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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ31

31.綾部、危機。

「あのお姫さん、一度見たことがある」
小平太はそう呟くと、足を止めた。舌なめずりをして唇を湿らせると、そのまま風上に顔を向けてひくひくと動物のように花を動かした。
「・・・北だ。血の匂いがする」
雨の日は匂いが洗い流されて、嗅覚は使い物にならなくなる。だが、小平太だけは別のようだった。動物並みの鋭さを持った男だ。まるで野生児だと、称したのは食満だったか。小平太の正体がもとは随分と名のある貴族なのだと知ったら、同級生たちは驚くのだろうか。唯一小平太の出自を知っている長次は、ぼんやりと考える。小平太の輝きのある大きな瞳が北の彼方を向いて眇められた。
「すがや姫というは、もう何十年も前に××城から出奔した姫様だ。ある雪の晩にね、突然消息不明になった。その時、一緒に城の忍者隊の首領が消えてる。だから、駆け落ちしたのではないかって評判になった、らしい。当時城は後継者問題で揺れていたと聞く。亡くなった城主の息子は生まれたばかりで、生前に後継者として名乗りを上げていた弟は、戦の傷で寝たきりになっていた。一時はすがや姫も女城主として城を切り盛りしていたこともあったらしい。だが、××城は大きな戦争を目前に控えていて、いつまでも女城主をたてて凌いでいける状況ではなかった。そこですがや姫は、政略結婚のために敵方に嫁ぐことが決まった。ところが、婚礼の日の夜に、消えてしまったのさ」
「結婚が嫌になって逃げたのか」
「そう言われてる。一緒に消えた忍者隊の首領は、随分と綺麗だったというしなあ。ふたりは恋仲で、ひっそり駆け落ちしたとか」
「・・・間抜けな話だ」
長次の感想に、小平太は、うん、と頷いて鼻を啜った。


伊作の見立て通り、タカ丸は高熱を出した。綾部は布を額に当てたり、汗を拭ったり、甲斐甲斐しく世話を焼いている。タカ丸は夢を見ているらしかった。時々譫言のように、知らない誰かの名前を出した。それから、助けて、とごめんなさい、を何度も繰り返した。優ちゃん、助けて。助けて、怖いよう、ごめんなさい・・・俺のせいで、ごめんなさい。綾部は黙って唇を噛んだ。このひとを悲しませるものは、何であっても許さない。
タカ丸の汗ばんだ掌が、助けを求めるように綾部の腕を掴み、食い込むような力強いそれが、綾部には嬉しかった。汗でじっとりと濡れた髪を指先で掻き上げ、綾部は、タカ丸の額に、頬に、瞼に、何度も口づけた。
「もうし」
ふいに、廊下へと続く障子の向こうで、若い女の声がした。店の者かと綾部が顔を上げる。
「お客様が来ております」
「誰だ」
綾部の問いに、向こう側に座っている人影は返事をしない。
「おい・・・?」
声をかけてもなんの返答もない。綾部は懐の苦無を探り当てると、それを握った。タカ丸を左肩に抱き上げて、無言で障子を蹴り開ける。廊下では、部屋に向き合うかたちで店の若い女が首を切られて事切れていた。突然のことに息を呑むと、そのまま首筋にひやりと冷たいものが押し当てられる感覚があった。
(しまったッ、)
綾部は内心で舌打ちした。油断した。背中をとられては、ずいぶんと分が悪い。
「ずいぶん綺麗な顔立ちをしているんだなあ」
下卑た男の囁きが耳の穴にねじ込まれて、綾部は肌を粟立たせた。
「こんなに可愛い仔まで忍びになるのか、なんだかもったいないなあ」
綾部は身体の力を抜いた。くたりと男の胸元に身体をしなだれかけると、そのまま熱い息を吐いた。薄桃色の肌が、装束のあわせから見えて男は息を呑んだ。腕の中の細い身体は、ふるふると震えていた。まだ年端もいかない子どもだ、実戦の経験は浅く、恐怖に戦いているのだろう。ぽた、と熱いものが男の腕に落ちた。それは綾部の涙だった。
「・・・助けて」
か細い声で告げる、その唇は薄桃色にふくれている。涙で潤んだ瞳が、蠱惑的に男を見つめた。
「どうか、」
「敵に情けをかける忍びがどこにいる」
男はそう言いながらも、己の優勢に気を緩めたまま、綾部の身体を装束の上からまさぐった。
「んッ・・・」
綾部が熱い息を吐いて身体をくねらせる。その様がひどく扇情的で、男は身体に指を這わせるのをやめられなくなった。綾部の指が扇情的に男の髪に触れ、そのまま男の頭を彼の唇へと導いた。
「ぁ・・・だめ・・・」
それはもはや意味をなさないただの喘ぎだった。男は綾部の指先が導くまま綾部の唇に吸い付いた。
「ングッ!?」
それが、男の最期だった。男は何が起きたかわからなかった。目の前に火花が散った。そうおもったら、息を詰まらせていた。男は大きく喘いで、床をのたうち回って、やがて事切れた。綾部は不愉快そうな表情を隠しもせずに、口の中に入っている異物を畳にぺっと吐きだした。それは、噛み千切ってやった男の舌だった。
「ほう、ようやりおるわ。まだひよこだからといって、気を抜いてはならんのう」
気配もなく、部屋の隅から声がした。綾部が驚いて慌ててそちらを向くと、いつから立っていたのか、老人がひとり窓際に立っていた。足下に転がる男の身体を踏みつけて、綾部は唇を歪ませる。
「あんたが親玉か、ヒヒジジイ」
老人は喉の奥でひっひっと引きつるような笑いを漏らした。
「綺麗な顔をして、言いよるの。・・・どれ、すがや様と幸丸の孫を貰い受けに来たぞ。おうおう、姫様とよう似ておられる」
綾部はタカ丸の身体を抱え直すと、命に代えても離さない、というようにぎゅうと力強く抱いた。
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