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011:柔らかい殻(久々知とタカ丸)

「せっかくだから、入っていかない?」
そういってタカ丸が差し出したのは、動物園のチケットだった。それはちょうど、ふたりの背後に広く入り口を開いている。久々知は差し出されたふたりぶんのチケットと動物園を交互に見遣って、きょとんと目を丸くした。ぱちぱちと瞬きをするたびに、くるんとカールした長い睫毛が上下する。その様をタカ丸はジッと見ている。
「あんなことになっちゃったけど、ほんとは、ここに誘うつもりで兵助を呼んだんだ」
久々知は顔を上げる。門前に掲げられた大きな時計は4時を指していた。
「あと一時間で終わっちゃいますよ」
「うん、そうなんだけど。でも、あと一時間あるから」
「それ、当日券ですか」
「え?」
「今日しか使えないんですか」
タカ丸は手元のチケットをまじまじと覗き込む。
「えっと、・・・二日間有効だって、書いてある」
「買ったの今日ですよね?あと一日ありますから、明日親しい人でも誘ってゆっくり楽しんだらどうです。俺は遠慮しときますから」
「兵助、動物園とか興味ない?」
兵助はきょとんとしたままタカ丸を見上げる。忍術学校の優等生だって、忍者の仕事ももう幾つかこなしてきてるんだって、そんなことを知ってしまった後でも、やっぱり久々知の外見はただの17歳だ。タカ丸は久々知に庇われたときの、あの敵を見る冷たい無表情を思い出して身体を震わせた。
「あんまり、興味あるとかないとか、考えたことなかったなあ」
「じゃ、じゃあさ、兵助がこれから時間があるならさ、一時間だけ俺に付き合って!一緒に動物園行こっ。ね?」
「・・・」
久々知はなおもなにか考えるふうだった。忍術学園は夜でもみな何かしら鍛錬に励んでいて、学園の静まるときなどないのだと前に久々知は話してくれた。ならば、久々知もこれから鍛錬やら課題やらをする時間に充てたいのだろう。タカ丸はあせあせと言葉を継ぐ。
「お、俺のほうで一時間分のバイト代も払うから!えっと、久々知君の時給幾らだっけ?時間外手当てってことで二倍にしとくよ。ね、どう?」
「タカ丸さん、どんだけ動物園行きたいんですか」
タカ丸の必死に久々知は苦笑すると、チケットを一枚受け取ってすたすたと門に向かって歩き始めた。
「急ぎましょう、時間がどんどん短くなる」
「あ、うん、ありがとう!俺、今、よっしゃーっ!ってガッツポーズしたい気分」
「なんですそれ」
肩を震わせて久々知はくつくつと笑う。笑うと、ますますただの17歳だ。タカ丸はほっとする。17歳なのに、あんなふうに、冷たい瞳をするのはよくない。無表情で躊躇いもなく、誰かの皮膚を裂くのだって、そんなこと、兵助にさせるのはよくない。
 
 
***
 
 
動物園に入ると兵助は入場門で渡されたマップを広げ、ルート通りに淡々と回り始めた。その律義さにタカ丸は思わずにやにやと笑みが零れるのを止められない。
「俺、動物園久しぶりかも。子どものときはじいちゃんと父さんとよく一緒に来てたんだけど」
「俺は初めてです」
「え」
タカ丸が足を止める。兵助はさして感情の滲まない顔でずんずんと象の檻に近づく。
「でっけー。俺、象って初めて見ます。でかいですね」
「兵助、動物園初めてなの」
「機会がなかったですからね。俺は家族を早くに失くしてるし、だから、遊園地も水族館もそういや行ったことはないかな」
「そうなんだ。ごめん、変なこと聞いちゃって」
「いいですよ。そういうやつもいます。家族失くしたのなんて、別に特別な不幸じゃない。いつかはみんな失くすのだし、俺はたまたま早かっただけです」
兵助の口調はどこまでも淡々としている。タカ丸は兵助の隣に並ぶと、塗装の剥がれ掛けて赤錆びた檻を両手で握った。夕陽が眩しくて、視線を足元に落とす。
「兵助は強いね。俺は、じいちゃんが死んでしまったことも母さんが死んでしまったことも、思い出すたび辛いなあ寂しいなあって思うよ」
「俺も何も思わないわけではないですけどね。でも、それで泣いてたって何が変わるわけでもないし」
「うん、それはそうだけど」
タカ丸が俯いたまま顔を上げられずにいると、ふいに隣で兵助が「あ、」と声をあげた。
「頼めば象に餌やりできるんですって。100円で。やってみません?」
 
長い木の棒の先に林檎が皮も剥かれず丸いまま刺さっている。これを檻の向こうから象に向かって突き出すのだという。タカ丸の突き出した林檎は高く掲げる前に像に鼻で器用に絡め獲られてしまいそれで終わった。それでも、
「わっ、たべたあ!」
とタカ丸ははしゃいだ声をあげたのだが、久々知はそれを見守ったあとで自分ばかり要領を得て、わざと象の鼻の届かないギリギリの位置で林檎を止めてみたりして、遊んだ。
「ふふん、悔しいか、象よ。悔しくば獲ってみよ」
などと勝気に笑って芝居じみた台詞を吐くものだからタカ丸は声をあげて笑ってしまう。
「もー、意地悪したらかわいそうじゃん。ちゃんとあげなよ」
「ほれほれ」
からかうように林檎を振っていたら、象の鼻がちょいとあたって、檻と象の暮らすコンクリート造りの小屋の間に林檎は落ちてしまった。
「あーあ、」
タカ丸も久々知もふたりして同じように溜息をつく。
「意地悪せずに最初っからあげてればよかったね。もったいない」
「そうですね」
兵助は頷いて、林檎から視線を外さない。タカ丸はそのせいでその場所を離れがたく、兵助に「もう一回やる?」と訊ねた。兵助はやはり視線を落ちた林檎から外さないまま、ふいに呟いた。
「すいませんでした」
「へ?」
「仕事のためとはいえ、俺と、恋人同士なんて設定にしちゃったでしょう。あの扇子屋の若主人に、嘘までつかせて」
「え、優ちゃんのこと?いいよ、そんな、命には代えられないって。俺のほうこそ、我が侭言って、嘘つきたくないとか恋人同士は困るだとか、色々我が侭言ってごめん。今日、あんなふうに命懸けで守ってもらってさ、俺やっぱ、何にも知らないで我が侭いっぱい言ったなって反省した。ほんとに危機感足りないやつで、ごめんね」
「俺、愛とか恋とかこれまで考えたことなくて。俺の同級生にも愛だの恋だのってよく口に出す奴がいるんだけど、酔狂だなって、忍者にはそんなもの必要ないってそいつのことずっと内心で蔑んでた。だから、タカ丸さんにも俺のそういう価値観押し付けて嫌な思いいっぱいさせた。タカ丸さん、小松田優作のことが好きなんでしょう。なのに、彼の目の前で、あんなこと言わせてごめんなさい。あとで、竹谷にめちゃくちゃ叱られた。お前最低だぞって。俺もそう思ったから、だからすいませんでした」
深く頭を下げられて、タカ丸はそんなのいいよ、と笑おうとしたけれどできなかった。久々知の一言がどうしても心臓を強く掴んでタカ丸の呼吸を乱した。
(タカ丸さん、小松田優作のことが好きなんでしょう。)
「俺、そんなわかりやすかった・・・?」
「え?」
久々知が不思議そうに顔を上げた。タカ丸の声が震えていたからだった。タカ丸は久々知が見ていると思い、唇の震えを止めようとしたけれどどうにもできなかったので、上歯で噛んだ。それから、じわりと瞳に滲んでくる霧を必死に払おうとした。
けれどもそれもできずに、顔を背けて久々知に背を向けた。
「タカ丸さん」
「俺、好きじゃないからね。優ちゃんのこと、好きなんかじゃ、ないからね」
「タカ丸さん、俺、」
「誰にも言わないでね。知らないふりをしていてね」
お願いだからね。
それからふたりはしばららく動物園をぐるりと巡ったけれども、誰も口を聞かないままだった。夕焼けの中「蛍の光」が物悲しげに流れて、隣を少し離れて歩くタカ丸の背中が少し丸くて、薄い背中が寂しげで、久々知は手を握りたいと思ったけれど、それはできなかった。
「さよなら」
別れ際に手を振ると、タカ丸も、「うん、さよなら」と笑顔を浮かべてくれたので、それで少し安堵した。そんなことが、とても嬉しかった。


---------- キリトリ ----------- 
久々知はアルバイトで、タカ丸の護衛をすることになった。
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