拍手&コメントありがとうございますー。
だんだん血なまぐさい話になってきて、(しかもなかなか終わらなくて)申し分けないです(´ヘ`;)
今回も血なまぐさいので注意。
⑯不破が呼ぶ
忍者というのは、なるほどオールマイティーな技術を要する職業であるから、忍術学園の天才といわれたとき、部門ごとに必ず数人の名前が挙がる。鉢屋三郎はその一人である。変装なら、教師をも凌ぐという。鉢屋衆の出である。鉢屋衆というのは、計略―なかでも騙し討ちに長け、恐れられている集団である。しかし、名門ではない。もともとが卑しい河原者の出であるから、周囲からは畏怖されて一種腫れ物を扱うような目で見られているところがある。父が、やはり変装の名人なのだという。学園に入ってからは同級生の不破雷蔵の顔を借りて過ごしている。素顔はだれにも見せない。ひどい醜貌なのだろうというものもいるし、いや、河原者は美しいものが多いと語るものもいる。鉢屋はどちらも相手にせず、ただ飄々と醜女や美女に変装してやり相手をからかってやるだけである。こういう、トリックスターの性質が鉢屋にはある。
鉢屋がふたりの四年生相手に目を輝かせて立ち回っているとき、その名を呼ぶものがあった。振り返ってみると、ひどく焦った表情をした後輩である。鉢屋は鋭く苦無を突き出してきた三木ヱ門の腕を掴むと、そのまま投げ落とし、背中だけで「なんだ、」と聞いてやった。四年生の説明は心もとなかった。
「曲者が、現われて、遊び目を抱いているんですが・・・長次先輩が追って」
鉢屋は戦いながら聞いている。滝夜叉丸の投げる千輪を弾くと、軌道の逸れたそれが四年の元に飛んでいき、怯えた声を上げさせた。
「それで、俺にどうしろと?」
「不破雷蔵先輩が呼んでおられます」
鉢屋の動きがピタリと止まった。「馬鹿野郎、それを最初に言え」
鉢屋は殊更に明るい大声をあげて三木ヱと滝夜叉丸の名を呼ぶと、「おい、ここまでだ」と言った。
「俺は行かねばならん」
三木ヱ門は分かりやすく膨れている。もとが凛々しい若武者顔だけに、こうして膨れた顔を見せると、ご機嫌をとってやりたくなるような微笑ましい可愛げが出る。鉢屋が口元を綻ばせた。滝夜叉丸が横から口を挟む。
「六年生が出ている、ということは忍務でしょうな。惜しいですが御留め立てできません」
「すまんな、勝負は預けだ」
「おい、不破先輩の場所は」
三木ヱ門が訊ねると、四年生は同級生に対峙する気安さで、
「六条の辻の、」
つらつらと言いかけたそのときだった。死者役をする四年生の背後に人影が忍び寄った。「あ」と声を上げるまもなく、慣れた手つきで人影は少年の首を掻き切る。血が飛沫となって吹き上がった。これには少ない通行人たちが大声をあげて逃げ惑い、市井の外れではあるが、蜘蛛の子を散らしたような騒ぎになった。
「先輩!」
滝夜叉丸が鋭い声を上げる。
「お早く!ここは我らが」
鉢屋が動かんとするのを人影は邪魔をしようとしたらしかった。だが、僅かに動いたところを滝夜叉丸の千輪に防がれてたじろいだに過ぎなかった。
「すまん、任せる」
鉢屋は背中で言い捨てると、そのまま騒がしい人混みの間を抜けていった。その姿は、いつの間にやらそこらの若衆の姿に変わっている。
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