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よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
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女の子なんかになりたくない

は組女体化。



実は三治郎ってば、可愛い顔しては組女子の中じゃいちばん運動神経がよかったりするのだった。

三治郎が振るったバットは、飛んできたボールをものの見事に打ち返した。スッコーンなんて気持ちのいい音が響いて、高い青空にボールが吸い込まれていく。
「凄い!三治郎ホームランだようッ!」
「えへへっ、わーい」
駆け寄ってきた同チームの伊助と両手を握り合ってぴょんぴょんと飛び跳ねる。体育のときだけ結んでいる三治郎のポニーテールがしっぽのように揺れた。細くて色白で、つぶらな瞳が繊細で儚げな女の子のようで。三治郎は一見するとインドアな大人しげな美少女なのに、想像を裏切ってたくましい。所属する陸上部では、毎年大会に出て、得意の長距離で好成績を収め続けている。
グラウンドを半分に割って、隣ではは組メンバーがサッカーをしていた。審判役にあたった団蔵はぼんやりと女子のソフトボールを見ていた。
「まぶしーぜ」
「何が、太陽が?」
虎若の言葉に団蔵がにやりと笑う。「決まってるだろ」
「まったまた~旦那のスケベ」
ふたりでちいさくひっひっひ、と笑いあっていたら、庄左ヱ門が注意しにふたりのもとへやってきた。
「ふたりとも、ちゃんと試合見てなきゃだめだってば」
「へ~い」
団蔵は軽い挨拶を放ると、やっぱり三治郎を見ている。もう一度バットを振りかぶる、その瞬間の三治郎の真面目な顔をじっと見ている。またもや綺麗な放物線を描いてボールが青空をかき分けていく。それをみて三治郎が嬉しそうに微笑むと、団蔵も口元をほころばせた。
「上手いな、三治郎、野球」
呟くと、「まあそりゃあ、」と後を続けたのは庄左ヱ門だった。
「三治郎、小学校の頃虎若と同じ少年野球チームはいってたんじゃなかったっけ?」
視線が、同意を求めるように虎若に向けられる。虎若は頷いた。
「そう、どうしても入りたいって何日もうちの父ちゃんに頼み込んでくるからさ、特別にオッケーしたんだ。小学校までなら、って。中学にあがるとき、野球チームからも抜けることになって、三治郎も悔しがってたよ」
虎若の父親は少年野球チームの監督をやっていた。虎若は小学校のときの三治郎を思い出す。あのときから、顔立ちは女の子らしかった。それなのに、何度断られても「野球をやらせてください」と頼みに来る姿を不思議に思いながらみていた。中学にあがるとき、野球チームの三治郎さよならゲームで、彼女は見事なホームランを決めた。みんなの前で笑顔で、「楽しかったです、ありがとう」と笑っていたけれど、帰り道では虎若の横で声を抑えて泣いていた。
「悔しい、なんで私男の子に生まれなかったんだろう」

「三治郎野球上手いんだな」
体育が終わって、団蔵が話しかけた。三治郎は微笑んで「ありがとう」といった。変に謙遜しないところが、団蔵にはとても好ましかった。
「小学校のときやってたんだって?」
「うん、私スポーツの中でも野球ってすごく好きなの。だから我が侭言って虎若のお父さんに入れてもらっちゃった」
「たいした戦力だったって虎若褒めてたぜ」
「ほんと?嬉しいな」
三治郎の視線が虎若を探す。彼は黒板消し当番の伊助を手伝っていた。伊助は背が小さいほうだから、黒板の上のほうは爪先立ちしないと届かないのだ。それを、虎若が高い背と長い腕でゆうゆうと消してゆく。
「すごい、」と伊助が褒める横で虎若が照れたように笑うのが見えた。
庄左ヱ門が伊助に何か話しかけようとして遠慮するのを見つける。ぼんやりと見つめていたら、そばで団蔵の声が三治郎の名前を呼んだ。
「三治郎、なあ、いいかな?」
「え、ごめん、何?ぼうっとしてた」
「ありゃ。せっかく俺、わりと勇気出して誘ったのに」
「え、なに?」
「日曜一緒にあそばねえ?」
「ああ、なんだ、そんなことか。いいよ。そんなの勇気出すようなことでもないじゃん」
は組メンバーは仲がいいから休日に一緒に遊ぶなんてよくあることだ。三治郎の言葉に団蔵は苦笑した。
「でも俺的には勇気が必要だったんだよ」
「どうして?」
「どうしてって、そういうことじゃん?」

・・・どういうこと?

きょとんとする三治郎を残して、団蔵は「じゃーな」と手を振っていってしまう。その少しはなれたところで、兵太夫がぼんやりそれを見つめていたことを、三治郎は気がつかなかった。

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壺の中の女

綾部。
綾タカ書きたいと思いつつ、綾部が謎過ぎて書けない。
不思議ちゃん難しい。

綾部ファンはたぶん読まないほうがいいです。


いい夢をみた。
とてもいい夢をみた。喜八郎は思わず笑みが零れるのを止められなかった。にやにやしたまま食堂へ行くのはみっともなかろうと思ったが、年頃の男子が飯を抜くことは地獄に落ちるのに等しい。喜八郎は結局にやにやしたまま食堂へ出かけた。Aランチを頼んで席に着くと、真向かいでBランチを食べていた三木ヱ門が、
「どうした綾部、気持ちの悪い」
と眉を潜めた。
「いい夢をみたんだとさ」
喜八郎の隣にCランチを運んだ滝夜叉丸が滑り込んでくる。この3人は別段仲がよいわけでもなかったが、席が埋まっている朝食のラッシュ時には学年ごとに座るという暗黙の了解の中で、学年でも変人扱いされ更に浮いているこの3人は、畢竟固まって座る以外になかったのだった。
「どんな夢だ」
「止めておけ、三木ヱ門」
好奇心をあらわにした彼を、滝夜叉丸が遮った。
「聞かぬが花だ」
「何故」
「わからいでか、こいつの”いい夢”だぞ。どんな奇怪な夢だか計り知れんわ」
「失礼な、美女の夢だ」
綾部はA定食のスクランブルエッグを器用に箸で摘んで口に運びながら、しれっと答える。
「ほう、美女か。して、その美女がどうするのだ」
三木ヱ門がB定食の卵焼きを口に入れて至福の笑みを浮かべる。彼は好き嫌いが激しい。食事だけでない、世界全般のものがそうだ。彼は世にあるすべてのものを好きか嫌いかに選り分けないといけないと信じているらしい。彼にとって嫌いなもののひとつが女だ。面倒くさくていけないという。彼は女の代わりに火器・銃器を愛する。
「私の蛸壺に入ってな、うっとりしているのだ。ちょうど人が立って入れるだけの蛸壺を私は夜のうちに掘っておいた。そうして、蓋をせずにほかっておいたのだ」
「誰も掛かるまいよ」
「そうさ。でも、その美女は蛸壺を見つけて、しばらくじいっとそれを観察すると、そのまま其処に入った。ちょうど人の身長ほどの蛸壺というのは自分では絶対に出られないだろう、私は近づいていって、君どうしてこんなところに入ったりなんかしたの、馬鹿だねと言った」
「酷い男だ」
「私は酷くない。女が蛸壺だとわかっていて自分から落ちたのだよ」
「それでどうした」
滝夜叉丸がCランチの目玉焼きを食む。目玉焼きを美しく食べるのはコトだ、と綾部は思っている。半熟の黄身は唇につくとぬらぬらする。それが気持ちが悪い。自分はもちろん、人の唇がそうなっているのでも嫌だ。だから綾部は固焼きの黄身しか食さない。食堂の目玉焼きの黄身は半熟だから、綾部は絶対に食べない。人が食べるのもみたくはない。見つけると視線を避ける。
だが、滝夜叉丸の食べ方だけは別だ。許す。彼は半熟の黄身を箸を使ってとても器用に片付ける。黄色いぬらぬらを唇につけることもない。綾部は、滝夜叉丸が彼自身を自慢して誇るほどには彼を重く見ていなかったが、彼の目玉焼きを食べる技術だけは尊敬に値すると思っていた。
「穴に水を注いでやった」
「酷いな」
「大変冷たがって身体をくねらせた。泥水になって女の白い肌を汚した。水が捌けてしまってから女に足踏みをするよう命じた。女が土を踏むたびぴちゃぴちゃと水音がして汚水が跳ねた」
「悪趣味だ」
滝夜叉丸が眉を潜めて吐き捨てるように言った。
「どうもお前の考えていることはわからん」
「そうかしら。とても分かりやすいと思うのに。つまり私は美しいものをこんなふうに汚すのはとても好いと思ったんだ」
「私もよくわからない」
「君の場合は、ねえ。私も火器の好さなんて解らないもの」
滝夜叉丸は綺麗に皿を片付けて席を立った。三木ヱ門もあとに続く。一人残された綾部はゆっくりスクランブルエッグを咀嚼しながら、今日一日を平穏無事で過ごすことの退屈さに溜息を吐いて茶を啜った。

呼びたい名前

は組大人版 死にネタシリーズ

だけど今回はだれも死んでない。 団蔵


きり丸の(たぶん死体)探しは、半年ほど続けて、何の収穫もなかったからそろそろ止めることにした。
土井先生に結果を報告したその帰路で、俺は連れの清八にきり丸の話をした。
「戦災孤児だったんだ」
「じゃあ俺とおんなじですね」
清八も戦災孤児だった。ただ、親爺に拾われたときはどういう経緯でか盗賊の一味に飼われていた。ちょうど親爺の仕事の最中を邪魔したのを、親爺が逆に捕まえたのだった。盗賊は清八を見捨ててすぐに逃げた。清八は殺されても仕方ないと思ったらしい。大人しく親爺の前に頭を垂れたのを、親爺が不憫に思って引き取ったのだった。
「性格はお前よりずっと冷めてて小賢しかったかな。大人の優しさとか、甘えても心の底からは絶対に信じない奴だった。だからひとりでも生き抜いてこれたのかもな」
いつだったか。きり丸は、俺に土井先生のことを語ってくれた。土井先生はいい人だ。仏さんみたいな人だ。俺は仏さんなんて信じていないけれども、地蔵の前に供えてある握り飯だって平気で食っちまうようなやつだけども、土井先生が実は仏さんでしたっつうんならおどろかねえ。俺はどうしようもないやつで、土井先生のことを心の底から信じているけれども、でももし明日土井先生が冷たく俺の荷物を放って「家から出て行け」っつったって俺は驚かないと思う。結局信じきれてねえんだな。誰にも何にも期待できないし、心を打解けきれない。どうしようもねえやつだよ、俺は。
卒業後、きり丸はフリーの忍者になった。利吉さんに頼み込んで口を聞いてもらったらしい。最初の仕事が暗殺だったと聞いた。利吉さんはもちろん嫌がっただろう。だが、暗殺業は金払いがいい。きり丸の初仕事は成功して、それからは闇の闇のような仕事でよく頼られるようになった(らしい)。(らしい、というのは俺が暗殺関係の仕事は受けないようにしているから、あくまで噂で、事実関係の裏づけが取れていないからだ。でもたぶん、真実だろう)
「若旦那の大切なお友達ですね」
「ああ」
清八はにこにこしている。その笑顔がくすぐったい。俺にとっての仏さんはたぶん清八だ。幾人女を抱いたって、最後にはいつも清八に帰る。清八の名前は俺にとって呪文か何かだった。不安なとき、孤独なとき、呼べばいつでも俺の胸に光が灯った。
「ばっかだなあ、ひとりで消えちまって。猫みたいなやつだな」
「でもなんか、いいですね、そういうの」
「馬鹿、何もよくねえよ!」
俺は清八の答えが気に入らなくて怒鳴りつけた。清八もきり丸のように消えてしまったらどうしようかと思った。名前を呼んでも、もう返事の永遠に帰ってこない日々。そんな未来を想像するのは、俺にとって凄い苦痛だった。
「すいません」
清八は謝る。夕陽の中で、よく日に焼けた逞しい腕が輝いている。
「俺、引き取られた日の夜に、旦那様から”俺の子どもあやしてろ”って、あなたを渡されて。凄くびっくりしました。だって、俺がどこの誰かもわからないのに。それも、さっきまで盗賊の一味やってたような餓鬼でしょう、そんなやつにふにゃふにゃした赤ん坊を渡してくれたんですよ。俺、そのとき生まれて初めて泣いて。凄く嬉しくて。俺は生涯あなたを守ると思った」
「うん、そうか」
俺と清八は日暮れの街道をゆっくりと歩いた。
きり丸は、たぶん死んだ。先生に見つからなかったと告げたら、先生は、そうかあ、やっぱり、なんにも残してくれなかったかあ!と吹っ切れたみたいに笑った。
「死んだらおしまいっすよ、センセ」
土井先生はきり丸を口真似た。先生は生徒を笑わせるような器量は中の下で、そんなに面白いことをやってくれるわけでもなかったしそっちの才能も無かった。そういうので人気があるわけではなかったのだ。だけどきり丸の口真似は、いっしょに暮らしてただけあって結構似ていた。
「私は忍者だから生徒の死なんていくつも聞いて来ている。これが初めてじゃない。きり丸のような戦災孤児も珍しくはない。一緒に暮らさないまでも、うちに泊めた子供はきり丸以外にもいる。まだ生きていることもいるし、やっぱり死んでしまった子もいる。私はなるべくその子達の遺品や骨を捜して、持っていることに決めているんだ。なに、供養というわけでもない。自分のためだよ。こういう子がいた、そして、こういう子どもを少しの間世話した大人がいた。そういうことを誰かに知ってもらいたくてね」
俺は話を聞くだにきり丸を探し出せなかったことを先生に申し訳なく思った。夕陽はまもなく暮れようとしていた。少しずつあたりが闇に染まっていく中で、俺は何のよすがも遺さず逝ったきり丸のことを思った。誰にも己を残していかず消えていくことをよしとする潔さは、俺には到底持ち合わせないものだった。
「俺は死ぬときはお前の傍で死ぬぞ、清八」
「やめてくださいよ、私のほうがあなたより先に死にます」
「そんならそれでもいいさ。だが、俺の傍だぞ」
「もちろんです」
世界がとっぷりと闇に沈む。伊助はどうしているか、乱太郎は、土井先生は。自分の心を砕いた片割れが死ぬとはどういうことか。どれほど辛いものか。考えるだに怖かった。清八、と怖い夢を見たときはいつもそうするように小声で名を呼んだ。俺の呪文。呼びたい名前があるか。生きたいと心から願うとき。死の間際。呼びたい名前が。
はい、若旦那、と小さく返事が聞こえた。

或る一生

は組大人版 死にネタシリーズ(嫌なシリーズ)


きり丸


庄左衛門が死んだ。任務の最中に負った矢傷が化膿したのだ。あのしっかりものの庄左衛門が消毒をしなかったとは思えないけれど、と僕が首を捻ると、きり丸は齧りかけの餅を皿に戻してしまってぼんやりした面持ちで「庄ちゃんはいいやつだったからなあ」と言った。
庄ちゃん、という呼び方が酷く懐かしくて、僕は伊助を思い出した。
は組の仲間を「ちゃん」づけで呼びあうのは、2年の途中頃まで続いた。クラスがそれぞれに分かれても会う度に「ちゃん」をつけていた。それを見て他のクラスメイトは皆笑った。先生は仲がいいなァ、お前らと苦笑しておられた。それでも、少年期特有の照れくささでいつからかだんだんと「ちゃん」づけで呼ぶことはなくなった。それから少しずつ、合う回数も減っていった。
僕らは自然な流れで、道を違えていったのだ。
庄左衛門の死について伊助と少し話をした。
そのとき伊助は、ぼろぼろと涙を流して何度も庄左衛門を呼んだ。そのとき、伊助は「庄ちゃん」と呼んでいたのだ。庄左衛門、じゃなく、庄ちゃんと。子ども帰りしたみたいに。
「任務が終わって引き上げる最中に、焼け出された子どもがいたんだ。酷い火傷を負っててな、俺がぼうっと見てたら、薬をやれっていうんだ。俺と戦災孤児を見て、何か思ったのかもしれない。庄ちゃんはそういう、当たり前のやさしさを持ってるだろ。それでも俺はほっとけって言った。薬は残り少なかったし、戦災孤児なんて、中途半端にちょっと優しくしたってほとんど無意味なんだよ。生きるやつはずるしてでもなんでも勝手に生きてくし、そうじゃないやつは死ぬ。でも庄ちゃんは、くれてやれってさ。俺は結局薬を塗ってやった。名前を聞くから、礼ならあすこの男の顔をよーく覚えててやんなっつって放ってやった。庄左衛門には帰ってきてから薬を塗ったけど、もう遅かったんだな。晩には高熱がでて唸り声を上げて苦しがった。」
きり丸は僕の手の甲を撫でながら言った。
きり丸は僕を抱いたりしない。
「乱太郎は俺にとってそういうんじゃないんだ」
そういってきり丸は僕の身体の色んなところをべたべた触る。それは情欲を掻き立てるふうでもなくて、子どもが自分とは肌さわりの違う両親の手を、好奇心でずっと撫でているのに似ていた。きり丸は僕の肌の感触や、肉の丸みや骨の太さや、血の温みや、そういうものを正しく記憶しようと躍起になっているように思えた。
庄ちゃんが死んだことを告げに来た夜は、とくにきり丸はしつこく僕に触れたがった。
「ほんとはもっと早くここへ来たかった」
きり丸は庄ちゃんが死んでしまうまで、ずっと庄ちゃんの傍にいたのだ。
「独りで死ぬのって寂しいだろ」
「そうだろうね」
「俺、何度か死ぬかもって思ったことあるんだ。忍術学園に入る前の話だぜ。飢えの苦しみとかさ、怪我の痛みとかじゃなくって、独りで死んでいくってことは凄く嫌なことだとそのとき思った。俺のことをだれも知らないんだと思ったら、俺がどうして生まれたのかもよく分からなくなって。なんか心臓がひやひやしてさ、俺はこの世で一番おっかないものはこういうことじゃないかと思ったね」
庄左衛門は朦朧とした意識の中で、しきりにきり丸の手をぎゅうと握っていたのだという。そうして、
「いーちゃん、伊助、僕なら大丈夫だよ、すぐに治るからね。泣いたらだめだよ」
と何度も言い聞かせるみたいにして呟いたというのだ。きり丸は、(彼がそんなことを思う必要はちっともないのだけれど)伊助が傍にいないことを庄左衛門に対してとても申し訳なく思って、必死で伊助に成り代わろうと伊助のことを思い出していたらしい。でもそのたびに僕のことが思い出されて大変だった、ときり丸は言った。
「庄ちゃんは、なんだかんだで幸せに死んでいったと思うんだよ。庄ちゃんに伊助と間違えられて手を握られながら、その腕の強さになんでだか涙が出た。そんで、乱太郎のこと思い出しながら、俺も死ぬときは幸せに死ねそうだなって思った。俺、たぶん、もうひとりで死ぬときになっても辛くないと思うんだよな。乱太郎のこと思い出してりゃさ、あほみたいにへらへら笑って死ねそうだ」
人が生まれてきた意味、ときり丸はいったけれど、僕もきり丸も本当はそこに意味なんてないことを分かっていた。人が生まれるのに意味なんてない。本当は。勝手に、何かの偶然が重なって、生れ落ちてしまっただけ。そこから必死に生きて、足掻いて、がむしゃらに暴れて、意味を掴み取ってゆくだけだ。
「乱太郎、俺は、自分が死ぬことになっても絶対にお前に会いに来ない」
きり丸は以前からそういっていた。
「俺が死んだことも、お前には絶対に伝わらないようにしておく。だから、お前、安心していつでも楽しい気持ちで俺を思い出すんだぞ。お前の生きている限り、俺もどこかで生きていると思え。お前の死ぬときが俺の死ぬときだとそう思え」
「それなら私が死ぬときもきっと寂しくはないね」
僕は本当はきり丸の弔いだってちゃんとしたかった。だけど、きり丸の望みは違うのだからしょうがない。僕の言葉にきり丸はまるっきり子どものように微笑んで、頷いた。
それから暫く。きり丸はいつものように仕事が終わるたびに私のもとへ通ってくれたけれど、3年前の夏を最後に会いに来なくなった。何処ぞで果てたか。そう思ったけれど、きり丸の言葉通り何処ぞで生きていることにして消息を知ろうとは思わなかった。
一度、団蔵がうちへ来た。土井先生がきり丸の消息を知りたがっておられるのだという。
「乱太郎なら知っているのかと思ってさ」
「いや、私は知らないよ」
「死んだかな」
「そうかも知れない」
「土井先生はたぶん、死んだのだろうって仰ってる。それで、死体を捜しているんだ。家族としてちゃんと葬ってやるってきり丸と約束したんだってさ」
「そりゃきり丸は嬉しかっただろうね」
「きり丸は嫌ですよ、先生に俺の死骸見せるのって嫌な顔をしたらしいけどね」
僕と団蔵は顔を見合わせて苦笑した。きり丸の照れ隠しの減らず口が、あんまり”らしく”て嬉しかったのだ。
そのときの表情まで思い浮かぶ。そうだ、僕らはいつだってずっと一緒だった。
突き抜けるように高く青い空に、もこもこと入道雲が浮かんでいる。団蔵は汗をかいた額を乱暴に腕で拭って、
「あっちいな、きり丸のやつ、死んだにしても日陰にいてくれりゃいいけど」
と言った。その言い方があんまり頭を使ってないから、僕は思わず声に出して笑った。

花火大会の夜

リクありがとうございますー!

というわけで は組女体化。

花火会場に向かうまでの電車の中は、いつも以上に混んでいた。ぎゅうぎゅうと押し合い圧し合いする乗客たちの何人かは伊助たちと同じように浴衣を着ている。
「帯が崩れる、髪がほどける!」
悲鳴をあげる兵太夫に伊助と三治郎は苦笑いした。喜三太は乱太郎の袖に掴まって心ここにあらずな表情でぽやんとしている。伊助のうちに集まって浴衣の着付けをしてもらった後、みんなで揃って花火大会に連れ立った。は組の男メンバーはもうついているだろうか。きり丸あたりが「遅い」といって怒るかもしれない。
「すごい人だね」
「ね。しかもカップルばっか」
「そりゃあねー」
ささやきあう中で、乱太郎が心配そうに喜三太を覗き込む。
「どうしたの、調子悪い?」
「ううん。金吾が、・・・」
「金吾?ああ、今日は一緒に行けなくて残念だったね」
金吾は今、剣道部の合宿で他県に出掛けていた。今日花火大会には一緒に来られない。そのことを寂しがっているのだろう、と納得する伊助に、喜三太は曖昧な表情で首を振った。
「ちがうの」
「え、何が違うの?」
「花火大会に一緒に行けないのも辛いんだけど、それで落ち込んでるんじゃないんだ・・・」
「どうしたの」
「金吾はよく向こうからメールをくれるんだけど、昨日は部活が終わった後みんなで花火をやったんだって。そのシャメが送られてきたんだけど・・・」
「けど?」
喜三太はごにょごにょと口を動かし、結局何も言わないまま「やっぱ言わない」といった。これにはみんなの非難が集中する。
「喜三太あ~」
恨めしそうに名前を呼ぶ兵太夫に、喜三太は困った顔をする。
「だってみっともないんだもん」
「何が?」
「みっともない?」
「どういうこと?」
「・・・金吾には内緒にしててね。金吾のくれた写真に、金吾といっしょに可愛い女の子がうつってたの。いっしょの部活の子って、そんなことは分かってるんだけどさ、でもなんか、いやだなあって思っちゃって。最近このことばっかり考えちゃうんだ」
話を聞いた四人は顔を見合わせる。
「それは恋ね!」などと兵太夫あたりが騒ぎそうだとメンバーのだれもが思ったが、兵太夫は気まずそうに「それは気になっちゃうよね」と同意しただけだった。喜三太には恋の自覚もなさそうだから、からかえないのかもしれないな、と伊助は思う。
今日の髪型は、わざわざ予約を入れてタカ丸に結ってもらった。
「伊助なら予約無しでもよかったのにー」
と笑う彼女は、花火大会に向けて気合を入れて髪形を変えてくる客を捌くのに忙しいようだった。
「今日の花火大会にはいかれないんですか」
「こういうイベントの日はね、特に忙しいから、店の手伝いをすることに決めているんだ」
「ちょっと残念ですね」
「まあね。私の分まで伊助は楽しんできてね」
そう微笑んだタカ丸だって、やはり喜三太のような思いを抱えていたのだろうか。彼女に誰か好きな人がいるだろうことを、伊助は薄々感づいていた。その誰かが、タカ丸の知らないところで楽しむのだ。隣にどんな可愛い人や綺麗な人がいるのかもしれなくて。その人と、楽しそうに笑いあって、想い出を作るのだ。庄左ヱ門で同じシチュエーションを想像したら、胸が苦しくてたまらなくなった。
「喜三太せっかく可愛い浴衣着たんだから、ちゃんと金吾に写真送りなよ」
三治郎が微笑んだ。
「そうそう、思いっきり楽しくしているところを送りつけてやきもきさせてやりなよ!」
兵太夫の案に、それがいいと乱太郎も伊助も笑った。

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