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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ29

「・・・長、歌を手に入れたぞ。これが暗号を解く鍵だろう、」
黒装束に身を包んだ年かさの男が、燃え尽きた廃寺の奥、小さな土蔵に胡坐をかいて座っている老人と対峙している。その老人は随分と小さな体を漆喰の壁にもたれかけさせていた。ひどく衰弱しているのだろう、息は荒く、ひゅうひゅうと咽喉から秋風のような息が漏れている。まもなく事切れるのだと、誰も疑いようのない姿だった。瀕死の老人は細い目をして、「間違いないか」としわがれた声で問うた。
「ああ、間違いない。すがや様の孫から直接聞いた」
「孫!ああ・・・孫、それは男か女か」
「男だ。すがや様によく似ている」
「ああ・・・」
老人は長く息を吐くと、歌を、と言った。男はタカ丸から聞き出した和歌を諳んじる。

こいしくばたずねきてみよ いずみなるしのだのもりのうらみくずのは

「・・・うん、なるほど」
老人が頷く。なるほど、なるほど、と何度も頷いて、それから、「大川平次渦正が忍術を学ばせる学校を開いたとか。そこに、すがや様の孫はおるのか」とおもむろに尋ねた。対峙する男は、調査の末それを突き止めていたから、ああ、と頷いた。年かさの男には和歌に隠された意味は読み解けない。そんなことまで書いてあるのかと、少し驚いた様子で眉を上げる。老人は、小さくふっ、ふっ、と短い息を吐いた。それが笑っているのだと、男はしばらく気づけなかった。気づいたのは、老人がそのまま長く息を吐いて万感の篭った様子で、「我が悲願はようやく成る」としみじみ呟いたからだった。


タカ丸はずいぶんと幼かったが、祖母の死を覚えていた。一度見たら到底忘れられぬ、美しく、あまりに禍々しい死に様だった。まだ踏み固められてしまう前の、さらさらと柔らかい雪の上に、たおやかな妙齢の女が身体を丸めて倒れこんでいた。流れる血が、あたりの純白を真っ赤に染め上げていた。女を中心にあたり一面真っ赤に染め上げられたその姿は、まるで椿のようだった。女の身体には無数の矢が突き刺さっていた。タカ丸を抱いた母が甲高い声を上げて絶叫した。父親が、見てはいけないよ、と鋭く言い置いて戸を閉めてしまった。タカ丸は、あの綺麗で優しい祖母がどうしてあんなふうな目に遭わなければならなかったのか、今見たものが理解できず、母親に問い質したかったが、彼女は突っ伏して泣き喚くばかりだった。タカ丸は母親の腕から抜け出すと、立ち上がって、窓の傍に立った。少し爪先立てば、外の様子は見えた。父と祖父が、傘も差さず絶命した祖母を見下ろしていた。祖父がしゃがみ込んで、ゆっくりと祖母を抱き起こした。魂を失ってぐったりした様子の身体は、重たく祖父の腕に圧し掛かっている。タカ丸は「あ、」と小さく息を漏らした。途端に、涙が出た。タカ丸の小さな悲鳴に気がついて、母親が気が狂ったような激しい様子で、タカ丸を窓辺から攫った。何も見せぬよう深く胸元に抱きしめながら、「なりません!」と叱り付けた。「見てはなりません!」その身体はひどく震え、熱かった。タカ丸を抱く母の腕の強さは、彼を抱き潰してしまわんばかりに強く、タカ丸は「かあさま、苦しい」とか細い声で抗議した。母は我を忘れたようにタカ丸を抱きしめながら、何度も、「お前はどこにも行かないで頂戴ね。どこにも言っては駄目。勝手に表に出てはなりませんよ。あいつらに見つかったら、お前はきっと、遠くに攫われてしまうからね、」と繰り返した。母の言う”あいつら”が誰のことなのかタカ丸には分からなかったが、おそらく、祖母を殺してしまった人たちと同じなのだろうと理解した。
翌日から、母の意向で、タカ丸は表に出してもらえなくなった。祖父や父や母が遊んでくれたので、軟禁されていてもそれほど辛くはなかったが、同い年の友達がいないのはどうにも寂しかった。その頃に扇子の配達の手伝いで家に訪ねてきた小松田屋の兄弟が、彼の唯一の友達だった。
ある日、タカ丸は祖父から一枚の掛け軸を貰った。それは、美しいお姫様がこちらを向いて座っているもので、着物も紅もみんな真っ赤に装ったそのお姫様を、タカ丸はとても綺麗だと思って一目で気に入った。
「ほんとにもらってもいいの、じいちゃん!」
「ああ、いいよ。綺麗なお姫様だろう」
「うん。真っ赤でとてもきれいだ。ねえ、じいちゃん、この人はじいちゃんの知っている人なの?」
「ああ、そうだ、とてもよく知っている人だよ。そうだ、タカ丸、お前にひとつ歌を教えてやろうな」
「歌?」
「お前だけに教える歌だよ。いいかい、誰にも言ってはいけないよ。大人になるまで覚えていてごらん、きっとお前にいいことがあるから」
 

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