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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ26

26.邂逅、あるいは怒りの兵助


市井をふたりの少女が歩いている。品定めをするように市のあちこちを眺め廻り、時には品物を手に取りながら。ふたりの少女は目鼻立ちがくっきりとしているところへくわえ、紅やら眉墨を刷いて美しく化粧していたから、大変目立ち、周囲の視線を集めていた。声をかける男も幾人かいたが、少女たちは容易に頷くことをしなかった。その断り方が、変わっている。思わせぶりな笑みを浮かべて、
「信太の森をご存知?私、其処へ行きたいわ。連れて行ってくださる」
と尋ねる。男たちは誰も信太の森などという地名を聞いたことがなかったから、首を捻って、はて、それはどこにあるのでしょうなどと返す。すると少女は冷ややかな眼をして、「こいつも違う」とか「もう結構」などと身を翻して行ってしまうので、男たちは混乱したまま置いていかれたような気分になって、呆然と少女たちの背中を見送るのだ。
さて、少女たちが練り歩く市中には、兵助もいた。ここで助っ人と合流せよという最上級生たちからのお達しである。忍び装束を脱いで着物に着替えると、うろうろと群衆にまぎれている。正体も知らぬ助っ人とどう出会ったらいいか六年生は何もいわなかったが、伊作は、”合図がある”から大丈夫だと教えてそれっきりだったので、兵助はその合図を、人ごみの中でひっそりと待っている。そのうち、前を行く男が噂話をしているのが耳についた。それは変わった少女の話で、声をかけた男たちに、「信太の森」と行ってまわっているらしい。そんな森あったかなあとぼんやり話こんでいる男たちの後ろで、兵助は視線を鋭くした。信太の森、は忍術学園が共通で使っている隠し言葉だ。兵助は男たちに近づくと、「失礼、」と声をかけた。
「その少女たちをどこで見ました?」
「ああ、河岸のあたりだよ。染物やが店を出している前かな」
「ありがとう」
礼を言う青年は、ずいぶんと整った顔をしていた。涼やかな顔立ちをしている。えらい男前だなあ兄ちゃん、などと噂話を兵助に教えた男たちが世間話に巻き込もうとするのを、兵助は笑顔で流す。そうして去っていこうとした刹那、はたと立ち止まって男たちの肩越しに通りの奥を呆然と見つめた。
「兄ちゃん?」
兵助の表情は見る見るうちに強張り、苦々しげに息を呑んだ。だらりと垂れ下がった腕が、不自然に力の入った拳を握る。
「どうした、気分でも悪いのかい」
兵助は答えない。無言で前方へ歩みだそうとする。男の一人が、様子のおかしい兵助をいぶかしんで、肩を叩いた。だが兵助は立ち止まることはなかった。男も、その横顔を覗き込んで、ヒッ、と息を呑むとそのまま兵助に構うことはなかった。もうひとりの男がのんびりおびえるふうの連れに声をかける。
「どうしたい」
「おっかねえ、あの若衆、堅気のやつじゃねえや。あらァ、俺らと違って怖いもんいっぱい見聞きしてきてるやつの眼だよ」


兵助の前には美しい人がおぼつかなげに立っている。水に濡れた女装束、血の気の引いた蒼い顔。柔らかい明るい色の髪は、乱れきって蒼白の肌に張り付いている。紫色の唇。亡霊のように、それは立っている。
(後ろから短刀で一突きだった。死体は河に落ちた。最後は溺死だよ)
伊作の言葉が耳に響き始める。ガンガンと激しい頭痛がして兵助は眉を潜めた。落ち着け、動揺するんじゃない。あれは偽者だ。・・・斉藤タカ丸は、死んでしまった。もういない。あれは偽者だ。
ほとほとと水滴を垂らしながら彼は兵助の目の前を通り過ぎていく。兵助は、あまりのことに吐きそうだと思った。ふらふらと歩いていくのを、周囲は少し間をあけて遠巻きに見つめている。そのうち、ひとりの男が近寄った。兵助は地を蹴って走り始めた。足音は消えうせ、静かな走りだった。
近寄ってきた男が斉藤に向かいひっそりと短刀を抜きかけたそのときだった。間一髪で間に合った兵助が、慌てて身をすくめた斉藤の頭上を飛び越え、男を脳天から蹴り飛ばした。大衆に男の身体が倒れこむ。群衆から悲鳴があがって、斉藤は、「ありゃりゃ、」と頭を掻いた。兵助は男が立ち上がる前に、その鳩尾に己の足を乗せて体重をかける。蛙のへしゃげたような悲鳴が男の口から漏れた。ばきん、と肋骨の折れる音が響く。兵助は淡々と体重を咥えていく。男が泡を吹いた。斉藤が焦ったように後ろから兵助を抱きしめた。
「もういい、殺すな。兵助」
「わかってる。動けないようにするだけだ」
兵助は気を失った男を前に足を除けると、そのまま男の右足を持ち上げて、懐から取り出した短刀で腱を切った。そうして捨てるように足を手放すと、斉藤に向き直った。
「終わった」
斉藤の顔をした人は苦々しい表情を浮かべている。
「やりすぎだ」
兵助の顔には表情がない。怒らせてしまったのだと、斉藤の顔が歪む。
「お前がそんな顔をしているのが悪い。――三郎、」
例え正体がお前であれ、俺がタカ丸の容姿をしているやつを傷つけようとしている輩を許すと思うか?真顔で問いかけられ、「・・・思いません」と三郎は答えるしかない。

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