忍者ブログ

よいこわるいこふつうのこ

にんじゃなんじゃもんじゃ
MENU

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ21

21.死の知らせ

綾部と久々知はすっかりお互いを倒すことに没頭をはじめてしまった。小平太はしばらく眺めていたものの、放っておいて綾部の落とし穴に引っかかった間抜けな間諜の前にしゃがみ込む。小平太が何かを問う前に、
「俺は何も知らないんだ」
と男は情けない声を出した。
「だろうね」
と小平太は興ののらない様子で頷く。学園に忍んできた者たちに比べて、この男の動きはあまりに拙い。
「誰があんたを雇ったかわかるかい」
「わからない。どこかの城の忍者隊だと言った。それしか聞いていない」
「う~ん・・・」
小平太はぼりぼりと頭を掻く。どうしたものか。長次のほうはどうなったか。頃合的に、そろそろ完了ののろしが上がってもいいはずなのに、その気配はない。ただ、豪徳寺のほうから煙が上がったから、留三郎のほうは首尾よくやったのだろう。
「俺は殺されるのか」
とすっかりおびえきった様子で男が尋ねた。小平太はちらりと男を一瞥して、あまりに小物だ、と詰まらなくなった。話す気も失せたので、何も答えずに立ち上がったら、眼前に音もなくひとりの男が降り立った。猫のような独特の身のこなしから、小平太は顔を確かめる前にそれの正体が仙蔵であることを見抜いた。
「仙ちゃん。どうしてここに」
「事態が多少ややこしくなってな。小平太、お前何をしている、後輩なんぞ連れて・・・綾部と、五年の・・・誰だ」
「久々知兵助だよ」
「ふうん」
仙蔵は自分で問うたわりに興味のまるでなさげな様子で頷くと、「仲間割れか、阿呆どもが」と呆れたように呟いた。仙蔵の一言はいつも鋭くて手厳しい。小平太は苦笑いして、何も言わなかった。色恋沙汰の横恋慕だよと真相を教えたら、仙蔵は呆れ返ってそんなやつ忍者には要らん、死んでしまえの一言くらい言いそうだった。
「それより仙ちゃん、ややこしい事態って」
「うむ、それだ。小平太、心して聞け」
仙蔵はそこまで言って少し黙った。冴え冴えとした表情に、少し憂いの翳りが見えていた。
「悪い知らせかい」
「タカ丸さんが死んだ」
背後で行われていた鍔迫り合いの音がやんだ。仙蔵と小平太がふたりしていっしょに振り返ると、綾部と久々知が呆然と立ち尽くしていた。ふたりともその顔が蒼白だ。仙蔵は、お前らにその死を悼む資格は無いとでも言いたげに酷薄そうなふたりに瞳を向けた。
「何ですって?」
「嘘でしょう」
小平太も俄かには信じがたいといった表情をしている。六年が六人も出払って、まさかの任務の失敗だ。下唇を噛んで眉を寄せる。それは、小平太の焦ったときの癖だった。仙蔵は憂えた瞳で、はっきりと繰り返した。
「嘘ではない。背中に敵の刃を受けてな、死んだ。先だっての話だ」


水から引き上げられた少年の身体は蒼白だった。雷蔵と三郎はそれを見下ろしている。原因は失血死だと遺体の傍に控える男が告げた。保健委員長の善法寺伊作だ。普段知る彼は優しい男だった記憶があるけれど、タカ丸の死を告げるその口調は、こうして凄惨な遺体を前にして聞いてみれば奇妙に落ち着き払って、どこか酷薄そうにも聞こえた。つまるところ彼は、死体を見ることに慣れきっているのだろう。彼の中で、死と感傷は結びつかないものなのだ。
「化けられるかい」
と聞かれたので、三郎は、できます、と頷いた。身体は震えない。雷蔵が傍で見ているからだ。三郎は、ひどく冷静に、対処をした。衣を返して髪を解いた。猿楽師のようにくるくると舞って、ふたたびその姿を晒したとき、そこには生きているままのタカ丸の姿があった。
「どうです」
「うん、さすがは変装の名人だ」
伊作は目を細めた。「ではふたりとも、万事抜かりなく」と続けられた言葉に、タカ丸の変装をした三郎と雷蔵が同時に頷いた。そうして軽快な足音がタッと一度聞こえたかと思うと、それきりふたりは伊作の前から姿を消した。
伊作はふたりを見送ると、そのまま視線をタカ丸に転じた。タカ丸はぐったりとして動かない。伊作は首筋の辺りを指で探ると、気付けのツボを押した。タカ丸が小さく呻いて、明るい色の瞳を見開く。口がちいさく動くのだが、言葉にならない。枯れたような息がひゅうひゅうと秋風のように咽喉を鳴らした。伊作は上半身を抱き起こすと、耳元で囁いた。
「無理に喋らないで。失血が激しい。私が誰だかわかりますか」
「・・・巻物、」
「大丈夫、私たちで取り返します」
タカ丸は意識が混乱しているようで、伊作の手を握って、ひたすら「ごめんなさい、ごめんね」と繰り返す。
「タカ丸さん」
「あいつが嘘に気づく前に・・・口を封じなきゃ」
そうして溺れている人のように空を掻き毟るようにしてもがいた。無意識のうちにしきりに舌を噛もうとするので、伊作はタカ丸の口の中に躊躇なく己の指を突っ込んだ。強く舌根を押さえつけたために、タカ丸の顎が開く。咽喉の深いところに指を突っ込まれて、タカ丸がえずく。強く噛まれて、伊作の指からも血が滴った。だが伊作は決して指を抜こうとはしなかった。
「タカ丸さん、僕のいる限りは決して自害なんて許しません」
タカ丸の瞳から涙が零れる。伊助はそれを優しく指でぬぐって、「必ずあなたを助けます」と励ますようにいった。
PR

Comment

お名前
タイトル
E-MAIL
URL
コメント
パスワード

Trackback

この記事にトラックバックする

× CLOSE

カレンダー

02 2024/03 04
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

フリーエリア

最新コメント

[06/22 すがわら]
[06/22 すがわら]
[06/22 muryan]
[06/22 muryan]

最新記事

(04/04)
(09/07)
(08/30)
(08/24)
(08/23)

最新トラックバック

プロフィール

HN:
No Name Ninja
性別:
非公開

バーコード

ブログ内検索

アクセス解析

アクセス解析

× CLOSE

Copyright © よいこわるいこふつうのこ : All rights reserved

TemplateDesign by KARMA7

忍者ブログ [PR]