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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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093:Stand by me(優タカ18禁)

せめて、シャワーを。タカ丸は優作の腕の中で哀願した。だが、いったん決めたことを、優作が途中で止めることはない。もともと意志の強い男である。これまでタカ丸の想いを知りながら頑なに手を出さないできたのも、その意志の強さゆえであった。だが今宵、タカ丸を抱くと決めた。決めたからには手放す気はない。タカ丸の怖気を汲んで腕の中から逃してやれば、機会を失ってしまうだろうことを優作は理解していた。タカ丸は気がついていないが、優作は、タカ丸が久々知兵助に惹かれはじめていることに気がついていた。この先ずっといっしょにいてやれるわけではない。このまま何ごともなくタカ丸を忍術学園へ行かせてしまえば、それで二人の関係は終わってしまうのだと優作は気がついている。優作はタカ丸より年をとっているぶん、タカ丸のように離れていても愛し合ってさえいればお互いの想いが続くのだとは信じていなかった。愛の脆さを知っていた。
ベッドにタカ丸を降ろすと、暫く上からタカ丸の姿を鑑賞する。タカ丸はその視線に恥じらい、身を丸めてしまう。そんなタカ丸の肩に優作は力強く腕を伸ばし、自分のほうにしっかりと向かせた。
「タカ丸くん」
名を呼び、唇を近づける。
「・・・優作さん、」
間近で見る、いつも以上に真剣な優作の瞳にタカ丸は酔う。
「優作さん」
小さく、しかし何度も名前を呼んでくる恋人を、優作は制するようにその口で唇を塞いだ。舌の侵入は密やかだった。タカ丸の唇が溶かされ、徐々に開いてゆく。優作の舌は、その狭間からそっと侵入してくる。そうしてタカ丸の舌を優しく絡めとった。
(逃がさない)
そんな優作の意思が伝わるようだった。
「んっ・・・」
厭くこともなく絡まる舌。タカ丸の咽喉に、その唇から漏れた唾液の滴が伝った。その後を追うようにして優作の舌は、タカ丸の顎や首筋を味わい始める。
やがて彼の舌がタカ丸の臍の辺りに辿り着いたとき、優作はタカ丸の制服のベルトを器用に緩めた。まだ着慣れない忍術学園の制服は、糊がよくきいて皺ひとつなかった。成長のことを考えて、少し大きめのものを買ったのだろう。きつく締められたベルトを緩めると、ウエストのあまりが目立った。それは細いタカ丸の腰をますます細く頼りない風情に見せている。優作は、大きな指をウエストのあまりから直接素肌へと侵入させた。
びくん。
優作の指を肌の上に感じ、タカ丸は一瞬身体を強張らせる。
「優作さん」
タカ丸の両手を伸ばさせて、白いシャツを剥ぎとる。白く、うっすらとあばらの透ける胸や腹。胸のふたつの蕾に、優作はそっと口付ける。優しく下で転がし、吸ってやる。
「ああ・・・、」
タカ丸はその刺激に過敏な反応を見せた。
胸に起る快感により、タカ丸の身体は緊張から解かれていく。目をつむって、与えられる刺激を懸命に受けているタカ丸の姿に優作は果てしない愛情を感じた。この先、一生一緒にいられないことはわかっていた。自分は長男として店を継がなくてはならない。当然、結婚して跡継ぎを用意することも望まれている。
幼い頃からタカ丸のことが好きだった。彼が慕ってくれるたびに、ずっとこの手で守ってやれたらと思い続けてきた。それができないのなら、いっそ、想いを遂げることをやめようと決めていた。いつか別れが来ることが分かっていて、愛し合うことは残酷だと思った。しかし、実際にタカ丸と離れることになって、彼が自分の知らぬ誰かに柔らかく微笑みかけているのを見て、耐えられないような心地がしたのだった。この情事が良いことなのかいつか後悔することになるのか、優作にはもう考えられなかった。
ズボンの前立てから優作の手が侵入する。下着の上からタカ丸の中心を探る。
「・・・あ・・・ああ」
下から上へと何度も擦る。そのふくらみを確かめるように、何度も、何度も。
「・・・や・・・ゆう、さくさん・・・」
優作はタカ丸のズボンを脱がせ、下半身を楽にさせてやる。そして、もう一度下着の上から今度はそのふくらみを確かめるために口を使って愛撫する。
「あ・・・ああ」
タカ丸の腰が揺らめき始める。下着に、優作の唾液以外のものが滲み始める。それを確認すると、優作は前を肌蹴、ベッドにあがる。ベッドヘッドに背を預けて座ると、自分の上にタカ丸を重ねて座らせた。
背後の優作の顔を、タカ丸は不安そうに振り返って見る。
「こうすると、暖かいだろう」
優作の低い声に、タカ丸は安心する。背後から廻された手が、もう一度タカ丸の中心にまわり、下着の上から根気よく愛撫を再開する。初めてで緊張の強いタカ丸は、思うまま快感に身体を委ねられないでいる。
タカ丸の尻のあたりに優作の男性があたっている。下着の上からとはいえ、だんだんと熱を持ってくる優作のそれを感じないわけにはいかない。
「ゆ・・・優作さん」
優作の右手はタカ丸の袋を転がし、そのふくらみにそって上へと指を運ぶ。
「優作さ・・・」
タカ丸は涙を溜めた瞳で背後の恋人を振り返った。
「気持ち良いかい」
問いかけに、タカ丸は頷く。
「ああっ・・・!」
そのとたん、下着の間からいきなり優作が侵入し、タカ丸の熱を包み込んだ。
「濡れている」
タカ丸の顔が羞恥で赤くなる。
「触るだけでこんなになってる」
「や・・・」
下着の中に侵入した手は、既に滲み始めているタカ丸の液をタカ丸自身に擦り付けて、自由自在に扱く。
「やぁ・・・ああ」
腰を揺らし始めたタカ丸の髪に口付けをひとつ落とすと、脚を折らせて彼の下着を取り払う。何ひとつ見につけていないタカ丸は、尻に感じる優作の中心の熱と硬さに身体を浮かせた。だか力強い腕がタカ丸を逃がさない。
「僕のこれを、君の中に入れたい」
耳元で囁かれて、タカ丸はますます赤くなる。粘着質の音とタカ丸の喘ぎが広い部屋に響き渡る。タカ丸の中心を扱き続ける優作の指はもう、タカ丸の液でぐちゃぐちゃに濡れている。タカ丸は、既に理性はない。優作は両手でタカ丸の熱を思う存分可愛がる。タカ丸は尻の間に優作の高ぶりを感じて悶え続け、無意識に、それに尻を擦り付けた。
「あ!ああ・・・んっ。ああ・・・あ」
「僕のを感じているの、タカ丸くん」
「んん・・・ん!」
タカ丸は頭を優作の肩に預けて仰け反った。脚は、既に理性が失われていることを証明するかのように開かれている。滑った指がタカ丸の秘所を狙っていた。
「ほら」
タカ丸の目の前に汁が滴る指を見せる。
「これはぜんぶ君から滲んだ液だよ。全身で僕のことを欲しい欲しいっていってる。・・・可愛いね」
「優、作さ・・・」
タカ丸は優作の指の行方を目で追った。だが、タカ丸の最も奥を狙うそれに気づくのが遅かった。
「ああッ・・・!」
優作の中指と人差し指は、タカ丸の滲み出した液に助けられ、その奥に侵入し始めている。ぶるり、と快感がタカ丸の背中を走る。
「そんなに締め付けたら動かせない」
「やあ・・・!優作さん」
優作は逃げかけるタカ丸の身体をもう片方の腕で抱きしめる。
「大丈夫だよ、タカ丸くん。大丈夫。僕がいる」
タカ丸の瞳から涙が零れ落ちた。優作が好きだ。それは確かなのに、今だけは、優作が知らない誰かのように感じられてタカ丸には心細かった。
タカ丸をベッドに横たわらせる。
自分を見下ろす優作を、タカ丸はじっと見つめる。ああして後から抱き締められて身体をほぐされると、優作に対する緊張も和らぐようだった。優作はそれを分かっていたのだろうか。
「タカ丸くん、・・・好きだよ」
タカ丸の頬に手をあてながら彼の瞳を真っ直ぐに見つめると、優作はその胸の奥から最も大事な言葉を取り出す。まだ幼かったころ、タカ丸の小さな指先が懸命に自分の背中にしがみ付いていた。そんな昔からずっと温めてきた感情だった。
タカ丸の瞳に涙が浮かび、そして頬を濡らしてゆく。
「優作さん・・・お、俺も。俺も!」
タカ丸は優作を迎え入れるために瞳を瞑った。その承諾に優作が応えないことがあるだろうか。タカ丸の唇に口付けを与えてから、タカ丸の脚をゆっくりと開かせる。
「ん・・・ああっ・・・!」
さすがに、大きいものが身体をわって入ってくる衝撃は、タカ丸にとってかなりの苦痛を感じさせる行為となった。だが、先ほどから我慢させられている身体は驚くほど柔軟に優作のものに慣れていく。
優作が腰を使って、強く深くタカ丸の中を蹂躙していく。
先ほどから尻に感じていた優作の男性が自分の中に入っているのだ。そう思うとタカ丸は、それをしっかり味わいたくて、より身体に密着させるために優作の背に脚を廻した。
「あっ・・・ああ・・・あああああ!」
タカ丸も腰を使って懸命に優作を味わう。ずっと求め続けた。叶わない、幸せな結末の待っていない恋だとわかっていても、お互いに会っている時間が何よりの幸福だった。言葉も要らず、ただ同じものを見てそばに居られたらそれだけでよかった。
激しく腰を揺さぶられながらタカ丸の理性は緩み、奥底に眠っていた想いが溢れ出て来た。タカ丸の汗ばんだ顔に、明るい色の髪が貼り付く。
「優ちゃん!ゆうちゃ・・・」
たどたどしい舌使いで、いつしかタカ丸は、昔の呼び方で優作を呼んでいた。
「タカ丸・・・!」
獣のように、身体を燃やすことでふたりは己の深さを証明していく。もはや言葉は何の意味もなさなかった。ふたりは壊れた玩具のようにお互いの名前ばかりを口にした。
優作はタカ丸を攻め立てる。彼が初めてであるということを、優作はいつしか忘れていた。広いベッドに無言でタカ丸を追い立てた。様々な体位になってもそれは、意図したことではなく、あまりに激しい追い立てにタカ丸が逃げるように身体を捻ったからだった。長く、長く、その攻めは続いた。
「もう・・・もう!優ちゃん、もう許して」
タカ丸は懇願した。
「どこにも行くな」
激しすぎる抱擁から逃れようとしても、自分の秘所に優作の男性が入り込み、逃げられない。あまりの攻め立てにタカ丸は乱れ切る。そこには、未来でいとおしむぶんまですべて今日で清算しようとでもしているかのような、焦りがあった。
声などとうに抑えきれない。タカ丸の喘ぎは、そのまま彼の愛の言葉だ。
後から激しく攻め立てられ、タカ丸の口からは止め処もなく悩ましい声が漏れ続ける。タカ丸から放たれたものが、ホテルのシーツのあちらこちらにこびり付いている。タカ丸の尻からは、優作の液が滴り落ちていた。優作の激しい攻めにより、それを留めておくことができなかったのだ。
優作が、タカ丸の最奥を深く抉った。
「あ!ああああ・・・!」
タカ丸は絶叫に似た激しい嬌声とともに欲望を吐き出した。同時に、最奥に今夜何度目かの優作の飛沫を感じる。数度目の絶頂であったため、タカ丸は気をやったのだった。
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お前が世界を壊したいなら

18禁で三郎がちょっと病んでるというか、DV気味なので注意。


轡を噛まされているため口を閉じることができず、さらに息も吐けぬほど腰を突かれて、飲み込めないままの涎が溢れては顎を滴った。たぶん、泣いていると思う。手首を拘束された状態では触れて確かめることは叶わないが、瞳を覆う布地がしとどに濡れて時々頬にハッとするような冷たさを知らしめる。こんなふうに人間性などまるで無視して、まるで抱き人形か何かのように加虐的に抱かれることは初めてではない。だから雷蔵は、抗っても無駄なことを知っている。嵐に巻き込まれてしまったら、ただ黙ってできるだけ従順になって暴虐がおさまるのを待つだけだ。
何度目かの精を、体内に叩き付けるように吐き出されて、雷蔵の身体が陸に打ち上げられた魚のように大きく跳ねた。
「なあ、雷蔵、どんな気分だい」
三郎の声は酷く暗かった。雷蔵は声さえ出せたならば、今すぐにでも「最低の気分だよ」と罵るように吐き捨ててやりたかった。それはきっととてもとても三郎を喜ばせただろう。しかし、三郎は決して雷蔵の轡を取ろうとはせず、結局雷蔵はヒイヒイと赤ん坊の泣き声のように咽喉を鳴らして、零れる涎を少し啜った。
「どんな気分がする。痛いかい、苦しいかい、どうして自分がって思うかい。俺のことを殺してやりたいと思うかい。なあ、きっと、お前は俺を憎くて憎くてたまらなくなったことだろう。殺してやりたいと思っているだろう」
雷蔵は目隠しさえなければなあ、と思った。自分は今、きっと泣いている。今でさえ目尻から冷たい雫が溢れて伝うのがわかる。だけどこれは、生理的な涙だ。感情はとても平静で、辛くも悲しくもない。きっと本当に泣いているのは三郎のほうだ。そう考えると雷蔵は、怒りとか憎しみだとかいう感情がいったいどんなものだったかまるで思い出せないような心地さえするのだった。三郎は本当の怒りとか、本当の悲しみとか、喜びだとか、すべての自身の真実から誰をも遠ざけようとする。雷蔵は三郎の涙も怒声も笑顔も、本当のものは何ひとつ見たことがなかった。三郎は涙を流すとき、怒るときはいつだって涙が見えないように雷蔵の瞳を闇で覆った。嗚咽が聞こえないように耳を塞いだ。涙を拭わせないように腕を縛った。慰めを言わせないように轡を噛ませた。そんな状態にして、ようやく雷蔵を己の傍らに転がして好きなようにした。わざと乱暴にした。何もかもを封じられた雷蔵に出来ることは、ただ三郎が望むとおりに啼いて悶えて恥も埃をも打ち捨ててせいぜい狂ってやることだけだった。
唐突に楔を引き抜いた三郎は、雷蔵の身体をひっくり返すと、獣の体勢をとらせて後ろから伸し掛かった。背中で手首を縛られている雷蔵は肘で体を支えることもできず、シーツに頬を埋めて、三郎が繰り返し与える衝撃を苦しい体勢で受け止めるより他にない。
「んっ、んっんっ・・・!」
喘ぎはほとんど呻き声に近かった。三郎が乱暴に腰を打ちつけてくるのを、呼吸を合わせて何とか受け入れる。より深奥まで探っていこうとするのを、腰を少し高く上げることで手伝った。三郎が雷蔵の髪を掴んで無理に顔を上げさせた。仰け反る咽喉にかたちのいい指を添えて、強く締めるように力を込める。呼吸が乱され、もがくのを、三郎は笑いながら眺めているらしい。背中越しに愉しそうな忍び笑いが聴こえてきて、雷蔵も楽しくなった。そのまま意識を失う寸でのところで三郎は指を離し、また腰を揺らし始めた。雷蔵は落ちて行くところを無理に快楽の渦の中に引き戻されて随分辛い思いをしたが、三郎にあわせて自分から腰を振った。三郎はそのことに気がつくとまるで手柄でも取ったかのように大喜びし、
「この変態めが」
と雷蔵を罵った。
「嫌だ嫌だといいつつ自分から尻を振っていやがる。男の俺に犯されるのがそんなに気持ちがいいか、馬鹿め。お前の本性は淫乱だ」
なんとまあ安っぽい台詞を。雷蔵は内心で苦笑してしまう。いかにも三文小説にありそうな台詞ではないか。気持ちがいいから自分から尻を振ったのだ、間違いないよと言ってやりたい。嫌だなどといつ誰が本心から言ったのだ。お前が喜ぶからわざと言ってやったのではないか。可哀想な三郎。お前のことを嫌いなどと誰も言ってはいないのに、自分で勝手に嫌われていると思い込んで、こんなふうにしか僕を愛せない。抱きしめて愛しているよと微笑んでやったら、どんな顔をするだろう。
いや、きっと三郎は自分の気持ちなど聞き入れはしまい。
ふざけるなと怒鳴り散らして雷蔵を撃つだろう。俺を馬鹿にするのも大概にしろよと蹴り飛ばすだろう。どうして愛しているということを信じてくれないのだろう。愛されるわけがないと信じきっていたら、誰かが愛を向けていたって、それを受け入れることは出来ない。そんな人間は、一生愛など手に入れるはずがないではないか。可哀想なのはこちらのほうだ。いくら愛しているのだといっても聞き入れてもらえないなら、それはもう叶うことのない永遠の片思いだろう。馬鹿らしい、自分は報われない恋をしている。
ふいに三郎が雷蔵の轡を外した。口の中に溢れかえっていた涎を、雷蔵は慌てて飲み込む。その間にも乱暴なピストン運動は続けられ、雷蔵はせいぜい哀れっぽく喘いでやった。
「ああんッ・・・あッ、あッ」
「女みたいな鳴き方をするな、気持ち悪いやつだな」
嫌悪に満ちた三郎の言葉が落とされた。だから雷蔵は下唇を噛んで嗚咽を殺す。女みたいだと、馬鹿にしやがって。僕が女だったらとっくに既成事実でも作って、無理にでも君を離しはしないんだがな。尻がぐじゅぐじゅと濡れた音を響かせていた。三郎が吐き出したものでいっぱいになったところが、乱暴に擦られて、泡だっているのだろう。惨めだな、汚らしいな、雷蔵は思う。どこまで落ちてしまえば、君は僕を認めてくれるだろうか。これくらいの汚れ方じゃまだまだ足りないかい、君には届かないかい。
三郎が律動を早くした。限界が近いのだな、引き摺られるように快楽に巻き込まれながら、雷蔵は自分も我を忘れたように腰を振る。腹の中にある三郎のものが一際ふくれたような気がした。
「あ・・・深ッ・・・」
雷蔵があまりの快楽にシーツに顔を擦り付けて犬のようにする。
三郎はその時、ふいに耐え切れないような心地がして、手首を拘束していた縄紐も、目隠しも全部取っ払ってしまった。これだけのことをしても驚いたように三郎を見上げてくる雷蔵の水晶体は美しく、綺麗なもの以外はきっと映さないように出来ているのだろうと思わざるを得なかった。そのことがなんともやるせなく、三郎は、いっそこの場で雷蔵を殺めてしまいたいと思った。彼の最期に見るものが、自分であったなら。恐怖でもいい、彼の網膜に、自分の姿が焼き付いてくれたならば。そのときこそ初めて自分は雷蔵に見詰められたことになるのだろう。
「三郎・・・」
雷蔵は何ごとかを言おうとしたようだったが、三郎は口を塞ぐ代わりに激しく腰を打ちつけることで言葉を奪った。
「あ、あ、ああああッ」
自由になった雷蔵の指がシーツを絞るように掴む。肘で身体を支えて、深く深く三郎を飲み込む。
「ああ、三郎、欲しいッ」
雷蔵の懇願はほとんど泣き声に近かった。
「君が欲しいよ、三郎ッ・・・。な、中に・・・ッ」
お願い、とまでは聞き取れたがそれから先は三郎ももう聞いていなかった。雷蔵の腰を抱いて、ぶつけるように彼の尻に己の腰を打ち付け、最後まで吐き尽くすようにして大量の精を流し込んだ。雷蔵の身体がびくんびくんと跳ね、やがて静まった。はあ、と雷蔵が大きな息を吐いたのを聞き届けて、三郎は彼の体内からずるりと楔を引き抜いた。途端に、どろりと白い液体が零れて真白のシーツを汚した。
三郎が荒い息を吐いている雷蔵の傍に横たわって、ぼんやり雷蔵を見詰めた。腕を伸ばして、咳き込む彼の背中を撫でる。
「機嫌は直ったみたいだね」
雷蔵がうっすらと微笑んで、三郎の額に接吻を落とした。
「ごめん雷蔵、酷くした」
ぽつりと三郎が呟いた。酷く疲れた声音だった。雷蔵は苦しいのを我慢して微笑んだ。
「いいんだよ、三郎」
ときどき、激情に駆られて理性を忘れるのだ。それは大概、任務で手を汚した後が多かった。どす黒いものが胸の中で渦巻いて、理性は闇に食われて消える。どろどろのコールタールの塊のようになった自分は、目の前で微笑んでくれるたった一人の人を思い切り抱き締めて汚して踏みにじってやりたいと思う。徹底的に嫌われるまで苛め抜いて、けれどその果てに、「愛しているよ三郎何も心配は要らないお前には僕がいるからね」と母のように抱き締めてもらいたいのだ。どうしようもない我が侭だ。
(俺は化け物か)
三郎は時々思わないではいられない。雷蔵のことは誰より好きだ。それは真実のはずなのに、どうしてこんなに傷つけたがるのだろう。
「雷蔵、お前、早く逃げろよ。俺がお前のこと殺しちゃう前にさ、お前だけは早くお逃げ」
そのまま瞳を閉じてすうすうと寝入ってしまう。人のかたちをした獣を、雷蔵はそっと抱き締めると、ほっと息をついて己も眠った。

017:√(五年生の一年時)(自分設定横行)

お父さん、お母さんへ
 
 
忍術学園に来てから、三か月がたちました。ぼくは、五月にちょっとおなかをこわしてしまったけれど、それ以外は元気です。
どうしておなかが痛くなったのかというと、保健室の新野先生がおっしゃるには、ストレスだそうです。ぼくは、友達はすぐにたくさんできたけれど、りょうで同じ部屋になった鉢屋三郎くんが苦手で、どうやって仲良くなったらいいかわからなかったので、それでおなかが痛くなったのです。
鉢屋くんはどういう人かというと、いじわるな子です。人の嫌がることをいっぱい言います。ぼくも、毎日、「宿題やるのおそいね」とか「ねぞうわるすぎだよね」とか「そんなにゆうじゅうふだんだと忍者になるのは無理だよ」とかいやなことをいっぱい言われます。先生に言ったら、「三郎くんはああいう子だと思って無視をしなさい。世の中にはああいう子もいるんだよ。色んな子がいるんだよ」とおっしゃられたので、先生の言われたとおりにしようと思って、がんばって無視をします。本当は、「いやなこと言われたな」と思っても、気にしないふりをします。そうすると、鉢屋くんはますます、ぼくのまわりにべったりくっついて「人のこと無視したらダメなんだよー。不破くんは人のこと無視するわるい子なんだー。へーえ」といやみをいっぱい言ってきます。ぼくは、不破くんはどうして人のいやがることばっかり言うのかな、と思います。不破くんは勉強もできるし、実技の成績だってとってもよいけれど、人のいやがることをいっぱい言ったりやったりするので、みんなからきらわれています。ぼくもあんまり好きじゃありません。
お父さんとお母さんは、人のこときらいと言ったらいけませんと、ぼくをしかるかもしれないけれど、でも、本当にいやな子なんです。
こんなことがありました。
一年い組に、久々知兵助くんという子がいます。あんまりみんなとしゃべらないで、休み時間もひとりで勉強したり、本を読んでいたりします。ちょっと変わった子です。でも、話しかけるとちゃんとおしゃべりしてくれるので、たぶん、ひとりで静かでいるのが好きな子なんだろうと思います。
ゴールデンウィークになっても久々知くんは家に帰らないでずっとりょうにいました。家が遠い子や特別の事情のある子は一週間ぐらいの休みだと家に帰らないので、そのことは別に変ではありません。だけど、この間、夏休みのお話を先生がしてくださったときに、「夏休みはりょうが閉まってしまうので、みなさんはその間家に帰らなくてはなりません。」とおっしゃって、それから、「久々知くんはあとで先生のところへいらっしゃい、いっしょにお話をしましょう」と言われました。久々知くんはふつうの顔で、「はい」と返事をしていたけれど、ぼくらは、久々知くんはどういう事情があるのかしらとちょっと気になると思いました。
掃除の時間になってぼくが外で掃き掃除をしていると、クラスの友達が何人か来て、「職員室をこっそりのぞいてきた。久々知くんって、家族がいないみたいだよ。帰るところがないから、先生のうちに泊まるんだって」と教えてくれました。ぼくは、なんだかいやな気持ちになったので、「そういうことあんまり言いふらさないほうがいいと思うよ」といったけれど、みんなは「別に悪口じゃないよ」と言って、また別の子に話をしに行ってしまいました。
となりで話を聞いていた鉢屋くんが口笛を吹いて、「てんがい孤独の身の上ってやつだな」と言いました。鉢屋くんは難しい言い回しをいっぱい知っています。
放課後になってい組の友達とサッカーをしようと思ってい組のクラスにいくと、鉢屋くんがいました。鉢屋くんはにこにこしながら本を読んでいる久々知くんの前に立って、久々知くんを見下ろしていました。鉢屋くんはこうやって言いました。
「久々知くんの家族を殺したのはぼくの一族の人だよ」
ぼくは、同じ年の子から“殺す”という言葉が出たので、ひやりとしました。実習で大きな失敗をしてけがをしそうになったときみたいに、どきどきして体がふるえて心臓がきゅってちぢむ感じがしました。そうしたら久々知くんは表情を変えないで、「ちがうよ」と言いました。
「ぼくの家族のかたきはちがう人だよ。それにもういないよ」
「なんで」って他の友達が聞いたら、久々知くんは「死んだから」と言いました。それから、誰もいないところをちょっとにらみました。ぼくは、そのとき、久々知くんのことをちょっとこわいと思いました。それから、久々知くんはまたひとりで本を読み始めました。ぼくは急にサッカーがしたくなくなったので、久々知くんを、「図書室に行こう」とさそいました。そうしたら、鉢屋くんも「ぼくも行く」と行ってついてきました。僕はいやだなあと思ったけれど、久々知くんが「いいよ」と言ったので、なにもいいませんでした。久々知くんはいい人だと思いました。
図書室までのろう下で、鉢屋くんが、久々知くんに、「どうしてかたきの人は死んだの。どうしてそれがわかったの」と聞きました。ぼくは「やめなよ」と止めたけれど、久々知くんはあっさり答えていました。それはびっくりの答えでした。
久々知くんは、なんでもない顔で、「ぼくが殺したから」と言いました。
ぼくはどきどきして言葉が出ませんでした。でも、ぼくのとなりで鉢屋くんは、「そっかー」とふつうに返事をしていたので、ぼくはすごいと思いました。
それから鉢屋くんは、「ぼくの一族はわるいこといっぱいやってるんだよ」と言いました。久々知くんにいやなことを言わせたので、そのお返しでそんなことを言ったのかなと思いました。鉢屋くんは、こうやって言いました。「いっぱい人を殺してるし、いっぱい人をだましてるんだよ。だから、ぼくもいやなやつなんだ」
久々知くんは「ふうん」と返事をしたっきりでした。ぼくはやっぱり何もいえませんでした。
部屋にもどってから、鉢屋くんがベットにねころがってまんがを読み始めたので、ぼくは宿題をしながら言おう言おうと思っていたことを小さな声で言いました。
「鉢屋くんの、おうちは、関係ないと思うけどな」
鉢屋くんは何も言いませんでした。部屋がしーんとしたので、ぼくはドキッとしました。鉢屋くんをふり返ったら、鉢屋くんはだまってじっとこっちをみていました。ぼくは顔が真っ赤になるのが分かりました。ぼくは、こんなにまじめに、人から見つめられたのは初めてだと思います。だからうそをついたりごまかしたりしては失礼だと思ったので、どきどきしながらぼくの思っていることをおしまいまで言いました。
「鉢屋くんの、おうちがいやなことばっかりしてても、それは鉢屋くんがいやなやつってこととはちがうと思うけどな」
「でもぼくいやなやつだろ」
「それは、鉢屋くんが、いやなこといっぱいするからだよ」
「ぼくがいやなことをしてもしなくても、ぼくはいやなやつだよ。だからぼくはいやなことをするんだよ」
「・・・よくわかんない」
「きみはぼくじゃないから」
ぼくは鉢屋くんの言葉がちっとも理解できませんでした。だけど、理解したいと思いました。だから正直それを伝えると、鉢屋くんは変な顔をして「変なの。不破くんって変な人だね」と言いました。鉢屋くんはやっぱりいやな人です。
もうすぐ夏休みですね。家に帰ったら、またお母さんのおいしいご飯がいっぱい食べたいです。お父さんともキャッチボールがしたいです。
それまでお元気で。
 
 
不破雷蔵

096:溺れる魚(鉢雷 18禁)

アルバイト先で珍しくホテルが用意してあって、三郎と雷蔵は手をとりあって喜んだ。忍者の斡旋会社は、忍者にも詳しい。当然、忍術学園で野宿の訓練も受けていることを知っているから、それをいいことにホテル代をケチることがままあるのだ。あったかい布団で眠りたければ自分の金を出せといったところだ。だが、アルバイト以外には仕送りのほか然したる収入源のない生徒たちにしてみたら、あったかい布団とぽかぽかお風呂に魅力を感じてもおいそれと手を出すことはできない。結果、やっぱり街の片隅や公園や、よくて満喫で休むことになる。
ふたりは優しい雇い主を口々に褒め称え、仲良く一緒に風呂に入った。
 
 
快楽を堪えるようにがぶりと肩に喰いつかれて、三郎は眉根を寄せて雷蔵の耳元に熱い息を吐いた。それを痛みのためととった雷蔵は慌てて三郎の肩から口を離すと、謝った。
「ごめんね、つい夢中で。痛かった?」
「平気だよ。それより、噛むの止めちゃうの。俺、嬉しかったのに」
雷蔵の濡れた髪からパタパタと雫が落ちて、三郎の顔面を濡らす。三郎はそれを舌で受け取って味わうと、雷蔵に口付けた。頬が真っ赤に染まっているのは、快楽と蒸気のどちらに逆上せているからだろうか。風呂場だったからだとしたら業腹だ。独占欲の人一倍強いはた迷惑な忍術の天才児は、本気で考える。深く口付けてもう一度雷蔵の顔を見つめたら、瞳が今にも涙を零しそうなほどに緩んでいて、やはり三郎を見詰め返していたのでようやく彼は満足した。
「ねえ、なんだか頭がくらくらしてきたよ」
雷蔵が言うのを無視して、三郎はゆっくりじっくり丹念に雷蔵を愛撫する。狭いバスタブの中で17歳の発育のいい少年ふたりが睦みあうのは、どだい無理がある。上手く身動きが取れない中で、反響する声を嫌がって必死で声を抑える雷蔵は、苦しくって仕方がない。
「逆上せたら・・・朝一で学園に帰れなくなっちゃうよ・・・」
「別にゆっくり帰ればいいさ。明日は教科ばっかりでたいした授業もないから」
「駄目だよ、約束したんだから・・・!」
三郎が雷蔵の胸の蕾にむしゃぶりついた。雷蔵は背を大きく逸らせて息を吐く。
「あっ・・・!」
「約束ってなに。誰としたの。雷蔵、俺に内緒で誰かと約束なんてしたの」
「兵助と。図書館で一緒に手裏剣の投げ方の参考書探すって」
「手裏剣の投げ方あ?今更なに言ってるんだ、あいつ」
「タカ丸君に教えてあげるんじゃない?自分で出来るのと、教えられるのはまた違うからさ」
「にゃんこさんに直接その本貸したほうが早いと思うけどお?」
「それは、ほら、兵助が自分で教えてあげたいんだよ」
雷蔵は苦笑して三郎を見上げる。
「可愛いよね」
「雷蔵。お前な、行為の最中に別の男のこと可愛いとかいうな。そういうのをKYっていうんだぞ」
「何言ってるの、兵助は友達だろ」
「あいつは男だ」
「そりゃ女じゃないけど」
・・・この優柔不断。馬鹿。間抜け。とんま。お人よし。
三郎の頭の中にあらん限りの罵声が浮かび上がり、結局彼が採用したのは、
「もういい。行為の最中は俺の名前意外忘れてろ、ばか」
だった。
繋がりを深くして、わざと乱暴に腰を揺らす。雷蔵はとうとう堪えきれず声を発してしまい、真っ赤に茹だった頬で怒ったように三郎を見たが、三郎は雷蔵ほど周囲に気を使わない。ましてここは行きずりで泊まったホテルだ。隣室にサラリーマンが泊まっているのは確認済みだが、どうせ平日の深夜だ、仕事の疲れですぐ眠ってしまっているに違いない。防音設備の薄いビジネスホテルだからってどうせ風呂場での声など聞こえて居るまい。そう考えて、雷蔵をもっと強く抱きしめた。
「・・・っ、ふう・・・」
雷蔵が苦しげに息を吐く。腰を揺すりあげるたびぱしゃんぱしゃんと湯がはね、三郎の身体にかかる。溜めた水に浮遊を助けられた雷蔵の身体は、本当はずいぶんと負担が軽減され状態で三郎を受け入れていることになるのだが、雷蔵は全く気づいていない。騎乗位で楽しむといつも深すぎる繋がりに苦痛の表情を見せる彼に、三郎が気を使ったのだが、風呂場でやろうと聞いた瞬間に雷蔵は珍妙な表情を浮かべて「三郎・・・もしかしてオジサン趣味になった?」と尋ねたのだからなんともやるせない。
雷蔵は心優しい性格だけれども、こと三郎に関してだけは驚くほどズボラな対応をする。周囲は、トリックスターの三郎の言動に呆れているから扱いがぞんざいなのだと、そういう目で見ているが実際は逆だ。雷蔵は「自分のもの」に関しては驚くほど気を使わない。三郎は長い道のりを経てようやく雷蔵の所有物として認められたのだ。だから三郎からしたら、雷蔵が自分にだけ気を使わないのが嬉しくて仕方ないのだった。(長い月日をかけてようやく俺を君のものにしてくれたね、雷蔵)
雷蔵が快楽の果てを迎えてまもなく、三郎も頂点に上り詰めると、雷蔵の中から己の楔を引き抜いて外の精を放出した。雷蔵は驚いて丸い瞳で三郎を見詰める。
「外に出しちゃうの?」
「中がよかったのか」
「いや、僕は外がいいんだけれど。でも、三郎は絶対に中に出すだろうなあと思って。風呂で処理してる姿が見たいとかオッサンくさいこといって、」
「ほーう、考え付かなかったな。それじゃあ今から試してみるか」
三郎の白い目に、雷蔵が慌てて詫びを入れる。
「わーごめんなさいごめんなさい」
「そんなこと考え付くお前のほうがよっぽどオヤジ思考だろ」
互いに向き合うかたちで座っていた雷蔵をひっくり返して自分の脚の間、湯に浸からせるように沈めると、三郎は蛇口を捻って湯を出した。雷蔵が大きくくしゃみをする。
「もう少し温度を上げるかい?」
「ううん、このくらいでちょうどいいよ」
行為に体力を奪われた雷蔵はすっかり疲れ果て、後の三郎を背凭れ代わりにして瞳を閉じる。
「寝ると風邪をひくぞ」
三郎のかたちのいい指が、雷蔵の頬をつまんで引っ張った。
「んー・・・。寝たら駄目だ・・・兵助・・・」
「朝が来たらちゃんと俺が起こすよ」
「そうお?じゃあ、頼んじゃおっかなー・・・」
むにゃむにゃと呟くと、大きな欠伸をひとつして、雷蔵はこてんと眠りに落ちてしまう。腕の中にある身体のことなら、三郎は、睫毛の長さから黒子の数まで知っている。それでも、どれだけ化けてもどれだけ抱いても飽きないのだ。すっかり、囚われてしまっている。これは忍者としてはたぶん、致命的なのだろう。誰かを己の命より愛しいと思うだなんて。
「なあ、雷蔵。いつか俺が死ぬと気が来るんだとしたら、それはたぶんお前の所為じゃないかと思うんだよ」
ひっそりと呟いて、三郎も瞳を閉じた。いつか来る死の際が、雷蔵のためにもたらされたものならば。それすらも三郎には愛おしい。

011:柔らかい殻(久々知とタカ丸)

「せっかくだから、入っていかない?」
そういってタカ丸が差し出したのは、動物園のチケットだった。それはちょうど、ふたりの背後に広く入り口を開いている。久々知は差し出されたふたりぶんのチケットと動物園を交互に見遣って、きょとんと目を丸くした。ぱちぱちと瞬きをするたびに、くるんとカールした長い睫毛が上下する。その様をタカ丸はジッと見ている。
「あんなことになっちゃったけど、ほんとは、ここに誘うつもりで兵助を呼んだんだ」
久々知は顔を上げる。門前に掲げられた大きな時計は4時を指していた。
「あと一時間で終わっちゃいますよ」
「うん、そうなんだけど。でも、あと一時間あるから」
「それ、当日券ですか」
「え?」
「今日しか使えないんですか」
タカ丸は手元のチケットをまじまじと覗き込む。
「えっと、・・・二日間有効だって、書いてある」
「買ったの今日ですよね?あと一日ありますから、明日親しい人でも誘ってゆっくり楽しんだらどうです。俺は遠慮しときますから」
「兵助、動物園とか興味ない?」
兵助はきょとんとしたままタカ丸を見上げる。忍術学校の優等生だって、忍者の仕事ももう幾つかこなしてきてるんだって、そんなことを知ってしまった後でも、やっぱり久々知の外見はただの17歳だ。タカ丸は久々知に庇われたときの、あの敵を見る冷たい無表情を思い出して身体を震わせた。
「あんまり、興味あるとかないとか、考えたことなかったなあ」
「じゃ、じゃあさ、兵助がこれから時間があるならさ、一時間だけ俺に付き合って!一緒に動物園行こっ。ね?」
「・・・」
久々知はなおもなにか考えるふうだった。忍術学園は夜でもみな何かしら鍛錬に励んでいて、学園の静まるときなどないのだと前に久々知は話してくれた。ならば、久々知もこれから鍛錬やら課題やらをする時間に充てたいのだろう。タカ丸はあせあせと言葉を継ぐ。
「お、俺のほうで一時間分のバイト代も払うから!えっと、久々知君の時給幾らだっけ?時間外手当てってことで二倍にしとくよ。ね、どう?」
「タカ丸さん、どんだけ動物園行きたいんですか」
タカ丸の必死に久々知は苦笑すると、チケットを一枚受け取ってすたすたと門に向かって歩き始めた。
「急ぎましょう、時間がどんどん短くなる」
「あ、うん、ありがとう!俺、今、よっしゃーっ!ってガッツポーズしたい気分」
「なんですそれ」
肩を震わせて久々知はくつくつと笑う。笑うと、ますますただの17歳だ。タカ丸はほっとする。17歳なのに、あんなふうに、冷たい瞳をするのはよくない。無表情で躊躇いもなく、誰かの皮膚を裂くのだって、そんなこと、兵助にさせるのはよくない。
 
 
***
 
 
動物園に入ると兵助は入場門で渡されたマップを広げ、ルート通りに淡々と回り始めた。その律義さにタカ丸は思わずにやにやと笑みが零れるのを止められない。
「俺、動物園久しぶりかも。子どものときはじいちゃんと父さんとよく一緒に来てたんだけど」
「俺は初めてです」
「え」
タカ丸が足を止める。兵助はさして感情の滲まない顔でずんずんと象の檻に近づく。
「でっけー。俺、象って初めて見ます。でかいですね」
「兵助、動物園初めてなの」
「機会がなかったですからね。俺は家族を早くに失くしてるし、だから、遊園地も水族館もそういや行ったことはないかな」
「そうなんだ。ごめん、変なこと聞いちゃって」
「いいですよ。そういうやつもいます。家族失くしたのなんて、別に特別な不幸じゃない。いつかはみんな失くすのだし、俺はたまたま早かっただけです」
兵助の口調はどこまでも淡々としている。タカ丸は兵助の隣に並ぶと、塗装の剥がれ掛けて赤錆びた檻を両手で握った。夕陽が眩しくて、視線を足元に落とす。
「兵助は強いね。俺は、じいちゃんが死んでしまったことも母さんが死んでしまったことも、思い出すたび辛いなあ寂しいなあって思うよ」
「俺も何も思わないわけではないですけどね。でも、それで泣いてたって何が変わるわけでもないし」
「うん、それはそうだけど」
タカ丸が俯いたまま顔を上げられずにいると、ふいに隣で兵助が「あ、」と声をあげた。
「頼めば象に餌やりできるんですって。100円で。やってみません?」
 
長い木の棒の先に林檎が皮も剥かれず丸いまま刺さっている。これを檻の向こうから象に向かって突き出すのだという。タカ丸の突き出した林檎は高く掲げる前に像に鼻で器用に絡め獲られてしまいそれで終わった。それでも、
「わっ、たべたあ!」
とタカ丸ははしゃいだ声をあげたのだが、久々知はそれを見守ったあとで自分ばかり要領を得て、わざと象の鼻の届かないギリギリの位置で林檎を止めてみたりして、遊んだ。
「ふふん、悔しいか、象よ。悔しくば獲ってみよ」
などと勝気に笑って芝居じみた台詞を吐くものだからタカ丸は声をあげて笑ってしまう。
「もー、意地悪したらかわいそうじゃん。ちゃんとあげなよ」
「ほれほれ」
からかうように林檎を振っていたら、象の鼻がちょいとあたって、檻と象の暮らすコンクリート造りの小屋の間に林檎は落ちてしまった。
「あーあ、」
タカ丸も久々知もふたりして同じように溜息をつく。
「意地悪せずに最初っからあげてればよかったね。もったいない」
「そうですね」
兵助は頷いて、林檎から視線を外さない。タカ丸はそのせいでその場所を離れがたく、兵助に「もう一回やる?」と訊ねた。兵助はやはり視線を落ちた林檎から外さないまま、ふいに呟いた。
「すいませんでした」
「へ?」
「仕事のためとはいえ、俺と、恋人同士なんて設定にしちゃったでしょう。あの扇子屋の若主人に、嘘までつかせて」
「え、優ちゃんのこと?いいよ、そんな、命には代えられないって。俺のほうこそ、我が侭言って、嘘つきたくないとか恋人同士は困るだとか、色々我が侭言ってごめん。今日、あんなふうに命懸けで守ってもらってさ、俺やっぱ、何にも知らないで我が侭いっぱい言ったなって反省した。ほんとに危機感足りないやつで、ごめんね」
「俺、愛とか恋とかこれまで考えたことなくて。俺の同級生にも愛だの恋だのってよく口に出す奴がいるんだけど、酔狂だなって、忍者にはそんなもの必要ないってそいつのことずっと内心で蔑んでた。だから、タカ丸さんにも俺のそういう価値観押し付けて嫌な思いいっぱいさせた。タカ丸さん、小松田優作のことが好きなんでしょう。なのに、彼の目の前で、あんなこと言わせてごめんなさい。あとで、竹谷にめちゃくちゃ叱られた。お前最低だぞって。俺もそう思ったから、だからすいませんでした」
深く頭を下げられて、タカ丸はそんなのいいよ、と笑おうとしたけれどできなかった。久々知の一言がどうしても心臓を強く掴んでタカ丸の呼吸を乱した。
(タカ丸さん、小松田優作のことが好きなんでしょう。)
「俺、そんなわかりやすかった・・・?」
「え?」
久々知が不思議そうに顔を上げた。タカ丸の声が震えていたからだった。タカ丸は久々知が見ていると思い、唇の震えを止めようとしたけれどどうにもできなかったので、上歯で噛んだ。それから、じわりと瞳に滲んでくる霧を必死に払おうとした。
けれどもそれもできずに、顔を背けて久々知に背を向けた。
「タカ丸さん」
「俺、好きじゃないからね。優ちゃんのこと、好きなんかじゃ、ないからね」
「タカ丸さん、俺、」
「誰にも言わないでね。知らないふりをしていてね」
お願いだからね。
それからふたりはしばららく動物園をぐるりと巡ったけれども、誰も口を聞かないままだった。夕焼けの中「蛍の光」が物悲しげに流れて、隣を少し離れて歩くタカ丸の背中が少し丸くて、薄い背中が寂しげで、久々知は手を握りたいと思ったけれど、それはできなかった。
「さよなら」
別れ際に手を振ると、タカ丸も、「うん、さよなら」と笑顔を浮かべてくれたので、それで少し安堵した。そんなことが、とても嬉しかった。


---------- キリトリ ----------- 
久々知はアルバイトで、タカ丸の護衛をすることになった。

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