竹谷に萌えてみた。
*いいわけ*
竹谷の相手は決まっていないんですが、そんならもう無理に相手とかつくらんでもええやんと思いまして、いっそ俺×竹谷とか思ったりもしたんですが、やはりそんな濃いサイトはどうよ(今更)とかも思いましたので、先日波乗りの合間に見かけた食満×竹谷にしてみました。
あと、勝手に幼馴染設定にしました。
「そろそろ屋台も終りか」
花火が終わってぶらぶらと屋台の続く堤防沿いを歩いていた。竹谷の歩幅はいつもは小さくないけれど、今日は浴衣を着ているせいでなんだか上手く歩けない。おまけに鼻緒が擦れて痛い。人ごみの中を食満に置いてかれまいと小走りでついていったら、呆れたように「転ぶぞ。急がなくていいから歩け」と釘を刺された。
それで、その通りにしたら、酔っ払いに進路を塞がれ迷子に袂を引っ張られ老人に道を尋ねられ家族に前に割り込まれてあれよあれよと人混みの中、食満と引き裂かれた。
「おっとと!」
やっぱり小走りして慌てて食満まで追いついた。食満は橋のたもとで振り返って竹谷を待っていた。橋は、やっぱり花火が終わって帰る人の群れで溢れかえっている。畳み始めた屋台を見て、食満がからかうように竹谷に笑いかけた。
「もう食っとくものないか」
「ないっス!」
竹谷は唇を尖らせる。食満には普段から食欲旺盛なことをからかわれている。どん、と横から押されて、竹谷がよろめいた。着慣れない浴衣のせいで思うようにバランスが取れない。雷蔵に誘われたときはいい案だと思ってのりのりで浴衣を購入したものの、やっぱり着てこなけりゃよかったと後悔し始めていた。食満は歩みの遅い自分をわざわざ待ってくれている。内心では呆れているだろう。「またか、」と溜息でもつきたいような心持でいるだろう。それでも似合っていればいいが、普段着慣れないせいで動きはギクシャクしてロボットのようだし、時間がたって帯びも裾も崩れて来ている。タカ丸さんに頼んで髪もアップにしてもらったものの、焼きそばヘアは相変わらずだ。だいたい、去年まで一緒に行くときはTシャツにジーンズにサンダルで「色気ねえなあ」なんて笑われていたのが、今年になって急にこれだ。「色気づきやがって」などと思われていたらさすがに傷つく。
食満のことを幼馴染のお兄ちゃんと思っていないのは竹谷だけだ。自分ばかりがふたりっきりで出かけることをデートみたいだとはしゃいで。慣れない浴衣まで着て。ぎゅうぎゅうに締め付けられた胸が苦しい。食満はたぶん、近所の年下の幼馴染の面倒を見ている、そんな感覚でしかないのだろう。追いかけて入った高校では、伊作先輩とちゃっかり恋の噂が流れていた。3年間同じクラスの奇跡のカップルだとか、騒がれている。
「とめ兄ちゃん、今日伊作先輩誘わなくてよかったの」
「ああ?伊作は電車で30分の街に住んでんだぞ。花火ぐらいでわざわざこっちまで来るかよ」
「花火とか絶好のロマンチックチャンスなのに~。とめ兄わかってねえー」
「うるせえ」
「せっかくの日をおれの子守してさあ。母さんには適当行って、伊作先輩と出かければよかったのに。馬鹿正直に子守引き受けちゃうんだからなあ」
また、横からぶつかられた。倒れそうになるところを、食満に抱えられる。
「前見て歩けッ!」
食満は竹谷にぶつかった酔っ払いに怒鳴りつける。
「お前もう心配だわ。仕方ねーな、・・・ほれ」
差し出されたのは大きな片手だった。
「なにこれ」
「迷子防止」
ぐっぱーと指が動く。「恥ずかしくても我慢しろ」
竹谷はおずおずと掌に指先を載せた。それを食満の掌がぎゅうっと掴み、竹谷はその指の熱さにびっくりした。
「もう来年は浴衣着ない。絶対」
呟いたら、食満は振り向かないまま、「なんで」といった。「なんで、似合ってるじゃねーか、浴衣」
竹谷は顔から火が吹くかと思うくらい真っ赤になった。頭がくらくらして、慌てて、
「似合ってない!」
と叫んだ。
「とめ兄見る眼ないッ!」
「なんだよ、せっかく褒めたのに」
少し先を歩く食満の背中が、振り返らずに優しい声を出した。
「・・・このまま帰らせたくねえっつったら、お前びっくりするか」
「・・・おれも、って返事したら、とめ兄ちゃん驚く?」
てくてくと人通りの多い橋を、流されるようにして渡っていく。今夜ふたりの幼馴染が結ばれたって、誰も見ていないような、祭りの夜だ。食満はそっと竹谷を引き寄せると、立ち止まって抱き寄せた。恋人たちが何組も通り過ぎてゆく。
「・・・おれ、浴衣の着方、わかんない。雷蔵に聞いてこればよかった」
真っ赤になった竹谷は、それを隠すように食満のTシャツの腹に顔を押し付けた。
「俺が知ってる」
竹谷の丸い頭をなでて、それから食満は胸に湧き上がってきたこの切なさのような愛しさのようなものをどう表現したらいいのかわからず、「悪い兄ちゃんでごめんな」と言った。生温い夏の宵の空気の中で、畳まれかけた屋台の裸電燈がじんわり橙に光っているのを、食満はぼんやり見ていた。
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