上級生の成長ネタを考えたときに、これしか思いつかんかった。
モブ×タカ丸で18禁とか嫌過ぎるって人は読まないでください。
---------- キリトリ -----------
男を抱くのは初めてだった。坊主じゃあるまいし、男なんてなァ。
そう思いながら彼は組み敷いた男の身体を思うまま揺さぶっている。青年にしては高い声の持ち主だったが、喘ぎ声となるとますます女のそれと区別がつかなかった。そのくせ本人は気にするところもあるのか、声を抑えようと唇や手の甲を噛んで耐えようとしているところが余計に刺激的だった。
向こうから誘ってきた。
髪を梳いていたはずの指がつうと首筋を辿り着物の袂に滑り込み、熱い息を吹きかけられながら「俺みたいのに興味はありませんか」と誘ってきた。その手管があまりにも慣れていたから、この髪結いはときどきこうして客をつまみ食いしているのだろうと知れた。誘惑に慣れきった様子からどれほどのものかと思っていたが、抱いてみたら未通女のように恥らうのが以外で、嗜虐心を誘った。気まぐれで誘惑にのってみたが思わぬ当たりだった、と男は内心でほくそ笑んだ。
畳の上に明るい髪が散っている。それが、腰を揺するのにあわせて動いている。その様を、男は快楽に溺れ切ってぼんやりした頭で見つめていた。
「お前、とんだ好きものだな。男に抱かれてよがってるなんてよ」
嘲るような調子で言ったら、頬をうっとりと染めて美しい髪結い師は喘いだ。
「お客さんが特別上手なんだよ。・・・あっ・・・ねえ、次もここに来ていい?」
「そりゃだめだ。俺ァ三日後にはこの街をでてくんだよ」
「仕事?」
「ああ」
「そう・・・んんっ・・・放下師も大変なんだあ・・・」
今度は何処へ行くの、と訊ねられて男は「西」と答えた。
「西?西は戦をしているって聞くよ」
「ああ、あの戦はもうすぐ終わるからいいんだ」
組み敷いた若く美しい髪結いの瞳が、剣呑に光った。
「へえ・・・その話、興味あるなあ。詳しく聞かせて」
白い腕がにゅうと伸びて、甘えるようにからめとるように男の首に巻きつく。自分から男に腰を押し付けるようにして、甘い声を漏らして身体を反らせる。その姿がひどく官能的で、男は生唾を飲み込んだ。
「と、いうわけだそうです」
美しい髪結い師は今度は朗らかな笑顔で行商人に向かい合っていた。行商人は猿のような顔をしている。そのくせ、背格好だけは手足が長くどこかたくましいような体つきをしているからちょっとした可笑しみがあった。
「そうか、ありがとう」
行商人は丁寧に挨拶をして深く頭を下げた。途端に、髪結いは笑い始めた。
「行商人が髪結いにそんなに丁寧に対応したら可笑しいでしょう、鉢屋君」
外ではじりじりと焦げるように蝉が鳴いていた。ああ、暑い、と髪結い師は手の甲でうなじの辺りを拭った。濡れた髪が首筋に細く張り付いているのがひどく官能的だ。わかっている仕草だと対峙する鉢屋は思った。人がどうすれば欲情するか知っている誘惑の仕草だった。髪結い師は細く白い腕を伸ばして、少し離れたところに置かれた団扇を取った。暑いでしょう、とゆったりした手付きで、鉢屋を扇ぐ。その様子も、手招いているようにすら見える。
仕事で再会してから逢うのは三回目。やはり、(変わった)と鉢屋は思う。卒業後初めて会った先日も驚いた。
タカ丸は間諜役としてずいぶん有能であるようだった。
四年に編入した、という意味を当時学園の生徒だった鉢屋もはっきりと理解していた。5、6年の上級生は誰もがわかっていたに違いない。タカ丸は、忍者を目指すにしては成長しすぎていた。学園長が4年に編入させたのは、初めから間諜役として大成させるためだったのだろう。それならば、運動能力の有無はそれほど関係がない。ようは人付き合いの上手さだ。それから、相手を引き込む官能の手管を駆使できる技量。4年には、房術の実技が組まれていた。学園長はタカ丸にまさにその技を習わせようと考えて4年を選んで編入させたに違いなかった。
昔はもっと、無邪気な美しさがあった。人が与える愛に、いい意味で鈍感だった。愛されることに慣れていて、変に技を使ったりすることがなかった。いつも素のままでいて、その飾らない素っ気無さがタカ丸の美しさを形作っていた。十五にしては泣いたり笑ったりと感情表現が忙しい人だった。それが見ていて飽きなかったし、誰の目にも好ましいものに映っていた。
目の前で動くその人には、その頃の面影はあまりないようだった。人に愛されるための「振り」を身につけてしまっていて、タカ丸の昔を知る鉢屋にはそれが残念なことのように思われた。
「不破くんは元気」
「元気です」
「今は君と双忍をやっているのでしょう。去年はナメタケの戦を平定した」
「これは参った。よくご存知で」
「この仕事をやっていると、どんな話も入ってくる。君が五年だったとき、一年は組にいた黒木君を覚えている」
「・・・ああ、庄左ヱ門ですね。ええ、覚えています。一緒に学級委員長委員会をやっていた。聡明でいい子だった」
「彼は先日死んだ」
蝉の合唱が止んだ。鉢屋は暑くて、頭が真っ白になるかと思った。言うべき言葉が見当たらず、仕方がないから黙り込んだ。忍者だから何時死んでもおかしくはない。そういう意味では驚いていない。だが、知ったものが死ぬというのは、どんなに覚悟していても、悲しい。
タカ丸が視線を落とした。崩れた脚が髪結いの衣装の裾からチラリと見えて、その肉がなまめかしい。陶器のような白い肌がひんやりと涼しげにうつった。
「この仕事をやっていると、色んな話を聞く。ひとの生き死にも耳に入ってくる。僕が学園に入ったときに知り合った子も、何人かはもう死んでしまった」
今日はどこまでも風がない。じわじわと温い空気にゆっくりと絞め殺されていくような心地がする。
「兵助の行方は?入ってきますか」
タカ丸が顔を上げた。首を振って、少しはにかむ。その表情が泣きそうに強張っている。
「兵助の情報だけ入ってこない。・・・どうやらつくづく優秀な忍者らしいよ。誰も何も、兵助の行方を知らないと言うのだもの」
伏せた瞳の睫毛がふるふると揺れている。鉢屋も視線を落とす。よく磨かれた床板はひんやりと涼しい。
卒業後、兵助はどこぞの忍者隊に入ったと聞いた。優秀だったから、卒業前はたくさんの忍者隊から声がかかった。どこを選んだかは、もちろん、友であっても言わないのがふつうだったから話題にも上らなかった。
鉢屋は、兵助がタカ丸を恋うていたことを知っていた。
「間諜役ならば、いい。それなら死ぬ確立だけは、少ない」
兵助は何度もそんなことを言っていた。己に言い聞かせる類の言葉だったのか。本当は、兵助は、タカ丸を忍者にしたくなかったのだろう。
行方不明の兵助。
竹谷に萌えてみた。
*いいわけ*
竹谷の相手は決まっていないんですが、そんならもう無理に相手とかつくらんでもええやんと思いまして、いっそ俺×竹谷とか思ったりもしたんですが、やはりそんな濃いサイトはどうよ(今更)とかも思いましたので、先日波乗りの合間に見かけた食満×竹谷にしてみました。
あと、勝手に幼馴染設定にしました。
「そろそろ屋台も終りか」
花火が終わってぶらぶらと屋台の続く堤防沿いを歩いていた。竹谷の歩幅はいつもは小さくないけれど、今日は浴衣を着ているせいでなんだか上手く歩けない。おまけに鼻緒が擦れて痛い。人ごみの中を食満に置いてかれまいと小走りでついていったら、呆れたように「転ぶぞ。急がなくていいから歩け」と釘を刺された。
それで、その通りにしたら、酔っ払いに進路を塞がれ迷子に袂を引っ張られ老人に道を尋ねられ家族に前に割り込まれてあれよあれよと人混みの中、食満と引き裂かれた。
「おっとと!」
やっぱり小走りして慌てて食満まで追いついた。食満は橋のたもとで振り返って竹谷を待っていた。橋は、やっぱり花火が終わって帰る人の群れで溢れかえっている。畳み始めた屋台を見て、食満がからかうように竹谷に笑いかけた。
「もう食っとくものないか」
「ないっス!」
竹谷は唇を尖らせる。食満には普段から食欲旺盛なことをからかわれている。どん、と横から押されて、竹谷がよろめいた。着慣れない浴衣のせいで思うようにバランスが取れない。雷蔵に誘われたときはいい案だと思ってのりのりで浴衣を購入したものの、やっぱり着てこなけりゃよかったと後悔し始めていた。食満は歩みの遅い自分をわざわざ待ってくれている。内心では呆れているだろう。「またか、」と溜息でもつきたいような心持でいるだろう。それでも似合っていればいいが、普段着慣れないせいで動きはギクシャクしてロボットのようだし、時間がたって帯びも裾も崩れて来ている。タカ丸さんに頼んで髪もアップにしてもらったものの、焼きそばヘアは相変わらずだ。だいたい、去年まで一緒に行くときはTシャツにジーンズにサンダルで「色気ねえなあ」なんて笑われていたのが、今年になって急にこれだ。「色気づきやがって」などと思われていたらさすがに傷つく。
食満のことを幼馴染のお兄ちゃんと思っていないのは竹谷だけだ。自分ばかりがふたりっきりで出かけることをデートみたいだとはしゃいで。慣れない浴衣まで着て。ぎゅうぎゅうに締め付けられた胸が苦しい。食満はたぶん、近所の年下の幼馴染の面倒を見ている、そんな感覚でしかないのだろう。追いかけて入った高校では、伊作先輩とちゃっかり恋の噂が流れていた。3年間同じクラスの奇跡のカップルだとか、騒がれている。
「とめ兄ちゃん、今日伊作先輩誘わなくてよかったの」
「ああ?伊作は電車で30分の街に住んでんだぞ。花火ぐらいでわざわざこっちまで来るかよ」
「花火とか絶好のロマンチックチャンスなのに~。とめ兄わかってねえー」
「うるせえ」
「せっかくの日をおれの子守してさあ。母さんには適当行って、伊作先輩と出かければよかったのに。馬鹿正直に子守引き受けちゃうんだからなあ」
また、横からぶつかられた。倒れそうになるところを、食満に抱えられる。
「前見て歩けッ!」
食満は竹谷にぶつかった酔っ払いに怒鳴りつける。
「お前もう心配だわ。仕方ねーな、・・・ほれ」
差し出されたのは大きな片手だった。
「なにこれ」
「迷子防止」
ぐっぱーと指が動く。「恥ずかしくても我慢しろ」
竹谷はおずおずと掌に指先を載せた。それを食満の掌がぎゅうっと掴み、竹谷はその指の熱さにびっくりした。
「もう来年は浴衣着ない。絶対」
呟いたら、食満は振り向かないまま、「なんで」といった。「なんで、似合ってるじゃねーか、浴衣」
竹谷は顔から火が吹くかと思うくらい真っ赤になった。頭がくらくらして、慌てて、
「似合ってない!」
と叫んだ。
「とめ兄見る眼ないッ!」
「なんだよ、せっかく褒めたのに」
少し先を歩く食満の背中が、振り返らずに優しい声を出した。
「・・・このまま帰らせたくねえっつったら、お前びっくりするか」
「・・・おれも、って返事したら、とめ兄ちゃん驚く?」
てくてくと人通りの多い橋を、流されるようにして渡っていく。今夜ふたりの幼馴染が結ばれたって、誰も見ていないような、祭りの夜だ。食満はそっと竹谷を引き寄せると、立ち止まって抱き寄せた。恋人たちが何組も通り過ぎてゆく。
「・・・おれ、浴衣の着方、わかんない。雷蔵に聞いてこればよかった」
真っ赤になった竹谷は、それを隠すように食満のTシャツの腹に顔を押し付けた。
「俺が知ってる」
竹谷の丸い頭をなでて、それから食満は胸に湧き上がってきたこの切なさのような愛しさのようなものをどう表現したらいいのかわからず、「悪い兄ちゃんでごめんな」と言った。生温い夏の宵の空気の中で、畳まれかけた屋台の裸電燈がじんわり橙に光っているのを、食満はぼんやり見ていた。