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習作



その男の可愛がり方は大変よいということで、上客として人気があった。ももかはその上客のお気に入りだった。
「兄サンさあ、あたいのどこがそんなにいいのお?」
交わった後の火照った身体に木綿の着物を肩から羽織っただけの格好で、ももかは男が持ってきた草をがじがじと噛んだ。それはどういう名前だったか忘れたが、ずっと噛んでいると痛みが麻痺して頭が雲に巻かれたようにぼんやりする。それで、すごく気持ちがよくなって宙に浮いているみたいになるから、ももかはそれが気に入って、男がここを訪れるときにはそれを採ってきてくれるよう頼んだ。気持ちよくしてくれるよい葉っぱだが、”ちゅーどくせい”があるとかで、男は何遍に一回しか持ってきてくれない。それに、ももかがそれを噛んでいる間もすごく厳しくて、長いこと噛みすぎていると無理矢理葉を取り上げてしまうし、ももかがぼんやりしてすご-く気持ちがよくなって、夢を見ているふうになると、頬を張られて起こされる。そういうときのももかはいつも口からだらりとよだれを零していて、赤ん坊みたいに口の周りがべとべとしている。みっともない姿だけれど、男はそれを丁寧に己の着物で拭き取ってくれる。男は優しい。
男は金払いもいい。たまにふらりと現れては一晩を一緒に過ごしていくから、余所の客よりよほど長くいるが、しつこく抱いたりはしない。一、二度抱き合ったらあとはそのまま一緒に抱きしめ合って眠ったり、とりとめもないことを喋ったりする。ももかは戦災孤児だから親は知らない。赤茶けた髪をしているから、昔面倒を見てくれたばばあが、「あんたの親は海の向こうの人かもしれんねえ」と教えてくれた。ばばあがいうには、海の向こうにも同じように人が住んでいるらしい。でも、ももかたちとは違って、もっと眩しいような髪と目の色としているのだという。男は、ももかのその赤い髪が好きなのだという。なんで、と聞いたら、よくよく黙り込んで、綺麗だからな、と一言言った。あんなに一生懸命考えているふうだったのに、単純な答えでなんだかがっくりきた。
「俺の知っている人に、お前のような髪の色をした人がいるんだよ。とても綺麗な人だった。だから、お前の髪の色はとても綺麗で俺は気に入っている」
「じゃ、その人を抱けば」
「とても遠くにいるんだよ」
「じゃ、そこまで行けば。あんたいろいろ旅してるんでしょ」
「お前は単純でいいな」
男はくつくつと小さく笑う。ももかはむっとした。ももかは確かに商売で身体を男たちに預けているが、誰かの代わりでといわれて抱かれるのは嫌だった。そのくらいの矜持なら持ってもいいではないか。
「あんたやな客だよ」
「悪い。でも、純粋に褒めたんだぞ。いいことを言うなって」
「嘘つけ。すげー笑ってたくせによ」
「拗ねるなよ。ももか、もういっかいやろうか」
「もうやだよ」
ももかは男ののばした手を振り払う。
「そうか」
男は簡単に引き下がった。男はきりっとした顔立ちをした美男子だ。よくよく見ているとため息をつきそうなほどかっこいいのに、ぱっと見は目立たない。男はとても人気があるのに、沢山の長屋の中でももかの部屋を選んで入ってくるときも、騒ぎになった試しがない。人気があるのだから、一度くらい、他の女に「ももかばっかり!」とか「うちにもきてよ」なんて騒がれてもいいはずだ。どういうからくりがあるのだろう。男は細身だが、引き締まった身体をしていて、細かい傷ややけどの痕がいっぱい残っている。ももかは、この男は危ない仕事をしているのだろうと思っている。男自身は行商人だと名乗ったが、絶対嘘だ。戦場に行く人だ。肌からはいつも硝煙や血と泥の匂いがしている。赤い髪の人は、かわいそうだ。戦場に行く男に明日なんて誓えないだろう。
「あんたさあ、もしかしてその赤い髪の綺麗な人に捨てられちゃったの」
「はっはっは。ももかは賢いな、その通りだよ。なんでわかった?」
「あんた甲斐性なさそうだもん」
「これは一本獲られたな」
「あんた冗談もつまんないよね~。ねえ、あたしが赤い髪の人の代わりをしてやろうか。そんで、あんたの名前を呼びながら抱かれてやるよ。ね、そいつはあんたのことなんて呼んでたの?」
男はしばらく黙ってももかを見つめていたが、やがて目を細めて、「ばーか」と言った。
「お前じゃ代わりになんねーよ」
やっぱこいつ嫌な男だ。早く死ね。


ももかというなまえはばばあがくれた。ばばあはももかに身体を売って生活する術を教えてくれた。ももかに金の稼ぎ方を教えてくれた命の恩人だ。ももかは漢字で、百日と書く。百日生きるように、という意味だ。ももかのあとにばばあはきり丸という名前の男の子も連れてきた。しばらくは一緒にいたが、ばばあがきり丸にも身体を売らせていたので、そのうちばばあの目をかすめてどこかへ行ってしまった。ばばあの金やももかの金を全部もっていってしまったので、やれやれ、乱波みたいなやつだとばばあとふたりで舌を巻いた。きり丸は子供だけど美人だったので女にも男にも人気があった。ずっとここにいて儲ければいいのに、と言ったら、「男だからそういうことができないんさね」とばばあは言った。
「男はじっとしてられないの」
「男は場所を持たないんだよ。風か雲みたいに流れるばっかりさね」
「ふうん。男ってばっかだなあ!」
きり丸は早く死ぬだろう。たぶん、三日後くらいにはどこかでの垂れ死んじまってるに決まってる。惜しかったなあ、金に汚くて、生汚くてさ、ああいうやつはうまくすりゃよく生き残るのに。
男はももかを馬鹿と言ったきり、それからいっこうに音沙汰がなかった。もしかしてももかは怒らせてしまったのだろうか。少し不安になったが、ももかはすぐに首を横に振った。ふん、なんでえ、怒るんなら怒りゃいいさ、怒ってんのはこっちも同じだ。ただ、通わなくなるのは勝手だが、あの葉っぱだけは置いていって欲しかったな、と思う。あの葉っぱがなけりゃ、ももかはうまく夢を見られない。


そうしてどのくらいかたって、ある日ふたりの男がももかのもとを訪れた。もっさりした髪を高い位置で結わえた軽薄そうな男と、綺麗な赤毛の男だった。
「すまんが部屋かしてくれんかね。外はすごい吹雪でね、なに、宿代はちゃんとふたり分払うからさ」
軽薄そうな男が言った。口の上手いやつで、ももかがぼんやりしている間に、とんとん拍子で話を進めていく。ももかは結局、男ふたりに宿を提供することになった。
「でもあたし、なんもできないからね」
「いいよ」
軽薄そうな男は、自分を、またざ、赤毛の男を、よすけ、と紹介するとそのまま土間で火をおこして、持っていた強飯でかゆを作り始めた。白飯のいい匂いが漂って、ももかは白飯なんざくったこともなかったから、こりゃ腹に悪いやと思って向こうを向いて寝たふりをした。腹が鳴るのが嫌だったから、唾をいっぱい飲み込んだ。その飯を分けてくれって頼んでみようか。でも、代わりに抱かせろなんて言われたらどうする。ふたりいっぺんというのはきついぜ。もんもんとしていたら、肩を強く揺すられた。びっくりして振り返ったら、赤毛の男が、「ねえ、ごはんできたよ」と言って、茶碗に入ったそれをももかの鼻先に持ってきた。
「起きられる?俺支えてようか」
もうずいぶん長いこと寝たきりになっていたももかは、上半身を支えられながら起き上がると、両手に椀を握らされた。
「熱いからそっとね。身体が温まるよ」
「あとで薬も飲めよ」
むこうで鍋をかき混ぜながら、もさもさ男が言った。ももかは目をぱちくりさせた。
「なあ、おまえらってなんなの?」
「ただのしがない油売りですよ~」
「なんであたしに飯食わせるの」
「男には一宿一飯の恩というのがありまして」
「・・・なあ、あたし抱かれるのは無理だけど、マラぐらいなら舐めてやろうか」
もさもさ男はにやりと笑って、赤髪の男は困ったみたいに笑った。
「そんな心配しなくていいよ。たくさん食べてもう休みなよ」
ももかは布団に寝かされると瞼の落ちてくるままに意識を放った。
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