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呼びたい名前

は組大人版 死にネタシリーズ

だけど今回はだれも死んでない。 団蔵


きり丸の(たぶん死体)探しは、半年ほど続けて、何の収穫もなかったからそろそろ止めることにした。
土井先生に結果を報告したその帰路で、俺は連れの清八にきり丸の話をした。
「戦災孤児だったんだ」
「じゃあ俺とおんなじですね」
清八も戦災孤児だった。ただ、親爺に拾われたときはどういう経緯でか盗賊の一味に飼われていた。ちょうど親爺の仕事の最中を邪魔したのを、親爺が逆に捕まえたのだった。盗賊は清八を見捨ててすぐに逃げた。清八は殺されても仕方ないと思ったらしい。大人しく親爺の前に頭を垂れたのを、親爺が不憫に思って引き取ったのだった。
「性格はお前よりずっと冷めてて小賢しかったかな。大人の優しさとか、甘えても心の底からは絶対に信じない奴だった。だからひとりでも生き抜いてこれたのかもな」
いつだったか。きり丸は、俺に土井先生のことを語ってくれた。土井先生はいい人だ。仏さんみたいな人だ。俺は仏さんなんて信じていないけれども、地蔵の前に供えてある握り飯だって平気で食っちまうようなやつだけども、土井先生が実は仏さんでしたっつうんならおどろかねえ。俺はどうしようもないやつで、土井先生のことを心の底から信じているけれども、でももし明日土井先生が冷たく俺の荷物を放って「家から出て行け」っつったって俺は驚かないと思う。結局信じきれてねえんだな。誰にも何にも期待できないし、心を打解けきれない。どうしようもねえやつだよ、俺は。
卒業後、きり丸はフリーの忍者になった。利吉さんに頼み込んで口を聞いてもらったらしい。最初の仕事が暗殺だったと聞いた。利吉さんはもちろん嫌がっただろう。だが、暗殺業は金払いがいい。きり丸の初仕事は成功して、それからは闇の闇のような仕事でよく頼られるようになった(らしい)。(らしい、というのは俺が暗殺関係の仕事は受けないようにしているから、あくまで噂で、事実関係の裏づけが取れていないからだ。でもたぶん、真実だろう)
「若旦那の大切なお友達ですね」
「ああ」
清八はにこにこしている。その笑顔がくすぐったい。俺にとっての仏さんはたぶん清八だ。幾人女を抱いたって、最後にはいつも清八に帰る。清八の名前は俺にとって呪文か何かだった。不安なとき、孤独なとき、呼べばいつでも俺の胸に光が灯った。
「ばっかだなあ、ひとりで消えちまって。猫みたいなやつだな」
「でもなんか、いいですね、そういうの」
「馬鹿、何もよくねえよ!」
俺は清八の答えが気に入らなくて怒鳴りつけた。清八もきり丸のように消えてしまったらどうしようかと思った。名前を呼んでも、もう返事の永遠に帰ってこない日々。そんな未来を想像するのは、俺にとって凄い苦痛だった。
「すいません」
清八は謝る。夕陽の中で、よく日に焼けた逞しい腕が輝いている。
「俺、引き取られた日の夜に、旦那様から”俺の子どもあやしてろ”って、あなたを渡されて。凄くびっくりしました。だって、俺がどこの誰かもわからないのに。それも、さっきまで盗賊の一味やってたような餓鬼でしょう、そんなやつにふにゃふにゃした赤ん坊を渡してくれたんですよ。俺、そのとき生まれて初めて泣いて。凄く嬉しくて。俺は生涯あなたを守ると思った」
「うん、そうか」
俺と清八は日暮れの街道をゆっくりと歩いた。
きり丸は、たぶん死んだ。先生に見つからなかったと告げたら、先生は、そうかあ、やっぱり、なんにも残してくれなかったかあ!と吹っ切れたみたいに笑った。
「死んだらおしまいっすよ、センセ」
土井先生はきり丸を口真似た。先生は生徒を笑わせるような器量は中の下で、そんなに面白いことをやってくれるわけでもなかったしそっちの才能も無かった。そういうので人気があるわけではなかったのだ。だけどきり丸の口真似は、いっしょに暮らしてただけあって結構似ていた。
「私は忍者だから生徒の死なんていくつも聞いて来ている。これが初めてじゃない。きり丸のような戦災孤児も珍しくはない。一緒に暮らさないまでも、うちに泊めた子供はきり丸以外にもいる。まだ生きていることもいるし、やっぱり死んでしまった子もいる。私はなるべくその子達の遺品や骨を捜して、持っていることに決めているんだ。なに、供養というわけでもない。自分のためだよ。こういう子がいた、そして、こういう子どもを少しの間世話した大人がいた。そういうことを誰かに知ってもらいたくてね」
俺は話を聞くだにきり丸を探し出せなかったことを先生に申し訳なく思った。夕陽はまもなく暮れようとしていた。少しずつあたりが闇に染まっていく中で、俺は何のよすがも遺さず逝ったきり丸のことを思った。誰にも己を残していかず消えていくことをよしとする潔さは、俺には到底持ち合わせないものだった。
「俺は死ぬときはお前の傍で死ぬぞ、清八」
「やめてくださいよ、私のほうがあなたより先に死にます」
「そんならそれでもいいさ。だが、俺の傍だぞ」
「もちろんです」
世界がとっぷりと闇に沈む。伊助はどうしているか、乱太郎は、土井先生は。自分の心を砕いた片割れが死ぬとはどういうことか。どれほど辛いものか。考えるだに怖かった。清八、と怖い夢を見たときはいつもそうするように小声で名を呼んだ。俺の呪文。呼びたい名前があるか。生きたいと心から願うとき。死の間際。呼びたい名前が。
はい、若旦那、と小さく返事が聞こえた。
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