番未来が保障されてて何の心配もなく、楽しいばっかりの日々だった気がする」
と言ったら、虎若は、「まあ、そりゃ、ちびだったしなあ」と仕方ないじゃんとでもいうように返した。
「大人になるって、自分の世界がどんどん不安定になってくってことだろ」
子どものころは誰もが大きな存在の庇護のもとでひよこみたいに無心でただただほわほわした温もりと夢の塊でいられた。じゃあ、大人になって庇護がなくなったら、俺たちはみんな一人ぽっちだろうか。さむい、さみしい、つめたい、こわい。俺はその夜ちょっと震えて、久しぶりに清八の名前を唱えながら寝た。


朝起きたら伊助はいなくて、庄左に聞いたら、熱出して寝てる、といった。
「風邪?」
「さあ」
庄ちゃんは教科書から目も話さなかった。俺はむっとして、「同室のくせに、ひどいやつだな、お前」と責めた。庄左はやっぱり何もいわず、だから俺も、腹が立ってどかどかと乱暴に歩いて席に戻った。
誰かの体調のことを質すならやはり乱太郎が適役だろうと彼のもとに向かったら、乱太郎は思い詰めた表情で三治朗と何ごとかを話していて、俺が顔を出したら、「団蔵、伊助は昨日井戸でなにやってた?」って責めるみたいに聞いた。俺はわけがわかんなくて、事情を説明したけれど、乱太郎はちょっと怖い顔のままで、「私、伊助のところにいってくる。五語の授業はお休みしますって、土井先生に言っておいて」と言いおいて足早に教室から出て行ってしまった。
「なに、フケんの?伊助に何かあったの?」
三治郎は困った顔で俺を見上げて、でも、黙っていた。三治朗は泣きそうな顔をしていて、芯の強い三治朗がこんなになるのは許せないことだと、また、なんだかよくわからないけれど腹が立って仕方がなかった。


そのまま乱太郎は戻ってこなくて、午後の授業は相変わらずきり丸が褒められて、土井先生は伊助と乱太郎の不在を授業前に怒ったけれど、授業後に俺たちに向かって「大丈夫か、あのふたり、何かあったのか」と心配そうに尋ねまわっていた。俺たちは先生のこういうところが大好きだ。放課後になって喜三太と金吾が見舞いにいくというんで、俺も同行した。伊助は熱も下がって、寝巻き姿に寝乱れた髪をしていたけれど、心配するほど暗い顔もしていなかった。「大丈夫だよ、何にもないよ、平気だよ」ってそればっかりを繰り返し俺らに言った。俺はほっとしたけれど、乱太郎は傍でずっと怖い顔をしていた。喜三太は「伊助、疲れた顔してるからよく寝なきゃ駄目だよ」と頭を撫でて、そうしたら乱太郎が、「伊助、部屋を変えてもらおう」と低い声で言った。伊助は、「でも、・・・」とかすかに項垂れたけれど、それっきり掠れて消えた声を搾り出すこともせずに、「庄ちゃんといっしょにいると辛い」とぽつんと呟いて、それからちょっと泣いた。伊助は俺たちの中では一番大人びていたから、一年の頃から滅多なことでは泣かなくて、だから俺たちはびっくりして、伊助を笑わせるために躍起になって慰めた。


部屋割りと言い出した乱太郎に庄左は何も言わなくて、「ああ、それがいいと思う」とぽつんと言った。それでお仕舞いだった。伊助は俺と虎若の部屋に来ることになって、それから俺たちの部屋には洗濯物がたまらなくなって、俺たちの日課に洗濯の時間が含まれて、変化といったらそれくらい。庄左にはますます誰も構わなくなった。乱太郎はあの日、ひどく怒っていて、庄左にむかって、「は組の中で一番お前を心配してたのは、伊助だよ、庄左ヱ門」と押し殺した声で言った。それは責めるような響きを含んでいて、かみそりのような鋭さで、庄左はそれも黙って受け止めて、それっきりだった。
伊助と庄ちゃんは大喧嘩したのかと思ったがそういうわけでもないらしく、伊助はときどき庄左ヱ門ひとりの個室となった部屋にいっては、掃除やら何やらをしてくるみたいだった。必要ない、とみんなは止めたけれど、庄左ヱ門のも来るなといったらしいけれど、伊助は「掃除されてない部屋って気になるんだよねえ」と相変わらず笑っていた。
空っぽの教室で、俺は一度見てしまった。机に突っ伏して転寝する伊助に、庄左ヱ門が小さく唇を落としていた。俺はびっくりして息を呑んだけれど、庄左ヱ門は一度触れるだけの接吻をして、そのまままた怖い顔で教科書を睨みつけていた。笑うのを忘れちまったんじゃねえの、アイツって、5年になった今では年中鬼気迫った表情をしている庄左ヱ門をみんなそうやって笑っている。俺、それが真実だったことを、泣きそうな気持ちで認めた。庄左、馬鹿、お前、笑うだなんてそんな簡単なことも忘れちゃったのかよ。そんな顔で人を想うやつがあるか。
だって庄左は、泣きそうな顔で、苦しくて痛くて仕方がない表情で伊助の髪を撫でて、接吻を与えていたのだった。


***


卒業間際で、団蔵は風の噂で庄ちゃんは昔苛々をぶつけるために伊助を強姦したらしいよときいて、「ああ、そう」と怒ったみたいにつぶやく。噂は一ヶ月くらいはこそこそと耳を汚したけれど、すぐに風に吹き飛ばされて消えた。

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