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こんなめに君をあわせる人間は僕の他にありはしないよ⑱

拍手&コメントありがとうございます。時間を見つけてお返事もさせていただきたいです~!

自分設定横行。そういうのがお嫌いな方は避けてください。今回はちょっといちゃいちゃ成分あり。

⑱背中の傷、それから、ふたりの男

かつてふたりの男がその背中の傷に触れた。
そのどちらもが労わるような優しい触れ方だったから、タカ丸は、あのときの恐怖をいつの間にか忘れていた。決して忘れてはいけないものだったのに。
 

指さきが触れるか触れないか、まるで羽根のような軽さで、つうと背中を辿った。右肩から始まり、背骨を越えてそれは左の腰元まで続く。タカ丸はくすぐったさに身をよじると、声をあげて笑った。
「なに、兵助」
振り返ると、生真面目で優秀な忍者候補でもある恋人は眉根を寄せて神妙な面持ちで、タカ丸の背中をじいと見つめていた。そこで、タカ丸はようやく幼い頃つけられた醜い背中の傷に思い至ったのだった。それは、一見しただけでははっきりと見つけられない。しかしよく見て触れてみると、そこだけ蚯蚓腫れのようにわずかに赤く盛り上がっているから、傷があるのだとわかる。ふつうに切れたものならば、こんなふうに痕はつかない。人を切り付けるのに慣れた者が、計算をしてわざとそれを残したのだと見える。そんな傷だった。
「・・・事故?」
問い質す兵助の瞳は、息を呑むほど真剣だった。幼い頃に家族を亡くした兵助に守るものは少ない。喪失の痛みを絶望を知る彼は、自分の”守るべきもの”が傷つけられたとき、芯から凍りつくような冷え冷えとした瞳をする。誰がやった、と問うていた。タカ丸は口元を緩めると、朗らかに微笑んで、背中をなぞった兵助の指先を、包み込んで温めるように握った。
「事故」
兵助の瞳が少し揺れる。痛そうだ、とタカ丸は思った。
「・・・痛かった?」
兵助が問う。労わるように、もう一度指が傷に触れる。タカ丸は笑みを深くする。
「どうだったかな。・・・遠い昔だからもう、忘れちゃった」


タカ丸は暗い寺の中を走り回っていた。埃がうっすらと積もった床板は、滑りやすかった。タカ丸が転ぶと、男たちは芝居でも見ているように声をたてて笑った。そうしてタカ丸を弄ぶように囃したてた。
「ほらほら、早く逃げないと悪い鬼が君を食べてしまうよ。喰われたくなかったら逃げろや逃げろ」
タカ丸は痛む膝を抱えるようにして立ち上がると、震えもつれる足でまた逃げた。少し待ってから、男がそれを追い始める。片手には刀。タカ丸に振り下ろさんとばかりに構えている。
巻物の続きを持っていないというのなら、しかたない、俺たちと鬼ごっこをしよう。男は嘲笑うかのように言った。逃げ惑うタカ丸を見て、小動物を狩る猟の愉快を感じているようだった。タカ丸は暗闇の中狭い隙間を見つけた。子どもがようやく入れるようなそこは、今思えば仏像の背後だったのだろう。タカ丸はそのとき、男の気配が消えたことにほっと胸を撫で下ろした。しかし、しゃがみ込んで息をついたとたん、前からにゅっと二本の腕が伸びてきて、タカ丸を掴んだ。タカ丸は恐怖に声を失いその場に尻をついた。身体がひどく震えて嫌な汗が噴出した。
「掴まえた。遊びはおしまいだ」
黴臭い床に押し倒され、着物を向かれ、背中に刃物を押し当てられた。
「タカ丸、次はかくれんぼをしよう。君が何処にいても必ず見つかるように、俺が目印をつけてやる。さあ、君が鬼だ。せいぜい掴まらないように逃げたらいいさ」


暗闇のなか目が覚めた。心臓がひどく早く鳴っていた。肩で息をして、寝汗でぐっしょりと濡れた着物を気持ち悪く感じた。
「タカ丸さん」
隣で声がした。名を呼ばれ、タカ丸は驚いて肩を揺らした。振り返ったら、綾部が布団に包まったまま、タカ丸を見あげていた。
「悪い夢でも見ましたか」
「・・・ん。でも、平気」
「平気じゃないときがあってもいいんですよ」
綾部の声音はいつも、淡々としている。世の中のどんなことも、彼の前では等しくとるに足らないつまらないものになるようだった。タカ丸はそれに救われたような気がした。
「綾部、」
「はい」
「俺の背中の傷、見たことある、よね」
今日まで指摘しないだけで綾部はとっくに気がついていた。風呂や着替えの最中、それはいつでも目に入ったから。しかし、身体に傷を持つ生徒は忍術学園では珍しいものでもなかったのだ。だからこそタカ丸は遠慮なく仲間に背中を曝したし、綾部は無関心をよそおえた。
「・・・はい」
「一度ついた傷って、やっぱり消せないかなあ」
「痛みますか」
「ううん。・・・そうじゃなくて、これは目印だから、怖い」
タカ丸の言葉の意味が綾部にはまるで理解できなかった。ただ、タカマルはひどく思い詰めた瞳をして震えている。綾部の腕がすっと伸びて、着物の上から傷をなぞった。
タカ丸は振り払わなかった。それが、綾部にはどれほど嬉しかったか。
「大丈夫、私がいます」
「綾部」
「私がいます。だからあなたは何ひとつ恐れなくていい」


タカ丸は瞳を開いた。途端に光が彼の眼球をやく。
(・・・そうだ、鬼ごっこを終わらせなければ)


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