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017:√(五年生の一年時)(自分設定横行)

お父さん、お母さんへ
 
 
忍術学園に来てから、三か月がたちました。ぼくは、五月にちょっとおなかをこわしてしまったけれど、それ以外は元気です。
どうしておなかが痛くなったのかというと、保健室の新野先生がおっしゃるには、ストレスだそうです。ぼくは、友達はすぐにたくさんできたけれど、りょうで同じ部屋になった鉢屋三郎くんが苦手で、どうやって仲良くなったらいいかわからなかったので、それでおなかが痛くなったのです。
鉢屋くんはどういう人かというと、いじわるな子です。人の嫌がることをいっぱい言います。ぼくも、毎日、「宿題やるのおそいね」とか「ねぞうわるすぎだよね」とか「そんなにゆうじゅうふだんだと忍者になるのは無理だよ」とかいやなことをいっぱい言われます。先生に言ったら、「三郎くんはああいう子だと思って無視をしなさい。世の中にはああいう子もいるんだよ。色んな子がいるんだよ」とおっしゃられたので、先生の言われたとおりにしようと思って、がんばって無視をします。本当は、「いやなこと言われたな」と思っても、気にしないふりをします。そうすると、鉢屋くんはますます、ぼくのまわりにべったりくっついて「人のこと無視したらダメなんだよー。不破くんは人のこと無視するわるい子なんだー。へーえ」といやみをいっぱい言ってきます。ぼくは、不破くんはどうして人のいやがることばっかり言うのかな、と思います。不破くんは勉強もできるし、実技の成績だってとってもよいけれど、人のいやがることをいっぱい言ったりやったりするので、みんなからきらわれています。ぼくもあんまり好きじゃありません。
お父さんとお母さんは、人のこときらいと言ったらいけませんと、ぼくをしかるかもしれないけれど、でも、本当にいやな子なんです。
こんなことがありました。
一年い組に、久々知兵助くんという子がいます。あんまりみんなとしゃべらないで、休み時間もひとりで勉強したり、本を読んでいたりします。ちょっと変わった子です。でも、話しかけるとちゃんとおしゃべりしてくれるので、たぶん、ひとりで静かでいるのが好きな子なんだろうと思います。
ゴールデンウィークになっても久々知くんは家に帰らないでずっとりょうにいました。家が遠い子や特別の事情のある子は一週間ぐらいの休みだと家に帰らないので、そのことは別に変ではありません。だけど、この間、夏休みのお話を先生がしてくださったときに、「夏休みはりょうが閉まってしまうので、みなさんはその間家に帰らなくてはなりません。」とおっしゃって、それから、「久々知くんはあとで先生のところへいらっしゃい、いっしょにお話をしましょう」と言われました。久々知くんはふつうの顔で、「はい」と返事をしていたけれど、ぼくらは、久々知くんはどういう事情があるのかしらとちょっと気になると思いました。
掃除の時間になってぼくが外で掃き掃除をしていると、クラスの友達が何人か来て、「職員室をこっそりのぞいてきた。久々知くんって、家族がいないみたいだよ。帰るところがないから、先生のうちに泊まるんだって」と教えてくれました。ぼくは、なんだかいやな気持ちになったので、「そういうことあんまり言いふらさないほうがいいと思うよ」といったけれど、みんなは「別に悪口じゃないよ」と言って、また別の子に話をしに行ってしまいました。
となりで話を聞いていた鉢屋くんが口笛を吹いて、「てんがい孤独の身の上ってやつだな」と言いました。鉢屋くんは難しい言い回しをいっぱい知っています。
放課後になってい組の友達とサッカーをしようと思ってい組のクラスにいくと、鉢屋くんがいました。鉢屋くんはにこにこしながら本を読んでいる久々知くんの前に立って、久々知くんを見下ろしていました。鉢屋くんはこうやって言いました。
「久々知くんの家族を殺したのはぼくの一族の人だよ」
ぼくは、同じ年の子から“殺す”という言葉が出たので、ひやりとしました。実習で大きな失敗をしてけがをしそうになったときみたいに、どきどきして体がふるえて心臓がきゅってちぢむ感じがしました。そうしたら久々知くんは表情を変えないで、「ちがうよ」と言いました。
「ぼくの家族のかたきはちがう人だよ。それにもういないよ」
「なんで」って他の友達が聞いたら、久々知くんは「死んだから」と言いました。それから、誰もいないところをちょっとにらみました。ぼくは、そのとき、久々知くんのことをちょっとこわいと思いました。それから、久々知くんはまたひとりで本を読み始めました。ぼくは急にサッカーがしたくなくなったので、久々知くんを、「図書室に行こう」とさそいました。そうしたら、鉢屋くんも「ぼくも行く」と行ってついてきました。僕はいやだなあと思ったけれど、久々知くんが「いいよ」と言ったので、なにもいいませんでした。久々知くんはいい人だと思いました。
図書室までのろう下で、鉢屋くんが、久々知くんに、「どうしてかたきの人は死んだの。どうしてそれがわかったの」と聞きました。ぼくは「やめなよ」と止めたけれど、久々知くんはあっさり答えていました。それはびっくりの答えでした。
久々知くんは、なんでもない顔で、「ぼくが殺したから」と言いました。
ぼくはどきどきして言葉が出ませんでした。でも、ぼくのとなりで鉢屋くんは、「そっかー」とふつうに返事をしていたので、ぼくはすごいと思いました。
それから鉢屋くんは、「ぼくの一族はわるいこといっぱいやってるんだよ」と言いました。久々知くんにいやなことを言わせたので、そのお返しでそんなことを言ったのかなと思いました。鉢屋くんは、こうやって言いました。「いっぱい人を殺してるし、いっぱい人をだましてるんだよ。だから、ぼくもいやなやつなんだ」
久々知くんは「ふうん」と返事をしたっきりでした。ぼくはやっぱり何もいえませんでした。
部屋にもどってから、鉢屋くんがベットにねころがってまんがを読み始めたので、ぼくは宿題をしながら言おう言おうと思っていたことを小さな声で言いました。
「鉢屋くんの、おうちは、関係ないと思うけどな」
鉢屋くんは何も言いませんでした。部屋がしーんとしたので、ぼくはドキッとしました。鉢屋くんをふり返ったら、鉢屋くんはだまってじっとこっちをみていました。ぼくは顔が真っ赤になるのが分かりました。ぼくは、こんなにまじめに、人から見つめられたのは初めてだと思います。だからうそをついたりごまかしたりしては失礼だと思ったので、どきどきしながらぼくの思っていることをおしまいまで言いました。
「鉢屋くんの、おうちがいやなことばっかりしてても、それは鉢屋くんがいやなやつってこととはちがうと思うけどな」
「でもぼくいやなやつだろ」
「それは、鉢屋くんが、いやなこといっぱいするからだよ」
「ぼくがいやなことをしてもしなくても、ぼくはいやなやつだよ。だからぼくはいやなことをするんだよ」
「・・・よくわかんない」
「きみはぼくじゃないから」
ぼくは鉢屋くんの言葉がちっとも理解できませんでした。だけど、理解したいと思いました。だから正直それを伝えると、鉢屋くんは変な顔をして「変なの。不破くんって変な人だね」と言いました。鉢屋くんはやっぱりいやな人です。
もうすぐ夏休みですね。家に帰ったら、またお母さんのおいしいご飯がいっぱい食べたいです。お父さんともキャッチボールがしたいです。
それまでお元気で。
 
 
不破雷蔵
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